今回お話してもらうのは、データサイエンティストの椎名さん・坂本さんです。インタビュー前編では、AiCANへの入社を決めた背景や、「猫の写真判定」を例に機械学習の仕組みを教えてくれました。機械学習担当の椎名さんと、統計解析担当の坂本さん、それぞれ得意分野の違う2人。後編では、統計解析の仕組みや、児童相談所へ視察に行ったエピソードが飛び出します!
▼前編はこちら!▼
椎名 拳太/Kenta Shiina【写真左】
理学博士。大学院での研究テーマは、物性物理学における深層学習を用いた計算手法の開発。
2022年4月より株式会社AiCANに所属。仕事のエネルギー源は糖分ではなくコーヒー。
大学の山岳部から登山をはじめて10年以上。休日は、釣りなどアウトドア全般を楽しみ、
最近は野菜作り、DIYにも手を出しているとか。モットーは「生活を手元に」
坂本 次郎/Jiro Sakamoto【写真右】
大学院では臨床心理学を学び、統計解析を用いた研究に取り組む。2020年より、サポートメンバーとして株式会社AiCANに所属、2022年4月より正規メンバーとしてジョイン。
おいしいものとおいしい顔が大好きで、休日は友人に手料理をふるまうこともあるとか。
同僚の影響で登山にハマり中。「登山用のレインウェアを買ってから、雨の日の出社が楽しみ」
全体の傾向を捉える、統計解析
ーー前編では「機械学習」の話がたくさん出てきましたが(記事はこちら)、「統計解析」についてもお話を聞きたいです。
坂本:機械学習とも似通う部分があるので、明確に切り離すことはできないけど、データを使って「全体的な傾向に関する知識を得る」のが統計解析。「グラフから読み取る」ようなイメージだけど、単なる集計によるグラフの出力を超えて、「得られた値の間に、確かな差があるか?偶然得られた差なのか、なにか理由があるのか?」を明らかにします。
統計学は、「差があるかどうか」「2つの物事に相関関係があるかどうか」という情報から、知識や意味を抽出していくことを骨格の一部とした学問です。統計解析は、集団の傾向という意味での「平均値」を扱い、機械学習は「全体平均」よりも細やかに情報を取り扱うのが違うところ。でも「分析に使える形にデータを整えて、モデルに当てはめる」というプログラムで行う作業の流れは似ています。
機械学習なら機械学習モデル、統計解析なら「統計モデル」にデータを当てはめていく。統計モデルというのは、知りたい指標…差の大きさや関係の強さに関する平均値と、偶然得られる範囲を求めてくれるもの。
椎名:「入力と出力の関係をモデルが学ぶ」という意味では、機械学習も統計解析も同じだと思う。違うのは「確率的に扱うかどうか」。猫の画像判定に例えるなら、学習済みの機械学習モデルは、同一の画像を入力したときに「猫である」というような、同一の出力をするけど…
坂本:統計モデルの場合「平均が確率的にとりうる範囲」を求めてくれるので、「80% ±5%の確率で猫である」みたいな幅が出てきます。このあたり、正確に説明しようとすると難しいけど…僕が使っているのは、統計学の中でも「ベイズ推定法」という方法です。
坂本:具体的な例としては「一時保護をしたとき、再虐待の発生を防止する効果があるか」という全体の評価や、「虐待通告が増えているけれど、将来どういう件数になるか」という全体の傾向の予測。例えば「右肩上がり」といった全体の傾向を捉えることができれば、未来も予測できます。
お互いの得意を掛け合わせて
ーー機械学習と統計解析、異なる技術を使う2人ですが、どうやって分担しているんですか?
坂本:まず、サービスを提供する中で「データ分析が必要な課題」があって。その課題を解く手段として、統計解析/機械学習どちらが適切かで振り分けて、課題ごとに1つのプロジェクトとして管理している感じです。
1つの課題に対して、どちらも組み合わせないといけないときは、この部分は機械学習・この部分は統計解析でやろうか、とチームで認識をすり合わせます。それから、自分が書いたプログラムをお互いにチェック(コードレビュー)したり。
お互いの専門分野について相談することも多くて。僕は、アセスメントとか児童福祉の現場の知識について聞かれることが多いかな。子ども虐待の研究をしてきたわけではないけど、心理学を勉強してきたので、事例をどう捉えるかという素養はベースにあるので。
椎名さんは、やっぱり物理をやってきた人でもあるから「数学の基礎体力」というか。数理とか、計算・処理方法を聞いたり相談させてもらうことが多いです。本当に二人三脚というか、彼がいなかったら、自分の体半分ないような感じ…。
椎名:次郎さん(坂本)は、課題に対して、最初に構成をまとめてくれています。プロジェクトや委託調査があったら「これにはこう答えないといけない」とか…0から10までの枠をつくる天才なので。
坂本:いやいや(笑)。今日は2人で話しているけど、DSチームには「地理空間分析」という面白い技術を持っているメンバーもいるんです。データ分析の結果を表現する方法って、グラフだけではなくて。「どういう場所で何が起こっているか」地図で見せることもできるし、地図という空間で起こっている出来事から背景にある原因を探ることもできる。
椎名:最近は、e-Statで公開されているオープンデータから、社内向けのダッシュボードをつくってくれていました。虐待相談対応件数や一時保護された子どもの数など、色々なデータを地域ごとに比較したり、時系列の推移が一目でわかる優れモノです。今度、ぜひ彼もインタビューしてください(笑)
ユーザーとの距離の近さが魅力
ーー4月からもうすぐ半年が経ちますが、振り返ってみてどうですか?
