40年にわたり、人工知能、特に自然言語処理を活用した事業に参画し、「ソニー」でエンターテイメントロボット「AIBO」や「QRIO」の音声対話システムやテキストマイニングなどのビッグデータの活用や研究に従事。また「TIS」でSIerとして自然言語処理のコンサルや、「GAtechnologies」でのAI戦略室長として不動産業界初めてのAI研究組織の立ち上げに携わった経歴を経て、今年春よりストックマークのResearch and Development(以下、R&D) Managerとなった小林。入社すると決めた理由やストックマークに感じた可能性などを尋ねました。
<プロフィール> 小林 賢一郎(こばやし けんいちろう):東芝およびソニーの研究所において自然言語処理、人工知能、ロボット(AIBO、QRIO)、データ解析の研究やCE機器の研究開発に従事。2007 年よりソニーの主任研究員に就任。電子情報産業協会委員などを歴任。2015年、クーロン株式会社のフェロー。2016年よりTIS株式会社シニアエキスパートのほか複数のベンチャー企業のアドバイザーを務める。同年、GAtechnologiesに顧問としてジョイン、2017年よりAI戦略室室長に。同年、三菱鉛筆の顧問に就任。2021年4月にストックマークに入社。人工知能学会、情報処理学会、言語処理学会、日本言語学会でも活動。
人間とコンピュータを仲良くさせる。それが幼少期からの夢でした ——ストックマークでの担当業務を教えてください。
今年の4月に入社し、R&D Managerとして、ストックマークが扱う3つのプロダクトの種になるような新しい技術を研究したり、プロダクトが抱えている課題をいかに解決するかを日々考えています。機械学習、自然言語処理の分野での他者との差別化できる技術や優位性、ストックマークにしかないものは何かを常に探りながら、プロダクトを活性化することを目的としています。
私は、いままで長年の間HCI(Human Computer Interaction)という自然言語処理を中心として人間とコンピュータとの付き合い方というものを研究開発していました。ストックマークのプロダクトは全て「言葉」に関係していることをやっていて、その中で言葉をどういう風に理解するか、理解したものをどういった形で表現すればいいか、そういったことについて、今まで私が研究開発してきたことの全てがストックマークでは活用できるのではないかと思っています。
——転職活動で重視していたことはありますか。
大学を卒業してから30年以上東芝やソニーの研究所で事業会社としてプロダクトの研究開発に携わってきました。その後5年程、TISでSIerとして言語処理に関わるコンサルの経験もしてきました。 そんな中で還暦を迎え今後を考えた時に、残り少ないエンジニア、リサーチャーの人生は事業会社で腰を据えて言語処理をやっていきたいと考えていました。 事業会社であること、自然言語処理そのものを生業としている会社でやっていきたいと思ったので、ストックマークはこれらの条件を満たしていました。
——自然言語処理を生業とする会社を条件とすれば、必然的にベンチャー企業になりますね。
それだけを生業にしている大企業はないですね。言語処理を扱っている会社はたくさんありますが、それだけをやっている会社は少ないですね。コミュニケーションのサービスをやりながら、言語処理もやっているという感じです。 また、SIerだと、クライアントベースで考えるので、クライアントに言語処理を求める会社がいなくなってしまうと言語処理をやる意味を問われるようになってきます。そういった意味でも、言語処理が生業になっているストックマークを選びました。
ベンチャーの中には、研究開発はやらずにアプリケーションだけを作っている会社もあります。 しかし、ストックマークは、ただプロダクトを作るだけという形ではなく、研究開発をしっかりやっていこうという考えを会社が持っています。研究開発に力を入れて独自の技術を養っていこうとしているところが非常に共感できる部分でした。
ーーこれまで人工知能や自然言語処理の分野に長年携わっていますが、きっかけは何かあったのでしょうか。
一貫して取り組んでいるのはヒューマンコンピュータインタラクションで、中でも言葉(自然言語)を介して「人間とコンピュータをいかに仲良くさせるか」をテーマにキャリアを重ねてきました。 このようなテーマを基軸にするようになったのは、子供の頃に描いていた夢が大きいです。小学生の頃には月にアポロが着陸したのをブラウン管のテレビで見たことはもちろん、『鉄腕アトム』のようなロボットへの憧れも大きかったです。特に映画『2001年宇宙の旅』の影響は大きいです。作中で人工知能を備えた架空のコンピュータ「HAL 9000」が、人間の要求に対してなんでも応えてくれる存在として描かれていた。それを見た当初、「きっと僕が大人になる頃には、そんなコンピュータが実在するようになるだろう」「宇宙旅行にも簡単に行けるだろう」と思っていたんですね。
