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EC、メディア、D2C、SaaS、Fintech、ゲーム、デリバリー、ブロックチェーンといった成長産業の企業に、「上場のための法人カード」サービスを提供しているUPSIDER。今回は、共同創業者でCEOの宮城徹にインタビュー。
在籍していたマッキンゼー・アンド・カンパニーからなぜ独立して金融スタートアップを立ち上げようと思ったのか、なぜ「法人カード」というサービスを提供しているのか、組織の仲間に求めることとは……などさまざまな話を聞きました。
宮城 徹
2018年に株式会社UPSIDERを創業。以前は、マッキンゼー・アンド・カンパニー東京支社・ロンドン支社にて、銀行オープンAPI等のデジタル戦略策定、手数料体系や店舗配置の最適化等、大手金融機関の全社変革プロジェクトに携わる。
学生時代のロッヂ管理人としての経験が、金融への興味を開いた。
―そもそも、どうして金融の領域に注目していたのでしょうか。
学生時代にやっていたスキーの経験が大きいかもしれません。クロスカントリーというヨーロッパでは華形ですが、日本ではマイナーな競技です。白馬にあるロッヂの管理人をしていたんですが、帳簿の管理もしていまして、数千万円の借金があったためお金を返済していく必要がありました。施設の管理・運営費を捻出しながらどのように返済していくのか、移動のための車は購入するのか、リースにするのか……お金を生み出す難しさを学べましたし、借入によって手に入れられる夢というか、金融のパワーを感じられたんです。
あと面白かったのが、スキーやスノーボードのチームや選手って、いかに金銭面で余裕を生み出すことができるかが競技の結果に直結するんです。もちろん日々のトレーニングがもっとも大切ですけれど、その努力をするためにスポンサーの協賛を集めるなどして活動費を捻出しなければいけません。ファイナンスによってパフォーマンスや成果を変えることができて夢や目標に一歩近づけるということに面白みを見出していましたね。当時から、資金調達に走り回ってました(笑)。
―その後ファーストキャリアでは戦略系コンサル会社のマッキンゼー・アンド・カンパニー社に入社していますが、どうして同社を選んだのでしょうか。
当時は、というか、今もそうですが..... 自分が本気で全力投球できることしかやりたくないんです。自分の目標を達成したくて、できることは何でも総動員したいんです。それで、夢中に日々を過ごしていた結果流れ着いたのが、マッキンゼーだったんです。
当時はスキーにのめり込んでしまったので、気づいたら大学での所属がスポーツ科学になって、研究テーマが、自分の動作解析になってました。手足にセンサーをつけて、モーションキャプチャーという部屋中に設置したカメラで撮って、データを解析するためにプログラムを夜な夜な書いて。
あと、キャプテンとして率いていたチームをどうしても強くしたくて、単位は取れないのに、経営学の講義を最前列で聞いてました。トレーニング以外に、少しでも強くできる方法はないのか、と。特に差別化戦略と組織学が気に入ったようで、授業中に撮った写真が、いまだに携帯に残ってます。
そんなこんなで気がついたら卒業前の夏になっていて、周囲の人たちは就職先が決まっている中、留年中の私は行く宛がないにも関わらず、「経営者になってデカいことしたい」と、根拠のない自信をみなぎらせていました。
そんなときに、「マッキンゼー受けてみれば?おまえみたいに調子こいてるやつばかりだよ」と皮肉まじりに言われて、「スキーのシーズン前に内定でるのは悪くない」と思って受けたのがマッキンゼーです。マッキンゼーを選んだという表現は正しくなくて、日々を全力で過ごしてて、流れ着いたんです。マッキンゼーでのインターンの後、打ち上げに参加せずに、飛行機で旭川に直行したのを覚えています。
マッキンゼーで目の当たりにした金融業界の構造上の課題。
―マッキンゼー・アンド・カンパニー社ではどんな経験を積んだのでしょうか。
あまり考えずに入社したので、順風満帆ではありませんでした。当然ですよね。入社してから大変なことばかりでしたが、そこは割愛するとして、本当に人とタイミングに恵まれたなと思います。
私の場合は、もともと金融に興味があったので、銀行をはじめとする大手金融機関のコンサルティングを中心に経験を重ねました。世界的な金融機関の本社が集まっていた"本場"とも言えるロンドンへの転籍プログラムがあって、世界中から10人が選ばれたのですが、その中に選んで頂いたことがキャリアの転機になりました。