坂本:いやあ…4月1日は、皆でデスクを組み立ててました(笑)。真面目な話「解析環境を整える」ところからでしたね。データの取扱いには、最大限の慎重さが求められるので、解析用端末のセキュリティ環境を整えたり。
椎名:5月には、サービスを提供している児童相談所へ視察に行かせてもらいました。職員の方から「こんなことがわかる機能があったらいいな」という話が聞けたら嬉しいと思っていたけど、そういう意見をもらうことはなくて。そもそもデータ分析に馴染みのない現場の方にとっては、データを使うとどんなことがわかるのか、イメージが湧きにくいという実態がわかりました。
坂本:現場の肌感覚を知るのは大事。児童相談所はどういう時間の流れ方なのか…忙しそうにしているとか、職員さんはどういう言葉を使っているのか、虐待対応についてどんな捉え方・考え方の枠組みを持っているのか、とか。言葉にできない色々な情報があって、その場に身を置くことによってわかる。いい経験だったよね。
椎名:特に自分が印象的だったのは、実際にAiCANアプリを使っている様子を見られたこと。以前、髙岡さんの研究でいくつかの児童相談所へ調査に行ったこともあったので、何となく現場の業務の流れは知っていたけれど。その中でAiCANアプリがどんなふうに使われているのか、全然イメージが描けていなくて。現場に行って、ユーザーの実態を知ることができたので、今後に活かしたいです。
坂本:現場の様子を見たことで、新しい機能を考えたりするときに「これ、あの場面で使えるかも」という具体的なイメージを持って考えられるようになりました。それから、AiCANサービスに含まれる業務傾向分析では、分析を行うだけではなく、その結果の説明に伺うこともあって。分析結果をどんな見せ方で提示したら良いか、どんな言葉を使えばより伝わりやすいのか…そういう視点でも、現場感覚を知ることは大切です。
椎名:「現場との距離が近い」という魅力はめちゃくちゃあると思います。一番距離が近いのは営業チームだけど、あまりチームの垣根がない会社だから、CS担当から「ユーザーさんはこんなふうに使っているよ」という話を聞いたりとか。
基盤整備からゼロベースでつくる楽しさ
坂本:いやあ、振り返っても充実しかないよね。本当にゼロベースで「児童福祉のデータサイエンス」を自分たちがつくろうとしているので。AIを導入するとなったら、実際にはめちゃくちゃやることがあって、準備・計画・設計…倫理の観点も大事。そういう基盤を整えながら、未来にちゃんと効果を出していくためにはどうしたらいいのか考えて。それこそデスクを組み立てて、社内LANをつくるところから始まって、技術や情報の管理体制を整えていったり。ひとつ一つ自分たちでつくりあげていく、新しいものをつくっていく楽しさがある。
それから個人的には、自分1人では解けないすごい巨大な問題が目の前にあって、どうすればちょっとでもいい方向にもっていけるのか、毎日考えられるのは嬉しいですね。とても充実している感覚です。
最初は何が何やらわからないことだらけで。皆と頑張ってきて、開発の枠がようやく見えてきた。最近「突然見えてきた」みたいな感じ(笑)。新築の家に足を踏み入れたときって、どんな土台があるかは見えないじゃない?既に完成している物に入っていくのも嬉しいけど、どういう経過でできあがったのか…そのひとつ一つを自分たちでつくるというのは、なかなか味わえない。
椎名:そうそう。自分がAiCANの入社を決めたのは「自分でつくっていけるから」というのも大きい。うちは、基盤整備からゼロベースでやっているので、そういう部分に惹かれる人はいるんじゃないかな。ぜひ来てほしいです。
坂本:それから、「1人ではできないことが、チームだからできている」のがすごく嬉しいです。得意不得意があって、自分1人だと止まっちゃうこともたくさんあるけど、力強いメンバーが切り開いてくれる、自分ができないことをやってくれる。
椎名:自分がやっていること以外、あとは全部他の人がやってくれているわけなので。皆がいなかったら、何もできない(笑)。支えていただいているという気持ちですね。
坂本:現場の人に分析結果をわかりやすく伝えるにはどうすれば良いか、営業チームと一緒に考えたり。AiCANアプリをアップデートするときにも、データ分析の仕事が生まれるし…日々、皆と協力して進めていますね。
ーー今日はとても勉強になりました。長丁場でしたが、1つ1つ真剣に説明してくれて…
坂本:仕事柄、すぐ厳密になろうとしちゃう(笑)。真面目なチームです。
この記事、転職したい人が読んでくれるんだよね?何かアピールしておくことあるかな?
椎名:「DS部あります」とか。
- (注)DS部:Donichi Stoic=土日ストイック部。入部条件は土日を楽しむ人。
坂本:ははは(笑)。社内制度とかじゃなくて、僕たちが勝手に言い始めたんだけどね。
椎名:一応、部長やってます(笑)。
坂本:趣味の話させても、ものすごい真面目かもしれない。
椎名:「なぜ山に登るのか」とか。
坂本:「山におけるリスク管理について」とか(笑)。
いかがでしたか?インタビューは2時間に及びましたが、まだまだ話が尽きない様子です。次回は登山の話も聞いてみたいですね。読者の皆さんに、DSチームの楽しげな様子や仕事への真剣な姿勢が伝わっていると嬉しいです!
AiCANでは、彼らのような素敵なメンバーたちが活躍しています。
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(取材・文/Akane Matsumura)
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