【Our Voices】タレントアクイジションファームとしてコア人材を採用できない時代に企業とともにチャレンジする
InterRace株式会社 代表取締役社長
桑田 良紀
2003年、株式会社リクルートに新卒入社。HR事業部に配属後、新規事業開発室に異動し、医療分野の新規事業立ち上げ、買収後企業のPMI、M&A業務に従事。2011年にHR事業部に異動し、営業企画部長、事業企画部長を歴任。2018年11月にリクルート卒業と同時にポートフォリオワーカーとしての活動を開始し、InterRaceを創業。複数社の執行役員やNPO法人理事も兼任。
「タレントアクイジション」とは、自社の成長戦略と密接に連動しながら、未来を担うコア人材の獲得から定着・活躍までを見据えた戦略的な採用の考え方
いま、採用に関わる多くの現場で、こんな声が聞こえてきます。
「採用人材の優先順位を見誤り、中長期の事業計画が狂い、業績に影響が出ている」
「自社ルールの面接フローを優先しすぎて、未来を担う人材を取り逃がしている」
「採用手段を増やしても、本当に欲しい人材が採れなくなってきた」
2020年以降、事業の根幹を担う経営人材やエンジニアといった“コア人材”の獲得難が深刻化しています。この背景には、1995年を境に始まった生産年齢人口の減少に加え、テクノロジーを基盤とする産業構造の転換が急速に進んだことが挙げられます。
従来とは次元の異なる人材争奪戦の中で、自社の成長を加速させていくためには、
組織全体で“採用”の在り方を見直す必要があります。とりわけ求められているのが、
従来型のリクルーティングから脱し、「タレントアクイジションの内製化」による、自社の採用力強化という抜本的な改革です。
「タレントアクイジション」とは、自社の成長戦略と密接に連動しながら、未来を担うコア人材の獲得から定着・活躍までを見据えた戦略的な採用の考え方です。2005年ごろから米国のIT企業を中心に広がり始め、日本でもNECや博報堂といった先進企業が導入し、自社のコア人材の獲得で成果を上げています。
なぜタレントアクイジションが求められているのか?
その背景には、採用を取り巻く環境の劇的な変化があります。中でも、企業が“採るべき人材”にアプローチできなくなっている理由は、大きく以下の3つに集約されます。
① ハイスキル人材の枯渇
AIエンジニアや経営幹部候補といったコア人材の需給バランスが崩れ、激しい争奪戦が起きており、有名企業ですら人材の確保が難しくなっています。
日本国内では生産年齢人口の減少が加速し、さらに海外の高度人材が“日本を選ばなくなっている”という現実も深刻です(左下図参照)。
国際的な人材獲得競争において日本の魅力度は低く、優秀な外国人材の流入にも限界がある中、企業間の競争はより内向きに、かつ激しさを増しています(右下図参照、脚注※1)。
② 働き手の価値観の変化
働き手の職業観が世代ごとに変化しており、特に20〜30代を中心にその多様化が顕著になっています。これまで「報酬」や「ポスト」「企業の知名度・安定性」といった分かりやすい魅力因子が、企業選びの共通軸でした。近年では、「自分が何に時間とスキルを使うか」「どんな社会価値に貢献できるか」といった感情報酬を重視する傾向が強まりつつあります。
さらに、仕事選びの基準も変化しており、かつてのように「国内」「同業種」「同職種」といった枠内で比較するのではなく、「グローバル」「異業種」「異職種」など、より広い視野で企業を選ぶ動きが主流になりつつあります。その結果、採用競合はボーダーレス化し、従来のセオリーでは通用しない時代に突入しています。
③ 過去の採用活動で刷り込まれた「買い手優位」の思考
大手企業の新卒採用では、今でも多数の学生が応募するため、一見すると企業が主導権を握る“買い手市場”のように見えます。しかし実際には、売り手市場の中で優秀人材の争奪戦が激化しています。にもかかわらず、従来の“選ぶ側”という発想や行動様式から脱却できていない企業は、今も少なくありません。採用人数こそ満たしていても、事業の中核を担うコア人材の確保には至っていないのが実状です。そんな現実に気づいた企業が、採用業務のスタンスを「募集」から「獲得」へ変革する舵を切り始めています。
アウトソーシングが常態化しつつある日本企業のリクルーティング
日本企業の採用は、高度成長期以降、求人広告や情報誌から始まり、2000年代以降は求人サイトや人材紹介など、人材サービス企業への依存度を年々高めてきました。
その結果、自社の採用担当者だけでは、どの職種をどんな手段で採用すべきかといった全体設計に手が回らなくなっています。また、メディアや紹介会社を使っても人が集まらない場面で、どう対応すべきか判断できないケースも増えています。
こうした状況が続いたことで、採用現場の課題解決力は徐々に弱まり、外部に頼らざるを得ない構造が定着してしまいました。
背景には、1990年代後半のインターネット普及で求職者データが可視化され、ダイレクトスカウトやリファラル、職種特化型サービスが次々登場し、採用メディアが複雑化したことがあります。さらに、業務負荷の増大によりRPO(採用代行)への依存も広がり、人事部門にノウハウが蓄積されないまま、ベンダー管理に終始している企業も少なくありません。
具体的なタレントアクイジションのアクションとは?