ところが2021年を迎えた今、そのような世界には全くなっていない。人間とコンピュータが“仲良し”かと言えば、キーボードに触れることすら億劫な人だってまだまだ少なくないでしょう。私が幼心に描いていたコンピュータと現実のコンピュータのギャップに初めて気づいたのは大学生の頃でした。当時、コンピュータでできることがあまりに限られていて、私が夢見る世界とは程遠く、子供の頃に見た「あの世界」を実現したいと思いました。
BtoBの分野におけるGoogleになれるかもという予感が、入社を後押しした ——転職活動中にさまざまな会社を検討する中で、ストックマークなら理想にかなう働き方ができる、と思ったのはなぜですか。
転職にあたってはエージェントから紹介されました。その時の資料やHPにも最初に出てくるのですが、「言葉のAIで人類はもっと進化できる」というスローガンに興味が湧き、非常に共感をしました。
私が常々AIというものを説明する時に「知の自転車」という言葉を使います。これは、Apple創設者のスティーブ・ジョブズの言葉で、Mackintoshを初めて発表する時に、世の中にコンピュータが出てくると、コンピュータが人類を支配してしまうのではないか。と言われていた中で、ジョブズが「コンピュータは知の自転車だ」と言ったのです。 人間という生き物は移動という行為に優れた動物ではない。ただ自転車という道具を与えられると自分のエネルギーだけで効率的な運動ができるようになる。つまり、自転車自体にエネルギーがあるわけではないが、それを使うことによって“移動”という行動において人間の能力を拡張してくれます。 自転車が人間の行動活動を支配しないのと同じように、コンピュータは人間の生活を脅かすものではなく、人間の知的生産活動を支援してくれるものなんだ。という言葉です。
第3次AIブームが来た時に、AIが人間を支配するとか、職業を奪う(シンギュラリティ)と言われたりもしましたが、それを否定する言葉としても私は「知の自転車」という言葉を使っています。
私は過去の経験の中で、実際にコンピュータは人類の知的生産活動を進化させてきたと思っています。例えば、今は普通に使われている「かな漢字変換」。私が学生時代にはありませんでした。日本で初めて「かな漢字変換」を搭載したポータブルワープロ(Rupo)は、私が東芝で働いていた時に研究開発に携わることができた成果の一つです。それまでは全て手書きで文章を書いていたんです。ワープロを使うことによって活字で印刷されるだけでなく、知らない漢字も補ってくれて、まさに人間の知的生産活動を支援してくれた形です。
ここで「ニュース」を考えた時に、人間は読める量が限られていますよね。でも、コンピュータは簡単に大量な文書を高速で読むことができるわけなんです。そういった大量の情報を扱い、さらにその情報から重要な内容を整理して人間に伝えるという部分で、さらに人間の知的生産活動を進化させることがこのストックマークの中でできるのはないかと思いました。 AIが得意なことで人間をサポートして人類が進化する。そういった考えから「言葉のAIで人類はもっと進化できる」ということが私の中で結びつきました。そして、それをやろうとしているストックマークに魅力を感じました。
ーー選考が進む中で、気持ちの変化はありましたか。
ないですね。私がかなり未来の空言をいってもみんな前向きに捉えてくれてました。(笑) 前の会社の上司から言われたことなのですが、新しいものを考える時に100年先のことを考えろ。その時に、“できていること”と“できてないこと”がある。“できていないこと”はきっと今取り組んでもできない。100年先にできていることなら、10年先にはそこまでいってなくても何か形はできている。それなら1年2年先には進歩の過程がある。そう考えれれば、今取り組むことが見えてくる。わからないときは100年前を考えて今と比べる。
その前提で、新聞やメディアは、100年先はどうなっているか?逆に遡ってみると、江戸時代はドラマに出てくるような高札や瓦版でした。それが新聞になりラジオに変わって、テレビになり、ウェブでもニュースを見れるようになりました。最近はスマホ(アプリ)でも見れるようになりました。 この100年の中で進歩はありましたが、スマホでニュースを見ることが最終形ではないと思います。今から100年後には、また違う形でニュースを見ているでしょう。
我々のプロダクトは、ニュースのメディアが発信しているものをユーザーにどのような形で提供するか、「情報」そのものに対しても付加価値を高めていくことを追求しています。 5年後、10年後、我々は全く違う形でニュースとつきあっている。そういった時のタッチポイントになれる会社、ポテンシャルを持った会社なのではないかという思いが強くなりました。
——最終的にストックマーク入社の決め手となったのは?
