中南米で日本食レストランを運営するEncounter Japanのコロンビア法人を設立し、寿司レストランを開業した小川晃司さん。会社の代表を務めながら、シェフとして日々お客さんの前に立つ小川さんに、コロンビアにお店を出すまでの経緯やレストラン「NANA」について話を聞きました。海外で料理人、寿司職人として働きたい方必見です。
小川晃司 プロフィール
神奈川県出身。 学生時代には4年間、地元の魚屋で勤務。大学を中退後、南米での遊学を通じてラテンアメリカの文化や人々、言語に興味を抱いてラテンアメリカの地で働くことを決意。海外における日本の印象をより良いものにしたいと感じ、「食」を通じた日本文化の普及に従事したいと考え、料理人としての道を志す。Izakaya GOEN, GOEN FUJITAYAでの勤務を経て2024年よりコロンビア法人の代表取締役に就任し、首都 ボゴタ市に寿司レストラン「NANA」を開業。
コロンビアとの出会いは、どんなきっかけだったのでしょうか?
今から7年ほど前に日本の魚屋で働いていたんですが、そこの40代ぐらいの社員の方が学生時代にメキシコに行った話をしてくれて、それがすごく魅力的でした。「若い時に海外行ってみることは良い経験になる」と言ってくれて、自分も行ってみようかなと思い、中南米を旅してみることにしました。
その際に訪れたコロンビアで、当時の僕はスペイン語がほとんど話せなかったのですが、人がとても優しくて、その温かさに惚れ込んで、将来コロンビアに住みたいと強く思ったんです。
その後、コロンビアでお店を開くまではどのような経緯があったのですか?
コロンビアで仕事をするなら、魚屋で働いていた経験も活かせるので、料理に関することならできるかもしれないと考えましたが、当時は日本人を雇ってくれるような日本食レストランはコロンビアにはなかったんです。ただ、メキシコならチャンスがあるかもしれないと思い、メキシコへ行き、現地で日本食レストランをやっていたEncounter Japanにインターンシップとしてジョインしました。
その後Encounter Japanの社員となってレストランの立ち上げや、ホテルの飲食部門のコンサルティングなど、シェフとして会社が成長するのと共にいろんな仕事を任せてもらいました。メキシコでは合計6年ぐらい働きましたが、メキシコにいながらも、心のどこかでコロンビアのことを諦めきれず、ずっと思い続けていましたね。
メキシコのレストラン在籍中に小川さんが実施していた鮪の解体ショー
そんな時に、2022年の始めだったと思いますが、代表の西側にランチに誘われました。そこで、「コロンビアに出店をしようと思うのだけど、冷静に考えたら、小川君が社長になるしかないよね、死ぬ気で頑張って」と言われました。以前から、社内でコロンビア進出の話は構想としてありましたが、この時に改めて僕がやるんだということを言われました。
任せてもらえたものの、当時は、目の前の業務に手一杯で、一体何をどうやって死ぬ気で頑張るのかも分かっていませんでした。2023年に本格的にコロンビアへの出店に向けて、会社の設立に取り掛かりましたが、一筋縄では行かないことばかりで、最初は2週間で会社を設立できるといわれたのですが、全くそんなことはなく... 。時間も労力もかなりかかりましたね。すべて手探りだったので、本当に実現するのだろうかと自分でも半信半疑でしたが、現地で物件を借りた時にようやく、本当にコロンビアに自分が店を出すのだという実感が湧きました。良い意味でも悪い意味でも、もう引き返せないというプレッシャーと恐怖心がすごくて、寝れない日々もありました。
長い道のりでしたね。今は寝れていますか...?
はい、今はお店も無事軌道に乗ってきているので、不安で寝れないということはなくなりました。当たり前のことなのですが、オープンする前は売り上げがないのに、ただただお金を払い続ける日々で、その状態がしんどかったのですが、お店を開店してからは、現地で有名なインフルエンサーが来店してくれたりと、お店のことを知ってくれる人が徐々に増えて、ありがたいことに予約で満席という日々が続いています。もちろん、日々課題や改善すべきことはたくさんありますが、今は売上が出ているという点では、悩みが減りました。
NANAについて教えてください。どんなお店ですか?
NANAはコロンビアの首都であるボゴタのChapinero(チャピネロ)という地区にあります。この地区は若手で勢いのあるシェフやベンチャー系の企業が拘った料理を提供するレストランが集まる地区です。
NANAでは、おまかせスタイルの寿司をメインに提供しています。おまかせはコロンビアではまだ珍しい日本食のスタイルですが、敢えて今までになかった形態にしたのは、コロンビアにもこんな素敵でイケてるお店があるんだということをコロンビア人に感じて欲しかったからです。実際に多くのお客さんが、お店に入った瞬間から、お店の雰囲気に感動してくれます。料理はもちろん、おまかせというスタイルやお店の内装も含めて、NANAで食事をする体験を楽しんでくれています。
現状ボゴタには、日本食レストラン自体はかなりたくさんありますが、カリフォルニアロールのような寿司を出しているところや現地化された日本食がほとんどです。NANAのようにオーセンティックな日本食を出している店は片手で数えれるくらいしかないですし、日本人のシェフがお客さんの前で料理をする日本食店はNANAだけだと思うので、そういった点でもNANAはかなり特別な存在になっているのではないでしょうか。
NANAという名前にはどんな思いが込められているのですか?
