2026年9月25日、GS代表の戸井と一緒に、Wantedlyの「FUZE2026」に参加してきました。今回、会場で何度も登場した少し変わった言葉があります。「原液」です。会社にはミッションやビジョン、バリューがありますが、今回の「原液」は、それらをもう一段掘り下げたところにあるものとして扱われていました。
この会社は、何のために存在しているのか。そして、何かと何かの間で迷ったとき、どちらを選ぶ会社なのか。AIによって採用も仕事そのものも大きく変わろうとしている今だからこそ、会社の中にある「変わらないもの」を改めて考える。今回のFUZE2026では、freee共同創業者の話を聞くだけでなく、最後には私たち自身もカードと鉛筆を持って、GSの「原液」を実際に掘ってみました。
AIが採用業務をできるようになった後、人には何が残るのか
最初のExpert Sessionのテーマは、「AI時代の採用に必要な“原液”とは」。登壇したのは、人材研究所代表の曽和利光さんと、freee共同創業者兼CAIOの横路隆さんです。
冒頭で提示された問いは、とてもシンプルでした。スカウトの文面も書ける。募集記事の下書きもできる。面接後の評価メモもまとめられる。こうした採用業務をAIが担えるようになったとき、人間に残る仕事は何なのか。
話を聞いていると、それは単なる「AIを採用でどう使うか」という話ではありませんでした。むしろ、「そもそも、自分たちはどんな会社なのか」「どんな人と一緒に働きたいのか」を、今まで以上にはっきりさせる必要があるという話につながっていきました。
freeeが「Done by You」から「Done for You」へ向かう理由
横路さんからは、freeeがAI時代にどんな変化を進めているのかが紹介されました。印象に残ったのが、「Done by You」から「Done for You」へ、という考え方です。
これまでのSaaSは、人がソフトウェアを操作して仕事を終わらせるものでした。経費を入力する。仕訳を確認する。給与計算をする。つまり、便利にはなっても最後まで仕事をするのは人間です。一方、AIエージェントが本格的に使われるようになると、必要な情報が集まり、処理され、仕事そのものが終わっているという体験を目指せる。「自分でやりやすくする」から、「自分のためにやってくれる」へ、という変化です。
ただ、横路さんの話で特に面白かったのは、これを単なるAI戦略として説明していなかったことです。freeeには「スモールビジネスを、世界の主役に。」というミッションがあります。そして「マジ価値」と呼ばれる価値基準があり、目の前のお客様にとって本当に価値があると信じられることをやる、という考え方が組織の中に根づいているそうです。
だから「Done for You」も、AIが流行ったから突然生まれた方向性ではありません。技術は変わっても、「お客様に本当の価値を届ける」という根っこは変わらない。環境が変化した結果、その原液を今の時代に合った形へ翻訳したものなのだと思いました。
社長が判断しなくても、「その会社らしい判断」ができる組織
その後のクロストークでは、freeeのカルチャーがどう作られてきたのかという話にも入りました。横路さんによると、創業してまだ数年という早い段階から、会社を大きくしていくことを考えていたそうです。
会社が大きくなれば、すべての判断を創業者がするわけにはいきません。そこで目指したのが、「社長の承認を取らなくても、組織のいろいろな場所でfreeeらしい意思決定が生まれる状態」でした。そのために、行動基準をつくった。
ここは非常に印象的でした。ミッションやバリューというと、つい「会社として格好いい言葉を作る」ことを考えてしまいます。でも本来必要なのは、迷ったときに判断できる言葉なのかもしれません。
そして、その価値観も最初から空中で考えるのではない。これまで自分たちはどんな意思決定をしてきたのか。どんな行動を見たときに「この人はうちらしい」と感じたのか。社内で誰が活躍し、なぜその人が周囲からリスペクトされているのか。そうした実際の出来事から、自分たちの価値観を掘り起こしていく。
