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新型コロナウイルスの影響で、半ば強制的に進んだリモートワーク。通勤時間や無駄な出張がなくなり、時間を有効に使えるなどのメリットがクローズアップされる一方で、リモートだけではカバーされない課題も出てきました。特に新入社員など、先輩から学ぶステージにある社員にとって、「リアル出社」は意外に多くの成長をもたらします。
リモートワークと出社を組み合わせた「ブレンデッドワーク」のスタイルが主流となっている今、両者のメリットを最大限に活かし、バランスの取れた仕事生活を楽しむために求められること、またあるべき「ニューノーマルな出社」とはどのようなものでしょうか? 今年デジタルエージェンシーTAMに入社した3人の若手社員に話を聞きました。
高橋悠太郎さん:2019年卒、2020年3月に入社。東京オフィスTAMKO(広告)チームに所属し、アカウントプランナーとして勤務中。
近藤里虹さん:2015年卒、2020年7月に入社。大阪オフィス大内チームに所属し、ディレクターとして勤務中。
加納聖也さん:2015年卒、2020年4月に入社。大阪オフィス三内チームに所属し、エンジニアとして勤務中。
「リモート最高!」若手社員には少ない違和感
―前職と現職含めて、今までどのような働き方をされてきましたか?
高橋 前職ではホールディング会社に勤めていたので、その子会社をほとんど経験しました。フィンテック事業の新規営業とか動画制作のジョイントベンチャー立ち上げとか、いろいろやっていました。働き方で言えば、基本は週5日フルで出社していて、定時過ぎになったら帰るみたいな形です。TAMには2020年3月にアカウントプランナーとして入社しました。家族が難病という事情もあり、基本的には在宅勤務です。入社から8月現在までで、東京オフィスに5~6回しか出社していません。
近藤 前職は空間デザインの会社で営業職に就いていました。新規営業をガリガリするような感じではなくて、社内のデザイナーと制作、社外のパートナーなどをまとめて進行管理とかしていたので、今のディレクター職に近いです。空間デザインということもあって、すごく現場主義で、「対面でのコミュニケーションは大事だよ」と教えてもらうような環境でした。その後は海外留学を経て、2社目ではECショップの構築やコーディングをしていましたが、入ってすぐにコロナで外出自粛になり、3カ月間完全にリモートという経験をしました。そして2020年7月、TAMの大阪オフィスでディレクターとして入社しました。一次面接もリモートでした。
加納 前職はSler系の会社で東京、福岡、香川などで主に自治体向けの営業をしていました。リモートワークをすることもありましたが、会社が自宅から歩いて5分のところにあったので、そのメリットは感じていませんでした。TAMには2020年4月に入社してすぐに非常事態宣言が出たので、いきなりリモートワークになりました。
―まわりの人も含めて、コロナ禍のリモートワークについてみなさん、どんな感想をお持ちですか。
高橋 リモート最高です(笑)。通勤だと片道で2時間弱かかりますが、それがなくなってパソコンを開けばパッと仕事ができるので、ラクですね。コミュニケーションの面でも、正直まったく違和感ない。うちでは父親もリモートワークなんです。完全にジョブ型に変わったので、どこで仕事をしようが結局は結果を出せということ。より会社に属している感覚が少なくなって、個人の時代が来たという実感が湧いたと言っていました。ただ、柔軟性が出た分、自分で提案して売り上げをあげて成果残さないといけないので、大変になったとも言っていました。僕も自分で自分を管理しないといけない、という課題がありますね。
近藤 私と同業のWeb系の人たちは、引き続き在宅勤務をしている人がほとんどです。在宅のほうが時間が有効に使えることでプラスになったという人が多いですね。緊急事態宣言の解除後も、引き続き在宅ワークをプラスに感じている人が多い印象です。
加納 今でも前の会社の人とやり取りするんですけど、在宅勤務になることが決まってから管理職に対する報告を頻繁にしろ、というのが鬱陶しくて、それがデメリットだと聞きました。メリットとしては、お客さんに提案に行くときなど、無駄な出張が減ってそれが当たり前になりつつある点。そういった変化が嬉しいというのを聞いたりしました。