七(NANA)という名前は、7年間1人の人間がコロンビアを思い続けて、努力をして建てた店であるという思いも込めています。コロンビア人は自分の国に対して自信のない人が多い。僕からしたらめちゃくちゃ良い国なのに、過去の内戦や治安のことなど、引け目を感じてるようです。でも僕からしたら、7年間思い続けるほど、素敵な国なので、そのことをコロンビア人にも伝えたくてNANAという名前をつけました。
コロンビアの日本食レストランで料理をする上でのやりがいは何ですか?
飲食店を訪れる多くのお客さんは、美味しい料理を求めて来店しますが、海外で日本食をやる場合、美味しさだけでなく、日本の文化を味わいたい、日本人シェフと話したいということを目的として来店される方も多くいます。このようなお客さんに対して、お店の雰囲気や自分たちがお客様と会話をすることを通じて、日本の文化も伝えることができるのは魅力だと思います。
NANAの場合お客さんとの距離も近く、お客さんが本当に食事を喜んでくださることが伝わりますし、直接感謝の言葉を頂けたりします。ことコロンビアにおいては日本人は珍しいので、日本人のシェフが料理を提供していることに対して大きな価値を感じてもらえていると思います。これはお店で働いてくれるスタッフやお店の運営を支えてくれる業者の人からしても同じだと思います。
料理をする上で、意識していることや拘りはありますか?
先ほどもお話しましたが、コロンビア人に自分の国に誇りを持ってほしいという思いから、NANAではコロンビア産の魚介類をメインで使っています。コロンビアはカリブ海と太平洋に面しているので、魚介類自体は豊富なのですが、安定した食材の調達という面では、これは実際すごく大変です。養殖の技術や物流が日本やメキシコほど発達しておらず、業者の方も時間の感覚におおらかな方が多いです。実際に一昨日から鮪が届いておらず、今日も届きそうにありません(笑)それでも調達できるもので勝負できるので、コロンビア産の魚介類ということには拘りを持ってやっています。
あとは、日本で提供されるオーセンティックな日本食と現地で好まれるもののバランスを大事にすることを心がけています。例えば、日本食を提供する際に、見た目やプレゼンテーションは、最小限であることが美とされることもありますが、そればかりでは、その料理の魅力がコロンビア人のお客さんに伝わりにくかったり、もっと料理の見た目でも楽しんでもらえる余地があるのではないかと思うことがあります。コロンビア人のお客さんが喜んでくれるのなら、その好みに合わせていく柔軟性も必要だと思うので、例えば、見た目を華やかにするために、いくらをのせたりトリュフをのせたりと、おまかせの中の半分ぐらいは敢えてそういったプレゼンテーションを大事にした料理を出すようにしています。どちらかに偏り過ぎないように、バランスを取りながら、お客さんの様子を見ながら、工夫することを心がけています。
どんな人だとコロンビアで、NANAで活躍できそうでしょうか?
料理の経験はあるに越したことはないのですが、それよりも人と話すのが好きという方のほうが、あっていると思います。あとは、僕にとってコロンビアはとても素敵な国ですが、日本とは文化や環境も違うことも多いので、生活する上でタフなこともあると思います。加えて、まだまだ会社自体も小さく、自分たち自身の手でやらないといけないこともたくさんありますし、日々予期せぬことが起きるので、それに対処できるサバイバル能力のある方や、文化の違いや日々の不便さを受け入れて、それでも海外でなにか成し遂げたいという人だと良いと思います。料理だけをするというよりは、これからレストランや他の事業を成長させていく上で力になりたいという人に来てほしいと思っています。海外経験や語学力がなくても問題ありません。
コロンビア、NANAで働いみたい!と考えている人にメッセージをお願いします。
今、僕はコロンビアでこうしてお店をやっていて、これからも店を増やしたり新しい事業をやっていきたいと思っています。だけど、これまでの自分を振り返ると、日本にいる時は自分に自信もなかったし、居場所がないと感じていました。でもこうやってコロンビアに来たことで、そんな自分に居場所ができて、お店を出して多くの人に喜んでもらうことができています。今の自分の姿から、過去の自分自身や同じような境遇の人に勇気をあげることができたらと思います。
海外で、コロンビアで現地の人に日本食を提供して喜んでもらうということを通じて、日本でくすぶっている人や、今活躍できてない人が、楽しく仕事ができる場所を作りたい。自分でもできるかも、コロンビア挑戦してみたいという人がいれば、嬉しいです。一緒にコロンビアで頑張りましょう。
今回お話を聞いた小川さん率いる、Encounter Japan ColombiaやNANAに興味のある方、是非一度お話してみませんか?