正直仕事はダメダメだったんですけど、そんな私を可愛がってくれる方々がいて、素晴らしい機会を頂けたんです。
―そこではどんな気づきがあったのでしょう。
ロンドンの現場で、人員や店舗を削減する経営判断に携わったのがひとつのきっかけですね。銀行業界全体で収益が低下している時代。コスト削減が叫ばれていて、事実イギリスでは2015年から2018年の間に1/3ほどの店舗がなくなりました。もちろん、それだけ人員も削減されています。
プロ経営者の方々は、短期間で株主への利益を最大化するのが仕事ですから、特に当時の銀行業界だと、人員削減・店舗削減が構造上“正しい判断”になってしまうんですよね。経営者にビジョンがないとか、売上を伸ばすスキルがないとか、ニーズをわかってないとか、そういうことじゃないんです。構造上の課題なんです。
でも、私はそれが嫌でした。ここでは言えるような話ではないのですが、私が高校生のときのとある記憶が脳裏に焼き付いていて・・・、自分の仕事のせいで解雇されてしまった人たちやその家族のことが気がかりになってしまうんです。トップ経営者の大胆な意思決定を目の当たりにできたのは素晴らしい経験ですが、自分が全力で没頭できることではなかったんです。
そんな悩みを吹き飛ばしてくれたのが、ちょうどやってきた金融業界の新しい波でした。銀行APIがオープン化され、ブロックチェーンのサービスが一気に増えて、銀行業免許がベンチャー企業に開放されて、という技術革新や規制緩和の大きな波です。
あ、これだ!と思いました。構造的な課題の外に出て、自らルールをつくって、新しい価値を生み出す側で行動したいと思ったんです。雇用を減らすんじゃなくて、あたらしい価値を社会に創り出して、雇用を創り出そうと決めたんです。
挑戦する人に寄り添うために着目した「決済」という領域。
―そこからどのような経緯を経て、BtoB決済領域でサービスを開発しようと考えたのでしょうか。
まずは、「誰のための」「どんな立場の」サービスをつくるか、という観点で事業プランを考えました。そして決めたのは、「挑戦している人々」に「寄り添う立場」のサービス。
さきほど学生時代の話でも触れましたが、金融って夢や目標に近づかせてくれるパワーを持ってるんです。夢や目標に向かって行動している人のために、一歩でもゴールに近づける手助けができるような、新しい金融プロダクトを創りたかったんです。だからUPSIDERは、「挑戦している人々」のための金融プロダクトにしようと決めたんです。
なので、EC、メディア、D2C、SaaS、Fintech、ゲーム、デリバリー、ブロックチェーンといった成長産業の経営者の方々をお客様にできているのは、とてもとても嬉しいことです。「挑戦している」という表現はあいまいですが、私たちの中では、新しい価値を生み出そうと行動している人たちを指しています。それはスタートアップ企業に限りません。
そして「寄り添う」立場というのは、課題が生まれてからはじめて向き合うのではなく、課題が生まれる時にはすでにそこにいるイメージ。商談でテーブルを挟んで向き合うのではなく、最初からお客様とテーブルの同じ側に座っているようなポジションであろうと決めました。
そして着目したのが、決済の領域。課題が生まれていようといまいと、日々企業は取引を行なっています。それらの取引の中に組み込まれていれば、財務・会計面で何かしら課題が見つかったときには、すでにそれを理解できている立場。むしろお客様が気づいていない課題にもいち早く気づくこともできるかもしれません。例えば、お金が必要になったときに、必要になってから誰かに頭を下げるのではなくて、サービス側が先回りして準備してくれていたら嬉しいですよね。
創業時に決まってたのは、このくらいですね。ユーザベース社(経済ニュースプラットフォーム『NewsPicks』などを運営)でマーケティング責任者をつとめていた水野(現COO)、モルガン・スタンレー社でエンジニアとして働いていた澤田(現CTO)と、そんなフワッとした状態でスタートしました。
―BtoB決済の中でも、特に「法人カード」というソリューションの意義について教えてください。
Netflixで映画やドラマを見たり、Spotifyで音楽を聴きますか?いずれも、支払方法はクレジットカードですよね。TSUTAYAだったら現金払いもできるのに。なんでかわかりますか?