―みなさんのリモートワークに対する反応は「ニュートラル」な印象がありますね。リモートでありながら、「リアル出社」していたときの状況を再現するというよりは、「リモートネイティブ」みたいな感じで、現状を自然に捉えているのでしょうか。
高橋 僕の世代は学生時代からスマホをさわっているので、「ネット上のやりとりがリアルとそんなに違うのか?」という印象があります。なので、ネット上で深いコミュニケーションが生まれないということはない、と思っています。新しい案件では、取引先の相手も年齢が自分と同じぐらいで、画面越しのみの出会いだけどすごく仲がいいんですよ。オンラインがすべてとは思ってはいませんが、移動時間がないなどのメリットがあるので、本当に必要なとき以外はオンラインでいいと思います。
近藤 リアル出社していたときの状況をオンラインで再現したいというよりは、リモートワークに対してニュートラルな気持ちで受け止められているかな、と思います。少しずつ出社が可能になってきている中で、どのようにリモートとのバランスを取るか、を考えています。
加納 リモートもリアル出社もメリット・デメリットがあると思うので、週に2~3回出社するのが今の自分には合っている気がしますね。出社して対面で会うというのはコミュニケーションを取るうえで重要だと感じています。ただ、一人で黙々と集中したいときは家でやったほうが良かったりするので、この日は出社、この日はリモート、といったように、それぞれのいいところを取り入れながらブレンドするというのが一番自分の働き方に合ってるのではないか、と思っています。
メンターと出社日を合わせる、ブレンデッドワークの工夫
―会社やチーム単位でリモートワークとリアル出社の「ブレンデッドワーク」のルール化は進んでいるんですか?
加納 チームとしては、週3回以上は出社しようとなっています。曜日とかは決めていませんが、自分はメンターの先輩と合わせて木曜日に出社しようと決めてます。ルールといってもそれくらいですね。
高橋 広告チームは週2で出社で、メンターの方がいれば、その方と合わせて出社している人が多いですね。僕は基本的に在宅でやっていて、必要があるときに出社しています。
近藤 ルールとして決まっているのは週1回、水曜出社です。ただチーム内でもお客さんによって変わるので、絶対的ルールではありません。例えば教えてもらうことが多い場合や、案件の忙しさによって、メンターの方と相談して出社日を決めています。
―メンターとのやり取りは、リモートワーク導入前後で変わりましたか?
加納 入社したときからリモートなので、前後の変化は分かりません。始めのころは毎朝15分ほどのビデオ通話をして、その日のタスクを確認していました。金曜日には、よかったこと、モヤモヤしたこと、次にやることをビデオで話す機会を作って、不安を取り除いてもらうようなことをしていました。
あとは「Trello(トレロ)」というタスク管理ツールで、タスクが完了すれば先輩に伝わるようになっていて、完了になってない場合は先輩の方から進捗が大丈夫か連絡がきたりします。今はメンターとは週1で会う状況ですが、技術的な内容とか、どうしてもメッセージで伝えづらいことは質問をまとめておいて、そこで聞くようにしています。
高橋 メンターとは採用のときに1回会って、リアルでは3回くらいしか会っていません。メンターのほうがリモート大好きだったので(笑)。毎朝10時半ぐらいから30分~1時間ほどレクチャーの時間をいただいていました。半月か1カ月ぐらいでだいたい教わったので、今は実践ベースで経験を積むために、案件を取ったときにサポートしてもらう形でやっています。伝えたい情報量が少ないときはSlackのテキスト、多いときはSlackで通話して画面共有しながら、説明していく形で進めていました。
近藤 入社したてのときは毎日出社していて、メンターの方も最初の3週間くらい毎日出社してくれました。その後は、週1出社と状況に合わせて出社というものに変わったので、やはり毎日出社していたときに比べて、ちょっとした質問ができなくなってしまいました。在宅の日は1日の終わりに10~15分ぐらい時間をもらって、その日に出た質問を消化するようにしています。
「リアル出社」で得られる無意識の学び
―毎日出社していないと、ちょっとした質問ができない点がデメリットだというお話でしたが、自分の「成長速度」について、リモートかリアル出社かで相関関係があると思いますか?
