今回は、Teach For Japan(以下、TFJ)のフェローシップ・プログラムの第10期生で現在は通信制高校で教員としてご活躍の中谷香央里さんに登壇いただきます。飲食業界から教育業界へ転身した理由とは?失敗だらけだったと自負する赴任先でのエピソードや現在も教員を続けている理由を伺いました。ぜひ最後までご覧ください。

中谷香央里さん(フェロー第10期生/小学校赴任)
大学卒業後、一目惚れをした飲食の企業に入社。全国を異動しながら居酒屋店長として5年間働く。アルバイト教育に携わる中で、本格的に教育の世界に飛び込んでみたいと思うようになりTeach For Japanに応募。長崎県の小学校で2年間勤務する。失敗だらけの2年間だったが、環境に恵まれ充実した日々を過ごす。失敗続きだったからこそ教育の仕事を続けてみたい、多様な子どもたちの価値観にふれながら自分ができることを増やしていきたいと思い、現在は通信制高校で教員をしている。
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目次
ー自己紹介をお願いします。
フェローシップ・プログラム第10期生の中谷香央里です。私は大学卒業後に新卒で飲食業の企業に就職し、居酒屋店長として5年間勤務した後、TFJに参画し長崎県大村市の小学校で2年間教員を行いました。1年目は3年生の担任で、2年目は特別支援学級の情緒的クラスの担任をしました。
2年間の赴任を終えた後は、出身地である関東に戻り通信制の高校で教員として勤務しています。
関わり方次第で育ち方が変わる「教育の奥深さ」
ー大学時代に考えていたこと、飲食業界への就職を決めた理由を教えてください。
大学は国際関係学科に所属しており、入学当初は国際的な活動をしたいと考えていたのですが、在学中のボランティアで日本の田舎へ行くようになり、地方の魅力にどっぷりハマってしまいました。「仕事を通して持続可能な地域づくりができたらいいな」と思うようになったことが、飲食業に興味をもったきっかけです。
とはいえ、飲食業はブラックというイメージがあったので就職先の候補には入れていなかったのですが、就活で出会った飲食業の企業に一目惚れしてしまい考えが180度変わりました。その企業は、働く社員さんがみなイキイキとしていて仕事が本当に好きなんだと感じ、私もこの企業で働いたらキラキラした社会人になれそうだと思い入社を決めました。
ー教育に興味を持ったきっかけを教えてください。
教育は大学在学中から興味がありました。高校3年生の時の担任がすてきな方で教員に憧れていたので、中高の教員免許は在学中に取得し、就活時も教員になるか企業へ就職するかギリギリまで悩みました。OGから「新卒で教員になると企業へのキャリアチェンジが難しい」と聞いたので、まずは企業へ就職することにしたのです。
企業で経験を積んでから教員になるんだという気持ちではなく、企業の仕事が楽しければそのまま続けてもいいと考えていました。
ーフェローシップ・プログラムに参加しようと思った理由を教えてください。
理由は2つあります。
1つ目は、居酒屋店長として、主に高校生・大学生のアルバイト教育に携わる機会が増えていく中で、自分の関わり方次第で人はいかようにでも変わると実感し「教育の奥深さ」に気づいたことです。
2つ目は、幼少期の教育に可能性を感じたことです。
店舗イベント等の場面で、「何か新しいことをしよう」と提案した際に、アルバイトスタッフたちの姿勢に差を感じました。面白そうに取り組む子もいれば、変化を少しこわがる子もいるなと。
少しおこがましい考えかもしれませんが、高校生・大学生になるもっと前の段階の学校教育で、いろいろな体験や変化を味わう機会を提供したい、教育に対してもっと本格的に向き合ってみたいと考えるようになりました。
TFJは期間限定だから安心して飛び込めた
ー仕事を辞めてフェローシップ・プログラムに参加することに悩みや不安はありましたか。
異業種転職への抵抗感は低かったです。
新卒で入社した会社は5年間勤務してやりきった感がありました。本社勤務などのステップアップの道もありましたが、あまり魅力を感じませんでした。また、20代後半という年齢もあり、身軽に動けるのは今しかないと思ったのも大きいかもしれません。
