ナマステ、いつもご覧いただきありがとうございます。iTips小西です。
以前公開した、コマツインディア様との協業プロジェクト「oyakata scrum」の立ち上げを担当した、インターン伊藤さんへのインタビュー記事はご覧いただけましたでしょうか。
「oyakata scrum」は、日本のものづくりの現場とインドの若者をつなぐ人材育成プロジェクトです。
そして今回は、導入に向けた“きっかけづくり”から開始まで、私たちと共に走ってくださったコマツインディアご担当者様にインタビューしました。
導入の目的、取り組みの裏側、現場で感じた変化や手応え、そして今後の可能性について、率直なフィードバックを交えながらご紹介します。
インド・日本両国における人材育成にご関心のある方にとって、この記事が皆様の取り組みのヒントになるとうれしいです。
目次
「oyakata scrum」って、親方とスクラム??
現場につながる「oyakata scrum」のカリキュラム
「oyakata scrum」が生み出す価値
インド人の育成・共生のヒント
「oyakata scrum」今後の展開
感謝の心を忘れずに
「oyakata scrum」って、親方とスクラム??
「oyakata scrum(スクラム)」という名称、なかなかユニークですよね。親方とスクラムを組む!こんなイメージでしょうか?!
実はこの「スクラム」こそ、iTipsが目指す連携のかたちです。
日本の「ものづくり」が培ってきた職人の技術と精神を共有しながら、インドの若者の雇用を生み、人材育成から現場での活躍までを支えていく。そしてこの活動を通して生まれたスクラムがやがては労働力不足に直面する日本の製造業、建設業の現場を支える存在になっていく。
一言で現場といっても、求められる技術や知識は異なります。日本語能力や礼儀作法など日本社会に馴染む上で最低限の能力を備えているだけでは不十分だと私たちは考えています。
我々iTipsは、より現場目線で実践的な教育プログラムを構築するべく、現場を司る他企業との連携を深め、関わるすべての人が価値を共有し、ともに成長していくための仕組みづくりを目指しています。
本記事では、その第一号事例として、大手建機メーカー コマツインディア様との協働で実現した「oyakata scrum」を取り上げ(プレスリリースはこちら)、取り組みの背景や内容、そこから見えてきた可能性をご紹介します。
コマツインディア様が「oyakata scrum」をどのように活用いただいたのか。そしてどのような変化や可能性を感じていただいたのか。
また、私たちiTipsの訓練生にとっては、どのような気づきや成長の機会になったのかーー
ぜひご覧ください。
現場につながる「oyakata scrum」のカリキュラム
まず、「oyakata scrum」のカリキュラムについてご紹介します。
インドの若者が日本企業の現場で活躍できる人材へと成長するまでを見据えた1年間・4ターム制のカリキュラムです。
プログラム開始後は、iTips訓練校での6か月間の基礎・応用教育と、日系企業様に現場をご提供いただき6か月間の現場実習を段階的に受講します。フェーズは4回に分かれます。
ー第1フェーズ:基礎コース
安全衛生教育と日本語の基礎学習を通じて、日本の職場で働くうえで欠かせない安全意識とコミュニケーション力を身につけます。
ー第2フェーズ:応用コース
報連相や規律遵守、5Sといった日本式の現場マナーに加え、現場で使われる日本語を学び、実際の職場を想定した行動様式を身につけていきます。
写真:第1~2フェーズの様子
ー第3フェーズ:現場基礎コース
現場で使用する油圧ショベルの基礎知識と基本操作に関する実践的な訓練を受けるとともに、油圧ショベル製造工場内での有償OJTを通じて、現場での安全で確実な作業方法を学びます。
ー第4フェーズ:応用コース
油圧ショベルの操作をより高度なレベルで実践しながら、工場の組立ラインでの有償OJTやリーダーシップ訓練を行い、将来チームを率いる人材としての視点も養います。
写真:第3~4フェーズの様子
このように、「oyakata scrum」は、インド国内で日本語・日本式ものづくりの基礎から現場での実践を学び、近い将来、日本企業で働く意思を持つインドの若者が強力な武器を身につけるプログラムです。
「oyakata scrum」が生み出す価値
では、「oyakata scrum」でスクラムを組む企業や関係者には、どのような価値が生まれるのでしょうか。ここからは、その利点について深掘りしたいと思います。
〇 本事業を採用いただく企業様(コマツインディア様)にとっての利点
コマツインディア様にとっての最大の利点は「意義のあるCSR活動の実現」になります。実際に「oyakata scrum」の立ち上げを後押しいただいたコマツインディア前社長の藤井様、そして社内外の調整、推進に多大なる協力をいただいた髙橋様にお話を伺いました。