オリジナルの技術を作ろうとしているところですね。
例えば、マーケットの目のつけ方が非常に面白いと思いました。ある意味、BtoBのGoogleみたいなものを目指せるんじゃないか。ここに大きなビジネスチャンスがあると考えている。 BtoCの世界での情報検索ではGoogle検索が生活の必需品となっているように、BtoBの分野でMust Haveを狙って開発している。これにはワクワクしましたね。
テキスト解析はコンピュータが生まれた時から研究が始まっています。軍事目的が主だった当時のコンピュータは最初のミッションとして暗号解読が課せられました。その頃から機械翻訳の研究はされていて、最近ようやくストレスなく内容を理解できるくらい訳せるようになってきました。60〜70年かけてやっとできたという世界。
「言葉」に関してまだできてないことは多くあり、ニュースにどんな情報があって、どういう形で伝えれば良いのかという部分では、いまだに紙の新聞を読んでいる人もいれば、ウェブで読むいる人もいる。 だから、今後まだまだ発展できる余地があり、ビジネスチャンスがあると思っています。ストックマークのメンバーとであれば、そのビジネスを実現すべく、言語処理技術を進化させることができる可能性を感じました。
自ら道具を作って新たな遊びを創造する。幼少期からこの繰り返しです ——入社してまだ数か月ではありますが、実際働いてみていかがですか。
全社員が顧客を知るということを、とても前向きに考えていることにポテンシャルを感じました。売っておしまいにする商売ではなく、サービスをいかに効率よく活用してもらうか、顧客の成功体験を次のサービスにどう活かしていくか、お客様の声を聞くことによって顧客との一体感やポジティブなスパイラルを作っていこうとしていることが非常に良いと感じています。 加えて、メンバーが若く伸び代があるし勢いや熱意があります。新しいことに敏感で新しいことを受け入れる寛容なカルチャーがあり、会社が伸びていく上では非常に重要なことだと思いますし、私自身もいい刺激をもらっています。
ーー会社の雰囲気をどのように感じますか。
私はいわゆる縦割りの組織に、これまでずっとフラストレーションを感じていました。例えば新しいプロジェクトを始める場合、常に組織の壁が付きまとい、お互いの組織の利害関係を気にしながらプロジェクトを進める。情報伝達の風通しも悪い。保身のため、やる理由よりやらない理由を考える。また意思決定にもヒエラルキーがあり、承認まで時間もかかりました。
しかし、ストックマークは、slackは基本的に全てのチャンネルがオープンになっていて全員が見れます。何か課題があった時にはその都度みんなでZoomに集まって話す。また定期的にプロダクト単位でミーティングをやっており、そこでは営業CSもプロダクトも研究開発も関係する全てのメンバーが各々の進捗状況を確認し合うなど非常にオープンです。
その中で、それぞれが自分の担当外の部分に対しても意見が言えるような環境と雰囲気作りがされていて、単なる報告会ではなく議論ができる場になっています。 風通しの良い環境だというのが大企業にはない魅力で、それにより意思決定が非常に早く行える。アジャイルに小さなサイクルでどんどん回していく。失敗した時に失敗したことに対しても寛容に考えていく。そんなカルチャーにとても魅力を感じています。
——挑戦し続けるマインドの高さを感じますが、モチベーションとなっているものは何ですか。
そうですね…何かを意識していることはないですね。ただ楽しいことに興味があるんだと思います。 今の子供は遊ぶとなるといろんな道具がありますよね。でも私が子供の頃は遊ぶ道具は何もなかったんです。山の中に入って竹を切って弓矢を作ったり鉄砲を作ったり、新聞の広告を貼り合わせてボードゲーム作ったり、山の中に秘密基地作ったり、自分たちで遊び道具を作って常に創造するという環境で育ちました。 遊ぶのであれば自分たちで道具を作るというところから始まり、じゃあ自分が楽しむために何をするのか、何かを0→1で作り出していくことが非常に楽しく、その気持ちが今もずっと延長してきているという感じです。
——今後ストックマークで力を入れて取り組みたいことは?
まずはR&Dとしてのビジョンをきちんと作っていくこと。これまでプロダクト開発が中心だったために、将来的に自分たちがどのような組織になることを目指すかというビジョンの共有がメンバー間でもできてませんでした。だからこそ、そこに共通の方向性を羅針盤のように示すことでひとつにまとまり、アウトプットや開発、業務が一貫性を持って進められ、よりチームが強固になると思います。
また会社がますます大きくなっていく中で、競合他社との比較はどうしても避けて通れません。 ストックマークではR&Dの部門を持っており、機械学習や自然言語処理に関して特化して研究開発を行っていて、日本でトップになるというモチベーションも持っている会社なので、差別化になる技術を生み出し、いかにしてトップのポジションを築くかを明確にする。これが私が今注力すべき部分かなと思っています。
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