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CINRAのウェブディレクターやアカウントプランナーは、一つのプロジェクトに大きな裁量を持ち、ときには職域を越えた業務もこなします。豊富な経験のなかで、自分の興味関心と仕事を結びつける方法が学べるのもCINRAならでは。
CINRAのOB・OGも、CINRAでさまざまな仕事をこなしながら自身のスキルを磨いたことで、卒業後も各方面で活躍しています。
今回はCINRAでの経験を活かし、自分のやりたい仕事に精力的に取り組んでいる3人の卒業生にインタビュー。CINRAで身についたスキルや、それにより描くことができた将来像、そして、離れたからこそ見えてきたCINRAの魅力などを語ってもらいました。
インタビュー・文:加藤翔太 写真:有坂政晴(STUH)
横田 大
編集者、クリエイティブディレクター。書籍や雑誌・ウェブメディアの編集を経てCINRAに入社。6年2か月の在籍期間を経て独立。2017年、「偏愛で世の中に寛容をつくる」をモットーとしたクリエイティブエージェンシーCamp Inc.を設立。ライフワークとして、西荻窪で深夜喫茶「Wanderung」を営む。
伊藤 亜莉
株式会社講談社IP デジタル戦略部 ウェブディレクター。大学卒業後、ウェブ事業会社でUXディレクターとしてディレクションやユーザー調査などを経験。その後、CINRAのディレクターとして森ビルのビジネスメディア「HIP」やアートプロジェクト「TURN」などを担当。3年の在籍期間を経て独立し、現在は『NET ViVi』のディレクターなどを務めつつ、副業としてメディアの監修などのフリーランス的な働き方をしている。
司馬 ゆいか
株式会社資生堂 クリエイティブ本部 デジタルクリエイティブプランナー。大学在学中からウェブ制作会社にアルバイトとして勤務し、卒業後はチームラボ株式会社に新卒で入社。2014年3月、CINRAにディレクターとして入社し、株式会社リクルートホールディングスの新卒採用サイトなどを手がける。3年間在籍し、フリーランス期間を経て現在に至る。
「CINRAは会社っぽくなかった。熱を持って好きなことに取り組む集団、という感じ」
―まず、皆さんが現在どのようなお仕事をされているか教えてください。
横田:2017年まではフリーランスとして編集とディレクションを行っていました。その後仲間とユニットを組み、マーケットイベントの企画・運営などを経て、Campというクリエイティブカンパニーを立ち上げました。
現在は、作家やクリエイターに多くのチャンスをつくること、クリエイターが生きやすい社会を構築することを目的に、彼らと協力し、ウェブサイトを中心とした広告制作、コンテンツ制作、イベント企画、自社ブランドの立ち上げなどを行っています。
横田 大さん
伊藤:最近までフリーランスだったのですが、いまは講談社のグループ会社・講談社IPに入社し、『NET ViVi』のディレクターをしています。会社に行くのは週3、4日で良いので、ほかの日は副業として、フリーランス的な立場でいろいろなプロジェクトに関わらせてもらっています。
伊藤 亜莉さん
司馬:私は資生堂のクリエイティブ本部でプランナーをしています。主にウェブを担当していて、デジタル広告の内容や、ウェブサイトのリニューアル案を考えたりしています。
司馬 ゆいかさん
―では、過去に遡りまして。そもそも、なぜCINRAに入社しようと思ったのですか?
