「キャリアの踊り場に、ちょうどいた気がしていたんですよね――」。
株式会社sustenキャピタル・マネジメント(以下、susten)に副業として関わり始め、現在はフロントエンドエンジニアとしてフルコミットする榎戸徹さんは、そう明かします。
メガベンチャーでマネジメント職を務め、順調なキャリアを歩んでいたかに見える彼がなぜFintechスタートアップの道を選んだのでしょうか?
その理由と独自のキャリアビジョン、そしてsustenで日々実感している「働きやすさ」にまで踏み込んで聞いてみました。
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榎戸徹
大学卒業後、WEB制作会社にて大手広告代理店とともに様々な会社のテレビCMや新聞広告といったプロモーション案件を手がける。2014年にDeNAに転職。怪盗ロワイヤルやKenCoMのフロントエンドを担当後、Mobage、AndAppなどの大規模プラットフォームの実装を担う傍らデザイン本部プラットフォームデザイングループ、グループマネージャーを兼務。副業としてサービス『SUSTEN』ローンチ前からsustenに関わり始め、2021年5月にsustenに入社。現在は同社でフロントエンドエンジニアとして活躍。
マネージャーの道か、プレイヤーの道か
――以前在籍していたDeNAでは、どのようなお仕事をしていたのですか?
榎戸徹(以下、榎戸) フロントエンドエンジニアとして、最初はソーシャルゲームの『怪盗ロワイヤル』などを担当していました。その後、ヘルスケア事業部に異動して『KenCoM(ケンコム)』という健康管理アプリのサービスUIの開発なども手掛けていました。
もっとも、キャリアのスタートはその前。Web制作会社のFlashを手掛けるエンジニアで、大量のFlashアニメをつくっていたんですよ。
しかしFlashが使われなくなって、2014年にDeNAに飛び込み、フロントエンジニアに転身。優秀な人材が揃う中で初めて聞く「KGI」や「LTV」といった言葉が飛び交い、戸惑いながらも、実務を通して知識や経験を積み重ねてきました。
いま思い返しても、DeNAはエンジニアとしての成長を日々実感できるすばらしい場でしたよ。
――そのすばらしい場からsustenに転職されました。きっかけは?
榎戸:そもそもDeNAでソーシャルゲームの部署にいた頃、susten創業メンバーの一人でテックチームのHeadをつとめる益子(※1)と同じチームだったんです。
その後、2019年にsustenを立ち上げた彼から「副業でフロントエンドの開発を手伝ってもらえないか」と誘われたのです。
※1……現 susten取締役 益子 遼介
――最初は副業だったんですね。
榎戸:はい。
そもそも私自身、“キャリアの踊り場”にいる気がして、悩んでいたタイミングだったことも後押しになりました。
――キャリアの踊り場?
榎戸:エンジニアとして手を動かす仕事から離れて、マネジメント職であるグループリーダーになったタイミングでした。ただ「このままマネジメントを極めるか、プレイヤーの道に戻るか」と自問すると、どっちつかずでモヤモヤしている自分がいたんです。
副業としてプレイヤーの立場に再度立ってみるのは、この迷いを吹っ切るいいチャンスだと考えました。
――sustenがFintechスタートアップだったことはどう影響しましたか。畑違いの金融サービスに不安は?
榎戸:実は、それが魅かれた理由のひとつでした。
『SUSTEN』は日本初の“完全成果報酬型”の個人向け投資ロボットアドバイザーやファンドラップに分類されるFintechサービスです。
しかもゴールドマン・サックスという金融畑の第一線で活躍してきた2人の創業者が、「まったく新しい個人向け金融サービスをつくりあげる」と言うのですからね。
「実際にどれほどまでに優秀な人たちが、どのような世界を作り出そうとしているのだろう?」とチームのメンバーとなって見てみたいと強く感じました。なかなか創業間近のフェーズでジョインできる世界ではないと考えたんです。
不安だったのは、むしろReactを使った経験がなかったことでしたね。
――sustenはReactをフレームワーク・ライブラリに使っているのですね。
榎戸:はい。最近、フロントエンドエンジニアには必須のスキルになっていますよね。
しかしマネジメント職についていた私は、Reactの知識はあっても、実際に触ったことがありませんでした。
ただ益子が、リモートのライブコーディングで手ほどきしてくれ「この感じならいけそうだな」と確信しました。そこで2019年2月に、フロントエンドのいちプレイヤーとして副業でジョインさせてもらったんです。
ちょうどローンチの1年前。サービスの裏側はできていましたが、まだUIは全然できていないタイミングでしたね。
ゼロイチで日本初のサービスをつくる興奮がある
――sustenでは、当然、フロントエンドエンジニアとしてUI/UXまわりをつくるのが、榎戸さんの役割なのでしょうか?
榎戸:そうですね。バックエンドのメンバーが開発してくれたものとデザイナーが手掛けたデザインの間をつなげ、ユーザーの方々に使いやすいインターフェイスを実装する仕事です。
最初は不慣れなフレームワークを使うので戸惑った面もありましたが、バックエンド側のエンジニアの方々からも手厚いレビューやフィードバックをいただけました。結果として、とても手を動かしやすい環境だなと感じましたね。
――そうした環境面も含めて、実際にsustenのテックチームで仕事をしてどんな印象を感じましたか?
