2024年のベンチャー融資件数が100件超! 北國銀行とセブンリッチが目指すスタートアップ支援のあり方
地方銀行でありながら、首都圏のスタートアップから大きな注目を集める北國銀行。所属社員のご家族のリファラルから縁が始まったセブンリッチグループとの戦略的業務提携により、東京営業部におけるスタートアップ向け融資実績は年間100件以上に拡大。経営者保証を原則求めない融資スタイルは、多くのスタートアップ企業から支持を集めています。
さらに、コンサルティングやBPO事業など非金融分野へも積極的に展開し、北陸三県と東京を結ぶ新たな事業領域の創出に挑戦しています。この取り組みの中で見えてきたのは、セブンリッチ・北國銀行両社それぞれが持つ”独自の強み”でした。スタートアップへのバリューアップのノウハウと、地域に根差した金融機関としての中小企業の経営改善実績と信頼。お互いの強みを活かしながら「顧客価値の最大化」を目指す両社の取り組みについて、セブンリッチグループ社長室・浦田 友恭さんと、北國銀行東京営業部・営業部長の竹内 均さんにお話を伺いました。
目次
「圧倒的スピード感」ある融資が協業のきっかけに
「審査部廃止」「保証人をとらない」という北國銀行の先進的な取り組み
異なる強みが織りなす価値創造と、「顧客の利益最大化を供に目指す」協業
北陸×東京の新経済圏創出へ。持続可能な地域貢献を目指して
【写真左】セブンリッチグループ社長室・浦田 友恭さん
【右】北國銀行東京営業部・営業部長の竹内 均さん
「圧倒的スピード感」ある融資が協業のきっかけに
── 2024年2月にセブンリッチグループと株式会社CCイノベーション(株式会社北國フィナンシャルホールディングスのグループ子会社。以下、CCI)にて戦略的業務提携契約を締結しましたが、お取り組みのきっかけからお聞きしたいです。
セブンリッチ・浦田 友恭(以下、浦田):
きっかけは弊社の社員からの紹介でした。最初はシンプルに、セブンリッチグループの融資相談からスタートしたのですが、その時の融資実行までのスピード感に衝撃を受けたんです。
セブンリッチの融資事業部は全国25行以上の銀行とつながりがありますので、通常の融資のスピード感を踏まえても、北國銀行さんは全く異なるレベル。その驚きをきっかけに、もっと踏み込んだ連携ができないかと考えるようになりました。
北國銀行・竹内 均(以下、竹内):
その後、セブンリッチさんの代表・服部さんをはじめ7〜8名の方々に、金沢本社まで足を運んでいただきました。丸1日かけて全部署を回り、会議室に集まって「両社の強みを活かして何ができるか」を徹底的に議論しましたね。
浦田:
弊社の「事業連携をしたい!」というご相談に対し、ここまで真摯に、かつ積極的に全グループを巻き込んでくれる姿勢もとても嬉しかったですね。
取り組みのスタートは融資からとなりましたが、北國銀行さんがすごいのは、いち地銀としてだけではなく事業会社の側面があること。コンサルティングやBPO事業、M&Aによる事業承継サポート、地域貢献のためのプロジェクトを立ち上げたり、 日本初*1の預金型ステーブルコインなど、さまざまな取組をしているのが魅力的でした。
加えて、双方の考え方の一致も大きかったですね。弊社も北國銀行さんも、クライアントを単なる融資先としてではなく、その企業の成長を通じて最終的なエンドユーザーにどんな価値を届けられるか。そのGiveの考え方や視点を両社が共有できていることが、協業の大きな推進力になっています。
例えば、融資を受けたスタートアップ企業が新しい製品やサービスを開発し、それによってエンドユーザーの生活が便利になる。私たちはそういった"その先の価値"を常に考えながら支援を行っています。弊社も北國銀行さんも、様々な法人企業と向き合ってきた経験から、このような考え方が自然と根付いていたのだと思います。
「審査部廃止」「保証人をとらない」という北國銀行の先進的な取り組み
── 融資からスタートをしたとのことですが、そのきっかけは「融資先の企業に経営者保証を求めない」という取り組みだったそうですね。
竹内:
