私たちは「総合ねじ部品メーカー」として、自動車、産業機械、住宅、航空宇宙産業などさまざまな分野に向けてねじ製品を生産・供給しています。卓越した技術力と開発力を基盤に、常に時代を見据えて新しい挑戦に取り組み、タイムリーに変革を続ける会社であることを目指しています。
今回は代表取締役の柿澤社長にインタビューを実施。事業における興津螺旋の強みや、経営理念・経営信条に込めた思いなどを伺いました!
【プロフィール】
柿澤 宏一:代表取締役社長。大学卒業後は工業部品関連商社に入社し、営業職に従事。その後、祖父が創業し、父が引き継いだ興津螺旋に入社。新製品の開発や営業、品質管理などの仕事に10年ほど取り組んだのち、2007年に代表に就任。
事業の転機にもなった「設備保全活動」の推進
――柿澤社長が興津螺旋に入社するにあたって、どのようなビジョンを描いていましたか?
私が入社した当時、当社は主に建築用のねじを中心に製造をしていました。バブル経済が崩壊したとはいえ、持ち家需要が旺盛で、建築業界も忙しく、当社もフル稼働で生産に追われていた時期です。仮に品質の不具合が起きても、注文に間に合わせることが優先され、結果として十分な対策ができていない部分もありました。それでも競合他社と比較すると、当社の品質への評価は高かったのですが、商社営業を経験していた私には、顧客対応のスピード感にもどかしさを感じることもありました。
その後、1997年に消費税が上がったタイミングで業界全体の状況が変化し、受注が急減して価格競争が激化するようになりました。その際に思ったのが、「品質に関してNo.1の会社」を目指すことです。クレームが出てから対処するのではなく、最初から不良品が出ないものづくりができるようになれば技術力が向上し、従業員が育ち、会社の体質が向上し、お客様は当社を選んでくれると考えたのです。
当時、当社はTPM(※)活動を推進していたものの、なかなか前に進まなかった現状があったのですが、その推進事務局となり生産性や品質の改善を再開。ISO9001の認証取得を提案するなど、中心となって取り組みました。
(※)TPM:Total Productive Maintenanceの略称。生産システム効率化の極限を追求できる企業体質づくりを目標に、全員参加~会社全体で設備管理を行うことにより、あらゆるロスをゼロにし経済性を追求するもの
――TPM活動の推進により、どのような変化が生まれましたか?
設備保全の内製化を進めたことで、設備の精度が向上し、2005年に業界初となるチタン合金ねじの量産技術の開発に成功しました。この技術が注目され、ある企業からチタン合金製の機械用のボルト(キャップボルト)を製造できないかとの相談を受けました。ただし、チタン合金製キャップボルトの技術はハードルが高く、まずはステンレス製キャップボルトを開発し、その後チタン合金への応用を目指しました。
ステンレス製キャップボルトは、工作機械や半導体製造装置にも供給することになり、リーマンショック下でも順調に売り上げを伸ばし、現在では当社の主力製品の1つとなっています。また、チタン合金製のキャップボルトの開発も完了し、世界トップシェアを持つ某企業に採用いただき、取引を継続しています。チタン合金製キャップボルトは、人工衛星にも採用されたんですよ。そして、チタン合金ボルトの技術を応用してニッケル合金ボルトも開発し、こちらも順調に売り上げを伸ばしています。
――新たな素材や形状へのチャレンジの背景には、高い技術力も必要とされたのではないでしょうか。
そうですね。実は、世の中の大部分のねじは鉄製であり、ステンレスねじの20倍程度の市場があります。実際、ステンレスは硬くて加工が難しいんですよ。でも、当社は長きにわたり難加工技術に取り組みつづけてきており、蓄積された技術力と設備保全能力があったからこそ、さまざまな素材や形状に対応できるようになりました。
自ら新規開拓先のメーカーに足を運び、業界固有の課題をキャッチ
――「品質向上」の取り組みを進める過程で、どのような苦労がありましたか?
私が社長に就任した2007年頃の話ですが、輸入材料を使うメーカーや海外のねじメーカーから輸入する業者が出てきて、品質は劣るものの安価であることから、海外の製品を選ぶお客様も現れてきたのです。長年の活動により、当社は高い品質を維持できるレベルにまで到達しましたが、それでも同じお客様向けの同じ製品では、他社より高い値段で買ってもらえるようになるのは困難でした。
そこで、この品質力を認めてもらうためには、自動車業界や産業機械のユーザーに製品を販売するしかないと考えるようになり、そうした業界向けの製品開発に取り組むようになりました。
その過程では、直接顧客である商社さんだけでなく、その先のお客様の業界の課題を細かくリサーチ。私自身も自ら自動車メーカーやロボットメーカーに赴いて、ねじ全般に対するお客様の困りごとをヒアリングするようにしました。具体的には、現在規格品を使っていることで生じる問題を、専用部品として提案することが多かったですね。専用設計になると単価が高くなるケースもありますが、その代わりお客様の生産性や良品率、歩留まりなどが向上することでトータルコストを下げることができるからです。結果としてWIN-WINの関係を深めることにつながりました。
――なるほど、他社との差別化を進める戦略を図ったのですね。
はい。ただ、事業を拡大するためには、人材のリソースを確保することが必要不可欠でした。採用の母集団を広げる目的で、女性も働ける製造現場を作ろうと考えていた2012年のこと、事務採用の女性が製造現場での勤務を希望したことで1人目の「ねじガール」が誕生しました。その後、新卒や社内からの異動希望により年々女性比率が増加し、全社では男女比50:50までになりました。製造現場でも女性社員が珍しくなくなりました。
しかし、その反面で、大量生産型のねじ製造が社員に大きな負担をかけることがわかってきました。受注が増えると早出、残業、休日出勤などで対応することになり、体力にハンデのある女性社員がつらそうにしていたのを見て、大量生産型を改めた方がいいのではないかと考えるようになりました。
そこで、製造工程を一部外注化したり、夜間無人運転を活用することで負担を抑えつつ、小ロット品や難加工部品へのシフトも進め、高付加価値化に舵を切ることを決めました。その結果として残業の大幅減を実現し、今では1か月の一人あたり平均残業時間が5時間程度になっています。
また、このことが「女性活躍」や当時の「働き方改革」のロールモデルとして注目を集め、メディアでも紹介されるようになりました。
消費者が安心できる部品づくりを通して世の中に貢献したい
――興津螺旋では「高品質な製品でお客様の仕事の効率を高め、人々に安心と信頼を提供する」「会社で働く情熱ある社員とその家族の幸福を追求する」という経営理念を掲げています。これらの言葉に込めた思いは?
