※このストーリーは、noteで発信した記事を転載しています。
こんにちは! カンリーでエンジニア採用を担当している宮本です。
今回は、ボードメンバーのみなさんに、”カンリーの未来”について話してもらう企画の第2弾。CTO小出とCIO萩野に、データを活用することでどんな世界を創りたいのかについて、ディスカッションしていただきました。
数々のプロダクトや事業の開発に携わってきた小出と萩野が考える、データ活用とは? さらに、これから訪れる最適化社会とはどんなものなのか、利益を生み出すにはどのようにデータを活用すればいいのかなど、思う存分、語り合っていただきました。
執行役員CTO 小出 幸典
慶應義塾大学大学院修了。アクセンチュア株式会社を経て、2014年7月に株式会社Gunosyへ入社。メディアプロダクトの配信アルゴリズム開発や、全社データ基盤構築等を担当し、2019年7月にCTOに就任。2022年より業務委託としてカンリーの事業に携わり、2024年9月に執行役員CTOに就任。エンジニア部を管掌。
▼参考記事:カンリーのエンジニアかくあるべし
専門役員CIO 萩野 貴拓
高校、大学時代から起業やテックリードを経験し、ビズリーチ入社後は、求人検索や研究開発部門の設立、AI技術の事業実装を推進し、同社最多の特許を出願。執筆、オープンソース活動の他、技術顧問やCTOとして多くの企業での支援実績を持つ。カンリーでは新規事業の立ち上げを経て、2024年に専門役員CIOに就任。小出とともにエンジニア部を管掌、主にHR領域のプロダクト開発をリード。
▼参考記事:【カンリー CIO就任】信念をもって事にあたり、 世界観をもとに業を成す〜最高の仲間と、歴史を作ろう。〜
データ活用でできることは、購買行動の予測だけではない
宮本:
先日の辰巳さんとの対談で、「店舗から取得したデータを使って、さらに店舗に還元していきたい」というお話しがあり、この部分の解像度を少し高めたいなと思っての質問になります。
データを活用することで店舗や社会に対してどんなインパクトを与えられる、または与えたいと考えていますか?
小出さん(以下、小出):
まず、今あるデータの話をすると、所在地、営業時間といった店舗情報を持っているのがカンリー店舗集客(※1)の強みで、このデータがあるおかげでカンリー福利厚生(※2)ができたといっても過言ではありません。Googleマップ上で、どこにクーポンのあるお店があるのか、がわかるのは便利ではあるし、従業員の定着といった支援もできている。という意味で、一定、価値提供できているのかなと。
(※1)カンリー店舗集客:ホームページやGoogleマップなどを効率的に管理できるツールで、広告に頼らず自社の力で集客できるよう支援
(※2)カンリー福利厚生:位置情報を利用した福利厚生サービスで、雇用形態や働く場所に関係なく使えるのが特徴
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ただ、これだけでブレイクスルーになるものかと言われると、そうではないんですね。また、キレイなデータを持っていることはメリットだけれども、パブリックなデータなので、やろうと思えば誰でもすぐに集められるものなので、強みとは言いづらい。
そんな中で、カンリー福利厚生やカンリーAI面接(※3)でワーカー、つまり「人」の情報を蓄積できるようになったのは、ひとつの大きな転換点になったと感じています。
(※3)カンリーAI面接:店舗のアルバイト採用に特化したAIによる自動面接サービス、日程調整や面接官不要で最短即日で採用が決まる
萩野さん(以下、萩野):
カンリーが展開するHR領域の事業では、カンリー福利厚生をはじめ、最初からワーカーである個人のIDの基盤となることを意識して開発を進めてきました。
日本に限らず世界的にも店舗ワーカーの多くが免許証やマイナンバーカード以外でアイデンティティになるようなものを持っていないのが現状です。しかし、それらのIDにはキャリアのトラックレコードは残りません。どの店舗で、どんな仕事をしていたのかを証明できるようにするために、人=ワーカーのIDにこだわったというのが最初のきっかけになります。
