「会社は順調ですか?」
2026年3月期に売上高1,057億円を記録したボルテックス。その代表取締役社長 兼 CEO・宮沢文彦にそう聞いたとき、返ってきたのは意外な言葉でした。
「ようやく、スタートラインに立ったくらいです」
ボルテックスが次に掲げるのは、10年以内に売上高1兆円を達成すること。
ただ、その言葉の背景にあるのは、単なる規模拡大への意欲ではありません。事業領域を広げ、海外へ進出し、不動産と金融の境界を越えていく。M&Aによって新しい会社が加われば、これまでボルテックスにはなかった専門性や役割も必要になります。
これから入社する人が向き合うのは、完成された仕組みを引き継ぐ仕事だけではありません。会社そのものが大きく姿を変えていく過程に、当事者として関わることになります。
宮沢は、この先の10年を「一番充実した10年間になる」と言います。
1,000億円を超えた会社が、なぜ自らを「スタートライン」と呼ぶのか。ボルテックスは、この先の10年で何を変えようとしているのか。
そして、その変化の中で働くことには、どんな面白さがあるのでしょうか。
1,000億円は、まだスタートライン
ーー売上高1,000億円を超えた今を、どう捉えていますか。
まだ、世の中に何かしらのメッセージを届ける、そのスタート地点に立ったくらいだと思っています。私たちはまだ、何も世の中を変えられていません。
ーー1,000億円を超えても、まだスタート地点なんですね。
そうですね。
ただ、以前とは明らかに違うことがあります。大きく三つです。
一つは、認知です。
VORT®シリーズが都心に200棟以上となり、不動産投資に詳しくない方にも、私たちの存在を知っていただけるようになってきました。
二つ目が、資本です。
総資産は2,548億円、お客様からお預かりしている資産の時価総額も8,000億円を超えました。以前に比べれば、やりたいことを実行できる選択肢はかなり増えています。
そして三つ目が、人です。
これまでは育成を前提とした採用が中心でしたが、今は即戦力となる一線級の方にも来てもらえる会社になってきました。
認知、資本、人。
この三つが揃ってきたことで、それなりの規模の会社をM&Aすることも、新しい事業を始めることもできる。以前であれば構想で終わっていたことを、実際に動かせるようになってきたんです。ようやく、複数のことを同時に仕掛けられるだけの体力がついてきた。だから、私にとって1,000億円はゴールではありません。
ここから世の中に何かを問いかけていくための土台が、ようやくできてきたという感覚なんです。
会社を大きくする理由は、20年前から変わっていない
ーーその「世の中に問いかけたいこと」は、創業当時から変わっていないのでしょうか。
根本は変わっていません。
私は創業当時から、お客様の将来や会社の未来にとって、本当に必要だと思うことを伝えたいと考えていました。もちろん、この20年で伝え方は大きく変わりました。経験も積みましたし、経営者の方々が何を考え、何に悩むのかも以前より理解できるようになった。
ただ、「相手のためになることを伝えたい」という想いそのものは変わっていません。20年ほど前の商談では、今振り返るとかなり激しい場面もありました。
何度も「もう帰れ」と言われましたし、灰皿を投げられたこともあります。当時の私は、伝え方の引き出しも少なく、今以上に未熟でした。
それでも帰らなかったのは、売り込みたかったからではありません。本当に必要な提案だと思っていたからです。
ーー売る側と買う側、という関係を超えていた。
そうですね。
日本の経営者にとって本当に重要だと思うことを伝えに行っていた。「これは理解してもらわなければならない」という思いが強くありました。
結果としてお客様にならなかったとしても、その方の価値観に何かしらのインパクトを残す。そういう姿勢は、今も変わっていません。
ーー会社の規模が大きくなったことで、言葉の届き方も変わりましたか。
大きく変わりましたね。
20年前は、何の実績もない私が、自分の考えを必死に伝えていた。
今は、ボルテックスが積み上げてきた実績があります。その実績を背景に発する言葉には、当時とはまったく違う重みがある。
そう考えると、売上高1兆円という規模になったとき、私たちの言葉が持つ影響力はさらに大きくなるはずです。
ーーつまり、会社を大きくすること自体が目的ではないということでしょうか。
そうですね。
私は、あまり「会社を大きくしたい」という感覚で経営しているわけではありません。
私たちが向き合っているのは、世の中にある固定観念や、当たり前とされている考え方です。