TSUTAYAだったら、私とリアルな接点があって、支払いが完了するのを見届けてからモノを渡します。でも、NetflixやSpotifyはサブスク型ですし、ネット上でしか私と接点がないなので、私がしっかりと支払い続けてくれるかなんて、彼らにはわからないんです。
だから、カード会社を間に挟むんです。カード払いがデフォルトになっているから、私たちは、NetflixやSpotifyを楽しめています。Amazonでの買い物だってそうです。人々が新しい価値を楽しむことや、サービスが新しい価値を社会に広めることを、カード払いが実現しています。
BtoCの話をしばらくしましたが、同じことが、BtoBでも言えます。マーケターがGoogleやFacebookに広告を出したり、エンジニアがAWSやGithubを利用したり、管理部がクラウド会計を利用したり..... 法人カードがなければ、ベンチャー企業はこうした素晴らしいサービスの数々を利用できないんです。
そしてこの話は、ベンチャー企業の世界だけに留まらず、BtoB取引のデジタル化やクラウド化が進むにつれて、あらゆる企業に当てはまるようになっていきます。テレビ広告がソーシャルメディアに置き換わり、オフラインでの仕入れからEC購入に代わり、マニュアル業務がSaaSに代わり....... 企業がお金を使う先が変わり、月額課金のサービスが増えるとともに、支払方法が法人カードに変わっていきます。
お伝えしたかったのは、「BtoB取引のデジタル化やクラウド化が進むことで、より多くの機会があふれる社会になること」が目的であって、法人カードはその手段であるということです。これは「ドリルを売るのか、穴を売るのか」という話に例えられるかもしれません。
現在売っているのは、「法人カード」という名のドリルですが、その先には「より多くの機会があふれるBtoB取引」という穴がある。その穴をあけられるのであれば、ドリルとなる決済方法は必ずしも「法人カード」でなくても良いわけです。法人カードだけでも10兆円の市場がありますが、私たちはその10倍以上の市場を見据えて事業を展開していきます。限られたパイを食い合うゲームではなく、新しく勃興する巨大な市場を、自ら開拓していくゲームなんです。
―その第一歩となる「上場のための法人カード」は、どのように生まれたのでしょうか。
話が広がりすぎてしまいましたね(笑)。共同創業者でCOOの水野に原体験があったのが大きいです。マーケティングのアクセルを踏みたくても、法人カードの限度額が足りないことが、成長の足かせになってしまっていたそうです。挑戦している人々を支える決済サービスって、次世代型の法人カードかもしれない、と。
リリース前に100社ほどのベンチャー企業にヒアリングしたんですが、アグレッシブに成長しているところほど法人カードの限度額に悩んでいることがわかりました。加えて、実は”守り”の観点でも、経営レベルの課題が山積みであることがわかってきたんです。例えば、決算が遅れてしまったり、不正な利用が発生してしまったり。
先ほど話したとおり、社会的なパラダイムシフトがきっかけで法人カードの市場はどんどん伸びていますが、既存の法人カードはニーズの変化に追いついて行けていないんです。追いついて行けていないのは、さきほど触れた、金融業界の構造的な課題にあります。UPSIDERはそのギャップを埋めて、お客さんの課題をまるっと解決しています。
先日もお客さんの社長に「UPSIDERのお陰で、この1年間、広告宣伝費を思いっきり投下できて、事業規模は10倍以上になれたし、競合に先駆けてマーケットを独占できました。」 というようなお言葉を頂きました。つい昨日も「この半年間で事業規模が2倍に一気に成長して、◯億円の資金調達ができました。UPSIDERさんなしではこの成長カーブは描けなかったです。」と他のお客様からも。こうした声が、どんどん入ってくるシゴトです。日々やりがいを感じています。
「上場のための法人カード(リリース当時のキャッチコピー)」という表現には、結果にコミットしたい、という私たち想いがあります。例えば、利用限度額が大きいことをキャッチコピーにしても良いのですが、それは単なる手段。必ずしも上場である必要はないのですが、事業の目標を共有し、ベストなパートナーとして存在したいと考えています。