横路さんが最後に話していた、「抽象論から始めるより、実際に活躍している人や具体的な事例から紐解いた方が近づきやすい」という話は、その後のワークショップにもそのままつながっていました。
「この理念に共感しますか?」では候補者を見極められない
クロストークでもう一つ面白かったのが、採用面接の話です。会社がミッションやバリューを公開して、「この理念に共感しますか?」と候補者に聞いても、見極めにはなりません。当然、多くの候補者は「共感します」と答えます。
そこでfreeeでは、価値観そのものではなく、過去の具体的な行動を聞くそうです。「これまで、似た考え方で行動した経験はありますか?」「そのとき、なぜそうしたのですか?」「なぜ、そう考えたのですか?」と、具体的な出来事と、その裏側にある考え方を行き来しながら、2回、3回と掘っていく。そうすると、単に面接のために用意した回答なのか、その人自身が本当にそういう判断をしてきたのかが少しずつ見えてくる。
また、カルチャーフィットを強くしすぎることによる問題についても話がありました。全員が完全に同じ考え方である必要はない。根本にある理念は共有する。それ以外は、多様でいい。最初から完璧に会社のスタイルに合っている必要もなく、入社後に成長できる部分は育てればいい。「絶対に必要なもの」と「これから伸ばせるもの」を分ける。採用を考える上で、とても参考になる考え方でした。
AI時代、人は「AIエージェントのマネージャー」になる
話はさらに、AIによって仕事そのものがどう変わるかにも広がりました。これまで人がパソコンに向かって行っていた仕事の多くを、AIエージェントが担当するようになる。そうすると、エンジニアやデザイナー、プロダクトマネージャーも、ただPCの前で作業するだけではなくなります。
もっと顧客と直接向き合い、「本当に困っていることは何なのか」「本人もまだ言葉にできていない課題は何なのか」を見つけることが重要になる。営業やマーケティングでは情報入力や引き継ぎなどをAIに任せ、コーポレート部門でも集計や資料作成をAIに任せる。その上で人間は、どこに問題があるのか、どこに意思を込めるのか、最後に何を決めるのか、という仕事へ移っていく。
横路さんの表現を借りれば、一人ひとりが少しずつ「AIエージェントのマネージャー」になっていく世界です。仕事のやり方は大きく変わる。それでもfreeeでは、「お客様に価値を届ける」という根っこは変わらない。むしろ変化が大きいからこそ、変わらない軸が必要になる。ここが、今回のセッション全体を通じて一番印象に残ったところでした。
今度は、自分たちの「原液」を書いてみる
セッションの後、そのまま50分ほどのワークショップに参加しました。テーマは、「自社の原液を探る」。考え方は、とても分かりやすいものでした。
ミッション・ビジョンは「どの山に登るのか」。そして行動指針は「その山をどう登るのか」。さらに「山の登り方」は、全員同じフォーマットで「AよりもBを重視する」と表現します。
一見、簡単そうに見えます。でも実際に書いてみると、これがなかなか難しい。「挑戦を大切にする」「成長を大切にする」なら、いくらでも書けます。でも、「AとBがぶつかったとき、本当にどちらを選ぶ会社なのか」まで決めると、ごまかしが効かなくなります。
GSの登る山は「未来を担う若手に最強の応援を」
私が最初のカードに書いたGSの「登る山」は、「未来を担う若手に最強の応援を」でした。そして、その言葉をその場でもう少し分解してみました。
私たちが考える「若手」は、特にIT未経験からこれから成長していく人たち。「未来を担う」は、単に年齢が若いということではなく、これから社会の中核を担っていくこと。そして「応援」とは、単に何かを教えることだけではない。教える、機会を与える、その人が次のステップへ進める環境をつくる。そういうものを含んでいます。
さらに「その山をどう登るのか」を考え、カードには、「全員を同じように育てるよりも、個人の強みを生かす」と書きました。
