「とにかく働きたかった」大学時代に出会ったクラップ
現在クラップで就労継続支援B型事業所に勤務する小滝さん(24歳)。(※インタビュー当時。)入社して3年目、今では日々利用者の方と真摯に向き合いながら、支援の仕事にやりがいを感じている。
そんな小滝さんの原点は、大学2年生のときにさかのぼる。コロナ禍で大学がオンライン授業となり、アルバイト先を探していた彼に、後輩が紹介してくれたのが「クラップ」だった。当時はクラップが運営していたカフェでタピオカドリンクやパスタを提供するホールスタッフとして勤務。子ども支援とは無縁のスタートだった。
「最初は“とにかく働きたい”という思いだけで、子どもと関わる仕事をしたいという意識は正直ありませんでした。でも振り返れば、それがこの仕事に出会うきっかけになったんですよね」
クモの模様を研究していた理系学生から支援の現場へ
大学では生物学を専攻。クモの模様が異性にモテるかどうかに関係するかという研究に取り組んでいた。「全然福祉とは関係ない分野でしたが、生き物の観察や行動の意味を探ることは好きでした」。その“観察する目”は、今の支援の仕事にもつながっている。
大学3年になると対面授業が再開し、カフェの勤務時間が限られてきたため、次に紹介されたのが放課後等デイサービスでの仕事。子どもたちと接する中で、自然と「この仕事を続けたい」という思いが芽生えていった。
「最初はただ“楽しい”という気持ちが強かったんです。でも通ってくる子どもたちと関わっていくうちに、“この子たちのために何ができるだろう”って考えるようになって。いつの間にか自分から“社員になりたい”って伝えていました」
“支援する”という仕事のリアルと難しさ
社員として配属されたのは、就労継続支援B型の現場。通所者は18歳以上の成人が対象で、精神障害をもつ方が多い。支援の内容は、パソコン作業や軽作業の補助、そしてその作業の場づくりだ。
「最初は“何をしているところなのか”すら分かっていませんでした。でも現場に立つうちに、利用者さん一人ひとりが“自分のペースで社会と関わろうとしている”ことを知りました。データ入力を練習したり、少しずつ人と関わったり。そのプロセスを見守るのが私たちの役割なんです」
精神障害のある方への支援には、細やかな配慮が求められる。ある利用者が「香水、きつくないですか?」と声をかけてきたことがあった。実は前回の会話で「匂いが強すぎるのは苦手」と話していた内容がきっかけだったという。
「その時はハッとしました。何気ない一言でも、相手にとっては気になることになる。“この人は自分の話を覚えてくれてる”と思ってくれたら嬉しいけど、逆にプレッシャーになってしまうこともある。言葉の重みを感じました」
“ここに通うのが楽しみ”と言ってもらえる喜び
支援の中でやりがいを感じる瞬間は、やはり信頼関係が築けたときだという。
「最初は誰にも話しかけてくれなかった方が、ある日ふと“ちょっと話してもいいですか”と声をかけてくれたんです。自分が“頼ってもいい人”になれたと思うと、とても嬉しくなります」
利用者の中には、「ここに来ることで気分転換になる」と話す人も多い。「落ち込むことが多いけれど、ここに来るのが楽しみなんです」と言われたとき、小滝さんは“この仕事を続けてよかった”と心から思った。
働く環境と、これからのクラップに期待すること
クラップの現場は、基本的に落ち着いた雰囲気。利用者がいる時間帯は静かだが、スタッフ同士は退勤後や朝の時間に雑談を交わすなど、穏やかで協力的な空気がある。困ったときにはパートスタッフや他の社員がすぐにサポートしてくれる安心感もあるという。
一方で、「残業が原則ない分、時間内に全てを終えるのが難しいこともある」「祝日勤務が続くと少し大変」など、現場だからこその課題も感じている。「例えば忙しい日だけは延長を申請できるなど、柔軟な制度があれば、より良い支援につながるのでは」と提案もしてくれた。
休日の過ごし方
支援の仕事に真摯に向き合う小滝さんには、もうひとつの顔がある。それが「無類の水族館好き」だ。
「休みの日には、よく水族館めぐりに出かけます。カサイ水族館やサンシャイン水族館など、都内近郊はもちろん、アクアマリンふくしまや、北海道まで遠征することもあるんです」
単に癒しを求めて……というだけではない。小滝さんの水族館の楽しみ方は、ちょっと“研究者寄り”だ。
「もともと生物学を専攻していたので、“この生き物はなんでこういう行動をするんだろう?”ってつい考えちゃうんです。水族館は博物館と同じで、“問いかけ”のある展示が好きなんです」
たとえばアクアマリンふくしま。ここでは世界で唯一、生きたサンマの展示に成功している。「短命で繊細なサンマを展示するのってすごく難しいんです。そういう“挑戦”をしている水族館って尊敬しますし、それを伝える工夫も素晴らしいと思うんです」
小滝さんはこう続ける。
「デートで来た人が、展示を通して“こんな生き物がいるんだ”と初めて知って、それを誰かに話したくなる。そうやって興味や知識が広がっていくきっかけになってくれたら、すごくいいなって思います」
見た目の可愛さや派手さだけじゃない、生き物の“背景”に目を向ける——それは、支援の仕事に通じる感覚かもしれない。
「“気づいてもらえないところ”に気づくって、大事だなって思うんです。だから私、水族館の展示の文字も全部読んじゃうんですよ(笑)」
水族館の楽しみ方にも、仕事へのまなざしにも、小滝さんらしい丁寧さがにじむ。彼の休日は、生き物たちの小さな命と、それを伝えようとする人たちの工夫に、じっくりと向き合う時間でもあるのだ。
“自分で自分の価値を落とさない”
最後に、小滝さんの支えになっている言葉を尋ねた。
「中学時代に先生から言われた“自分で自分の価値を落とすな”という言葉が、ずっと心に残っています。仕事をする中でも、誠実でなかったり、いい加減になってしまったら、自分で自分の価値を下げてしまう。そうならないよう、日々の仕事に真摯に向き合いたいと思っています」
クラップという場で、子どもたちとも、大人の利用者とも向き合いながら、自分自身も一歩ずつ成長を続けている小滝さん。そのまっすぐな姿勢が、今日も誰かの支えになっている。