アーティストと自分たちで1からつくる仕事がしたかった。土田菜津美さんが企画をつくる上で大事にしていることとは?【インタビュー】
学生時代からアートマネジメントを学び、コンサートの企画経験を経て、新卒で財団に入職した土田菜津美さん。土田さんに現在のお仕事や、どんな日々を過ごしているのかを伺うことで、この業界や財団で働くイメージを共有できればと考えています。(本記事は2024年1月時点のものです。)
◎インタビュー:狩野哲也
企画で大切にしたことが相手に伝わり、反応が返ってきたときがうれしい
ーーー就職活動中、数ある選択肢の中で、堺市文化振興財団を選んだ決め手は何ですか?
文化芸術に関わる仕事の中でも、私は特に、アーティストと一緒になって「こういう企画をやりたいんですけど、いっしょにやってくれませんか?」というような関係性で制作する仕事がしたいと思っていました。この事業課では、それができそうな気がしたからです。
ーーー仕事内容のイメージが最初から具体的だったんですね。
大学生の頃に兵庫県立芸術文化センターで2年ほどインターンとして働いていたことと、ゼミ生の有志で、小学生向けのコンサートを企画していたのもあって、その経験が大きいですね。
ーーー堺市文化振興財団に入職してからはどんなお仕事をされてきたのですか?
最初に担当したのは、堺市新人演奏会です。 今は名称が変わって、堺市新人音楽コンクールになっているのですが、私が入職した時点ではすでに出演者の募集が始まっていて、審査員の先生方との調整、タイムスケジュール作成、当日進行管理などを担当しました。
あと、「堺市新進アーティストバンク」という登録制の若手アーティスト育成支援制度があるのですが、それも入職してからずっと担当してきました。
ーーーお仕事の中で、やりがいを感じていることはどんなことですか?
財団の事業では、堺市の計画や財団の方向性に沿う形で、事業ごとに様々な目的があらかじめ設定されています。ただ、単にその目的に従うだけではなく、「自分だったらこの事業を通じて、対象となる人にこんな体験をしてもらいたい」といった、自分の思いを事業に乗せて仕事ができるところです。
各事業の現場で事前ヒアリングを行う時には、相手の言葉の端々からやりたいことや思いを拾って、そこから「今回はこの方向性がいいだろうな」と考えて、アーティストに伝えています。そして上がってきた企画を、一緒によりよいものにつくりあげていきます。難しいですが、楽しいし、やりがいを感じます。
アーティストと一緒に考えた企画が、その本番で来てくれた人に伝わったなという手ごたえがあるとうれしいです。来場者がその場で直接反応を返してくれることもありますが、アンケートに「本当に来て良かったです」や「楽しかったです」などの言葉があるのを見るのも、うれしいですね。
ーーー学生時代の経験で今活かされていると感じることはありますか?
一般に仕事となると、1から時間をかけて公演を制作できる機会はなかなかありません。私の場合は学生時代に、対象の小学生に何を持って帰ってほしいかを、みんなでじっくり話し合うところからはじめるような公演制作の経験があったので、それが割と大きいと思っています。
当時一番学んだことは、コンサートをやることが目的ではなく、伝えたいものがあるから企画するということで、それは今も自分の中に残っていると感じています。
仕事として制作に携わると、公演をすることに意識がいきがちですが、自分たちが届けたいものを1番大事にしたいというのは変わらずにいたいと思っています。
アーティストの顔が見えているのは結構大きい
ーーー深いですね、そういう気持ちはどこから生まれるんですか。
一緒に現場をつくるアーティストの「人となり」が見えているのは大きいかもしれないです。
アーティストとは普段から、直接会って企画内容についてお話したり、メール等でやり取りしたりしているので、本番に出演するアーティストがどんな人で、どんなことができるのかを想像できる状態です。このアーティストとこんな本番をつくってみたいな、と考えることも多いですね。
また実際、私たちが手掛ける「アウトリーチ」は、通常のホール公演よりも、届ける相手との距離がとても近いので、目が合うし、息遣いもわかります。参加者のリアクションを間近で見られる瞬間も多く、私自身そういう空間が好きだということもあります。
大人の楽しい気持ちも、子どもはキャッチする
ーーーなるほど。ではそのアウトリーチの現場の話も聞きたいです。
私はこれまで、未就学児対象の事業を主に担当してきました。 0~2歳さんと保護者が利用する子育てスペースや、こども園などを訪問し、本番を実施しています。
内容としては、音楽をはじめ、ダンス/演劇のアーティストと取り組んだ身体を動かす身体表現、塩のお絵描きや土粘土でお皿をつくるような造形系のプログラムなどにこれまで関わってきました。
ーーー仕事の中で難しかったことはありますか?
