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フリー出社や部活の発足など、数々の新たな取り組みを行なっているCINRA。実際の社員の働き方や意識、コミュニケーションなどはどのように変化しているのでしょう?
2007年にデザイナーとして入社し、ニュースライター、業務効率化チームと多様な職種を経て、現在総務として働く柏木ゆか。12年にわたってCINRAの成長と変化を、多角的に見てきた彼女に、現在のCINRAの実際を聞きました。
インタビュー・文:飯嶋藍子 写真:植本一子
柏木ゆか
ウェブデザイナーとして2007年にCINRAに入社。その後、CINRA.NETのニュースデスク、社内の業務効率化部署の立ち上げに関わる。2019年から総務部のマネージャーを務める。
「この年齢で未経験の職種に挑戦できることはおもしろそうだと思って」
—まず、柏木さんがCINRAに入社してから現在までの仕事の変遷を教えてください。
柏木: 2007年に前職と同じくデザイナーとして入社したんですけど、半年くらいでどちらかというと向いていないことに気づいて(笑)。趣味でアートイベントやライブなどによく足を運んだり、イベント情報を集めて個人で発信したりしていたので、それを見ていた社長から「新規ではじまるカルチャーニュースサイトでニュースライターをやらないか」と声をかけられたんです。それが『CINRA.NET』で、そこから10年ニュースライターをやっていました。
—社歴12年のうち、10年はライターだったんですね。
柏木:はい。元の趣味の延長でもあったのでライターの仕事も楽しかったのですが、10年経ったときに自分の成長速度に対して不安を感じはじめたんですね。そうしたらちょうど「そろそろ別の仕事をやってみない?」と社長からまた声をかけてもらい、ワークハックチームという業務改善部署の立ち上げに2017年4月から関わることになりました。
ワークハックチームは、データ入力作業業務の速度をシステムで高速化したり、そもそもその仕事が不要になるためのフローを考えるなど、仕事の効率化に取り組むチームです。これもはじめての取り組みでしたが、全社の横断を通じて別の部署の仕事を知ることができて、大変勉強になりました。さらに2018年の秋頃から、ワークハックチームの仕事をやりながら総務部のヘルプに入りました。現在は総務部でマネージャーをしています。
CINRA総務チーム。現在は5名のスタッフが働いている。
—ワークハックチームと総務は、それまでのキャリアとかなり違いますが、異動に戸惑いはありませんでしたか?
柏木:私は社内でも異動が多いほうですが、異動の際はそれが適職かどうかなど、納得がいくまで上司と話し合う場が設けられます。会社も自分も同意して異動が決定するので、理由もわからずに急に業務内容が変わるようなことはなかったですね。
—同じ全社横断型と言えど、各部署の実務を改善していくワークハックチームと総務の仕事も違うと思います。それに挑戦したいと思えたのはなぜですか?
柏木:この年齢で未経験の職種に挑戦できるチャンスはそれほど多くないですし、それを生かさないのはもったいないなと思って。でも「おもしろそう」というのもありますね。
柏木ゆか
「社員全員と意図したコミュニケーションをとることって意外と難しいなと初めて気づいた」
—おもしろそう、と思えた部分は具体的にどんなところだったのでしょう?
柏木:コミュニケーションですね。そもそも、ニュースチームは10名以下のスタッフで構成されていたので、チーム内の共通言語で話が通じたし、ディスコミュニケーションはそこまで多くなかったんです。でも、ワークハックチームを始める時に「ワークハックチームという業務効率化の新部署にやってほしい仕事はありますか?」という全社アンケートをとったら、その回答がかなりバラバラで。こちらの意図どおりに答えてくれる人もいれば、会社の体制を変えたほうがいいというもっと根本的な回答が返ってきたり……。決してみんな察しが悪いわけではなく、それぞれちゃんと質問の意図を考えたうえで、その回答がバラバラだったんです。
—少人数と大人数でのコミュニケーションの違いに気づかれたんですね。
柏木:そうですね。もちろん、「まあ、こういう解釈で返ってくるのもわかる」という回答も多かったので、そもそも私の説明不足も実感しました。でもあまりにも回答を限定するような説明をしてしまうと、意見が掬えなくなってしまうこともある。社員全員と自分が意図したようにコミュニケーションとることって意外と難しいなと初めて気づいたんです。
—これまでとは違うコミュニケーションの難易度の高さにやりがいを感じた?
柏木:そうですね。総務って全社へのアナウンスが多いので、ワークハックチームで感じたこともきっと活きると思って。みんなアナウンスを聞く意思がないのではなく、1回だけだとチェック漏れや理解不足があるから、同じことを数回アナウンスしなければちゃんと伝わらなかったりします。アルバイトやインターンも含め約80名に対してのコミュニケーションは工夫が必要なので、そこにもやりがいを感じています。こういう対社内で経験ができるポジションってあまりほかにないので。
—しかもCINRAは出社時間や働く場所が限定されないフリー出社制度を採用しているので、全員にひとつのことをアナウンスするのはより難しいですよね。社員も「自分だけ知らないことがあるのでは」と不安になりそうだなと。
柏木:難しいです。だから、朝会(毎週月曜日の朝に実施される全社ミーティング)で全員にアナウンスして、そのあとさらに社内連絡ツールでも流すようにしています。受け取る人によって確認する方法はさまざまなので、声がけとテキストのどちらかだけだとやはり漏れることが多いです。最近は、とにかく困ったり迷ったりしたら遠慮なく聞いてくださいと伝えています。将来的にはチャットボットなども取り入れたいですが、まずは改善点を探すためにも、自分が総務として応えられるようにしています。
「フリー出社制度が導入されて、みんな自分の時間をより意識しはじめた気がする」
—フリー出社制度が実際に導入されたのは?
