土屋鞄のランドセル職人である下田歩(しもだ・あゆみ)がこのたび、ソーシャル経済メディア「NewsPicks」が次世代の女性リーダーを表彰する「WE CHANGE AWARDS 2025」の個人部門に選出されました。彼女がどのようにチームを変革し、今回の受賞に至ったのかを掘り下げていきます。
WE CHANGE AWARDSとは
WE CHANGE AWARDSは、これから注目されるであろう次世代の女性リーダーを発掘することを目的としたもので、今回が初開催。「本質的な変化に向けて行動する人・企業」として、今回は個人部門6名、企業部門4社が受賞しました。詳しくは特設ページをご覧ください。
社員プロフィール
下田 歩(しもだ あゆみ)2019年4月、新卒で株式会社土屋鞄製造所に入社。ランドセル製造のパーツ班に配属されて班長を務めたのち、女性職人としては最年少でランドセル全体の組立リーダーとなる。チームの変革に挑み、今回の受賞に至る。
過去のリーダー像からの脱却
― これまでのキャリアを教えて下さい。
2019年に入社しました。ランドセル製造のパーツ班に配属、20代前半で班長になり、現在は最終的にランドセルをまとめ上げる組立リーダーとして、西新井工房で製造の指揮をとっています。
入社当初は、職人として「ものづくり」に熱中していました。しかし、リーダーとしてキャリアを積むにつれ、「どうすればもっと効率的に、よりよいランドセルがつくれるのか?」と考えるようになりました。
― 何か課題を感じることはありましたか?
それまでは技術力の高い職人が製造のリーダーになることが多く、男性リーダーばかりでした。美しく高品質なランドセルを、いかに早く効率的に仕上げるかが会社の命題であり、ミシンを踏むのがうまい職人がチームの若手職人たちのロールモデルとなっていました。一方、新しいアイデアなどを取り入れる余裕が持てず、職人の主体性やチームワークを育む環境が整っていませんでした。
その結果、トップダウン型の指示になり、現場の職人たちが主体的に業務に向き合う環境をつくれていなかったかもしれません。
そこで私は、「技術力で導くリーダー」ではなく「対話力で導くリーダー」を目指してみようと思ったんです。ミシンや数字を見るのではなく、職人一人ひとりの個性や強みを見出し、主体的にものづくりに取り組める環境をつくることが、自分の役割だと考えました。
リーダーの挑戦 – 変革の軌跡
― 自身のマインドスイッチにより、製造現場はどう変化していきましたか?
近年は少子化にも関わらず、ありがたいことに土屋鞄のランドセルの受注数は増え続けており、これまでの製造フローを変える必要がありました。しかし変革には、現場の負荷も伴います。
そこで、理解を獲得していく手段の一つが、月一回のワークショップ(以下、WS)です。製造ラインを一時止めてでも、これまで職人たちが抱えてた不安や意見をWSで互いに吐き出すことで、より良い製造フローを自分たちで考えられる環境づくりに一緒に取り組みました。
― WSを重ねて、新しい製造フローはどのような結果を生み出しましたか?
WS実施後、生産効率は前年までと比べ大きく向上しました。私は班員から班長、そして組立リーダーと様々なレイヤーを経験してきているからこそ、それぞれの立場と強みを理解しているつもりです。また、「自分一人でできることは限られている」と認めることで、気軽に「あなたの力を貸して」と言えるようになりました。ここ1-2年で、製造の現場にも対話が増え、よりよいものづくりの環境が整っていると実感しています。
ものづくりの未来は私たちが描く
― 今後、土屋鞄の製造の文化はどうなっていくと思いますか?
「ひとつのパーツをつくるのではなく、みんなで一つのランドセルをつくっている」という感覚を強くし、チームワークを高めることで、よいものづくりに没頭できる環境を築いていきたいですね。現場同士も互いの強みを理解し、相手を尊重する文化がより一層浸透していくといいな、と思っています。
「WE CHANGE AWARDS 2025」受賞という結果
― 下田の挑戦は、NewsPicks主催「WE CHANGE AWARDS 2025」個人賞受賞という形で評価されることとなりました。改めて、受賞おめでとうございます!
まさか自分が受賞するとは思っていなかったので驚きました。でも、何より嬉しかったのは、チームの仲間が喜んでくれたことです。この賞は、私一人の力ではなく、職人のみんなとともに成し遂げた成果だと思っています。私たちのものづくりの姿勢が評価されたことが励みになり、これからもよりよい環境をつくるために挑戦を続けていきたいです。
授賞式には土屋鞄の仲間が多く駆けつけてくれました。授賞式当日に社外の方とお話する機会がありましたが、「あんなにたくさんの仲間が応援に来てくれて、土屋鞄さんは本当に素敵な雰囲気ですね」と声をかけられたこともまた、嬉しかったです。
― 最後に、製造現場における女性リーダーとしての役割について、どう考えていますか?
製造業の現場では、女性の職人は多いのに管理職には少ない、というのが一般的な現状です。ですが、土屋鞄に限っていえば、本人が声を上げれば男女問わずリーダーになるチャンスはあると思います。性別・年齢に限らず「多様な人がリーダーになれること」が大事だと思っています。いろいろな価値観を持つ人がリーダーになれば、それだけ新しいアイデアも生まれやすくなります。
― 最後に、本記事を読んでいる方にメッセージをお願いします。
ランドセルは、こどもたちの6年間に寄り添う大切なものです。そのものづくりの現場が、よりよいチームワークのもとで動いていることが、お客さまにも伝わるようになれば嬉しいですね。
目まぐるしく移り変わる時代の中で、私たち職人も常に進化し続けなければなりません。変化に対する不安や恐れをワクワクに変えられるよう、日々対話を重ねながら挑戦し続けていきます。
そして、ものづくりの未来を、共に考え、挑戦していく仲間が集うことを願っています。
(授賞式には土屋鞄の多くの仲間が駆けつけました)