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孤独・孤立の時代に、まちを楽しみ、助け合う(後編)【英治出版 高野達成氏 × HITOTOWA 荒昌史】|出版記念対談

2022年4月、HITOTOWAでは初の単著となる書籍『ネイバーフッドデザイン─まちを楽しみ、助け合う「暮らしのコミュニティ」のつくりかた』を出版しました。

この対談では、書籍のプロデューサーとして伴走いただいた英治出版の高野達成さんをゲストにお迎えし、著者の荒とともに、書籍に込めた思いについて語っていただきます。

前編では、出版の背景や制作エピソードについてお届けしました。後編(本記事)では、内容に踏み込み、組織論から見るネイバーフッドデザインについてトークが広がります。「人を手段化しない」「人は受動的と能動的の両方の性質を併せ持つ」「あえて曖昧さをデザインする」など、興味深いキーワードが続々と登場することに──。

※対談は2022年春に実施しました。出版記念としてHITOTOWA webで公開した記事を転載しています。

自律的な組織が、あらゆる場所で求められている

──英治出版さんは『ティール組織』など、企業の組織やマネジメント関連の書籍も多く扱われています。組織論もまた『ネイバーフッドデザイン』との関連があるように感じますが、その視点からはいかがでしょう?

高野:『ネイバーフッドデザイン』における「6つのメソッド」の根本的な考え方は、他の領域でも生かせる発想ばかりじゃないでしょうか。例えば本書には「主体性のデザイン」という章がありますが、今は企業組織も昔と違って、主体的にメンバーが動いたり、自ら学んだりする自律的な組織が求められている時代。そうした共通点はたくさんあると思います。


:私たちも、『ティール組織』を始めとする英治出版さんの書籍には大いに影響を受けています。僕自身、環境問題のNPO法人やHITOTOWAという株式会社、さらにエリアマネジメントを行う一般社団法人など、複数の法人設立からプロジェクトチームの立ち上げまで、いろいろな局面でチームビルディングをやってきて。

組織やマネジメントは一番おもしろく、一番難しいところだと感じ、学び続けています。課題感が同じなんでしょうね。自律的な組織づくりと、地域でチームをつくって主体的に動いていく話の。

高野:通じるところはたくさんあると思いますね。まちの人々が主体性を発揮して、それぞれができることをする。HITOTOWAさんはそのあり方を引き出しつつ伴走するけれど、徐々に引いていき、まちの人々自身で自律的に動ける状態をつくっていく。それは自律的組織をつくることそのものなので。

この本の最後に、「規模感」の話が出てくるじゃないですか。その説明のなかで「徒歩15分圏内」という表現も登場しますけど。それを組織の文脈に当てはめると、やっぱり、あまりにも巨大な組織は難しいのかなと思ったりもして。どのくらいの規模までが組織の適正範囲なんだろうかとか。そのあたりは興味深いですね。

:ネイバーフッドの話とすればやはり徒歩圏で、自分自身が身近に感じられて、かつ窮屈でもない、それくらいの規模感がいいんでしょうね。僕らもいわゆる「大きな取り組み」を求められることもありますが、最近はむしろ「小さな取り組み」のほうがいいんじゃないかとも思い始めて。そのほうが一人ひとりがよくわかり、仲良くなれる。

最近、僕は目の前の家のおじいちゃんに畑づくりを教えてもらっているんですが、それもすごくいいネイバーフッド・コミュニティだなと思うし。書籍にはまちの未来像やゴール設定の話があるけれど、それは必ずしも「大きなもの」である必要はなくて。一人ひとりの生活者にとっては、日常のささいな何か。

高野:そうですよね。「近隣に、一緒にごはん食べられるぐらいの友達が5人いる」とか、それくらいも十分な「ゴール」になりうるというか。

:そういうことですよね。小さなこと。でもそれは、その人の人生にとってすごく大きなものになってくる。


手段として消費しない/されないために

:「主体性のデザイン」の章については、執筆の過程で「主体性」にするか「主役性」にするか悩んだ時期がありました。言葉としては「主役性」のほうが好きなんですよ。一人ひとりが人生の主役で、場や舞台があり、それが生きがいにつながっていくと思うので。ただ他のメンバーから、「主役性」は言葉が強すぎるという意見も出て。何もしない自由もある、と(笑)。

高野:主役にならなくてもいい、というか。

:我々はつい、まちにかかわることを善として語るけれど、ライフステージ的に、責任を負いたくないタイミングもあるし、そういう嗜好性の人も多いよねと。そこで「主体性」としたんですが、ただ「主体性をデザインする」というと「無理やり引き出す」と捉える方もおられるかなと気になって。もっとふさわしい伝え方はないだろうか……と今も考え続けていますね。本質的には、その人の幸せのために行動することが大事なので。

高野:「未来とゴールのデザイン」の章に出てくる「人を手段化しない」にもつながる話ですね。先ほど、ゴールは小さくてもいいという話がありましたが、まちの未来像って、人それぞれの小さなゴールが集まったものでもいいんじゃないかと思うんです。いろんなゴールを含む、包容力のある未来像をつくっていれば、そのなかで一人ひとりが目的を見つけることができて、人も手段化されにくいのかなと思って。