近藤 私の職種や入社時期からすると、やはり出社のほうが成長速度が感じられました。具体的にはちょっとした質問ができたり、隣の先輩が使っているツールを見て学ぶこともあります。実際に打ち合わせでディレクションしている姿を身近に見られる点も、出社のメリットだと思います。あとは、お昼ごはん中など雑談の中から学ぶことも多い。在宅はインプットに向いていると思っていましたが、実際は共有資料を読むよりも雑談から学べることが多いと思います。
加納 未経験でエンジニアとして入ったとき、リモートだとちょっとした質問が聞きづらいというのがありました。リモートワークは成長速度の面でデメリットがあると思います。だから、未経験者や新入社員は、先輩と出社日を合わせて横で作業するのがいいと思います。オンライン上で話すときも、一度会った人と会っていない人では話しやすさが違う。
高橋 成長速度で言うと、僕は関係ないと思います。完全リモートでも自己成長は感じられていると思います。僕も未経験で入ってきましたが、AmazonやFacebookの運用など、資格も在宅で取りました。先輩に聞きたいことはメモします。分からなかったらまずネットで調べて、それでも分からなかったらSlackですぐ連絡する。情報量が多いことは通話、サクッと終わることはコメントにしています。僕はもちろん、社内から学ぼうというスタンスもあるんですけど、社外からも学ぼうというスタンスがかなり強いので、Web上で社外の人からもノウハウを取り入れて、そのおかげで在宅でも結果を出せるのかなと思います。やはり、広告だと結果が数字に出てくるので、僕はそれを「成長」と捉えています。
―成長の定義として「数字」が出ましたが、ほかにはどんなことで成長を感じられますか。
加納 僕はエンジニアなので、1人で何も聞かずに構築できて、案件をこなせるようになることが1つの成長だと思います。
近藤 スキル的なこともそうですが、TAM自体のことを知るということも成長に含まれています。TAM全体として何ができるか。お客さんの課題に応えるときに、「社内のあの人に相談してみよう」とか、そういったことは社員同士の雑談から学べるところがあります。リモートでもオンラインの雑談ルームがあるのですが、対面よりハードルが高い。雑談のしやすさで言うと、出社のほうがあると感じています。
高橋 「人としての成長」と「技術面での成長」が両方あるかもしれませんね。技術面に関しては、直感的に今は問題ないと思っていますが、人としてはたしかに成長しているのか疑問に思います。というのも今、実家で過ごしているので、正直、家族とのコミュニケーションしかないんです。チームでも「雑談会」というのを週2で15分間ぐらいやっているんですが、リーダーが「マンネリ化してきている」と釘を刺してきたことがありました。たしかにオンラインだと無駄な話がなくなる。でも、意外にその無駄な部分が人としての成長につながると思っていて、それはリモートだと欠けている気がします。仕事上で必要なタイミングで必要な量だけを質問しているので、そこにドラマはない。何か物語がそこに生まれることはないと思いますね。
加納 前職だと、営業で入社したてのときに先輩の電話の仕方とか、「報・連・相」のやり方とか、話し方なども、無意識に真似していたというところがありました。リモートは必要最低限のことは質問するけど、逆に無意識に学べるところが減っているのかな、と感じます。例えば先輩がツールを使っていたとしたら、「こんなの使っているんだ」と。意外にリモートだと成長機会が失われているのではないか、と今話していて思いましたね。
近藤 先輩のコミュニケーションのとり方はリモートだと分からない。出社すると、もっと感じ取れるし、学べる機会が多いですね。
横のつながりを生むオフィスは楽しい
―リモートワークで足りないなと思うところに気づくと、リアル出社に求めるものが見えてくるかもしれませんね。
