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イベントレポート:「児童領域の地域連携について」LITALICOジュニア副事業部長が登壇。支援のために他機関とうまく連携するコツとは?

LITALICOでは、2022年12月にLITALICOキャリアと人材採用部主催の「児童領域の地域連携について」と題したオンラインイベントを開催しました。本レポートでは、当日の様子やイベント内容の一部を抜粋・編集してお伝えしていきます。

登壇者プロフィール:
LITALICOジュニア 副事業部長
緒方 広海(おがた ひろうみ)
さいたま市にて専門職(心理)として約15年間従事。乳幼児から成人期までの精神保健福祉、障害福祉の分野で幅広く心理臨床業務に携わる。現職においても支援に関わる指導員や児童管への研修や育成の統括、困難ケースへのスーパーバイズなどを担当。

「地域連携」はなぜ必要か?

ー 今回のイベントでは、株式会社LITALICOパートナーズ 児童発達支援事業部 副事業部長を務める緒方が登壇し、地域連携の重要性や経験に基づくアプローチの手法・コツなどをお伝えしていきました。イベントの冒頭で、緒方は個人の問題や困り感を解決したい場合、目の前のそのひとりだけでなく、世帯ごとのニーズを満たすことやその方を取り巻く環境へアプローチしていく必要があると話しました。

心理職の立場から:面接室の外にも視点を向ける

(緒方)僕は、LITALICOに転職する前は主に行政に所属しており、相談員として様々な方から相談を受ける立場でした。そこではその人の内面の問題だけにアプローチしても解決しない問題が非常に多くあると感じており、実際にご本人の身近にいる方やご家族も困っているケースが大半でした。生活に密着した困りごとを解決していくには、「面接室の外」にいる方々とどう繋がっていくかを前提に支援を組み立てていくことが求められていると思います。

行政相談員の立場から:世帯単位でアプローチするスタンス

行政では、生活保護や税金に関することを含めて基本的に「世帯」を中心に動いているので、相談支援においても個人よりも世帯単位で相談を受けることが多かったんですね。
例えば、お子さまの不登校について相談に来たお母さんのお話を聞いていくと、実はお子さまには発達障害があり家の中で落ち着きが無く、お母さんはその対応でうつ状態になっている。病院に行きたくても夫がアルコール依存症のため仕事に就けないので、世帯的に困窮しているーそんな複雑な状況が明らかになっていきます。この場合、お子さまの不登校だけにアプローチしても問題は解決しません。家族の中で抱えている様々なニーズを全て解決していくためには、自分たちのいる組織だけではどうにもできないので、外部の機関を含めた各所と連携しながら支援をしていくことが大事だと私自身痛感してきました。

LITALICOの地域連携

個と環境の相互作用の中で、環境調整のための連携



ここで、私が携わっているLITALICOジュニアが大切にしている考え方についても触れさせてください。私たちは「障害は、個と環境との相互作用の中で生まれる」という考え方のもと、個人に対して周囲の人や場所・モノなどの環境がうまくマッチングしているかどうかを重視しており、ご本人の困り具合は周囲の環境によって大きく異なってくると考えます。

例えば、授業中に教室を飛び出してしまうお子さまがいるとします。
個(お子さま)の問題のみに注目して、視界の狭さ、音の聞き取りにくさ、不安になりやすい過敏さだけが要因だと思われることが多いのですが、実際は環境もお子さまにマッチできていないこともあります。逆に言えば、個と環境のマッチングがうまくいけば、飛び出さなくてもいい状態にできるかもしれない、と僕たちは考えます。

以下は環境調整の対策の例です。

  • 視界が狭い傾向にあるお子さまに対して、黒板の近い場所に席を移動してもらうことで正面がより見えやすい環境を用意
  • 音を聞き取りづらい傾向にあるお子さまに対して、集中できる空間を用意
  • 対人コミュニケーションで不安傾向のあるお子さまに対して、対話の相手が相づちを打つことや笑顔で頷づくことが不安の軽減に繋げる

このように、個としての特性は変わらなくても、環境として提供するものによってお子さまの行動を変えることができるんですね。ただ、教室や家庭の環境を整えていくためには、LITALICOジュニアのスタッフだけで全てを対応することは難しいため、学校やご家庭などお子さまと関わりのある方々にご協力の依頼をしていく必要があります。
ここで「地域連携」がポイントになってきます。

ー お子さまを取り巻く環境として、家庭、学校、放課後の通所施設など、異なる立場から多様な視点があることで見えてくる課題や解決策があり、より良い支援に近づくことができると緒方はいいます。

支援のために同じ方向を向く

(緒方)例えば、「不登校」という一つの問題で考えてみましょう。学校としては、なるべくなら登校してほしいというニーズがあり、児童相談所であれば虐待がないか確認したい、というニーズになるし、僕らLITALICOジュニアが関わるならば、障害に対する配慮がどうなっているか、特性は何かという視点になりますよね。このように見ていることがお互いにちょっとずつ違うので、まずは同じ方向を向く、ということが大事だったりします。そのためにも自分たちがどういった視点でお子さまの状態をとらえているのか、お互いに不足している情報がないかを確認しあう必要があります。
一方で、まだまだ障害に対する偏見、差別、思い込みは非常に大きいなと感じることも多いのが現状です。既存の文化や価値観、障害に対する捉え方を変えていくことは難易度が高く、チャレンジングな取り組みではありますが、非常にやりがいのある仕事だと僕は考えています。