ー教育業界へ転身する手段として、フェローシップ・プログラムを選んだ決め手を教えてください。
教育に興味が沸いてきたけれども、一生教員をするというイメージは持てなかったので、2年間の教員体験という期間がちょうどいいと感じました。
今から思えば、講師として1年単位で教員に挑戦する道もあったのですが、その当時は知識不足で知りませんでした。
ープログラムの赴任前研修の中で印象的だった出来事はありますか。
最も印象に残っているのは、赴任前研修の最後に行われたビジョン共有の授業です。第10期生メンバー(約40人)が各々の教育ビジョンを語る動画を作成し、全員分をみんなで鑑賞しました。1年間ともに赴任前研修を過ごした同期の熱い想いに触れて、心が奮い立ち感動した時間でした。

同期メンバーとの旅行にて
個々の選択を尊重し応援する世界を作りたい
ー赴任当初の目標やビジョンを教えてください。
赴任前に持っていた私のビジョンは「社会の価値基準ではなく自分の軸で行動し、それを応援し合える世界の実現」です。
私は新卒で就職する時、選んだ企業が飲食業であったことを家族から反対されました。特に母親は猛反対して、「大学まで行ったのに居酒屋で働くなんて」と言われて修羅場になってしまいました。
また、就職してからお客様に「どうして飲食業で働いているの?」とご意見をいただくこともあり、社会基準では飲食業がブラック・誰でもできるといったネガティブな印象を持たれていることを感じたのです。
私は仕事にやりがいを持っていたし成長実感もありましたので、自分の価値基準で選んだ道を後悔していません。もし、自分の軸ではなく社会の価値基準で進路を決めていたら、つまらなかっただろうし、自分の人生に責任を感じて過ごせていただろうかと疑問に思います。
この経験から「自分の軸で選択することの大切さ」を感じ、子ども達にも伝えていきたいと思いました。そして、各自の想いを温かく応援し合える環境が作れたら理想です。信念を強く持っていても、ひとりでは心が折れてしまうこともありますからね。
ー大学の教職課程と、TFJのフェローシップ・プログラムはどのような点が違うと感じましたか。
大学の教職課程では、実践的なことを学びました。50分の授業をどう作るか、どのような内容を盛り込んだら良いかという知識やスキルを重点的に習得します。
TFJのフェローシップ・プログラムでは、教育ビジョンと向き合ったり自分の心が折れないための心理的アプローチを学んだりして、教員としての信念を固める内容だったと感じます。共に教員を育てる授業なのに、それぞれの視点が違っていて面白いと感じました。
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自己決定と放任は紙一重、指導が入らなくなり気づいた 見落としてはいけなかったサイン
ー赴任して大変だったことはありますか。
1年目の3年生は苦労が大きかったです。わんぱくで元気な生徒たちが多い中で、どう声かけ・指導をしていけば良いか分からず、気づいた時には私の指導が全く入らない状態になっていました。
精神的に辛かった時、TFJコミュニティに助けられました。同期の現職フェロー(教員経験のあるフェローシップ・プログラム参加者)が開いてくれた朝活に参加した際、実践的な助言をもらえたことで立ち直れたと思います。
ー学校現場で得た学びや変化はありますか。
子ども達に自己決定させることとなんでも自由にやらせる放任は、全然意味が違うけれど紙一重だと感じました。子どもに自己決定させるにあたって「なんでも好きにやっていいよ」ということは、適切な対応ではありませんでした。
1年目の3年生のクラスでは、宿題をやってこない子や給食をほとんど食べない子、移動時に廊下に並ばない子がいても特に声かけができていませんでした。私としては自己決定を尊重したつもりでしたが、結果的に学級を崩すことにつながってしまい、やるべきポイントを押さえて指導することが必要だったと感じています。
クラスが落ち着かない状態だと、自分の軸を大切にしたり他者を尊重したりという土台が作られません。見落としてはいけないサインがたくさんあったと反省しています。