高橋 今、僕のフィルターを通すと、圧倒的にリモートワークのメリットばかりが見えていますが、出社するメリットは絶対にあって、「リアル」という環境をあらためて考えるべきだと思っています。これまでは全員出社していたので、自然とコミュニケーションが生まれている状態だったけど、例えば週2日出社の場合、タイミングによっては1人になってしまったりして、コミュニケーション自体が生まれていない気がしています。前はあったけど、今は作らないとコミュニケーション自体が生まれない。そこを整備する必要があるのかもしれません。具体的に言うと、席の配置だったり、リーダーと新入社員が出社するタイミングだったり……。リアルで求められている、これまでにあったメリットを作り出さないといけない気がしています。
加納 そのとおりだと思います。以前は出社すること自体に意味があったと思いますが、今は出社しても誰もいなかったりする。なので、週1回出社日を合わせるなど、ルールを決めて出社しています。リモートワークが当たり前になった今、ルール化は必要だと感じます。自分よりもレベルが上の人がいる場所に行かないと、結局出社する意味がなくなってくる。そういった自分のレベルに合った人と一緒にいられる環境作りというのが大事だと思いました。
近藤 私も出社してフロアに人が少ないというときもありました。やはり1人だと、先輩から無意識に学べるところもなくなってくると思うので、今は出社日を固定して合わせたりだとか、メンターの人に同じ出社日にしてもらうとか、工夫をしています。
―リアル出社に対して、これからやってみたらいいんじゃないかという試みはありますか?
高橋 東京オフィスの場合、コワーキングスペースはありますが、社内の2階部分をコミュニケーションスペースにしたらいいんじゃないかと。今、オフィスのあり方は問われています。今は各部署が島で固まって机も決まっていますが、大きな机があるとか、ソファがあるとか、リラックスしてコミュニケーションが取れるような空間のほうが今に合っている。オフィス内の横のつながりが作れるような空間があると面白くなるんじゃないかと思っています。
加納 新入社員が主体になって「オンラインランチ会」というのを1グループ6人くらいで開くという話になっています。そういったランチ会を通して、横のつながりを増やしていけるのはいいと思います。今1割くらいの人が出社してますが、今のオフィスのレイアウトはチームごとで席も完全に決まっているので、出社しても他のチームとは話す機会がない。感染に注意しながら「フリーアドレス」にして、席を近くにしたらいいんじゃないかと思います。
近藤 席をフリーアドレスにすると全員分席が要らなくなりますね。前職のときはフリーアドレスで席が全員分ありませんでした。案件ごとのチームで固まって座ったりとかしていて、そこは効率が上がりましたね。あまり喋ったことのない人の近くに座ってみたりもできました。フリーアドレスのようなコミュニケーションを生む空間のほかには、席数が減った分、余った空間を利用して、作業用の集中できるスペースやオンラインミーティング用の空間もあったらいいのかなと思います。お客さんとオンラインで打ち合わせをするときは他の音が入ってしまったりして、自宅よりやりにくさを感じているので。
高橋 オンラインでも横のつながりができることはありますが、例えば、ECの人とかにWebサイトを作ってほしいというような案件があっても、誰に依頼したらいいか分からないときは、結局リーダーを介してのコミュニケーションになってしまいます。仕事を一緒にする場合は、一度リアルで会いたいですね。なので、席ももっとコミュニケーションが生まれる空間のほうが楽しいと思います。
―オンラインではどうしても「必要最低限のこと」にそぎ落とされてしまいがちですが、実は雑談などから横のつながりが生まれたり、偶発的にインスピレーションが得られたりするんですね。「ニューノーマル」な出社に合わせたレイアウトに変えるなど、今後のオフィスのあり方を考えるきっかけになりそうです。本日はありがとうございました。
[構成] 山本直子 [企画・取材・編集] 岡徳之 [撮影] 三浦千佳、藤山誠