地方銀行の東京支店というのは、基本的には大企業融資が中心。ですが私が東京営業部の部長に就任した2022年当時は、弊社では社内事情もあり大企業融資については縮小させ、北陸地域の中堅中小企業への融資に注力するという方針でした。「東京での中堅中小企業への融資は難しいだろう」という考えにありましたしね。
そんな中、弊社の「経営者保証を求めない融資」という取り組みが日経新聞に掲載されたんです。実は5〜6年前から当たり前のように行っていた取り組みでしたが、日本の銀行では北國銀行だけという評価をいただきました。
浦田:
「こんな銀行があるんですか?」と本当に驚きました(笑)。圧倒的な融資スピードに加えて、審査部を廃止していたことも衝撃的でした。この独自の姿勢に強く惹かれ、何か一緒にできることがないかと考えるようになりましたし、セブンリッチがつながっているスタートアップに北國銀行さんを積極的に紹介するようになりました。
竹内:
実は北陸地区でも同様の取り組みを行っていたのですが、北陸では当たり前になってしまいさほど評価を得られていなかったんです。しかし、全国25行以上の金融機関とネットワークを持つセブンリッチさんから「これは画期的な取り組みだ」と高い評価をいただき、それが大きな転機となりました。
またそれ以降、首都圏ではとても高く評価していただき、スタートアップ・中堅中小企業への融資件数が大幅に増えていきました。北國銀行としての経営戦略が大きく転換するほどのインパクトがある出来事でしたね。
浦田:
我々も数多くの金融機関と取引がありますが、地方銀行でここまで先進的な取り組みをしている例は稀少でした。特に審査のスピードと経営者保証を求めないという方針は、スタートアップのニーズに正確に応えるものだなと。
竹内:
セブンリッチさんに窓口になっていただいたことで、東京のスタートアップを中心に融資案件のご紹介をいただき、東京営業部の業績に大きく寄与するきっかけとなりました。
── 東京の融資に注力しない方針だったのが、「保証人をとらない」ことがむしろ首都圏の企業に刺さった、ということでしょうか。
竹内:
そうですね。過去、中堅中小企業への融資はなにかしらで北陸地区に関係のある先がほとんどでした。縁もゆかりも無い東京の企業だと難しいイメージはあったのですが......違いましたね。
浦田:
一般的な地銀は、自分が根付いてる地域に本店や営業所がない場合、貸してくれないことがほとんどですよね。だからこそ、金沢などに営業所がない企業であっても融資ができるというのも、地銀のなかでもかなり進んでいる取り組みのひとつだと感じています。
竹内:
「北陸と関係のない企業に融資を?」という懸念から、最初は社内でも反対の声がありました。
ですが、セブンリッチさんとの取り組みをきっかけに状況は大きく変わりました。首都圏企業への融資件数が大幅に増加し、北國銀行全体の収益向上につながったのです。その結果、私たちのビジネスドメインは「北陸+東京」という形に。セブンリッチさんが私たちの可能性に気づき、様々なスタートアップを紹介してくださった。
今では東京のスタートアップ界隈でも当社の知名度が上がり、多くのスタートアップからの引き合いが絶えない状況です。また、融資取引をいただいた企業にはグループ会社のCCイノベーションのコンサルティングも紹介させていただき幅広いお取引にもつながっています。
浦田:
それは本当に嬉しい話ですね。
竹内:
ご紹介いただく企業は、財務状況も経営姿勢も極めて健全です。北陸地域の企業は財務状況も苦しい企業が多く、だからこそ融資の相談を受けるということを当たり前だと思っていました。一方で、セブンリッチさんから紹介されるスタートアップについては、財務状況・経営姿勢が極めて健全。そのギャップにも驚きました。
また、地方企業の場合、財務状況が厳しいケースも少なくありません。にもかかわらずライバル行との競合で、適正金利での貸出が難しく、結果金利がディスカウントされてしまうことが多くあります。これが地方銀行の収益力低下にもつながっているんです。
一方、東京のスタートアップは、手数料や金利についても「適正な対価は適正に支払う」「ステークスホルダーに適切に報いる」という意識が根付いている。このような健全な関係性が、私たちの新しいビジネスモデルを支える重要な要素になっていると考えています。
浦田:
私達も様々な金融機関とのつながりがあるからこそ、御社の施策が良いことを実感するんですよね。お取り組みを開始してから1年ほどが経過していますがスタートアップ界隈でも北國銀行の名前が有名になってきていると感じます。いまトータル何件ぐらい融資されているんでしたっけ。
竹内:
1年で100件以上はやっていますね。
浦田:
凄い勢いですね! このペースでいけば日本一も視野に入ってくるのではないでしょうか。
多くの銀行は「スタートアップは収益が不安定」という理由で融資を躊躇しますし、とくに創業間もない企業となると、審査すら通らないことがほとんど。ですが北國銀行さんは違う。
スタートアップ特有のリスクを理解した上で、成長可能性を見極めるシステムにより積極的に融資ができる。これは大きな強みですよね。急成長のための投資資金や、事業拡大に必要なキャッシュフローの確保に悩むスタートアップにとって、心強い味方になっているはずです。
竹内:
スタートアップ特有の課題や市場環境については、セブンリッチさんとの出会いで深く理解することができました。実は、積極的な融資を行っている中で、現在まで貸し倒れは1件も発生していないんですよ。
異なる強みが織りなす価値創造と、「顧客の利益最大化を供に目指す」協業
── 融資をきっかけに、CCIのソリューション(コンサルティングやBPO事業など)の連携でも広がりを見せていますね。
竹内:
北國フィナンシャルグループとしては、10年ほど前からコンサルティングをはじめとした新事業を立ち上げてきています。元々、コンサルティング事業は北陸地域を中心に行なっていました。北國銀行の法人営業は200人程度ですが、コンサルティング部門は今や140人の組織になってきています。
ただ、事業成長を目指していく上で北陸のマーケットのみでは営業の余地が限られているという課題がありました。ですが今回、セブンリッチさんとの融資連携を通じ、東京のさまざまな会社との接点が生まれ、CCIの窓口がぐっと広がりました。融資先にコンサルを提案することで、コンサル事業の新たな伸び代を首都圏で作れるようになりましたね。
浦田:
成長のための「北陸以外での顧客獲得」という目的達成のために、セブンリッチがその窓口として役に立てたことはとても嬉しいことですね。
先程もお話にあがりましたが、地方銀行って金利などが買い叩かれるなかで融資だけではビジネスがしづらい状況だと思います。その点、北國銀行さんが強いのは、融資以外の事業を広げる必要性にいち早く気づいて、北國フィナンシャルホールディングスの中で「CCI」という地域の名称をかざさずに全国で勝負できる状況をつくり出したことだと思います。
── 協業の具体例があれば、ぜひお聞きしたいです。
浦田:
例えば、北國銀行さんに「評価制度設計」というメニューがあります。ただ、北國さんでは最初の入り口としてニーズが少ないという課題があります。でも、その会社が採用に困っている場合、セブンリッチにパスをもらって採用支援を弊社が最初に担う。支援の過程で、評価制度設計のニーズをキャッチしたら、今度はセブンリッチから北國銀行さんにパスをして、評価制度の提案を北國銀行さんが行うという流れができます。
つまり、僕らが持ってないソリューションを必要としているところで北國銀行さんに送客することでシナジーが生まれるんです。
北國銀行グループでは中小企業の経営改善を中心に取り組み、僕らセブンリッチはベンチャーのバリューアップを中心に行ってきました。つまり、提供しているソリューションについてそれぞれが補完できる関係性だったというのが大きいですね。足りてない部分で補えるような関係性だったんです。
竹内:
もちろん領域が重なる部分もありますが、そこに関しては整理して一緒に進めていく、ということもしています。
具体的な案件でいうと、BPOについては双方事業を持っているのでノウハウの共有を行う取り組みをしておりますし、北陸に根差す「ステーブルコイン」の集客についてはセブンリッチさんが提供するポイ活サービスで連携を模索していたり、お互いに補完関係を築きあえていると感じます。