写真:左はコマツインディア藤井康則前社長(現在は本社に帰任)、右は当社代表ラトネッシュ
ーー「oyakata scrum」導入のきっかけ
藤井様とラトネッシュの出会いは、2024年のバンガロール商工会議所の定例集会でした。ラトネッシュが発表したiTipsの取組みに、藤井様が関心をもっていただきお声がけいただいたのが始まりでした。
藤井様ご自身は、「普段はシャイな性格で自ら人に話しかけるタイプではないのですが、あの時はラトネッシュさんの話が異色かつ、非常にユニークに感じ思わず声をかけました」と振り返られました。
ーーCSR事業の使命を与えられた「oyakata scrum」
藤井様の一声をきっかけに導入に向けた検討が進んだ「oyakata scrum」ですが、採用いただくためには、明確な目的と得られる価値の整理が必要でした。
ご担当いただいた髙橋様を中心にコマツインディア社内、そして弊社との間で何度も検討を重ねた結果、本プロジェクトは「CSRの一環」として位置づけられ、導入が決定しました。しかし、その過程ではいくつかの課題もあったようです。
インドでは一定の要件を満たす会社に、企業の社会的責任(CSR)を果たすために、一定の金額を拠出する義務が課されています。
これまでコマツインディアは、学校・病院・孤児院などへの備品提供や、コマツ認定中古車の環境団体への寄贈、女性エンパワー向上を目的とした建築現場での人材育成など、様々なCSR活動を実施してきました。
引用記事:Empowering women in the construction equipment sector
CSR活動実績は多岐にわたるのですが、主に次のような視点を重視しているそうです。
・本業の利益に直接結び付かないこと
・本業のリソースを圧迫しないこと
・通常業務の人員や作業の代替とならないこと
・社内外に対し、社会的貢献度が明確であること
こうした観点から総合的な判断があり、最終的には、「oyakata scrum」がCSR活動として十分な意義を持つ取り組みであることが社内で共有され、プロジェクトが正式にスタートしました。
今回の挑戦を通じて、インドの社会に貢献するだけでなく、日本の課題解決にもつながる形でCSRを設計できたことは、インドで事業を行う日系企業にとって一つのモデルケースとなり、CSRの新たな視点を示す取り組みになったと感じています。
写真:前列右から4人目コマツインディア武内社長、5人目コマツ本社今吉社長、6人目当社代表
写真:oyakata scrum 第3フェーズを修了した生徒たち
ーー訓練生への評価ーー
第一号の取組みでは、iTips訓練生15名がコマツインディアでの従業員の方々とともに汗を流し、現場作業に従事しました。実は、他企業におけるiTips訓練生の実務研修は、iTipsにとって新しい取り組みであったため、訓練生に対するコマツインディア様からの評価は我々としては、大変気になる点でした。
藤井様、髙橋様のお話によると、訓練生の日本語能力の高さ、5Sの意識は作業現場に良い影響を与えたようです。
「同じインドという環境に育った人間でも、教育次第でここまで差ができるのか?」と驚きの言葉をいただきました。
このような評価をいただいたのは、iTips訓練校において毎日欠かすことなく行う「職人心得十箇条」の唱和・挨拶、日本式の現場マナーが個人個人にしみついているためだと感じております。
「職人心得十箇条」
インド現地では徹底することが難しい日本現場での「当たり前」は、我々がぶれずに指導し続ける「日本式」教育になります。この点を現場で評価されたことは私たちにとって大きな手応えであり、誇りでもあります。
写真:(上)訓練生が過ごす寮 (下)コマツインディア内朝礼の様子
ーー訓練生にとっての利点ーー
コマツインディア様のご協力のもと推進した事業ですが、訓練生にとって日系企業で働く実践の場として大変意義のある経験となりました。
日本への渡航にあたっては、SSW(特定技能)の試験に合格し、就職先企業が決定してから、VISA取得などの手続きにより実際の渡航まで約半年ほど時間を要するのが現状です。その半年の間、訓練校で取得した日本語、SSWの知識を保持することは、日本の労働現場で即戦力として活躍するため大変重要な要素になります。
その点において、今回のコマツインディア様のように実際の現場をご提供いただけることは、人材育成の観点から極めて貴重な機会であるといえます。
ちなみに、個人的に一つ疑問に感じた点がありました。
iTips訓練生にとって、コマツの現場業務が実践経験として有意義であることは間違いありません。
しかし「oyakata scrum」は1年間限定のカリキュラムです。
せっかくコマツ建機の操作や組み立て方法を習得しても、将来的にはコマツ様では働かず別の日本企業に就業します。コマツ側にとって育成のメリットはどこにあるのだろう??