ねじは、単体では何もできないと言っても過言ではありません。でも、家や自動車、スマホなど、私たちの身の回りのあらゆるものにねじが使われており、まさに「黒子」のような存在だと考えています。そのような状況において、品質が良く、使いやすい製品を徹底的に追求することで、産業界に貢献できると考えています。
高品質な部品で作られた家や自動車は、そう簡単には壊れません。最終的にユーザーや消費者のみなさんが安心できる部品を作りつづけること。「このねじいいね」ではなく、「安心して住んでもらう、乗ってもらう、使ってもらう」ことが私たちのミッションだと捉えています。同時に、“人々の目に見えないところで活躍する”ものづくりに、情熱を持って取り組んでくれる社員やその家族を大切にしたいという思いがあります。
――経営理念のほかに、興津螺旋には「真 善 美」という経営信条も存在します。
先ほどの経営理念を分かりやすく表現したのが、経営信条である「真 善 美」です。「真」はいわゆるコンプライアンスに近い要素で、「嘘をつかない」「真(まこと)のものづくりをする」ことをモットーとしています。「善」は、世のため、人のためになるものづくり。そして「美」は、これ以上良いものは存在しないものづくりをすることを目指しています。
――経営理念や経営信条は、どのように社員への浸透を図っていますか?
当社では毎年経営計画書を作り、役職者や、必要に応じて社員にも開示しています。そのなかでは、私自身の考えや、世の中の動きを踏まえて興津螺旋がどう変わっていくかなどを文章化しています。全社会議の際にも、経営計画書のエッセンスをもとに、興津螺旋が目指す姿を伝えるようにしています。
求めるのはプラスのビジョンを持ち、前向きに取り組める人材
――柿澤社長が組織づくりにかける思いを教えてください。
当社の社風として「言いたいことは臆せず伝える」風潮があります。言いたいことを我慢するストレスを抱えるくらいなら、「言えば何かが変わる」という思いで話してほしい。そのように社員に伝えていますし、実際に社員の一言が現状を変えていく原動力になったケースもあります。
例えば、先に述べた「ねじガール」についても、当時は女性の職業選択として工場勤務は一般的ではなく、初期に入社した女性社員たちも周りの反対などにあったのではないかと思います。でも、その分「自分の思いを伝えたい」という気持ちが強かったようで、処遇や仕組みなどについてさまざまな提案をしてくれました。それが従来のやり方を改善する契機となり、多くの社員に会社をより好きになってもらうきっかけにもなりました。
そのような改善への意識はその後も脈々と受け継がれており、フランクに何でも伝えてくれる社員が多いですね。私自身も互いの考え方を知ることが大事だと考えていますし、まずは社員一人ひとりの話を聴くように心がけています。
――興津螺旋ではどのような人物を求めていますか?
「仕事を通して自分を成長させたい」「リスペクトできる仲間がほしい」という志向を持った方に来ていただきたいと考えています。逆に、人とのコミュニケーションが苦手だから工場の仕事ならできるだろうといった、消去法で職業を選択する方は当社に向かないかもしれません。
ぜひ、自分の活躍イメージを持ちながら、プラスのビジョンを持って入社していただきたいですね。壮大なものでなくても、会社に何かしらの夢や希望を持ってきてくれたら嬉しいなと思います。そのうえで、会社の業務に取り組みながら、気づいたことや改善点など前向きな意見を発信していただける方を求めています。
私たちが製造する「ねじ」は、表舞台に立つことは少ないものの、産業界には欠かせない重要な部品です。これと同じように、世の中や組織には目立たない場所で努力し、支えている人々がたくさんいます。見えないところで働く人たちの存在が、実は組織や社会の基盤を支えているのです。
私たちは、製品がどれだけ重要な役割を果たしているかを理解しているからこそ、働く人たちの見えない努力にも目を向けています。その努力を評価し、尊重することが、組織全体の成長と成功につながると信じています。一人ひとりが自分の能力や情熱を信じ、自分らしい道を選ぶことが大切だと考えています。
――最後に、求職者のみなさんへメッセージをお願いします!
会社に入ったら大変なことはたくさんありますし、組織を良くしようと思う人ほど苦労もあるでしょう。そのようななかでも、社員一人ひとりが「このメンバーと一緒なら頑張れる」「この人なら信じられる」と感じながら働きつづけられる環境づくりを大事に、今後も組織の力を高めていきたいと考えています。興津螺旋の未来を一緒に作りあげていただける方のご入社をお待ちしています。