司馬:私は学生時代からウェブ制作会社でインターンをしていて。卒業後はチームラボに新卒で入社しました。二社を経て、自分が得意なことは、音楽や文学、アーティストなどのカルチャーを中心としたコンテンツづくりだと思ったんですね。
その頃、ちょうどCINRAについて書いてあるウェブ記事を読んで、カルチャーを軸に面白いことをやっている会社があると知り、興味を持ちました。
伊藤:私は大学時代、『CINRA.NET』の前身だった『CINRA MAGAZINE』というフリーCDマガジンのファンで、何か手伝いたいと思って参加したんです。デザイナーとして関わっていましたが、デザインはまったくの未経験でした(笑)。その後、『CINRA MAGAZINE』が廃刊することになり、有志で関わっていたメンバーも解散したため、一旦CINRAを離れました。
『CINRA MAGAZINE』。都内を中心に、全国で無料配布していた
伊藤:その後は大手IT企業に入社したのですが、数年経ってからCINRA社長の杉浦さんと食事する機会があったんです。そのとき、「いま、ディレクターがいなくて大変で……」と相談されて。
その頃には、私もウェブの知見が溜まってきていたし、それを活かしてカルチャーに関わる仕事をしたいと思っていたタイミングだったので、CINRAに入社することになりました。
横田:ぼくはもともと雑誌の編集者でした。『CINRA.NET』編集長の柏井さんとは飲み友達で、.NETにライターとして関わらせてもらっていたんですが、ある日、柏井さんに「うちでディレクターやってみない?」と誘われて。ディレクターは未経験だったんですけど、面白そうだと思って入社を決めました。
伊藤:まあ、「入社」といっても当時のCINRAは会社っぽさがあまりありませんでしたね。好きな物事に対して熱意を持ち、それをコンテンツやクリエイティブなどにアウトプットしていく集団、という感じでした。
横田:いまは70人規模の会社になったなんて信じられないよね。
カルチャーとビジネスをつなげることで、自分たちも成長できた
―CINRAに在籍していた期間で、思い出に残っている仕事はありますか?
伊藤:キリンが販売するクラフトビールのプロモーションですね。先方から、カルチャーシーンでクラフトビールを飲むイメージを訴求したいという依頼があり、ウェブとリアルを融合させる企画を考えました。クラフトマンシップを持っている方たちへインタビューして『CINRA.NET』に記事を掲載したり、当時スタートした『NEWTOWN』というCINRA主催の大型文化祭イベントでトークショーなどを開催したりしました。
それまではウェブ領域だけで仕事をしていたので、リアルイベントを手がけられたことはとても良い経験になりました。また、ユーザーが商品や企業のメッセージと出会うためのきっかけづくりを追求できたことは、いまの仕事に活かされています。
『NEWTOWN』で開催されたクラフトビールのイベント
横田:いまの仕事に繋がっている「Adobe & Creators Festival 」や、伊藤さんと一緒につくった「TURN」プロジェクトなどいろいろありますが、ひとつ挙げるとすればやはり、早稲田大学のウェブサイトリニューアルを始めとする、一連のプロジェクトですかね。
当時のCINRAは、あれほど大きなプロジェクトを手がけた経験はなかった。また、ぼくらスタッフも外部パートナーも、過去最多の人数が関わった仕事でした。大規模プロジェクトの進め方やスタッフとのコミュニケーションなど、勉強になることばかりでしたね。そのときの担当の方とは、いまも仲良くさせてもらっていますよ。
早稲田大学のウェブサイト。2015年に「グッドデザイン賞」を受賞した
伊藤:この案件をきっかけにCINRAへ入社したスタッフもいるくらい、インパクトがありましたね。カルチャーに特化した会社ならほかにもたくさんあるけど、CINRAはカルチャーとビジネスをつないで新しいものを生み出すことができる会社であることを知り、個人的にもとても勉強になりました。
―司馬さんはいかがですか?
司馬:私は横田さんと担当したリクルートホールディングスの2017年度新卒採用サイトが印象に残っています。私たちが担当する前の年は、「リクルートはデジタル領域で最先端のことを行っている」といったテクノロジー面をプッシュした内容でしたが、2017年度の採用サイトでは、求職者により深く会社のことを知ってもらってファンをつくりたいということで、CINRAに相談があったんです。
ヒアリングを進めるなかで、リクルートには、会社愛に溢れる社員の方がたくさんいることがわかりました。自分が成し遂げたいことを、リクルートでなら絶対に実現できると信じている。そのため、30人もの社員の方々にお話をうかがい、リクルートの魅力を「人」という切り口で隅々まで知ってもらうという企画に落とし込みました。
―企画を提案する際、CINRAとしてこだわった部分はありますか?