その疑問を、藤井様、髙橋様にぶつけたところ、次のようなお考えを伺いました。
「コマツ建機の操作や組み立て経験を持つ人材が増えることで、ユーザー側の生産性向上や安全性の向上につながる。結果として建設業界全体の効率化につながり、最終的にはコマツ製品の価値や需要の拡大にも寄与する可能性があると考えています。」
このお話を聞き、この記事の冒頭でお伝えした「oyakata scrum」という名前に込めた想い、国を超えて「人材育成」というテーマのもとに集まった人々・企業がスクラムを組んで日本のものづくりを支えていく―― 我々のビジョンが、確かに前に進んでいると感じました。
写真:コマツグループ最新技術「Smart Construction Teleoperation」を活用した講習
インド人の育成・共生のヒント
さてここからは、インド駐在歴9年の藤井様から人材育成についてのヒントをいただきます。
コマツインディア内では、日本人社員、現地採用社員、そしてワーカーが一緒に働いていますが、インド人と働くことについてどのあたりに難しさを感じるかお伺いしました。
藤井様によると、ポイントは大きく二つあるといいます。
一点目、インド人には、良くも悪くも「言われたことを確実にやる、でも言われないことはやらない。」という傾向があることです。
仕事の範囲が明確に区切られているため、依頼する側が依頼する範囲・注意点を明確に指導することが重要になります。
日本には「空気を読む」「阿吽の呼吸」という言葉もありますが、そのような連携プレーは日本で教育をうけた日本人同士だからこそできる絶妙な技のようなものなのかもしれません。
インドに限らず異なる習慣・文化を持つ人々と共生するには、日本社会での当たり前を改善し、仕事においては作業範囲・注意事項を明確にすることで適切に業務が遂行され、良好な関係を築くことができる――
藤井様のお話から、多文化と共生する上での大事なポイントを再確認しました。
二点目として、個人の評価にインセンティブを与えること、能力を見える化をすることでモチベーションアップにつながるという点です。
藤井様は、
「人口が多い国の人々は、一回失敗すると次のチャンスはないという意識が働く。そのため、自己アピールの意識が大変強い」と分析されます。
仕事に限らず、日常の場面においても、例えば電車を待つ際に並ばない、切符売り場で我先にと前に出ていくあのシーン、あれは「チャンスを逃してはいけない」というマインドが根底にあるようです。
そのガッツむき出しのマインドをうまく利用し、能力や成果を見える化することで現場全体の意識向上や成長を促すことができる。
例えば、訓練生一人一人が自身の目標をみんなの前で発表する。そして目標達成ができた人が特別な教育機会を優先的に獲得するなど……
藤井様からは、人材育成のあり方について貴重な示唆をいただきました。
評価や機会が見えにくいと、不公平感や妬みが生まれやすいと言われるインド社会。「能力を見える化」することで誰にとっても納得感のあるインセンティブを提示できる点は、大きな意義があると感じます。
そして、そこにiTips流の価値観を加えるとしたら・・
「一度失敗しても、チャンスはまた巡ってくる。努力を続ければ、次の機会は必ず訪れる。」これは、iTipsのコンセプト「すべてのがんばる人に、幸せを」につながります。粘り強く努力を続ける人が自らの力で未来を切り拓いていけるよう、その過程を築き支えていきたいと考えています。
藤井様のアドバイスは、こうした私たちの姿勢や価値観を改めて見つめ直すきっかけとなりました。
写真:訓練校教室の様子
「oyakata scrum」今後の展開
それでは最後に、oyakata scrumの今後の展開についてお伝えします。
今回のコマツインディア様との取り組みと同じく、我々は、インドの日系企業様に実践の場所・機会をご提供いただき、より高いレベルでの人材育成に挑戦していきたいと考えております。
ものづくり現場をOJTの場としてご提供いただくことは、若者の育成機会の創出につながるだけでなく、既存の職場環境に「日本式」の考え方や行動様式という新しい風を取り入れるきっかけにもなります。
そこから生まれる相互の学びや変化は、企業・現場・訓練生それぞれにとって大きなシナジーになると考えています。
また、インドでは女性の社会進出が遅れており、社会問題になっています。このニーズに応えるべく、iTipsは昨年11月に女子生徒を対象とした製造コースを開講しました。
本記事の中でも触れた通り、コマツインディア様が取り組まれてきた「女性エンパワー向上を目的とした建設分野での人材育成」といったCSR活動との親和性は非常に高く、
今後は女性の労働参加促進というテーマでも連携の可能性が広がると感じています。
CSRの一環として社会的意義のある活動を模索されている企業様、将来を見据えた人材育成や採用に関心のある企業様、そして、日本とインドをつなぐ新しい挑戦に関わってみたいと感じてくださった方、ぜひ、oyakata scrumにご関心をお寄せいただければうれしいです。
感謝の心を忘れずに
写真:左は元コマツインディア人事部の高橋夏生様(現在は本社に帰任)、右は当社代表
今回こうして藤井様・髙橋様から直接お話を伺えたことに、改めて心より感謝申し上げます。私たちは日々さまざまな挑戦に取り組んでいますが、その一つひとつは、こうした素晴らしい方々との出会いやご縁があってこそ前に進めているのだと、今回あらためて実感しました。
藤井様から直接お話を伺う中で、シャイという印象はまったくなく、むしろユーモアに富んだ行動力あふれるお人柄だと感じました。一方で髙橋様は、やはり少しシャイでいらっしゃるのでは……と勝手ながら想像しております(^^♪)。
いただいた学びと感謝の気持ちを胸に、明日からまた一歩ずつ、現場と向き合いながら頑張ってまいります。今後ともどうぞよろしくお願いいたします。