仕事は面白がったもの勝ち!巨大組織を支える法務で、キャリアを磨く先輩たち | PEOPLE×WORKS
法務部門は、一人ひとりが多様なバックボーンをもつ"プロフェッショナル集団"。世界中にビジネスを展開するシャープ全社の法務案件に70数名のメンバーが対応しています。日々何を思い、どんな環境でどんな...
https://www.wantedly.com/companies/company_1113142/post_articles/1004862
今年4月、シャープ法務部はより経営に近い「法務本部」へと格上げされました。これまで以上に経営戦略や事業展開に深く関わり、経営層の意思決定をサポートする部署となったわけです。経営を支える“強い法務”になるための秘策とは何か。本部を率いる山崎さんと部長の山形さんに聞きました。
〈PROFILE〉
山崎 理志/法務本部 本部長 (写真:右)
1991年入社。5年間、電子部品事業本部(当時)で輸出管理、原価管理などに従事した後、96年に法務部門へ異動し、イタリアでの合弁会社設立や液晶子会社の株式売却、米国・韓国の大手企業からの出資受入れ、鴻海との資本提携などを担当。2019年に法務部部長とグローバル法務責任者に就任。2025年4月より現職。2021年より関西学院大学法学部の非常勤講師も務める。
山形 知彦/法務本部 部長 (写真:左)
1989年の入社から15年間、「Zaurus」や「Mebius」等の情報機器を扱う法人営業に従事。2004年に社内公募制度でモバイル液晶事業本部(当時)へ異動。車載向けなど液晶開発に携わる。その後、事業本部で得た知見を法務に活かしてほしいとの要望を受けて法務部へ。組織改革に貢献し、現在に至る。
ーー今、法務部門に求められているものは何ですか?
山崎: 法務が強い会社は経営が安定します。たとえば“契約”は、法務がその内容をしっかりと確認することで、思うように事業を進めるアクセルになるし、“コンプライアンス”は会社のリスクを未然に防ぐブレーキになる。今回、本部組織になったということは、「これまで以上に経営の安定に貢献してほしい」という経営陣からの期待の表れだと受け取っています。
シャープでは、投資やM&A、訴訟紛争などの重要な案件を決定する前に、社長をはじめとした役員で構成される“経営戦略会議”が開かれるのですが、その場に法務の代表として私も参加しています。他社と比べても、「法務」に対する意識が高い会社だと思いますね。
――“強い法務”になるために、取り組んでいることを教えてください
山崎: まず、『DX』の推進に力を入れています。残念ながら、日本の法務は法務先進国の欧米と比べて“人的リソース”が圧倒的に不足していて、組織が小さい。グローバル化が進む中で、競合企業も国内から海外へと移ってきたわけですが、海外企業とは「法務の規模」が違いすぎるのです。
この課題の解決策として我々は、『リーガルテック』(AI法務プラットフォーム)を導入しました。たとえば、AIによる契約レビューやAI契約書管理システムの高い検索性を活かすことで、大幅な業務効率化が期待できます。日本のリーガルテックはまだまだ発展途上ですが、言い換えれば大きな可能性を秘めているといえる。法務業務のDX化は、人的リソース不足の救世主になるはずです。
――期待に応えるために必要なものは何ですか?
山崎: DX化を進めるとはいえ、法務を行うのはやはり「人」ですから、最も重視すべきは『人材育成』だと考えます。特に大切となるのが、若手の育成。実は、私も含めて経験を積んできた社員が次々と50代を迎えており、次世代を担うコア人材を育てることは急務なのです。
山形: 問題は“どう育てるか”ですね。もちろん現場ではOJTでメンバー一人ひとりを指導しますが、それだけでは足りない。組織全体のスキルを底上げするためには、それぞれが学んだ知識や経験を“全体で共有する”ことが重要なんです。いわゆる『ナレッジマネジメント』です。そのためには、もっと先進的なやり方が必要になります。
方法としては今、知識や経験をデータベース化し、それをAIが分析して、どんな質問にも答えてくれるという仕組みをつくっているところです。
山崎: さらに言うと、“法務のグローバルリテラシーをどう高めていくか”も重要です。シャープには世界26の国と地域に67社もの拠点がありますから、グローバルな視野やスキルが欠かせません。これまでも毎年、米国ロースクールのサマープログラムにスタッフを派遣してきましたが、今後はさらに1年間のロースクール留学や、海外拠点での数年にわたる実務経験ができるよう、環境づくりを進めているところで、今年(2025年)の10月には若手メンバーを米国の拠点に送り出すことが決まっています。
――組織改変後、新たなチームが発足したそうですが
山形: これまでは、事業単位で「契約」と「コンプライアンス」を同じ法務チームが担当していたのですが、4月からはこの2つを切り離し、新たにコンプライアンスに特化した部門を創設しました。というのも、コンプライアンスは今後の企業経営の軸となるもの。会社のどこにどんなリスクが潜んでいるのかを、事業から離れて客観的に見ていく必要があるからです。それが、『コンプライアンス・戦略企画部』。私がこのグループのマネジメントを任されました。
――具体的には、どんな活動をするのですか?