司馬:相談をくださったときは、先方も方向性を図りかねていました。でも、この案件の肝は、サイトを見た人に企業のファンになってもらうこと。これまで手がけたCINRAの仕事と同じように、バズるだけではなく、愛されるコンテンツをつくりたかった。採用は人の一生と会社の未来にも関わることだから、そこは大切にしたほうが良いと、先方と何度も対話を重ねました。
最終的に、「社員一人ひとりをクリエイターと見立てて取材をしていく」といった方向性を提案したところ、深く共感していただきました。それまでCINRAが長くカルチャーメインのコンテンツ制作を行ってきたからこそ、説得力があったのかもしれません。結果として「B to B 広告賞」を受賞し、社会的にも評価された大きな仕事でした。
「クライアントより、社内を納得させるほうが難しかった」
―仕事以外でCINRA在籍中に印象に残っているトピックはありますか?
伊藤:バレンタインとホワイトデーですね。私が在籍していたときのバレンタインでは、女性社員の顔写真を印刷したチロルチョコを男性社員に渡していました。なのに、ホワイトデーにはその倍くらいのお返しをしてもらいましたね。
私たちが辞めたあとも、ホワイトデーに男性陣がオフィスで純喫茶風のイベントを開催するなど、おもてなしはさらに進化しているそうです。
横田:ぼくは、同僚の出産を記念して、社内の有志とともにお祝い動画をつくったことが思い出に残っています。同僚と奥さんの出会いのきっかけとなった某ゲームをもじったデザインにし、ぼくがストーリーを考えて、デザイナーとエンジニアと協力して絵を動かして。最後のエンドロールでは、社員のみんなからもらったコメントを掲載しました。
―社内行事でも本気で取り組む人が多いんですね。
司馬:そうかもしれないです。あまりの本気っぷりに入社当初は戸惑うこともありましたけど(笑)。でも、社員同士の距離感がすごく近いというわけではなくて。近すぎず適度な距離感で、居心地が良かったですね。
伊藤:私もそう思う。好きなカルチャーでつながっているから、仲良しの友人というよりは、共通の趣味の人がいっぱいいる感じです。
―仕事への姿勢はいかがですか?
伊藤:仕事に関しては、お互いしっかりと意思疎通ができてから取り組む、という関係性です。なんとなく相手に合わせる、なんてことはなかったですね。
横田:「自分がこの仕事をやる意味」を理解し、納得してからでないと手を動かさない人が多いので、クライアントよりも社内のメンバーを納得させるほうが難しかった(笑)。
たとえば、ぼくが「こう修正してほしい」とメンバーに伝えると、「こっちのほうがいいと思う」と返してくるんですよ。でもディレクターとしてはクライアントの指示もあるので、「そうじゃないんです」と戻します。で、また戻される。そのうち、「なぜこれを修正しなければいけないのか」という本質的な問いかけができるようになっていく。そうすると、お客さんの意見を額面通り受け取るのではなく、意図を汲んだうえで新たな提案ができるようになるんです。
司馬:良く言えば自分を持っている、悪く言えば頑固(笑)。だけど、そんな人たちが集まっているからこそ良いものが生み出せるのだと思います。
副業も応援してくれるから、積極的に多様な経験が積める
―CINRAには、副業OKや出社時間を問わないフリー出社などの制度が整っています。卒業生として、自由なスタイルで働けることについてどのように思いますか?