そこに新しい選択肢を示して、少しずつ変えていきたい。売上はそのためのマイルストーンの一つであって、目的は世の中を変えることにあるんです。
大型化、小口化、海外へ。会社そのものが変わっていく
ーーその目的を実現するために、これから事業をどう広げていくのでしょうか。
大きく二つの方向があります。
一つは、既存の区分所有オフィス®という商材で、扱う物件そのものを大型化していくこと。
もう一つは、供給の仕方を逆に小口化していくことです。
扱う資産は大きくしていく。一方で、一口あたりの投資単位は小さくして、より多くの方が参加できる形にしていく。
その両方を進めていきます。
ーー大型化によって、顧客層も変わっていきますか。
これまで、個人の富裕層から始まり、東京の中小法人、そして現在は地方の中堅企業へと顧客層を広げてきました。
この先に見ているのは、上場企業を含む、より規模の大きな企業です。大型のオフィスビルを自社ビルとして活用していただくような実需販売は、今後かなり重要になってくると思っています。
一方で、価値の高い資産を一部の大企業だけが保有する状態が望ましいとも思っていません。
だからこそ、小口化も進める。
若い投資家や、NISAをきっかけに投資を始めた方にも、東京の商業地にあるオフィスビルという、私が考えるアセットの最高峰にアクセスできる選択肢を提供していきたいんです。
ーーオフィス以外にも広がっていくのでしょうか。
広げていきます。
アセットタイプでいえば、現在のオフィスを中心に、店舗、商業施設、物流施設、データセンターなどへ広げていく。
エリアについても、すでにドバイで動き始めていますし、北米も視野に入れています。さらに、ファイナンスや保険、投資顧問など、不動産をより金融に近づけていく動きも進めたい。
整理すると、単一事業から複数事業へ。国内から海外へ。不動産から金融へ。この三つの方向に広げていくイメージです。
既存の区分所有オフィス®の事業を7,000億円ほどの規模まで伸ばしながら、それを新規事業やM&Aで補完していく。前年比130%程度の成長を9年、10年と積み重ねた先に、売上高1兆円という規模が見えてきます。
ーーそれだけ事業が広がれば、働く人の役割もかなり変わりそうですね。
そうですね。
海外へ進出すれば、その市場や商習慣に対応する知見が必要になる。金融領域へ踏み込めば、不動産だけではない専門性が求められる。M&Aによって新たな会社が加われば、その事業を伸ばしていく役割も生まれます。今ある職種や役割だけで、この先の10年を担うことはできません。
事業が変われば、会社に必要な人も、仕事も変わっていく。これからは、そういう変化が次々に起きると思います。
事業は広げる。でも、何でもやるわけではない
ーー1兆円に向けて事業領域を広げる一方で、「やらないこと」はどう決めているのでしょうか。
判断軸は一つです。
私たちのパーパスの実現につながるかどうか。
ボルテックスが掲げるパーパスは、「経営に新常識をもたらし、富の再分配を実現することにより、社会における格差の拡大とそれによる分断を是正する」というものです。
たとえば、住宅メーカーを買えば、その分だけ売上が増えるのは当たり前です。でも、そこに「私たちがやる必然性」がなければ、やる理由はありません。売上が増えるかではなく、この目的に近づけるかどうか。それが、新しい事業に取り組む基準です。
ーーなぜ、そのために事業の入り口を増やす必要があるのでしょうか。
一つの商材、一つの売り方だけでは、共感してくださる方を十分に増やせないからです。人によって、価値を感じる入り口は違います。上場企業に向けた自社ビルもあれば、小口化された不動産商品もある。保養所や別荘という選択肢もある。
入り口はいくつあってもいい。
ただ、希少性や資産性の高いものを、より多くの人に届けていくという考え方は一貫しています。
その構想は、すでに動き始めています。2026年2月には、都市型収益マンション「プレール・ドゥーク」シリーズを展開する木下不動産をグループ化し、都市型収益マンション市場へ本格進出しました。
続いて、軽井沢で30年以上の実績を持つクリエイトホールディングスをグループに迎え、高級別荘の領域へも事業を広げています。1兆円に向けて事業の幅は広がっていく。ただし、何でも手を広げるわけではありません。
ボルテックスがやる意味があるのか。その基準だけは、変わりません。
東京の一等地を、一部の人だけのものにしない
ーーパーパスにある「富の再分配」は、具体的にはどう事業につながっているのでしょうか。
私たちが扱っているのは、不動産の中でも特に希少性の高い、東京の商業地の所有権です。