今、企業がコア人材を採用するには、従来の「募集」から戦略的な「獲得」へとシフトする必要があります。
従来の中途採用は、主に現場の欠員を埋めるための短期的な採用活動が中心になっており、企業の中長期的な成長戦略とは連動していないケースが多く見られます。
一方「タレントアクイジション」は、経営戦略と連動し、企業が自ら優秀な人材(タレント)を主体的・能動的に獲得していく考え方です。ダイレクトスカウトやオウンドメディア、リファラル、M&Aなど、多様な手段を使い分けてコア人材にアプローチします。
この実現には、次のような取り組みが欠かせません。
・自社の職種や業界への理解を深めたうえで、現場と連携し、適切な人材要件を定義すること
・コア人材候補者に合わせた選考フローやコミュニケーションの設計・実行
・候補者インサイトに基づいた自社の魅力づけと差別化戦略
・過去に接点を持った人材を中長期的に管理・活用するタレントプールの運用
つまり、「タレントアクイジション」とは単なる採用手法の変化ではなく、“選ばれる企業”になるための戦略的な仕組みづくりです。人口減少や価値観の多様化が進む今、コア人材を獲得できるかどうかは、この考え方を自社に取り入れられるかにかかっています。
各企業が自前でタレントアクイジションを機能させるには、次の5つのドライバー(要素)が必要になってきます。
各企業が自前でタレントアクイジションを機能させるには、次の5つのドライバー(要素)が必要になってきます。
ドライバー① 経営戦略と連動した人事戦略の設計
企業の採用活動は、単なる人手補充ではなく、経営戦略と一体となって設計されるべきです。まずは経営計画から逆算した要員計画を設計し、「今、どんな職種・スキルを、どのタイミングで確保する必要があるのか」を明確にすることが重要です。同時に理想論に終始せず、採用市場の実情を踏まえた“実行可能な人事戦略”へと落とし込むことが、戦略的人材獲得の第一歩となります。
ドライバー② 事業部との連携による人材要件の明確化
人事部門だけで「どんな人材が必要か」を判断するには限界があります。そこで必要なのは、事業部と密に連携をし、現場が求めるスキル・経験・マインドを把握したうえで、過不足のない人材要件を明確にすることです。
この連携が機能すれば、要件はより現実的になり、ミスマッチも減少します。さらに採用を人事任せにせずに、事業部も主体的に関わる体制が整うことで、組織全体に人材獲得に責任を持つカルチャーが根づいていきます。
ドライバー③ 候補者インサイトを活かした採用ブランディング
優秀な人材に「この会社で働きたい」と思ってもらうには、自社の魅力を一方的に伝えるのではなく、候補者側の視点=インサイトに立って設計されたメッセージが必要です。たとえば、同じ職種でも業界によって評価されるポイントは異なり、年齢層によって刺さる情報も変わります。候補者データや選考過程でのフィードバックなどをもとに分析し、言語化された魅力を社内で統一。継続的に改善を重ねていくことで、“選ばれる企業”への第一歩が踏み出せます。
ドライバー④ タレントプールの構築と関係性の維持
タレントアクイジションでは、「今すぐの採用したい人材」だけを対象にするのではなく、「将来必要になる可能性のある人材」との関係づくりも重要です。単に人材情報をストックしておくだけでは意味がなく、過去に接点のあった候補者と継続的にコンタクトを取り、信頼を育てていくことが求められます。メルマガ配信や交流会の招待、食事会などの接点を通じて「忘れられない存在」であり続けること。中長期的な視点でタレントを“育てる”発想が、これからの採用に不可欠です。
ドライバー⑤ 選考プロセスとオンボーディングの最適化
良い候補者と出会えても、選考で離脱されては意味がありません。選考過程での体験(スピード、柔軟性、配慮)そのものが「入社したい」と思わせる要因になります。特に、意思決定の速さや、候補者に合わせたスケジュール対応などのホスピタリティは他社との差別化ポイントになります。またオンボーディングも重要で、業務理解や人間関係構築を支援するプログラムが、定着率や早期戦力化に直結します。「この会社は、自分の時間やキャリアを大切にしてくれる」と感じてもらうことが、最後の決め手になります。
企業の成長にコミットする採用パートナー
この「5つのドライバー」を企業内で自立的に運用し、成果につなげていくためには、広範な採用知見に加え、職種や業界への深い理解、さらには全体を見通した横断的な戦略設計力が欠かせません。そのため、こうした高度な実行力をともに担うパートナーの存在が、企業には必要になってきます。その役割を担うのが、タレントアクイジションファームの「InterRace」です。
InterRaceは、経営と採用をつなぐ“競争力の高い人材獲得”の実現を目指しています。単なる採用工数代替ではなく、クライアント企業に深く入り込み、採用戦略の設計、現場との連携、選考プロセスの最適化、タレントプールの運用支援など、中長期的な視点で採用基盤の内製化を支援しているのです。
2024年3月には、即戦力人材に特化したプラットフォーム「ビズリーチ」を提供するVisionalグループに参画しました。その結果、28,900社超(2024年1月時点)への導入実績を持つグループの一員として、より多くの企業に深く貢献できる体制も整えました。
採用を変えることは、企業の未来を変えること
InterRaceが目指すのは、“人を採る”ことではありません。企業の戦略と人材を結びつけ、“企業の未来を動かす人材”を、自ら獲得・育てられる組織へと変革させることです。
そして、それは単に企業単体の課題解決にとどまらず、業界の採用のあり方を変え、働き方そのものをアップデートしていく挑戦でもあります。企業の中に、タレントアクイジションを根づかせる。InterRaceは、その伴走者として、採用の未来をともにつくっていきます。
(※1)未来人材ビジョンからの引用・・・「未来人材ビジョン 」とは経済産業省は、2030年、2050年の産業構造の転換を見据えた、今後の人材政策について検討するため、「未来人材会議」を設置し、雇用・人材育成から教育システムに至る政策課題について一体的に議論してきたその内容を踏まえ、未来を支える人材を育成・確保するための大きな方向性と、今後取り組むべき具体策を示したもの。2022年5月に公表。