ライフコンシェルジュの挑戦②——なぜ介護なのか?私がこの業界を選んだ理由。
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「なぜ介護なんですか?」
この問いを、何度受けたか分かりません。知人に言うと、少し間があく。家族に言うと、心配される。銀行の担当者に言うと、表情が曇る。
そして、「介護は大変でしょう」「給料が安いでしょう」「続けられますか」ーー。そういう言葉が返ってきます。
悪意はありません。みんな正直に言っているだけです。介護という言葉が持つイメージは、日本ではまだ重い。きつい、汚い、給料が低い。3Kと言われ続けてきた業界です。なぜそこに、わざわざ飛び込んだのか。
正直に言いますが、私も最初から「介護をやりたい」と思っていたわけではありません。しかし、気づいたら、ここにいました。振り返ってみると、いくつかの出来事が私をここへ導いていました。ですから、「選んだ」というより「導かれた」。そういう感覚の方が近いです。
最初の転機は家業でした。
私は奈良県出身です。実家は運送業を営んでいました。祖父が興した会社を父が継ぎ、小さな会社でしたが、地域に根ざした仕事をしていました。
しかし、私が大人になった頃、会社の経営は苦しい状況でした。赤字が続き、このままではもたない。そういう状況でした。私自身も家業を何とかしなければという一心で、とにかく奔走しました。
営業に回り、頭を下げたり、いろんな人に相談したりしました。うまくいかないことの方が多かったですが、それでも動き続けることで少しずつ協力してくれる人が現れました。
取引先、スタッフ、地域の人たち。みんなの力を借りながら、何とか黒字に転換することができました。自分一人の力では、絶対に無理でした。
この経験から学んだことがあります。それは、「事業を動かすのは人である」ということです。どんなに良い仕組みを作っても、人が動かなければ何も生まれない。人が主役です。しかし同時に、人には限界があることも知りました。事故や病気で体が動かなくなる。加齢により若い頃より体力が衰える。その状況に直面したとき、どう立ち向かえばいいのでしょうか。
実際に運送業の現場で、体を壊したドライバーを何人も見ました。長年働いてくれた人が、ある日突然動けなくなる。制度があっても、その人の「その後の人生」を誰も支えてくれない。そのことが、ずっと頭の片隅に残っていました。
祖母の「家に帰りたい」という一言が私を変えました。
私の祖母は奈良県にある老人ホームに入居しています。設備は整っていて、食事も出る。医療も近くにある。傍から見れば、何不自由ない環境です。でも祖母は毎日のように言います。「家に帰りたい」と。
最初は、わがままだと思っていました。「施設の方が安全に決まっている。」「高齢者の一人暮らしより確実に良い環境のはず。」しかし、祖母の表情を見ているうちに、気づきました。
祖母が求めていたのは、安全でも栄養でも医療でもなく、自分のペースで生きることでした。好きな時間に起きて、好きなものを食べて、会いたい人と話して、会いたくない人には会わない。
プライバシーが欲しかったんです。他の入居者と同じ風呂、同じ食堂、同じ時間割。それが祖母には合わなかった。群れたくなかった。でも孤独も嫌だった。
そんな祖母の楽しみは、たまに来る近所の人との他愛もない話です。保険の営業でも、宗教の勧誘でも、笑って話を聞いてくれる人がいれば、それだけで顔が輝いた。自分が選んだ関係の中にいること。それが祖母にとっての幸福でした。
「施設に入れてあげた」は家族の満足です。本人の幸福ではありません。介護の制度は「満足」を設計することはできます。でも「幸福」は設計できない。それは本人が、自分で創るものだから。
祖母の言葉は、今でも私の中に刺さっています。
父の一言が、移動の意味を教えてくれました。
私の父は腎不全を患い、透析を続けていました。祖父も同じように体を悪くし、透析を受けていました。身近に、体の自由が少しずつ奪われていく人がいました。それが私にとっての日常でした。
透析は週に何度も病院に通わなければならない。体への負担も大きい。行動範囲が狭まる。やりたいことが後回しになる。「仕方ない」という言葉で、多くのことが諦められていく。その様子を、子どもの頃からずっと見ていました。
ある日、父と車で外出する機会がありました。その帰り、父は言いました。「今日は生きていてよかった」と。
その言葉を聞いたとき、胸を突かれました。移動することが、これほど人の気持ちを変えるのか。外の空気を吸うことが、これほど人を生き返らせるのかと。
「行きたい場所に行ける」という感覚が、人を人生の主役に戻す。
その確信が、このとき生まれました。移動は単なる手段ではありません。自由の象徴です。体が不自由になっても、移動できる人は、まだ自分の人生を生きている実感を持てる。父と祖父の姿が、有償福祉運送という事業のアイデアの種になりました。
