朝、何気なく立ち上げた社内システムが、昨日と同じようにスムーズに動いている。メールは送れるし、チャットもサクサク返せる。お昼休みにスマホで外部ネットワークに接続し、明日の会議資料をクラウドから取り出す。私たちはその快適さを当然のように受け取っている。
でもその「当然」は、誰かの仕事の上に成り立っている。
その誰かとは、インフラエンジニアだ。
彼らの仕事は、ある意味でとても不思議だ。目に見える成果は少なく、「何も起こらない」ことが成果なのだ。トラブルが起きたときに対応するのはもちろんだが、彼らがもっとも価値を発揮するのは、何も起こさないように整備し、保守し、見守っている時間。表舞台には出ないが、舞台そのものを支えている存在である。
しかしこの「何も起こらないこと」は、往々にして評価されにくい。売上を直接生むわけでも、目立つプレゼンをするわけでもない。業務の“静寂”は、誰かの努力を意識しないと気づかれないものだ。
あるインフラエンジニアは言った。「問題が起きて感謝されるより、何も起こらないことに感謝されたい」と。だが、日々の当たり前に感謝するのは、私たちにとっても簡単ではない。システム障害が起きて初めて、彼らの存在を思い出す。まるで健康を失ってから健康のありがたみに気づくように。
本当のプロフェッショナルとは、問題を起こしてから動く人ではなく、問題が起きないように気を配り続けられる人だ。そして、インフラエンジニアはまさにその道を歩む職人である。
今日も何も起きなかった。それは、とてもすごいことだ。
そう思えるチームでありたいと、私は思う。