1
/
5

歌舞伎町ホストがソムリエ試験に挑戦してから10年間のこと

Smappa!Group
グループワインマネージャー
七咲 葵

私たちのグループが、従業員にソムリエ資格取得を推奨しはじめて10年が経ちました。

ホストクラブにおいて価値あるサービスの種類を増やしたい、ワイン好きの女性が楽しめる場所を増やしたいという想いのもと、社内にはこれまでに約20名のソムリエが誕生しています。

メディアなどでのホストの活躍により、歌舞伎町は多くの方に足を運んでいただく場所になりました。
ホスト業界は売り手市場。従業員の給与の高騰により起こっていることは、提供する飲み物への扱いの悪化です。店側は酒の原価を抑えなければならず、コンビニに売っているような缶チューハイに何十倍もの価格をつけ、提供します。

そのような状況で、私たちはサービスマンとして十分な価値を提供していると言えるのでしょうか?

ホストになって数年間、売れたり売れなかったり不安定なホストだった僕が、JSA認定ソムリエ資格を取得した当時から現在までを振り返ることで、皆さんに少しでも弊社を知っていただければと思います。

みなさんホストクラブで飲むお酒ってどんなイメージでしょうか?


ド派手なタワーに並々と注がれるシャンパンのイメージが強いですよね。
もちろんシャンパンタワーが行われる日もありますが、僕が入社した当時、ホストクラブで提供されるお酒は焼酎やビール、テキーラのショットなどが主でした。毎日浴びるように酒を飲み、記憶をなくす日々。お酒の味を楽しむというような環境ではありませんでした。

2010年の春

上司から全員が集まるミーティングでこう伝えられました。
「みんなでソムリエ試験を受けます。」
当時僕たちの働くホストクラブにはワインは置いていませんでした。
稀にお店の外でお客様に飲めと言われない限り、プライベートでワインを飲むこともありませんでした。

「なんでワインを勉強しないといけないんだろう。めんどくさい。」「ホストがソムリエ資格を取得して何になるんだろう?」内心そんな気持ちでした。

営業前の90分。ワイン講師の方が歌舞伎町に来て、週に一度のワイン講習がはじまりました。関心もなく、勉強する意味もわからず講習に参加しても、やる気は出ない。それでもなんとなく、僕は週に一度の授業に出席していました。

そんなある日、ソムリエ講習が終わったあとに同伴でお客様とレストランへ行く機会がありました。メニューを見ていると、数時間前の授業に出ていたブドウの品種がワインメニューに載っていました。

メニューが読める...!

新鮮な感覚に小さく喜びながら、そのワインを注文。
ちゃんとワインを注文したのはこの時が初めてのことでした。
授業の内容を思い出しながら、お客様に話しをすると、改めてお客様の気持を掴めた気がしました。

まだまだ深いとは言えない知識を使った会話でしたが、ワインについて知っていくことが自分の接客にとってプラスになるのだということを実感した出来事でした。

「ソムリエ資格取得のために合宿に行きます。」

ソムリエ試験の一ヶ月前、上司からまた突然の発表がありました。
歌舞伎町のホスト30人が連れ立って、ソムリエ勉強合宿に行くことになったのです。

コンビニまでタクシーで15分もかかる八王子の山奥で、他にやることもなく、勉強するしかない状況。不思議なもので、そんな状況だと授業の内容も覚えていくし、テストで正解できるようになっていく。ゲームのように正解できることも嬉しい。ワインの知識が自分のメリットになるという実感も作用してなのか、合宿が終わる頃には「絶対ソムリエになってやろう」と思っている自分がいました。

しかしその年の試験で僕は不合格。仲間のホストは4人合格しました。

不合格だったメンバーと翌年の試験のために営業後のホストクラブに残ってワインの勉強を続けました。レストランやバーではメニューを必ず見るようになったし、なにより僕は自分の意志でワインを飲むようになりました。