仕事を始めた頃は、特に乳児向けのプログラムづくりが難しかったです。年齢によってできること、認識できる範囲が様々で、多くの知識が必要でした。
発達段階ごとの特徴を調べるところからはじめ、他の団体が実施するプログラムを見に行ったり、乳児向けプログラムの実践経験が豊富な方とやり取りしたりするうちに、ポイントがわかってきました。
「子ども向けの企画」というとき、 大人の存在を忘れがちになります。ですが、大人も一緒にいて楽しい空間をつくると、大人の「楽しい」も子どもはちゃんとキャッチしてくれます。そのポイントがつかめてからは、大人と子ども、どちらに対してもアプローチするプログラムをつくっています。
意見を積極的に取り入れてくれる職場環境
ーーーこの組織だからこそできた仕事とかはありますか?
事業課は、学校や子ども食堂、福祉施設などでワークショップやコンサートをやっていることもあり、地域と関わることが多い部署です。いろんな人たちと連携するので、まだ出会ったことのない人に出会いやすく、また自分からも会いに行きやすい仕事です。ホール内の公演制作とは全く違うポイントだと思います。
また個人のアイデアをみんなが聞いてくれるので、意見を出しやすい環境だと思っています。
先ほどお話した堺市新進アーティストバンクの研修制度も、私が新規事業の意見を出して立ち上がった事業です。
それまでのアーティストバンクは、単にコンサートや美術ワークショップなどの仕事を紹介する制度にとどまっていたのですが、登録アーティストと一緒に本番をつくりたいと思って、本番をつくる過程自体を研修にする内容を提案しました。
ーーーすごいですね! タイトルは何ですか?
「実践研修プログラム」と言って、〈ホール公演コース〉と〈学校アウトリーチコース〉の2つがあります。ちょうどこちらに過去2年分の実施報告パンフレットがあります。
私が担当している「ホール公演コース」は、0~2歳の子どもとその保護者が楽しめるホール公演を企画実施する、という内容です。受講するアーティストは、こうした公演の企画制作経験があまりないので、専門のアドバイザーや事業課職員がサポートしながら、本番に向けて準備しています。
アーティストには、コンサートに来る人たちに体験してもらいたいこと、伝えたいことは何かを考えて、その思いを軸にコンサートを企画してもらいます。とても難しいですが、その過程で、よくあるレパートリーから選ぶだけのコンサートづくりではなく、「こういうコンサートにしたいという思い」からプログラムをつくる経験ができます。
ーーー若手アーティストにとって良い経験になりそうですね。土田さんの今後の目標はどんなことを考えておられるんですか?
私は1からつくるのが好きなので、様々なジャンルのアーティストと一緒に企画をつくっていきたいです。
ひとつのジャンルで専門性を深めていくのも良いのですが、私は音楽、美術、身体表現など、様々なアーティストと関わりながらジャンル横断的に企画をつくれたらいいなと。
そのために、まずはいろいろな人と関わりながら知識や経験を蓄え、他所での企画にたくさん足を運ぶことを続けようと思っています。
そうして吸収していったことが、今後の仕事や企画に活きれば嬉しいです。
ーーー最後に、どんな人と一緒に働きたいですか? 土田さんのように4年間勉強した人じゃないと難しいでしょうか?
そんなことはありません。文化芸術と関わる仕事がはじめての人も、興味を持って、面白さを感じながら取り組める方なら、楽しく仕事ができると思います。