:なるほど。

高野:コミュニティに関わる以上、完全に受け身な人も、完全に主体的な人もいないのではと感じていて。僕、保育園の保護者会役員を3年間やったんですけど。最初は完全に受け身で、やる人がいないから引き受けたんです(笑)。でもやっていると、ここは変えたほうがいいな、と主体的に動くこともあって。言われたからやっているけれど、自分もそこそこやりたいと思っていたというグレーゾーンはある。むしろそういう場合が多いんじゃないかと思うんですよね。

:グラデーションはありますよね。それにきっかけとしては、やっぱり背中を押してくれる人がいたほうがいい。じゃあ、「主体性のデザイン」=「きっかけのデザイン」といえるのかもしれないな。他には……。

高野:なんでしょうね、「関与の仕方のデザイン」とか。あとは「人を手段化しない」話でいうと、個々人が「手段化されないようにする姿勢を持つ」ことも大事なんじゃないかと思います。そのためにはやっぱり、一人ひとりが自分なりのゴールを持つことですよね。


:確かに個人の側から、「手段化されに」入っていくことはあるかもしれない。誰かに決めてもらえたら楽だという心理はありますよね。その意味だと、僕らの現場では関わってくれる人に、「あなたがこのまちでやりたいことは何?」とか、言ってみれば“面倒な問い”を定期的に投げかけるんです。そういうコミュニケーションも、主従関係にならない、手段化しない/されないことを思い出すための、主体性のデザインなのかもしれないですね。

高野:そうならないようにしようね、という共通認識を持っておけるといいんでしょうね。でもある意味では、半分くらい手段化されて、誰かの役に立つのが嬉しかったりもしますよね(笑)。

あえて「曖昧さ」をデザインする

高野:そういえば、ギリシャ語などには受動態でも能動態でもない「中動態」という概念があるそうです。國分功一郎さんという哲学者の著書(※)では、日本語にも実は「中動態」的な性質のものがたくさんあると言っていて。例えば喧嘩の後「仲直りをする」のは、自分だけでなく相手も変わらないとできないこと。

だから、「する」という形をとる能動的な動詞のようでも、本質的には受動的と能動的、両方の性質を含んでいると。そう考えると、ある行動が受動的か能動的かは、パキッと分けられるものじゃないと思うんですね。

:確かに、人間の感情は複雑だし、二項対立じゃないですよね。

高野:そうそう。自分がやり始めた能動的な行動だと思っても、そのきっかけは誰かから与えてもらっていたりする。そこまで含めると、受動的に始まった行動とも言える。それがむしろ自然かもしれない。だから「主体性」についても、そういう「適度な曖昧さ」を持って、捉えていけるといいんでしょうね。自分だけでやっているとも、やらされているとも捉えずに。

:書籍に「ゆるさをデザインする」という話も書きましたが、そういうことかもしれないですね。ビジネスはパキッと分けるじゃないですか。領域を明確にして、そこに資源投資していく。そうしたビジネスロジックはネイバーフッドデザインでも必要ですが、それ「だけ」だと、人間の感情から離れていってしまう。ロジックだけだとおもしろみにも欠けるので、結果、何も生み出せない。

高野:そのバランス感がHITOTOWAさんの中にはあるから、うまくいっているんだろうなと思います。そういう意味だと、まちの団体や、ボランティアを活用するNPOなど、非営利組織のマネジメントのほうが、一般的な会社のマネジメントより高度な面がありそうですね。ビジネスロジックやお金だけではうまくいかない。お金を払って動いてもらう以上に、課題感や気持ちを共有することで自発的・主体的に動いてもらう。主体的に動いてくれるからこそ組織がうまく機能し、使命を果たせる。

なんでも金銭や経済合理性で解決しようとする世の中だからこそ、まちや暮らしには、あえてそうじゃない領域を残しておきたいなと思うんです。書籍にもありますが、心からまちを思う人が持続的にまちに関われるように、有償の仕事を生み出すことには大きな価値がある。一方で、無償でもその人の成長をすごく支援したり、互いに人生を支え合ったりする、そんな関係性を大事にした方がいいこともありますよね。


だから、すべてを金銭に置き換えるのは危険だと思います。でも、しっかりとビジネス化して金銭価値を高めた方がいいものもある。バランス感は常に大事にしています。

※『中動態の世界 意志と責任の考古学』(國分功一郎/医学書院/2017)

政策とデベロッパーと我流の進化と

──この書籍が政策提言などより広い社会変革にもつながれば……という期待もあるかと思います。そのあたり含め、本書にかける思いをお聞かせください!