「挑戦している人々」に「寄り添う立場」のサービスであること。それが創業の原点であり、現在の私たちの姿であり、今後もブレないところです。
価値観や好奇心を大切にしたティール組織
―UPSIDERの組織づくりで意識していることを教えてください。
スキルや経歴ではなく、価値観や人間性を大事にしています。領域が金融だったり、創業メンバーの経歴だったり、そういった公開情報から「UPSIDERはキラキラでギラギラなキャリアの人が多い」というイメージがあるようで(笑)。実際は違うので、変えていきたいところです。
いま集まっているメンバーは、みんな愛嬌があってチャーミングですし、純粋に、新しいサービスやプロダクト、テクノロジーへの興味を思っている人が多いです。なので、ベンチャー界隈出身のメンバーが比較的多いと思います。同じ目標を目指して頑張る仲間ですから、「一緒にメシを食いたいか」「明日また会いたいか」がとても重要だと思っています。
一方で、金融への興味については、なかった人もいれば、元々あった人もいます。もちろんあることは素晴らしいことですが、面白さは、いくらでもここで気づけると思います。金融は単なる手段ですから、その目的にある「挑戦している人を支えたい」「社会を良くしたい」「経済にインパクトを出したい」といった想いに共感してくれる方が嬉しいですよね。
―働き方にはどんな特徴があるんでしょうか。
いくつか面白い特徴があると思います。
1つは、コロナ前からリモートワークで働ける環境を作っています。現にCTOの澤田はロンドンで暮らしており、グローバルで連携しているチームです。リモートワークのみならず、ビジネスサイドを中心に、週1~2回はオフィスに集まってディスカッションや雑談をしています。
2つめは、ティール組織です。意思と行動力のあるメンバーが、各々課題やゴールを設定して、主体的に仕事を進めていく。そうすることで優秀な人材がよりパフォーマンスを上げてくれると思っています
3つめが、価値の源泉であるプロダクト中心のメンバー構成です。作り手であるエンジニアはもちろん、ビジネスサイドも含めて、ユーザーのニーズを吸い上げたり先回りしたりして、新しい価値届けるという意識を強く持ち続ける組織にしたいと思っています。
これらの特徴はユニークなので大切にしていきたいと思っています。
―最後に、応募を検討している方に一言お願いします!
マッキンゼーやユーザベース、モルガン・スタンレー……経歴だけ見ると順調にエリートコースを歩んできているメンバーが集まっているように見えますが、それは結果論。みんなこれまでのキャリアを振り返ると決して順風満帆とは言えません。
私自身、マッキンゼーでの1年目はクビになるかと思いましたし、COOの水野もユーザベースではエンジニアとして芽が出ずにマーケターに転身して頑張り、マーケティング責任者になりました。澤田も新卒当時はサポート部門スタートで、なんとか開発チームに加わり、イギリスへの移籍も叶えました。みんな、ひとりひとりとのご縁や信頼関係を心から大切にし、なんとか期待に応えることで、自分で自分の居場所をつくってきた人たちなんですよ。
だからこそ、仲間になる人たちにも、もらったチャンスやご縁は大切にして欲しいですし、チケットをもらうだけではなく、チケットを自分の力でつくる意識でいてほしいと考えています。そんな価値観を持つ人たちには、UPSIDERはとても心地よい環境だと思います。思いっきり頼ってほしいですし、チケットをぜひ一緒に創っていきたいです。
【参考URL】
・DIAMOND SIGNAL | 「成長企業のための法人カード」で数百社を支援、急拡大中のUPSIDERが10億円調達
https://signal.diamond.jp/articles/-/620
・Forbes JAPAN | 「上場のための法人カード」事業から法人間決済に変革を、スタートアップの挑戦
https://forbesjapan.com/articles/detail/37249