山形: 社内のコンプライアンス意識を高めるためには、“研修をすればいい”と考えがちですが、研修って実は“表面的なこと”しかできないと思うんです。どんなに研修を重ねても、人はそう簡単には変わりません。
そうではなくて、もっと根本的な「企業風土」から見直す必要がある。もしも、「法令ギリギリでも大丈夫だろう」と考える上司がいたとして、それは本当に大丈夫なのかと部下が当たり前に指摘できる風土があって初めて、その会社はコンプライアンス意識が高いと言えるでしょう。
つまり、やろうとしていることは抜本的な風土改革。これは、非常に大変なことです。でも、大変だからこそ面白くて仕方ないんです。大きな目標に向かって、自分たちの手でゼロから始められるのですから。
まずは、世の中で起きている様々な企業の不正問題について学び、課題があったとされるところをどう対応すべきなのかを考えていく。それらの課題も含め自社の状況はどうか全般的に調査、分析しデータとして蓄積して戦略的な企画を立てていく流れになると思います。
――法務部員を育てるにあたり、大切にしていることは?
山形: 法務本部では、行動指針として「法務心得」なるものを作っています。その中に「クライアントが取るべきアクションに落とせ」という一文があるのですが、これこそが人材育成の指針です。
法務の仕事は、法律を完璧に調べることじゃない。たとえば審査を依頼された場合、分析結果を受け取ったクライアント(シャープの各事業部)が、「これってどういうことなんだろう?」と疑問に思うようなことを質問される前に伝え、さらに本人が気づかないところまで突っ込んで、「実はこんなリスクがあります、なのでこうした方がいいですよ」と“一歩先”のアドバイスができて初めて、仕事が完結するのだと教えています。目指すはアマチュアではなく、プロフェッショナルなのです。
山崎: 一歩先を考えられる人は、確実にクライアントから信用される。我々は、そういう人材を育てたいんです。「法務としては見たから、あとはよろしく」じゃダメだと思いますね。コンプライアンスの研修をするにしても同じ。研修をすることが目的ではなくて、経営を安定化させることが目的だということを、しっかり意識できることが大事なわけです。もしかすると、その手段は研修じゃないかもしれない。育てたいのは、そこまで考えられる人材です。
山形: もうひとつは「変化を起こせる人材」ですね。私自身、法律のことなど何も分からず法務部に来たので、最初は不安しかありませんでした。けれど当時の法務担当役員から「法律に長けた人だけしかいない法務部は、組織として活性化しない。君みたいに事業を知っている人がいたら、それで変化が起こる」と言われ、ハッとしたんです。これはキャリア採用にも通じること。これまでの経験を活かせる環境が、ここにはあると思います。
――新生「法務本部」が目指す未来を教えてください
山崎: 私たちが目標に掲げているのは、「世界一の法務組織になる」ことです。世界一を目指すというと正直な話、「またまた冗談を、たとえ話でしょ?」と言われます。法務部員が何百人もいるアメリカに、勝てるはずがないと。でもね、夢のない現実は楽しくないじゃないですか。日本一では夢がない。世界ベスト10入りでも同じです。ベスト10を目指すと、ベスト10企業のマネをすると思います。でもそんなの楽しくありません。トップを目指すと、どこのマネもできないんです。
どうすればトップに立てるのか。それを若手法務部員一人ひとりに考えてほしいんですよ、どこかのマネをするのではなく。具体的に「クオリティ」「信頼性」「経営貢献」など8つの目標を立てているので、どんな施策を立てれば実現できるのかを、海外の仲間も含めて一緒に議論してもらいたい。もちろん、それを楽しみながら!
実は、8つの目標のひとつに「楽しさ」という項目も設けているんです。メンバーには常々、「仕事は決してラクじゃない。だからいっそのこと楽しもう。どうやったら楽しめるかを、真剣に考えよう」と話しています。
――職場の雰囲気はどうですか?
山形: 法務部門というと、音もなく黙々とデスクに向かっているイメージですが、ここはまったく違います。いつもどこかで笑い声が聞こえています。トップの山崎さんが、こういうとてもフランクな人柄だということも、大きく影響しているでしょうね。
山崎: “用もないけど、いろんな人が集まってくる”ような法務でありたいと思っています。そうでないと、いろんな情報を集められない。私は、オープンな雰囲気で誰もが近寄りやすい組織にしたいんです。笑い声が聞こえる組織で、いつか世界で輝く法務組織になる。それが私たちの目指す未来です。
※記事内の部門名、役職名、内容はインタビュー当時ならびに掲載当時のものです。