「地味なことを、誰よりも繰り返せる人が勝つ」
「結局、地味なことを誰よりも繰り返せる人が勝つんですよ」
社会人3年目の夏、先輩からかけられたこの言葉を、今でも鮮明に覚えています。
当時の私は営業チームの一員として、毎日必死に働いていました。
アポイント数、商談数、提案件数──数字に追われながらも、心の奥では「このやり方で本当に正しいのだろうか」という不安が常にくすぶっていました。
自分なりに精一杯努力しているつもりなのに、なぜか思うような成果が出ない。
同じ時間を費やしているはずなのに、結果を出す同期との差は日に日に開いていく。
そのギャップに焦りと自信の喪失が重なり、もがくような日々を送っていたのです。
だからこそ、あの「地味なことを繰り返せる人が勝つ」という言葉は、当時の私にとってあまりにも現実的すぎる正論で、少しばかり耳が痛いものでした。
しかし、それから数年が経ち、私自身がチームを率いる立場に立った今、あの言葉の真意がようやく腑に落ちてきました。
地味なことを、決してバカにしない
たとえば、Slackでのメッセージひとつを丁寧に書く。
たとえば、Zoomミーティングの開始時に1分間のアイスブレイクを入れる。
たとえば、Notionに蓄積された情報をこまめに整理する。
たとえば、提案資料の冒頭に「前回のおさらい」を必ず挟む。
これらはどれも「すぐに売上に直結しない」ことばかりです。
しかし、こうした小さな積み重ねが、いつの間にか「なんとなく、あの人に任せたい」と言ってもらえる信頼の源泉となっています。
この感覚は、学生時代の部活動に通じるものがあります。
私は運動部に所属していませんでしたが、野球部の友人が夏の炎天下で毎日素振りを繰り返している光景をよく目にしていました。
「こんなことに意味があるのか」などと文句を言いながらも、彼らは決してバットを振ることをやめませんでした。
実際、その友人は大会でヒットを放ちました。
試合の緊張した場面でも、体が自然に動いていた。
無意識のうちに、正しいフォームでバットを振ることができていた。
基礎練習の成果が、試合のここぞという瞬間に現れていたのです。
ビジネスにおいても、まったく同じことが言えます。
地味な基礎練習が「無意識の品質」を支えてくれるのです。
夏は「積み直す」ための季節
春は年度の始まりで慌ただしく、秋は商談が一気に動き出す繁忙期となります。
冬は年末進行や来期の準備で意外にも忙しない。
そんな中で、夏だけは少しだけ「余白」が生まれます。
商談が動かない日もあれば、上司やクライアントが夏季休暇を取り、連絡が減る日もある。
一見すると空白に見えるこの時期こそ、実は「積み直し」に最適なタイミングなのです。
私は今年の夏、自分にいくつかの「基礎練メニュー」を課すことにしました。
・営業トークを録音し、話し方を徹底的に見直す
・提案資料の過去10件分を分解し、勝ちパターンを抽出する
・チームメンバーのSlack対応を観察し、暗黙知をマニュアル化する
・通話成功率が高かったスクリプトと低かったスクリプトを比較し、仮説を立て直す
こうした作業は、忙しい時期には必ず後回しになってしまいます。
しかし、ここを見直すことで「商談に入る前から勝ちが見える構造」を構築することができる。
夏の空白時間は、過去の「無意識のミス」を見直すためにある。
秋に無意識に勝てる自分になるために、あえて立ち止まって積み直すのです。
「型」がある人間だけが、崩すことができる
ビジネスの世界では、常に変化への対応が求められます。
営業も、マーケティングも、カスタマーサクセスも、時代とともに正解が変わっていきます。
そのため「型にはまるのはダサい」と思われがちです。
しかし──
そもそも「崩すための型」を持っている人が、果たしてどれだけいるでしょうか。
型を持たずに動くのは、単なる「我流」に過ぎません。
型をしっかりと身につけて、初めてその型を崩すことが許されるのです。
この夏、私は「自分の型」をもう一度見直しています。
これまでうまくいったパターンを詳細に分析し、それが「再現可能」なものかどうかを検証する。
そして、その型が現在の市場や相手にフィットしているのかを入念に確かめる。
それは確かに地味で、誰の目にも触れない作業です。
しかし、それをやっておけば、秋には自然と「勝てる自分」になっているはずです。
勝つためではなく、続けるために
昔は、勝つために頑張っていました。
勝たなければ価値がない、成果が出なければ意味がない──そんな思い込みが強かった。
しかし、今は少し違います。
勝つことよりも、「自分で納得できる形で、継続していくこと」の方が重要だと考えています。
継続しているからこそ、チャンスは必ず巡ってくる。
継続している人だけが、次の夏を迎えることができるのです。
だから、この夏は「勝ちにいく夏」ではなく、「積み直す夏」にしたい。
焦ることなく、自分を点検し、磨き直す。
その結果として、秋にまた、きちんと勝てばよいのです。
この夏、あなたは何を積み直すか?
・「勝ちパターン」を可視化できているだろうか?
・「無意識の行動」が成果に結びついているだろうか?
・「誰にも見られない努力」を、意識的に設計しているだろうか?
この夏、あなたがもう一度取り組むべき「基礎練」は何でしょうか。
じっくりと思い出してみてください。
きっと、来年の夏には今よりもっと「無意識で勝てる」自分になっているはずです。