東京の主要5区にある商業地は、日本の国土全体から見ればごく限られている。一方で、そこには非常に大きな価値が集中しています。
その限られた資産を、一部の企業や富裕層だけが持てるものにしておくのではなく、より多くの人がアクセスできる状態をつくりたい。だから、小口化を進めています。
ーーすでにある市場に商品を出すのではなく、市場そのものを広げようとしている。
そうですね。
株式投資は、この35年でかなり身近なものになりました。
一方で、不動産の投資マーケットは、株式と比べればまだ十分に開かれていません。だからこそ、努力次第でマーケットそのものを広げられると思っています。
私たちがやっているのは、需要創造であると同時に、マーケット創造なんです。富が一部に偏れば、持てる人と持たざる人の差は大きくなっていく。その先にあるのは、社会の分断です。
だからこそ、私たちは逆の方向へ進みたい。
希少性の高い資産を、一部の人だけのものにせず、より広く持てるようにしていく。まだ大きな流れを変えられるほどではないかもしれません。でも、小さな石から風向きが変わることは、歴史の中でいくらでもあります。
すでにあるマーケットを追いかけるのではなく、その先にある市場そのものをつくる。それが、今の事業の広がりにもつながっています。
最初から、全部わからなくていい
ーーここまでのお話を、すべて理解して共感している人が入社したほうがいいのでしょうか。
いえ、そこまで求めるのは難しいと思いますよ。
何回か面談をしただけで、すべてが腹落ちする方は多くないと思います。
入社したとしても、頭では理解できても、本当の意味で腹落ちするまでには何年かかかるかもしれない。お客様だって、一回や二回話しただけですべてを理解してくださるわけではありませんからね。
私自身も、創業したときから今のようにすべてを言語化できていたわけではありません。
最初は、なんとなくの義憤のようなものがあった。それが事業を続けていく中で、少しずつ言葉になっていったんです。
ーーでは、最初はどんな志望理由でもよいのでしょうか。
そうです。
「この会社は何か面白そうだな」とか、「これから何か大きなことが起きそうだな」と感じてもらうところからでもいいと思っています。
実際に仕事をして、お客様と向き合って、事業が広がっていく過程に関わる。
その中で、「自分たちがやっていることは、こういうことだったのか」と少しずつ実感していけばいい。だから、最初から正解を持っている必要はありません。
むしろ、これから起きることを面白がって、一緒に考え続けられる人のほうがいいと思っています。
求める条件は、一つだけ。投げ出さないこと
ーーでは、どんな方と、この先の10年を一緒につくっていきたいですか。
求める条件は、一つだけです。
投げ出さないこと。
正直、ある程度「勝ち馬に乗る」という入り方でも、私は別にいいと思っているんです。人は変われると思っているので。
最初からすべてに共感していなくてもいい。とにかくやってみようという強い気持ちがあればいいと思っています。
ただ、時間はかかります。どこかで「なんか違うな」とすぐに辞められてしまうと、そこまでかけてきた時間や愛情が無駄になってしまう。
私自身も時間には限りがあります。全力をかけられるのは、この先10年くらいの話だと思っていますから。人を育てることにも、会社を変えていくことにも、私は全力を尽くすつもりです。
厳しいこともあると思います。
でも、私たちは絶対にやりきるし、変えてみせます。
ーー宮沢さんにとっても、この先の10年は特別な時間になるのでしょうか。
おそらく、一番充実した10年間になります。
今まで以上に難易度の高い挑戦を重ねながら、成長して実現していく。そういう時期の企業で働く機会自体が、そもそも非常に限られていると思います。
そしてこれからは、私たちがやってきたことが、大きなパーパスと結びついていることを、現実として少しずつ体感できるようになる。
今までは正直、「これは富を再分配できたな」と実感できるほどの規模ではありませんでした。でも、会社が大きくなり、事業が広がっていけば、自分たちの仕事が社会に与えている影響も、少しずつ実感できるようになると思っています。
1,000億円は、まだスタートラインです。
すでに完成した会社に加わるのではなく、会社そのものが大きく変わっていく過程に、当事者として参加する。
ボルテックスが言う「これからの10年」の面白さは、その変化を外から眺めるのではなく、自分自身がその一部になれることにあるのだと思います。
ーー宮沢社長、ありがとうございました!