重度訪問介護の現場で出会った「海が見たい」という言葉。
数年前、ある縁があって、重度訪問介護の現場で働く機会を得ました。重度の障害を持つ方の生活を、長時間にわたって支援する仕事です。食事・排泄・入浴・移動・コミュニケーション。生活のほぼ全てに関わります。
最初は正直、戸惑いました。体を動かすことが難しい方の介助は、技術が必要です。コミュニケーションの方法も、通常とは異なることが多い。自分の常識が通じない場面がいくつもありました。
でも、現場に入って気づいたことがあります。重度の障害を持っていても、その人の中に「生きたいように生きたい」という気持ちは、まったく損なわれていないということです。
現場で、ALSを患う方と出会いました。体はほとんど動かない。コミュニケーションは視線や微細な動きで行う。でも、その方は驚くほど豊かな内面を持っていました。
ある日、その方が言いました。「来月、海が見たい」と。
制度上、それは「生活援助」の範囲外です。ヘルパーが海まで連れて行くことは、給付対象にはなりません。でも「行きたい」という気持ちは本物です。「海が見たい」という夢は、体が動かなくなったからといって消えるわけではありません。
私たちは一緒に行きました。車椅子を押して、海沿いを歩いた。風を感じてもらった。波の音を聞いた。
その日の帰り、同行したスタッフが言いました。「今日、この仕事を選んでよかったと思いました」と。
この瞬間が、私の中で何かを決定的に変えました。介護は、人の夢に関われる仕事です。制度の範囲内だけでは届かないけれど、本当に届けたいものがある。その間を埋めることが、私たちの仕事だと確信しました。
世界を見て、日本の「常識」を疑いました。
BBT(ビジネス・ブレークスルー)大学での学びは、私の考えをさらに深めてくれました。卒業論文で、重度訪問介護・移動支援・コンシェルジュサービスを統合した事業計画を書きました。
世界の介護を調べ、日本との違いを考えました。
例えば、スウェーデンでは、重度障害者が自分のアシスタントを自分で雇います。法律として。本人が採用し、本人が指示を出す。ヘルパーは「支援する側」ではなく「雇われる側」です。この発想の逆転が、自立生活の本質だと知りました。
また、デンマークでは、75歳以上の高齢者の多くが在宅で生活します。施設に入ることが例外で、在宅が当たり前です。日本とは真逆の設計思想です。
このように世界を見わたすと、日本の介護に対する考え方がいかに「非常識」であるかが分かります。
「施設に入れてあげた」が親孝行だという考え方は、世界標準ではありません。在宅で、自分らしく、自分のペースで生きることが、本来の姿です。
こうしたBBTでの学びが、自分の感覚を言語化する助けになりました。祖母の「家に帰りたい」も、父の「今日は生きていてよかった」も、ALSの方の「海が見たい」も、全てつながりました。
なぜ介護なのか?という問いに対する私の答え。
介護は、人生に最も深く関われる仕事です。
毎日、同じ人の家に入る。食事を一緒に作り、体を清潔に保ち、移動を助け、話を聞く。生活のほぼ全てに関わります。その人の喜びも、悲しみも、夢も、不安も、全部見える。これほど人の人生に深く入れる仕事は、他にありません。
だから介護を選びました。いや、導かれました。
家業で人の限界を見た。祖母の「家に帰りたい」で満足と幸福の違いを知った。父の「今日は生きていてよかった」で移動の意味を知った。ALSの方の「海が見たい」で、制度の穴の存在を知った。BBTで、世界の常識と日本の現実のギャップを知った。
一つひとつは、つながっているようには見えませんでした。でも振り返ると、全部がここへ向かっていました。
介護は、3Kの仕事ではありません。人の人生に、最も深く関われる仕事です。その可能性を、まだほとんどの人が知らない。それを知ってもらいたくて、この会社を経営しています。
諦めそうになっても続ける理由
正直うまくいっていないことの方が多いです。採用は思うようにいかない日もある。制度の壁に何度もぶつかりました。「本当にできるのだろうか?」と自問する夜もあります。
それでもやめません。
祖母のように「家に帰りたい」と言っている方がいるからです。難病の方が「もっといろんな経験をしたい」と思っているからです。父のように「今日は生きていてよかった」と感じた瞬間を、もっと多くの人に届けたいからです。
介護を選んだ理由は、シンプルです。ここにいる人たちの「生きたいように生きたい」に、最も深く関われる場所だから。それだけです。
ライフコンシェルジュ株式会社 代表取締役 立道龍
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