榎戸:シンプルに「ものづくりって楽しい!」とあらためて再確認できましたね(笑)。
当時、私がDeNAで手掛けていたのが、創業時からあるプラットフォームの運用だったんですね。桁違いの売上をあげている大きなビジネス。すでに大勢いるお客さまに「どう楽しみ続けていただくか」と考えながらグロースを目指すやりがいとおもしろさと、重みはありました。
ただ、sustenのようにゼロイチで、しかも日本初のサービスを作り上げる興奮はやっぱり体感が違いますよね。それこそテックチームや金融チームが一丸となって意見を交換しあいながらすすめるスタイルもフィットしましたね。
――金融に関する知識は、以前からもっていたのですか?
榎戸:興味を持っていた、というほうが正しいですね。
金融チームは本当に優秀な人材が揃っていて、UIのレビューや企画のアイディアをもみあっている間にも「そうやって金融は動いているのか」とクリアになっていく。知的興奮が満たせる満足感もとても高いです。
もちろん、テックチームが金融の知見をつけ、金融チームがテクノロジーにくわしくなることはサービスを磨き上げることに直結する。去年、テックチーム内で、メンバーが持ち回りで法令や約款、規定類を調べシェアするドメイン勉強会も開催しはじめました。社内の共通言語が増え、社内がひとつになり、仕事が進めやすくなっていることを感じます。
※2……金融商品取引法
――副業時代はDeNAの仕事とのバランスはどのようにとっていたのでしょうか?
榎戸:両社ともほとんどリモートワークでしたので、自由にスケジューリングできました。
――副業として1年強働いた後、2021年の5月にsustenに転職されました。決断の理由は?
榎戸:サービスのローンチは2021年の2月だったんですね。副業としてそこまでやりとげた多少の達成感はありましたが、そのときに「もっとこのサービスを良くしていきたい」と思ったんですよね。
――踊り場から抜け出して、プレイヤーの道を行こうと。
榎戸:現時点では、ですけどね。
ただ大きく傾いた理由は、やはりsustenで感じた「ものづくりの楽しさ」に尽きるのかもしれません。金融チームに高い視座をもった人材が揃っているだけじゃなく、テックチームも本当に高いスキルをもった人たちが揃っている。
このレベル感の人間が揃って、ゼロイチのサービスを手がけられる機会って、一生のうちでもあまりない気もしたんですよ。
――日々、副業で手を動かしながらもそう感じたことは大きいですよね。
榎戸:そうですね。あとはゴリゴリのスタートアップではなく、メガベンチャー出身のテックエンジニアが多く、働きやすかったことも大きいです。
自律的に手を動かせて、仕事のレベルも高い。それでいてディスカッションや議論をしながらチームプレイをすることも好む。そんなバランスのいいエンジニアが多いことも魅力的でしたね。
それでいて、ちょっとキツく、しんどい仕事。エンジニアとしての自分をもうひとつストレッチさせたい、とどこかで考えていたので、最後のひと押しになった気がします。
ゲームの「サクサク動く」ノウハウを金融に落とし込む
――sustenのUIづくりに活かせた前職までの経験は?
榎戸:数多くあります。
たとえば「いかにサクサク動くか」といった部分は、DeNAでソーシャルゲームのフロントエンドを手掛けた経験が活かせました。そのあたりのチューニングの勘所を横展開させて、UXのクオリティをあげたい意識が常にあります。
直近でいえば、サービスを使っていただく前にしてもらう「運用タイプ診断」のUIは、限られた時間で磨かれたかなと思います。
――運用タイプ診断ですか?
榎戸:はい。
「高速道路を運転するとき、追い越し車線に入るほうですか?」といったような質問に答えることで、パーソナライズされた投資スタイルを提案するしくみなんです。
一見、資産運用に関係のなさそうな質問ですが、実は金融チームが考えた個人個人のリスクに対する意識を測る内容になっています。
金融チームが考え抜いたパラメーターが組み込まれているので、答えていただく質問の量が増えるほど、当然、投資運用におけるお客様と運用スタイルのマッチング精度はあがります。しかし、答えるのがわずらわしいと離脱されてしまいます。
そこで、これまで入力するタイプだった診断テストを、選択式でサクサク進めるように改良しました。デザイナー、バックエンドエンジニア、そして金融チームのメンバーがそれぞれアイデアを出し合ってもらい、いい形に磨き上げられたと思いますね。
――なるほど。sustenのコーポレートカルチャーはどのような感じでしょうか?
榎戸:まず極めてクオリティの高い人材が揃っていることがすばらしいなと感じています。だからこそ、だと思うのですが、誰ひとりとしてキリキリしていなくて、和気あいあいとした雰囲気です。
自律的に手と頭を動かせるから、ストレスも少ない。オープンに互いをレビューしあえる雰囲気があるから殺伐ともしない。同時に、金融とテックチームがそれぞれ本当に尊敬しあっているので、バランスもいいのでしょう。
――今後、sustenで成し遂げたいことは?
榎戸:弊社のビジョンが「家族や友人にすすめられる投資サービスをつくる」なんですね。それは他国に比べて金融リテラシーが低いといわれ、投資にも消極的な日本全体の意識を変える、という大きな挑戦であるとも捉えています。
sustenのサービスを、とくにUI/UXの面で磨きあげることで、この大きな目標を実現させたいなと考えています。
何か、これまでのゲームづくりで可処分時間をどう楽しんでいただくかにあくせくしていたときよりも、社会課題や一人ひとりのよりよい人生に密着していく仕事になった気がして、とてもやりがいと責任を感じていますね。
――sustenに課題があるとしたら、どんなところでしょう?
榎戸:それはもう、人が足りないことです。自律的にエンジニアとしての仕事に没頭しながら、日本初のサービスを創り上げていく。こんなおもしろいチャンスはあまりないと思うので、ぜひジョインしていただきたいですね!
執筆:箱田高樹、撮影:小堀将生、編集:榮田佳織