また、北陸地区は元々製造業が多い地域なので、CCIの立ち上げ当初は製造業向けコンサルを多くやっていました。現在はセブンリッチさんにご紹介をいただいた渋谷のスタートアップ・新興企業を中心とする商業やIT系の事業会社に相対することが増えてきて、触れる業界のバリエーションが多彩になってきているのは間違いないですね。
弊社でカバーできない部分はセブンリッチさんのサービスを提案する。例えば、北陸の製造業に強い私たちと、IT・スタートアップに強いセブンリッチさん。それぞれの得意分野を活かしながら、クライアントに最適なソリューションを提供できています。
浦田:
逆に我々は製造業に相対することが少ないので、原価計算などのソリューションは北國銀行さんに頼れる。
正直、「下請け」や「元請け」という感覚はあまりなくて。北國銀行さんが銀行として立って交渉した方がいいお客様はその下に僕らが回るし、セブンリッチがフロントにいた方がいいお客様は僕らが立つという関係性です。
なにより大切にしたいのは「顧客が感じる価値」を最大化出来る座組をつくること。そして、クライアントに提供する価値を最大化するということです。協業を通じてセブンリッチの事業も北國銀行の事業も、お互いに伸ばして強固にしていくことができるという強みもあるなと感じています。
北陸×東京の新経済圏創出へ。持続可能な地域貢献を目指して
── セブンリッチとの取り組みを通して、東京営業部の動きも大きく変わったとのことですが、北國銀行さんの今後の展望について伺いたいです。
竹内:
ひとつめは、東京営業部で得たノウハウを北陸地区に還元していくことです。第一段階として、融資・エクイティ・コンサルティングの3つを組み合わせることで首都圏での業績を伸ばすことができました。今後は、スタートアップが持つ技術やセブンリッチさんと培ったノウハウを活用し、主力のコンサルティング事業をさらに進化させていきたいと考えています。
その具体的な取り組みのひとつが「北陸進出コンサル」です。首都圏のスタートアップと北陸地域の企業をつないでいくことで、双方の成長を支援する。スタートアップには新たな顧客開拓の機会を提供し、北陸地域の企業には東京のスタートアップが持つ最先端のソリューションを届けるというものです。
例えば、AIを活用した工場の生産性向上に取り組むスタートアップと、北陸地域の製造業をマッチングするケースですね。スタートアップにとっては技術検証の場が得られ、製造業はAIの力で生産量を大きく向上させることができます。このように、首都圏のスタートアップに融資することが、結果として北陸経済の活性化にもつながっていく。私たちはその橋渡し役として、両地域の発展に貢献していきたいと考えています。
浦田:
そうした北國銀行さんの取り組みを受けて、私たちセブンリッチとしても、北陸地域でのM&A・事業承継支援を積極的に展開していきたいと考えています。
例えば「今後グローバル展開をしたいが、人材やノウハウが足りない」「地方では人材採用が難航、市場がシュリンクし続けており、事業展望が見えない」といった地域企業の課題に対して、QRインベストメント(北國フィナンシャルグループの金融系ベンチャーキャピタル)と連携しながら、出資とバリューアップの両面からサポートしていく。そうした形で地域に根ざした事業を、覚悟を持って支援していきたいですね。
竹内:
地域貢献という点で大切なのは、持続可能な形をつくることです。過去の経験から、ボランティアだけでは続かないということを実感しています。まずは事業として収益を上げ、それを地域に還元していく。「北陸進出コンサル」もその一環ですし、東京で得た収益を北陸に還元していくという循環を作っていきたいと考えています。
浦田:
また、事業以外の面でもこの協業には大きな可能性があると感じています。例えば、北國銀行の地方採用メンバーが東京営業部で働き、ベンチャー企業に触れる機会を得られる。若手社員のキャリアアップやモチベーション向上にもつながるような、そういった人材育成面での相乗効果も、この取り組みの重要な価値になるのではないかと考えています。
竹内:
その通りですね。出向受け入れなど、人材交流の可能性も今後検討していきたいですね。事業の枠を超えて、社員同士が刺激し合える関係を築いていければ。それが両社の、そして地域全体の発展につながっていくと感じています。
浦田さん、竹内さん。ありがとうございました!