柏木:2017年です。全員に適応されるわけではないのですが、現在は社員の7〜8割がフリー出社で、みんなかなり活用しています。ディレクターや編集者が出先でそのまま仕事ができますし、もちろん自宅での仕事も可能です。会社にいたほうが集中できるという人は会社に来て仕事をしていますし、働き方の選択肢が増えましたね。以前は10時から19時が定時で、外で仕事をする時はその日の行動を事前に共有しなければいけなかったのですが、それもいりません。何時に仕事を切り上げてもいいので、みんな自分の時間をより意識しはじめた気がしています。
—産休明け、育休明けの人たちも働きやすいのでは。実際社員の働き方を見ていてどうですか?
柏木:子どもを保育園に預けている人は、時短勤務が多いと思うのですが、フリー出社制度を利用しているスタッフの場合は、子育てのライフスタイルに合わせた働き方ができますし、時短勤務ではないので、勤務体系の違いで給与が極端に減ることもありません。産休から戻ったスタッフにとってはすごくいい制度だと思います。
—勤務時間はどうやって管理しているんですか?
柏木:働いた時間はスマホや PCから打刻して記録します。コアタイムもないので、労働時間が少ないからと言って減給されることもないです。夜遅くまで仕事をした日も翌朝のことを不安に思わなくていいですし、自分できちんと仕事を管理できれば日中に私用外出もできる。時間がコントロールできるようになったことで、自分の時間の融通がきくようになったのは、気持ち的にもすごく楽ですね。
「部活のとりまとめは私がただやりたいと思って始めたんです(笑)」
—CINRAではスタッフそれぞれに月単位の明確な目標が立てられるんですね。
柏木:そうです。それぞれ目指すべき指標があり、月に1回は上司と一対一の「期待ミーティング」という面談が行われています。予算などの数字的な指標だけでなく、「チームのコミュニケーションを円滑にする仕組み作りに取り組んでほしい」とか「自分で提案した社内向けのコミュニケーションプロジェクトを責任持って最後まで実行する」など、個人の向き不向きや伸びしろを考慮した、様々な指標が面談の中で生まれています。
あと、CINRAにはValue(バリュー)という行動指針が5つあります。ひとりひとりの強みを伸ばすため、その5つの中から1つが期待とあわせて設定されるんです。私のValueは「Be open to be a Futurist.(心は、いつも開けておく。)」。総務はどの社員とも関わる必要があるので、自分の気分や状況、個人的な意見などで相手を振り回さないように心がけています。
柏木さんのValue。このほかに、「Why, Why, Why.(問いをやめない。)」「It Starts with You.(すべては、あなたからはじまる。)」「Quality, but also Impact.(質だけでなく、インパクトにこだわる。)」「The World is Connected.(世界は、つながっている。)」というValueがある。
—柏木さんは社内で始まった部活もとりまとめていると伺いました。それも期待の1つですか?
柏木:それは私がただやりたいと思って始めたんです(笑)。以前からストレッチの講師を招いて、始業前の社内でストレッチ教室をやったりしてました。誰かからやれと言われたわけでもないし、前例もないことですけど、提案したら通って予算もつけてもらえたんですよ。それが私にとっての部活の前身でした。
—社員全員が部活に入っているのですか?
柏木:7〜8割の人はどこかの部活に所属しています。強制じゃないし、兼部もOKです。今は、野球部、バスケ部、サーフィンやスノボをやる「横ノリ部」などの運動系から、アウトドア部、ストレッチ部、インディーミュージック研究会、韓国カルチャー研究会、世界のカルチャー発掘部、デアゴスティーニ部、DIY部、お笑いライ部、映画部などがあります。
たとえば私が部長を務める演劇鑑賞部では、部員みんなで同じ演劇公演を観て、終演後に感想を言いあっています。業務とはまた違う側面が知れますし、1回の公演につき一人あたり2000円の部費が支給される。事業部が3つにわかれたことによって、社員同士の枠組みが以前と変わってしまったので、業務以外の軸で交流を促進したいという目的があります。たとえばアウトドア部は、部員それぞれがSNSに活動の様子をアップするのですが、メンバーには古参の社員もいれば新人もいるし、所属している事業部もバラバラです。
「自分で考えることや、自分で決めるということがすごく大切にされる」
—新しく入社してくる方に、今のCINRAの体制や環境をどういうふうに感じてもらえると思いますか?
柏木:自分で取捨選択できることが本当に多いと思います。働き方もそうだし、部活も強制じゃないですからね。新しくなにかをやりたい人には良い環境ではないでしょうか。逆に会社の仕組みにあまり興味がなかったり、とにかく整えられた環境で何も考えず仕事がしたいという人にはあまり向いていないかもしれません。自分で考えることや、自分で決めるということが重視される組織なので、やりたいことがある人、あるいは自分の環境や働きやすさを自分で考えたい、作りたい人にはおすすめです。『CINRA.NET』や『She is』を見て、カルチャー好きじゃないと社内に居場所が作りにくいと感じている人もいるかもしれませんが、全然そんなことはなくて。多種多様な価値観をもった人が入ってきてほしいなと思います。