海外で働きたい。その想いを原動力に、生まれ育った韓国を飛び出したKang。学生時代にシリコンバレーでのインターンシップを経験し、卒業後は日本で就職。楽天グループやユニバーサル・スタジオ・ジャパンでマーケターとしてのキャリアを積んだ後、スタートアップに興味を持つようになり、2024年7月、コーヒー業界未経験でKurasuにジョインしました。
入社直後から新規事業開発担当者として2050 COFFEEやベーカリーカフェ事業立ち上げに関わり、現在はコーヒー器具部門の責任者も務める彼。誰もが知る大手企業から、スタートアップへと居場所を移した理由とは? そして、常に新たなプロジェクトにチャレンジし続ける、その原動力はどこから来るのか? 彼ならではのキャリアストーリーを深掘りしてみました。
海外で働きたい、その情熱を土台に積み上げたキャリア
——Kangさんは韓国出身とのことですが、どのようなきっかけで日本に来られたのですか。
日本に来たのは2013年、大学を卒業してすぐでした。韓国は「名門大学に入って大企業に入ることが成功」という考えが根強く残る学歴社会なので、自分にはほとんど勝算がないと感じ、違う道筋を模索していました。そんなときに見つけたのがアメリカでのインターンシップです。当時アメリカと韓国の間で文化交流を目的とするプログラムがあって、それに合格できたので、渡航費用や滞在費用の補助を受けられ、ビザを支給してもらえました。
アメリカでは半年ほど語学研修を受けながら、いろいろな現地企業に履歴書を送りました。縁あってシリコンバレーにあるスタートアップでインターンをさせてもらえることになり、コールセンターで働く営業スタッフの支援をしたり、マーケティングとして潜在顧客を見つけたりといった経験をさせてもらいました。
米カリフォルニア州シリコンバレーにあるEquilarでマーケティング・営業サポートインターンとして勤務していた当時、プレゼンテーションを行うKangさん
生まれ育った国を飛び出して言葉も文化も異なる環境で新しいことにチャレンジするのは、不安定ではありましたが、すごく楽しかったんです。それで、インターンシップを終了して韓国に帰ってから、大学卒業後は海外で働こうと考えました。
もちろん、親は反対しましたけどね(笑)。僕は長男なのですが、実家のほうでは今でも「長男は家を守るもの」という考えがあるんです。それでも海外で働きたいと伝えたところ「何も支援しないからな」と言われました。海外の働き口を見つけようとリサーチしたら、たまたま韓国で楽天グループが、韓国人材を見つけるための博覧会をやっていたんです。それで楽天にエントリーして採用され、2013年の秋に入社するため来日しました。
——自分から機会を探しにいかれて、日本の大手企業に入社することになったのはすごいですね! 日本に来てからのキャリアについて教えてください。
楽天ではグローバルマーケティング部門で3年ほど働きました。現在はソーシャルメディア・マーケティングが一般的になっていますが、当時の日本ではまだソーシャルメディア自体があまり浸透していなかったんですよ。そんな状況で、僕の仕事はソーシャルの可能性を見出し、グループ内の60を超える関係部門に「企業レベルでソーシャルをどう使っていくか」というノウハウを伝えることでした。
その後、ビッグデータ活用部門へ異動し、国内のブランドに対して売り方の提案をするようになりました。ちょうどデータドリブンマーケティング(データを活用してビジネスや経営上などの意思決定を行うこと)が注目され始めた時期で、ユーザーの行動履歴や売上情報、ソーシャルメディアなどのビッグデータに基づいてユーザーの興味に合致するコンテンツを提案するなど、当時としては新しい取り組みに関わることができました。
そのデータドリブンマーケティングの仕事をしているときに、ユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)の経営を立て直したことで知られる森岡毅さんの『確率思考の戦略論 USJでも実証された数学マーケティングの力』という本に出会いました。とても面白く、本書をきっかけにUSJに興味を持つようになり、履歴書を送って採用されたので転職しました。
コロナ禍で経験した価値観の変化がキャリアの転換点に
——USJではどんな業務に携わっていたのでしょうか。