伊藤:CINRAは副業に対する理解がすごくあると思います。個人の活動に対して「いいね」と言ってくれるし。各々がやっていることにみんなが興味を持つというか。私も、横田さんがやっている喫茶店にちょくちょく遊びに行ってました。
横田:いまでも、みんなよく来てくれるよね。喫茶店は在籍中に始めたんですが、当時のCINRAは副業NGだったので、会社を辞めるつもりで杉浦さんに喫茶店を開業したいと報告しに行ったんです。そしたら、「CINRAの仕事は続けるんでしょう?」と懐深いことを言われてしまい、「……はい」と(笑)。
うまく両立できていたかはわかりませんが、お店を始めてからは時間の使い方が大きく変わりましたね。それと、一杯のコーヒーで目の前のお客さんに感謝されるという経験をしたことで、価値観も一変しました。それまでは不特定多数に向けた広告や記事をメインにつくっていましたが、一人ひとりに深く届けるものをつくることの大切さを身にしみて感じたんです。
伊藤:CINRAにいると自分の強みやできることがわかるので、ある程度の力が備わったときに、個人としてやっていけるようになる。本業以外のフィールドでもゼロから価値を生み出せるようになりたいと考えている人にとって、CINRAは最高だと思います。
それと、余暇の使い方も大事にしている人が多いかな。インプットが重要な職種なので、映画を見たり音楽ライブに行ったり、積極的にいろんなことをしている印象です。当時は、みんな忙しいのにすごいなって感心していました(笑)。
司馬:CINRAで働きながら副業をするとしたら、収入を得るためではなく、自分の経験を積める、「人生の貯金」になる仕事をすると良いんじゃないかな。
―フリー出社や副業OKは、クリエイターにとっては特にメリットが多い制度だと思います。
伊藤:そうですね。今後、私のように会社に所属しながら副業をしたりフリーランス的に仕事を受けたりする人は増えていくと思いますが、一方で副業NGの会社もまだまだ多いですよね。これからは、フリーランス的な働き方を継続できるCINRAのような会社がより必要になると思います。
多様な働き方ができたから、思いもよらない未来が開けた
―チームで切磋琢磨できる、副業を応援してくれる……。退職したいまだからこそ実感できるCINRAの良さかもしれませんね。
横田:そうですね。ぼく自身、まさか会社を立ち上げることになるとは思いもしていませんでした。でも退職しフリーランスを経て、CINRAと同じことをするわけにはいかないなと思って、自分には何ができるのか、何がしたいのかをすごく考えました。CINRAにいたから、いまの自分の方向性がつくれたと思います。
同時に、自分で全部決める状況になったら、それまでとなりにいた頼もしい仲間たちがいないことへの不安もありましたけど(笑)。
伊藤:CINRAはウェブの常識にとらわれず、チャレンジを続けている会社だと思っていて。女性向けコミュニティ『She is』もウェブメディアだけど雑誌的な雰囲気にしてみたり、『CINRA.NET』でもリアルイベントを行ったり。そういった、新しいものをつくりだそうという熱意に触れることで、自分自身もアップデートされていく感覚があります。
司馬:CINRAでは、ジャンル問わずいろんな仕事を任せてもらえたし、知り合いから相談された仕事でも、会社として受けることを許可してくれました。以前は「会社ってこうだよね」という固定観念があったのですが、CINRAでの3年間は、良い意味でそれを壊してくれましたね。
それに、多様な働き方を目の当たりにし、自分でも経験したことで、外に出て自分だけでやってみようとも思えた。フリーになっても大丈夫だろうと思えるくらいの経験を積ませてもらいました。
伊藤:CINRAの社員や辞めた人たちがやっていることって、仕事というよりも、生き方の多様性の追求だと思うんです。私はそれを見ているだけで励まされるし、自分も考えることを止めないようにしようと思う。刺激になるし、そう思えることがすごく幸せですね。
―多様な働き方を見て、自分自身も経験できることで、新たに目指すべき方向を見つけられるんですね。
司馬:これからは、会社が人を雇うのではなく、人が会社を選んでジョインするという働き方が増えていくと思います。会社から一方的に人材を取捨選択するかたちは廃れて、お互いのやりたいことが噛み合ったときに入社する、みたいな、win-winな雇用形態がスタンダードになっていくんじゃないかな。CINRAは、それを先駆けてやっているんじゃないかなと思います。
伊藤:「仕事≒生き方」の人が多いよね。仕事を自分ごととして捉えているから、安心して仕事をお願いできる。いまでも、何かやりたいことを思いついたときは、CINRAにお願いできないかなって考えていますね。
横田:CINRAでは、「個として立つこと」を学びました。自由な働き方ができる分、自ら考えて動かなければいけないから個人の責任は大きいし、いろいろな仕事をこなすなかで自分のスタンスを問われる機会も多い。それは正直、かなりキツいことでもあります。
でも、だからこそ「自分は何をすべきか」「自分はどうありたいか」を突き詰めて考えられるようになる。ぼく自身、こうやって自分の仕事観や叶えたい働き方を言語化し、実行できるようになったのは、CINRAで得られた大きな財産だと思います。
いまのCINRAはきっと、よりそうなっていますよね。これから社会的にもどんどん多様な働き方が増えていくと思うので、独立せずにそれが実現できる環境って、すごくうらやましいです。もし、当時もフリー出社制度があったら、ぼくはCINRAを辞めていなかったかもしれません(笑)。