IT研修だからといって、全員をまったく同じ形のエンジニアにする必要はありません。もちろん、仕事をする上で共通して必要になる基礎はあります。でもその上で、一人ひとりの得意なことや強みを見つけ、その人が力を発揮できる仕事や機会につなげる。それも、GSが考える「応援」なのだと思います。
一年前に入社した一人のメンバーを思い出した
ワークショップでは、「その考え方が実際に表れた出来事はありますか?」と聞かれました。そこで思い出したのが、昨年入社した一人のメンバーです。
入社した当初はIT未経験で、コミュニケーションにも少し苦労していました。そこから、研修を担当するメンバーたちが時間をかけてサポートしてきました。ちょうど今回のイベントの前日、入社から約一年が経ったタイミングで本人と面談をしました。一年前と比べ、話し方もずいぶん変わっていました。今の現場の仕事も楽しいと言っていました。
そのことを社内で講師陣にも共有すると、みんなとても喜んでいました。自分たちが支えてきた人が、一年後、本当に変わっている。そして、支えている側のメンバーもまた若い。若手が、次の若手を支えている。
「未来を担う若手に最強の応援を」という言葉は、こういう場面のことなのかもしれません。きれいな理念を何行も説明するより、一つの実際の出来事の方が、GSという会社をよく表しているように感じました。
最後は「候補者をどう見極めるか」まで考える
ワークショップ後半は、今度は緑色のカードを使いました。テーマは、「候補者を見極めるための質問を設計する」。
ここで私が置いた行動指針は、「指示通りにやるよりも、自分なりの考えを持って動くことを重視する」でした。具体的には、分からないことがあっても、まず自分なりに調べる。質問するときにも「分かりません」だけで終わるのではなく、自分の考えや仮説を持ってくる。そして失敗した場合には、その原因を考え、次の行動を変えていく。そんな人をイメージしました。
そして、それを候補者にどう聞けばいいのかを考えます。ここで「自分で考えて行動することは大切だと思いますか?」と質問しても、あまり意味がありません。ほとんどの人が「大切だと思います」と答えるからです。
そこで、「これまで、どう進めればいいか分からない仕事を任された経験を教えてください」と聞く。さらに「最初に何をしましたか?」「なぜそうしましたか?」「誰かに聞く前に、自分では何を調べましたか?」「うまくいかなかったとき、次に何を変えましたか?」と掘っていく。
候補者が会社の理念に共感すると言うかどうかを見るのではなく、その人がこれまで、実際にどう判断してきたのかを見る。ここで、先ほどのfreeeのクロストークとワークショップが一本につながりました。
AI時代だからこそ、「何を大事にする会社なのか」が重要になる
今回FUZE2026に参加する前は、「AI時代の採用」がテーマなので、AIを採用業務にどう使うのかという話が中心になるのかなと思っていました。実際には、むしろ逆でした。
AIはスカウトを書ける。募集記事も作れる。面接内容も整理できる。そして、仕事そのものまでAIエージェントが実行するようになっていく。だからこそ、「私たちは何を大事にする会社なのか」が以前より重要になる。
AIは、言葉をきれいに整えることはできます。でも、何かと何かがぶつかったときに、「自分たちはこちらを選ぶ」と決めるのは会社自身です。その答えも、どこかの企業のバリューを真似して作るものではないのでしょう。
自分たちは、これまで何を選んできたのか。誰を見て「この人はGSらしい」と思ったのか。どんな出来事を、みんなで本当に喜んだのか。そんな具体的な出来事を一つずつ掘っていった先に、その会社の「原液」がある。
今回、代表と一緒に参加し、自分たちで実際にカードを書いてみたことで、「未来を担う若手に最強の応援を」という言葉についても、もう一段深く考えるきっかけになりました。これからGSでも、「最強の応援とは、具体的にどんな行動なのか」「その応援を、自分自身の成長につなげられる人とはどんな人なのか」をさらに掘り下げていきたいと思います。