連載「安武社長、本音聞いてもいいですか?」第13弾のテーマは、「この13年で一番の判断ミス」です。
以前Vol.5では、新規事業がうまくいかず撤退を決めた経験について伺いました。今回はその「結果」ではなく、あのとき安武さんが実際に下した「判断」そのものに、もう一歩踏み込んで聞いてみます。
前回(Vol.5)のあらすじ…
安武さんはこれまで数々の新規事業に挑戦してきましたが、その一つで専任チームを立ち上げたものの体制が十分に整わず、検証を飛ばしたまま見切り発車でリリース。当然思うような成果が出ず、最終的にメンバーの声を聞いた上で事業のクローズを決断しました(詳しくはVol.5「こけ方をコントロールする」をご覧ください)。
ーRIT設立から13年を振り返って、一番の判断ミスは何だったと思いますか?
専任チームまで作って挑みながら、最終的にクローズすることになった、あの新規事業の話です。その中でも一番の判断ミスを一つ選ぶとしたら、「検証を飛ばして、急いでリリースしたこと」だと思っています。今日は、その結果ではなく、あの判断を下した瞬間に何を考えていたかを、正直に振り返ってみたいと思います。
ーその「急いでリリースする」という判断は、当時はどうして正しく見えていたんですか?
当時は、新規事業を早く形にしなきゃいけないというプレッシャーが強かったんです。会社としても「新しい事業の柱をつくるぞ」と掲げていたので、時間をかければかけるほど、社内の期待値と現実のギャップが大きくなっていく感覚がありました。
それに、プロダクト自体はチームの目から見ても悪くない出来でした。「これなら通用するはずだ」という手応えもあった。だから、検証に時間をかけるより先に、まず世に出して反応を見る方が早いと判断したんです。当時持っていた情報だけで考えれば、あれはあれで合理的な判断だったと思います。
ー「合理的だった」と言いながら、なぜ「判断ミス」だったと思うんですか?
そこなんですよね。判断そのものは、当時持っていた情報の範囲では間違っていなかったと思うんです。でも、判断ミスというのは、情報が間違っていたことじゃなくて、「もっと小さく安く確かめられる方法があったのに、それを探さなかったこと」だったと今は思っています。
小さく試して、外れたらすぐ引き返せるようにしておく。その発想自体が、当時の自分にはなかったんです。「早く出す」か「じっくり作り込む」かの二択で考えてしまっていて、「小さく出して確かめながら進める」という第三の道があることに、頭が回っていませんでした。
ー「判断を間違えたかもしれない」と気づいた瞬間は覚えていますか?
覚えています。リリースから6ヶ月くらい経った頃、想定していた数字と実際の反応の差を見たときです。
数字自体もそうなんですが、それよりも、メンバーの表情が変わっていったことの方が正直こたえました。最初は勢いよく動いていたのに、だんだん「これ、本当に大丈夫なんですか」という空気に変わっていく。その変化を見たときに、判断を間違えたなと感じました。
正直、その時点でもまだ「もう少し粘れば」という気持ちもあったんです。でも、そう思っている自分こそが、選択肢を狭めていたんだと思います。
ーもし今、同じ場面に立ったら、どう判断しますか?
まず、いきなり全体をリリースしないと思います。
一部の機能だけ、一部のお客さんにだけ先に見せて、反応を確かめてから広げる。今ならそれが当たり前だと思えるんですが、当時はそのやり方自体を知らなかった、というのが正直なところです。
あとは、判断を経営陣だけで抱え込まないようにすると思います。当時は「よし、出そう」というのを上だけで決めていましたが、実際に手を動かすメンバーの感触をもっと早い段階で聞いていれば、違う判断ができたかもしれません。
ーその判断ミスは、メンバーとの関係にも影響しましたか?
はい、ありました。事業をクローズすると決めたとき、メンバーには「巻き込んでしまって申し訳ない」という気持ちが強かったです。負担が大きいと分かっていながら、途中で軌道修正できなかったのは、経営陣としての責任だと思っています。
ただ、あのときメンバーに率直に「このまま進めていけると思う?」と聞けたこと自体は、良かったと思っています。判断ミスを認めた上で、次にどうするかを一緒に考える。そのプロセスを一度きちんとやれたことで、その後の新規事業では、もっと早い段階でメンバーの声を聞けるようになりました。
ーこの経験は、今の意思決定にどう活きていますか?
判断ミスを「情報の間違い」ではなく「選択肢の見落とし」として捉えるようになりました。
失敗すると、つい「あのとき違う情報があれば」と考えがちなんですが、実際に振り返ってみると、情報が足りなかったんじゃなくて、選択肢の幅を自分で狭めて考えていたことの方が多いんですよね。だから今は、判断する前に「他にどんなやり方があるか」を一度広げて考えるようにしています。
ー今、判断を下すときに、当時とは違う癖のようなものはついていますか?
一つあります。「これ、後からどれだけ小さいダメージで直せるか」を必ず聞くようになりました。
当時は「これで正しいか」ばかり考えていたんですが、正しいかどうかは、やってみないと分からないことの方が多いんですよね。それよりも、間違っていたとわかったときにどれだけ小さく引き返せるかを、先に設計しておく。今はそれを判断の基準に加えるようにしています。
ー最後に、若手へのメッセージをお願いします
判断ミスをしたこと自体を、そんなに恐れなくていいと思っています。
僕自身、今振り返れば「なんでそんな判断をしたんだろう」と思う場面がいくつもあります。でも、その時点で持っていた情報と選択肢の中では、当時なりに考えた結果だったんですよね。
大事なのは、間違えないことじゃなくて、間違えたときに「情報が足りなかったのか、選択肢を自分で狭めていたのか」を分けて考えられるかどうかだと思います。それができれば、同じ失敗を形を変えて繰り返さずに済む。判断ミスは、次の判断の精度を上げるための材料だと思うようにしています。
だからこそ、うちでは「判断を間違えたこと」より「間違えたときにどう振る舞ったか」を見るようにしています。挑戦した上での判断ミスであれば、それ自体を責めることはありません。むしろ、そこから何を持ち帰るかの方が、僕たちにとってはずっと大事なことです。
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