翌年、僕は仲間3人と共にソムリエ試験に合格。
既に先輩ソムリエだったホスト達が、ワインショップに連れて行ってくれて、合格祝いをしてくれました。

「自分が飲みたいワインを持ってきていいよ」と言われ、僕がその時選んだのはシチリアのヴェルメンティーノ・ディ・ガッルーラでした。(僕がなぜこのワインを選んだかというと、授業でドラクエのモンスター「ガルーラ」に名前が似ているなと思っていたのを覚えていたから。…というくだらない理由でしたが、ワインを勉強しているとゲームの呪文の名前だったり、プロ野球の外国人選手の名前だったりで覚えることはよくありました 笑)

ヴェルメンティーノ・ディ・ガッルーラを口に含んだときの嫌味のない心地よさは、今でも忘れることができない味です。試験に合格してすぐに出会ったこのワインは、僕が心から好きだと思えたワインでした。

それから僕はソムリエバッジをつけてホストクラブに出勤しはじめました。

ワインの話を求められる機会も増え、ソムリエとして見られるということが嬉しくて、僕はさらに深く学び続けたいと思うようになりました。

ソムリエになって、気づけば10年。

20歳からずっと、ホストとしてお客様を笑顔にすることが楽しくて一生懸命に会話し、お酒を飲んできました。しかし口にするお酒の香りや味をお客様と共有し、楽しむということができるようになったのはワインというツールを得てはじめて経験できたことでした。

ホスト一直線だった自分が、いろんなものに興味を持つようになったのもワインのおかげです。

ワインは楽しい。

子供の時に入った柚子風呂の匂い。駄菓子の味。泥遊びの記憶。
香りや味から様々な記憶が呼び起こされる楽しみ。

ワインと食事のマリアージュを初めて体験したときにもとても驚きました。
1+1=100になるような感覚。(100は言い過ぎかもしれないけれどとても感動しました。)

美術館に足を運ぶとぶどうやワインが絵画に描かれている。絵画の舞台はどこだろう?作者の出身はどこだろう?このワインはどんな香りがするのだろう?その地方のワインを飲むと、歌舞伎町からその絵画を思い出すこともあります。

日本のワイナリーに足を運んだりするうちに、旅行の楽しみも増えました。
訳もわからないまま勉強し始めたワインの世界が、今では僕のひとつの趣味(以上の生きがいと言うと大げさでしょうか)であり、仕事になりました。

ワインは味や市場価格だけではなく、マリアージュの方法や注ぎ方、ワインにまつわるストーリーなどを含めて、価格以上の価値を提供できるツールです。働く側にとっても、酔うための酒で酔うのではなく、味や香りの楽しみをお客様と共有できることは大きな武器です。

僕がそうだったように、はじめは興味がなくてもいつか好きになっているかもしれない。
そんな機会を社内に作っていきたいとソムリエ資格取得のための社内講座も行っています。

ワインを通じてたくさんの出会いもありました。
業界を越えてインポーターの方やワイン好きの方ともワインの話に花が咲き、日本のワイン業界を盛り上げていこうという気持ちを共有できるようになりました。

レストランの脇役ではなく、ソムリエであるということが自身の価値となる“魅せるソムリエ”という立場から、僕は仲間と一緒に水商売ならではのワインの扱い方を追求してきました。 共にワインを学び、楽しむ仲間や、ワインを通して出会った歌舞伎町内外の方々は私達の財産です。


■■(編集後記)■■
最後までご覧いただきありがとうございます。
Smappa!Groupのミッションステートメントには「教養の強要」というフレーズがあります。
幅広い教養を身につけ、与えられる人になる努力を惜しまない。そのために、どんな社内講座が適しているのでしょうか?どんな福利厚生があれば学ぶ楽しさを従業員にシェアできるでしょうか?どんなセカンドキャリアを提案できるでしょうか?ソムリエだけに留まらないあなたのアイデアを弊社で実現していただきたいと思います。

Invitation from 有限会社スクラムライス
If this story triggered your interest, have a chat with the team?
有限会社スクラムライス's job postings
4 Likes
4 Likes

Weekly ranking

Show other rankings
Like h naka's Story
Let h naka's company know you're interested in their content