USJでは、マーケティング部門内のデータプランニングチームで6年ほど働きました。前半の3年間はデータドリブンマーケティングに携わり、パーク内で収集できるデータ(お客さんがパーク内をどのように移動しているか等)をもとに体験改善のための施策を考えたり、オペレーションチームと連携してクルーの稼働場所を変えたりと、いろいろな施策にチャレンジすることができました。
こうした取り組みの中でも特に印象に残っているのが、ハロウィーンイベントと連動させたゲスト参加型のARゲームアプリの企画・開発です。GPSを活用してパーク内のゾンビ出現エリアを可視化し、ゲストがスマートフォンを使って“発見・捕獲・収集”を楽しめるコンテンツとして提供しました。この取り組みは来場者体験の向上につながり、社内でも高く評価され、表彰を受けることができました。
GPSを活用したゲスト参加型ARコンテンツ「ゾンビ・ハンティング」アプリのプレイ画面。海賊ゾンビを含む全20種のゾンビを“発見・捕獲・収集”でき、ハロウィーン期間中のストリート・ゾンビ体験をさらに盛り上げました。
後半の3年間はメディア戦略・企画チームのリーダーとして、年間イベント・プロダクトの集客最大化を目的に、コミュニケーション戦略の立案から年間予算策定、運用・テスト・新媒体開拓までを担当しました。media funnel思考で認知〜購入〜CRMを設計し、社内向けにデジタル広告レクチャーを行い、社員のリテラシー向上にも貢献していました。
しかし、そんなときにコロナ禍に突入してしまって。パークをクローズせざるを得なかったり、再開後も入園者の人数制限があったりして、広告関連はすべてストップすることになってしまったんです。それですごくフラストレーションが溜まってしまいました。
——もどかしい時期が続いたんですね。
そうですね。「このまま会社員を続けていいのだろうか」と、今後の働き方についても考えるようになりました。そんなとき、ひょんなことから神戸にある農村スタートアップとのつながりができて、そこでクラフトビールの醸造所を作りたいという事業家の方と知り合って、立ち上げから関わることになったんですよ。
スタートアップで代表と僕の二人三脚のような体制だったので、マーケティングだけではなく営業もやりましたし、タップルームをつくるところにも携わって、とても刺激的な日々を過ごすことができました。
——大手企業からスタートアップへ、なかなか思い切った転身では?
今になって振り返ってみると、コロナ禍を経て価値観が変わったんだと思います。それまでは、大手企業で出世して、高層マンションに住んで高級車に乗って……というルートを何も考えずに目指していたんですよ。
でも、パンデミックで世の中がストップして、改めて自分を見つめ直して、そういった生き方よりも、起業家サイドの生き方に惹かれるようになりました。そういえば、コーヒーに深くハマったのもコロナ禍での在宅勤務がきっかけでしたね。
(関西学院大学商学部のPBL演習で、マーケティングの講師として講義を行うKangさん)
(オーストラリアの醸造所と日本の醸造所のコラボイベントで、渋谷の複数のビアバーをジャックした際の一枚)
Kurasuの事業成長に携わりたくて、コーヒー業界に飛び込んだ
——先ほどコーヒーの話題が出ましたが、Kurasuとはどんな形で出会いましたか?
クラフトビール醸造所の立ち上げが軌道に乗り、ビール以外でも新しいことをしたいなと思って求人情報サイトのWantedlyを見ていたら、Kurasuの求人がおすすめに出てきたんです。実は、前にKurasu Ebisugawaの前を通ったことがあり、「おしゃれな店舗だな」と印象に残っていたので、すぐに「あのお店だ!」と気づきました。
——なるほど、特にコーヒー業界でお仕事を探されていたわけではないんですね。
そうなんです。知っているところだったので何となく詳細を見てみたら、思った以上に面白そうだったので応募した、という経緯です。
それまでコーヒーと言えばカフェ事業のイメージしかなかったのですが、Kurasuはフランチャイズ事業や器具の輸入事業も行っており、noteを読むと働いている人も取り組みも多様な印象を受けて、詳しく話を聞いてみたくなりました。
Yozoさんとの面談の中で、Kurasuがジャカルタや香港、バンコクなどに出店していて、これからも海外展開をしていきたいと考えていることや、「2050 COFFEE」を新しいブランドとしてやっていきたいという話を聞いてより興味が深まり、2024年7月にKurasuにジョインしました。
——コーヒー自体は昔からお好きでしたか?