「徒歩圏に仲のいい友達がいて、いざというときに助け合える関係性と仕組みのある都市生活」が、もっと一般化するといいなと思っています。今、ネイバーフッドデザインに注目してもらえるのは、やっぱり人間関係が希薄化して、漠然とした孤独感があるからだと思うので。そうじゃない未来をつくりたい。書籍にいろんなご意見をいただいて勉強しながら、政策への働きかけも積極的に考えていきたいですね。

高野:本当にそうなってほしいですね。昨年、内閣でも孤独・孤立対策担当室が設置されて、政府も取り組みを始めているタイミング。孤独や孤立に陥った人をケアする仕組みをつくるのも大事ですが、一方でもっと根底的には、日常を変えていく、暮らし方自体を孤立しないものにする取り組みを、あちこちでやらなきゃいけないと思っていて。だから政策レベルでもネイバーフッドデザインの考え方を取り入れて、そこを後押しするといいのではと感じます。

そういう大きな動きと並行して、まちに暮らす一人ひとりが「自分の住んでいるところで何かできることはないかな」と考える小さな動きも広がっていくといい。たとえば周りでそういう取り組みが始まったら、進んで参加してみる。それだけでも、変化を後押ししていくことにつながる。都市に暮らす多くの方々がネイバーフッドデザインの考え方をインプットすることで、徐々に広がっていくといいですよね。

:僕は一番、デベロッパーで働いている方々に読んでほしいです。自身もデベロッパーで働いていましたが、当時からモヤモヤを感じる一方で、希望や可能性も同時に感じていて。人口減少も始まり、デベロッパーの存在意義が問われていますし、その「希望や可能性」をもっと発揮していかないと、と思うんです。ネイバーフッドデザインをヒントに、一緒に新しいデベロッパーのあり方を創造していきたいですね。

もうひとつ思うことは、この書籍をきっかけに議論ができたらいいなと。今回、初めて『ネイバーフッドデザイン』の考え方をまとめましたが、言葉の定義も取り組みの内容も、走りながら皆でつくってきた我流のもの。だから「他にもこういうやり方があるよ」という声は当然あると思っていて。異なる意見もいただき、議論して、数年後にはよりレベルアップしたネイバーフッドデザインになるといいなと。

自分の性格的にも、正解があることをまとめるより、議論しながらつくっていく過程が好きなことが今回の執筆を通してよくわかりました。ここ議論不足だよね、ってところを見つけたときが嬉しい(笑)。これまで培ってきた我流の『ネイバーフッドデザイン』を、より多くの知見をもとに議論して、もっと我流にしていきたいですね。

都市部でまちを楽しみ、助け合うきっかけをすべての人へ

:高野さん、ずばりこの本の見所ってどこだと思いますか?


高野:そうですね……あの、途中で見出しを修正したじゃないですか。そこで出てきた見出しに「『自分たちで生活をつくる』楽しみを取り戻す」というのがあって。それはすごく大事だし、読んだ方にも共有できるといいなと思っていますね。

「コミュニティは『サービス』じゃない」という別の見出しにもつながりますが、コミュニティは誰かから与えてもらうものではなく、自分たちでつくっていくもの。自分たちで生活をつくっていく、それは楽しいことなんだという感覚を取り戻せる本になるんじゃないか、なってほしいなと。

僕、この本に関わらせていただいて本当によかったなと思っていて。うちでは実家の母親から、毎年ポンカンが一箱送られてくるんです。それを今までは会社の同僚や知人に配っていたんですが、ネイバーフッドデザインの影響で、今年はマンションの同じ階の方たちにもおすそ分けしたんですよ。そしたらすごく喜ばれて。その後も子どもと会ったときに、話してくれるようになったりして。


:ああ、いいですね。まさにそういうことですよね。嬉しいなあ、それは。

高野:ちょっとしたことですが、一歩踏み出してみるきっかけをいただいたなと思って。この本が一人ひとりにとって、そんな一歩を踏み出すきっかけになれたら嬉しいですね。

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以上、英治出版の高野さんと当社代表・荒の対談、いかがでしたでしょうか。私たちも高野さんの客観的なお話を通じて、ネイバーフッドデザインの社会的な価値について改めて、認識を深められたように感じます。

書籍出版プロジェクトのメンバーとして荒と隔週でディスカッションを重ねてきた当社の奥河、寺田、田中3名のインタビュー記事もお届けしています。現場の最前線を体感しながらの執筆で感じたことや、制作秘話(?!)、それぞれが特に思いを込めた一節などなど……。ぜひ合わせてご覧ください。

プロフィール

高野 達成 さん
英治出版取締役編集長。大分県出身。九州大学法学部を卒業後、日本銀行を経て2005年に英治出版に入社。ビジネス書・社会書の企画・編集に携わり、組織開発やソーシャルビジネスに関するラインナップづくりを主導。これまでに100タイトル以上の本に関わる。本づくりに加え、経営企画、採用、広報なども担当。しばしば書籍のカバーデザインも行う。

荒 昌史
HITOTOWA INC.代表取締役。早稲田大学卒業後、リクルートコスモス(現コスモスイニシア)入社。CSR部署の設立や環境NPO活動などを経て、2010年にHITOTOWA INC.を創業。人々のつながりづくりを通して都市の社会環境問題を解決する「ネイバーフッドデザイン」を主軸に「人と和」のための事業を展開。2022年、初の単著となる『ネイバーフッドデザイン──まちを楽しみ、助け合う「暮らしのコミュニティ」のつくりかた』(英治出版)を上梓。

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