ー ここからは、具体的な地域連携のための手法について緒方から紹介がありました。ネットワーク・システムの視点を活用して、ケースの登場人物とその関係性を正確に把握することの重要性を説きながら、支援者が明日から使える具体的な手法を紹介していきました。

アプローチ例:ジェノグラム・エコマップの枠組みを用いて

①ジェノグラム



(緒方)援助者が利用者を中心とした家族関係を理解するために作成される図です。こちらのジェノグラム例からは、お子さま(男の子)とお母さんがシングルマザー世帯として一緒に暮らしていること、お父さんとは離婚しているという状況を読み取ることができます。

②エコマップ



援助者が利用者を中心とした家族、社会資源の関係性を理解するために作成される図です。ご本人がどのような生態系、関係性の中で生きているのか、ご家族の構成だけではなく、関わっている方々をマップ化したものがエコマップです。例えば、病院、小学校、児童相談所がどのようにご本人やご家族と繋がっているのか、足りていない支援がないかエコマップを見ながら理解をしていきます。
僕は地域連携に取り組む際には今でもこのジェノグラムとエコマップを組み合わせてケースの状況の理解に務めています。

では、具体的な活用の事例を見ていきましょう。
※以下事例はあくまで模擬事例であり、実際のケースとは異なります

模擬事例:お子さまのいるご家庭への支援

5歳長男:発達の遅れがあり、保育所等訪問支援事業を通じて普段通っている保育園とLITALICOが連携している。教室に直接通所はしていない
母:母は抑うつ的で元気がない。2歳の長女も家におり長男と長女に厳しい言動で接することがある
父:会社員で寡黙だが、お酒を飲むと攻撃的になる傾向がある
支援員:保育園での保育所等訪問支援中に児童相談所への通告歴があることを知る。現在児童相談所とのつながりは無い

この状況をジェノグラムとエコマップを使って整理してみると、以下の図になります。


関係性を整理した上で、ここのシステムが上手く回っていないから、ネットワークを形成してより上手くケースが回るようにしていこうという発想をします。
地域連携においては、状況を明確に視覚化することで、どんな支援や働きかけが必要か、それぞれの機関の役割が明確になり他者への情報共有もしやすくなります。

ー このほかにも、学校内の合理的配慮に関するケースなどを取り上げて担任の先生、スクールカウンセラー、ご家族との連携について解説がありました。実用的なツール以外にも、緒方が経験にもとづき地域連携に際して他者と協働する際のポイントがあるといいます。

まとめ:周囲の方々とうまく協働していくために

(緒方)ここまでに、僕自身が所属以外の機関との地域内での連携をテーマに、様々な角度からアプローチする際のコツや具体例をお話してきました。最後に、僕自身の臨床の経験の中から、他機関の方々へのアプローチにあたって大切にしていることをまとめてお話したいと思います。

①連携先との「共通言語」を作る

例えば、授業中長時間座っていられず離席してしまう子の対応について、担任の先生と連携する際のケースを挙げてみます。集中力を保つための手立てとして休む時間を作ることを提案したとします。そこで「休憩タイム」という誰にでも分かりやすいキーワード、つまり共通言語を作ることで「この前、●●ちゃんに休憩タイムを作ってみました!」「先日は短い休憩タイムでうまくいきましたか?」といった形で、お互い共有がしやすくなるだけでなく、次のアプローチへの提案や相談もしやすくなります。具体の解決手段として他の先生方へも展開しやすくなるメリットもあります。

②連携先との連絡はこまめに、なるべく顔を合わせる

当たり前の視点かもしれませんが、やはり接点を多く持つというのは重要だと感じています。相手がどんな価値観を大切にしているのかというのは、共に過ごす時間を増やすことで理解が深まるのではないかと思うんですね。僕自身は、行政で実施している地域連携のための会議に参加したり、ネットワークづくりのためのコミュニティにもよく顔を出したりしています。

③「他者視点」と「共感的理解」

繰り返しにはなってしまうのですが、それぞれの法人や支援者自身が大事にしている視点や方針を理解することはやはり重要だと考えます。意見や方針が異なる方と接する機会もあると思いますが、決して自分の方針を押し付けることなく、常に他者視点で「なぜそういう意見なのだろう?どんな背景があるんだろう?」と考え続け、共感し理解し合おうとする姿勢も大切だと思います。

支援の場面以外にも、地域連携の関係構築にもエコマップなどの視点が活用できるかもしれません。まずは周囲にどういう人たちがいて、どういう関係性になってるのか把握したうえで、エコシステムとしてどうすればうまく機能する場所をつくれるだろうかーという風に順番に組み立てていくと、自ずとやることが明確化されると思います。自分一人でこのケースを抱えなくていいんだ、と感じることができると支援者側の安心感にも繋がるかもしれませんね。

以上となります。僕が関わってきた児童領域に限らず、他者と連携しながら支援するためのヒントにしていただけたら幸いです。

ー イベントレポートは以上となります。LITALICOでは、毎月社内の専門家や外部の講師をお招きして児童福祉や就労支援にかかわる従事者の方を対象にさまざまなイベントを実施しています。ぜひ今後の開催も採用ブログでチェックしてみてください!


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