はい、もともとコーヒーは好きでした。でも、コーヒーを飲むこと以上にギア(器具)のほうに興味があったんです。
4年前に妻から誕生日プレゼントとしてコーヒーミルとブリュワーが一体化されたものをもらったのを機に、おうちコーヒーにハマりました。1年前からは、毎朝早く起きて、既製品の手網に温度計をつけてコーヒー豆を自家焙煎しています。
——Kurasuで担当している業務について教えてください。
入社時から新規事業開発担当者として、2050 COFFEEやHQベーカリーカフェといった新たなプロジェクトの立ち上げに携わっています。最近は、コーヒー器具をグローバルに取り扱うKigu部門の責任者もしています。
Kigu部門では海外のコーヒー器具の輸入販売をしたり、日本商品を海外に売ったり、豆の輸出ではフランチャイズで直営店とも連携しながら商品を送ったりしています。プロダクト、オンラインストア、モール、セールス、カスタマーサービスなど、幅広い業務がありますが、社内外のみなさんと協力しながら仕事に取り組んでいます。
——Kurasuの中でも挑戦的な領域を幅広く担当されているんですね。
確かに、Kurasuのあらゆる成長部門に携わらせてもらっていますね(笑)。まだ公式に発表できないのですが、さらに大きな成長につながりそうなプロジェクトがいくつか動いているんですよ。リリースを楽しみにしていてください!
既成概念にとらわれない、スタートアップらしい文化
——Kurasuのメンバーや社内文化についてはどのように感じていますか。
僕が入社してすぐ、Kurasu Ebisugawaの4周年で「コーヒーと一緒に音楽を楽しむ」という趣旨のDJイベントが開催されたのが印象に残っています。そのときにDJをしていたのは、ビートメーカーとして音楽をプロデュースしているバリスタのFuruyaさん。既成概念にとらわれず、カフェでこんなこともできるんだと驚き、すごくワクワクしました。
Kurasuには多種多様なバックグラウンドや専門性を持ち、自分で物事を進めていける人が集まっていて、とてもスタートアップらしいなと感じます。今、Kurasuは急成長していて、そんなメンバーと一緒に新しいものを作っていくフェーズだと思うんです。
——多様なメンバーと共に新しいプロジェクトを推し進めていく中で、大変なこともあるのでは?
もちろん、まだないものを作っていくのにはエネルギーが要るし、異なる意見を調整してチームで同じ方向を目指していくためのマネジメントスキルも求められるし、大変なこともあります。
でも、自分のがんばり次第で今後の組織のあり方や運営の方法を変えていけると信じているので、これからも前向きに取り組んでいきたいですね。おいしいコーヒーを飲みながら!
——これからどんな方にKurasuに入ってほしいですか。
僕自身、Kurasuに入る前はいわゆる「普通のサラリーマン」で、コーヒー業界は未経験でした。でも、Kurasuにはさまざまなポジションがあるので、いろいろな形で前職の経験を活かすことができます。
実際、面接にはさまざまな業界の方が来られます。一見、キャリアがコーヒーと無関係に思える方でも、「このご経歴ならこのポジションで活躍できそうだな」と入社後の姿をイメージできることが多いです。
そんなわけで、コーヒー業界が初めてという方も歓迎ですし、むしろ積極的に、業界未経験の方々が働きやすい会社にしていきたいと思っています。もともとコーヒーが好きなメンバーも多いですが、入社したあとコーヒーを好きになるパターンもある。だから、特にコーヒーに詳しくなくても大丈夫です。
おいしいコーヒーとともに、ワクワクする未来へ
——Kurasuで達成したい目標や、新しくやってみたいことはありますか。
これからコーヒー業界は「コーヒー2050年問題」(2050年までにコーヒーの需要と供給のバランスが完全に崩れてしまうと予測されている問題)に対して、一丸となって立ち向かわなければなりません。Kurasuは、それをリードする存在でありたいと思っています。今飲んでいるおいしいコーヒーを2050年にも飲んでいたいし、そこにKurasuの存在があることを知ってもらえたら素敵だな、と。
そしてもう一つ、今いるHQオフィスの2階をイノベーションセンターみたいなものにしたいなという目標があります。コーヒー業界の人たちが集まって話をしたり、ワークショップをしたり……海外からの視察を受け入れるビジターセンターにもしたいね、YouTube撮影室として使えるのもいいねと、いろいろな可能性を構想しています。
まだまだ企画段階ですが、来年の春ぐらいにオープンできたらいいですね。企業のオフサイドミーティングやイベントに使ってもらうのもアリかもしれません。おいしいコーヒーを飲みながら、笑いながら、聞いたことがないようなアイデアを共有したいなと思っています。
——Kangさん、ありがとうございました。最後に今お気に入りのコーヒーを教えてください!
季節を感じられる、シーズナルブレンド・春こち2025がお気に入りです。ちょっと甘くて花やかな香りで、果実の発酵感があっておいしいので、ぜひ味わってみてください。