ー赴任中に力を入れた取り組みを教えてください。
2年目の特別支援学級は6人と小規模だったので、ひとりひとりに合わせた指導を実践しました。宿題の内容を保護者や放課後デイサービスの先生と相談し、授業中も個人に合わせたプリント(イラスト多めの子、内容を簡素化して要点だけ伝える子など)を作成して進めました。
2年間共通して力を入れた取り組みは、子どもの頑張りを保護者に伝えることです。1年目は学級だより、2年目は連絡帳で日々の様子を具体的にお伝えしました。
ー印象的だった子どもたちとのエピソードを教えてください。

特別支援学級で印象的だったのは、入学当初ひらがなの読み書きができなかった、ある1年生の生徒です。
「ポケモンの名前なら練習できるかな」「ひらがなかるたなら楽しめるかな」と日々試行錯誤し、放課後デイサービスの先生とも相談しながら、少しずつ学習を重ねていきました。
そして3学期の終わり頃、“物語を書く”という授業にとてもやる気をだして取り組んでくれたのです。
ほとんど教師が手を添えることなく、生徒自身の力で素敵な恐竜のお話を書き切った姿には本当に感動しました。そしてその喜びを、共に関わってきた放課後デイサービスの先生と分かち合えたことも、強く心に残っています。
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「社会で生きていくためのしなやかな強さ」を子ども達に伝えたい
ー現在のキャリアを選んだ理由を教えてください。
赴任先での2年間の経験は失敗だらけだったので、実は教育業界から離れようと思っていたのです。一方で、私は負けず嫌いな一面があるので、「ここで終わっていいのか?」という気持ちも同時に湧き上がりました。
失敗した経験を生かしてもう一度教育に携われる場所を探していた時、現在の通信制高校と出会いました。教員の裁量権が大きく自由度の高い環境に魅力を感じたのも、選んだ理由のひとつです。
現在の職場では、赴任先で失敗した「クラスの土台作り」に注力しています。子ども達が落ち着いて学べる環境を作るために、ここは見逃してはいけない、諦めずに声を掛けようといったことを大切にしています。
また、生徒達が単位を取って進級したり、中学生に向けた入学案内の広報活動をしたりするなど自分の成果が見えやすい状況なのでやりがいを感じます。
ー今後の展望を教えてください。

教育現場でたくさんの子ども達を見てきた中で、「社会で生きていくためのしなやかな強さ」の重要性を感じました。今後のキャリアが教員なのか、違う職種なのかはまだ明確になっていませんが、子どもたちが「しなやかな強さ」を得るためのお手伝いができたらいいなと考えています。
Q&A
Q:赴任1年目の受け持ちクラスはどのような経緯で決まったのでしょうか?また、3年生の場合は担任が全ての授業を行うのですか?
A:3月中旬に赴任先が決まり、3月末にあいさつへ行った時に3年生の担任であることを聞きました。学校によると思いますが、私の場合は図工以外全ての教科を担当しました。
Q: 赴任前にやっておけば良かったことはありますか?
A: 私の場合、体育や音楽の授業をどう行ったらよいか知識がなく苦労したので、学校ボランティアなどで様々な授業の進め方を見ておけば良かったと思いました。
ー最後にメッセージをお願いします。
私は2年間本当に大変な思いをしたのですが、最後の離任式で子ども達が別れを惜しんでくれたことで苦労が全て吹き飛びました。私の未熟さによって子どもたちを傷つけてしまったこともたくさんあったかと思いますが、それでも子どもたちはまっすぐ私に向き合い続けてくれていたのだと気づかされ、子どもたちからの愛情をこれでもかと受け取ったような気がしました。この経験は衝撃的で、2年間頑張って良かったと心の底から思いました。どんなに辛くても、離任式で苦労が報われますので大丈夫です。
長崎という見知らぬ土地での生活でしたが、皆さんとても温かい人ばかりでしたし、子ども達との出会いや過ごした時間は宝物だったなと思います。挑戦するか迷ってる方は、ぜひ飛び込んでみてほしいです。
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