小出:
ヒストリーとして、きちんとオーソライズ(第三者として信用を証明する)しようと。
萩野:
そのとおりです。ただ、この情報をカンリーだけが持っていても、意味がないんですよね。カンリーのHRソリューションを使ってくださってるお客さますべてのデータ(店舗や従業員の情報)を集約することで、ソーシャルネットワークと同じような原理を働かせたいなと考えたわけです。
これが実現できれば、ワーカーは信用を得てお金を借りることもできるし、転職のときのリファレンスチェックもクリアしやすくなる。店舗で働く方が、信用を築くことでキャリアをつくり生活水準を上げていけるような仕組みを作っていきたいですね。
小出:
店舗で働いたり、店舗を利用した情報が蓄積されることで、ヒストリーが溜まって、より強固なものにもなっていくという。
萩野:
まさに。データ活用というと、購買行動を予測するという要素(=マーチャンダイジング)が強いと思うんですね。でもカンリーの場合は、トラスト、信用に値するのかを予測するのとマーチャンダイジング、両方の要素を兼ね備えていますよと。
小出:
購買行動や資産、可処分所得だけでなく、ゆくゆくは職歴も加わってくるとなると...。
萩野:
通貨を介さなくても取引ができる、いわば信用経済の世界になってきますよね。そうなると、カンリー経済圏(※4)が自然に形成される。このエコシステムを中長期で育てていきたいですね。
(※4)経済圏:消費などの経済活動を特定の会社のサービスで完結させることによって、ポイント還元などのメリットをよりたくさん受けられるようにすること
クローズドなコミュニティで完全な情報を流通させることで生まれる、新たな価値
宮本:
信用経済で成り立つ経済圏を作りたいというお話だと思うのですが、経済圏を作ると人々がどんな恩恵を受けられるのかなど、もう少し詳しくお聞きしたいです。
萩野:
歴史を紐解いてみると、原理主義的な計画経済(※5)は破綻していて、グローバルでの資本主義はこれからも変わらないというのが、大前提としてあります。一方で、狭い意味でのローカルな計画経済は成り立つと思っているんですね。
(※5)計画経済:政府などによって計画的に土地や原材料、食糧などの資源が管理、配分、運営される経済体制
ちなみに、サイニック理論(※6)ってご存じですか? 最近、改めて評価されているのがめちゃくちゃ嬉しくてですね(笑)。
(※6)サイニック理論:オムロンの創業者・立石一真ら提唱した未来予測理論、科学・技術・社会それぞれの円環的な相互関係から未来を予測していく
小出:
僕も最近みました! サイコネティクスの時代が始まるぞって。
萩野:
やはり小出さんもご存じでしたか。今は、サイニック理論でいうと、ちょうど情報化社会から最適化社会への過渡期に当たると思っていまして。情報化社会では、人々の動きをマーケティング手法を使ってコントロールする、いわゆる「顧客行動を促す」ために情報が使われます。
これが最適化社会になると、顧客自身がサービスを提供するプロバイダに対して、情報を開示するようになってくると思うんですね。GoogleやAmazonに対してはすでにそうなっていて、自分の購買行動が知られているのはわかっていますよね? 同時に、彼らプラットフォーマーに情報を渡すと、ちょっと生活しやすくなることもわかっている。これと同じことが、GoogleやAmazon以外の小さなコミュニティでも成り立つのではないかと考えてます。
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現在の集客って、とくに予約を伴う航空券やホテル、イベントやシェアリング、そしてレストランやサービスなど店舗でもみな、売り手側のリソースが公開情報で、買い手側が情報優位な非対称性のあるマッチングが前提となっているんですよね。
たとえば、〇〇社の幹事が3月21日に歓送迎会をやるといった情報を店舗は知らず、受け入れ可能な空席のある店舗の情報だけを幹事が知り、店を選んでいる。でも、特定のコミュニティの中で情報を流通させられれば、理論的にはA店とB店の来客が最大化されるように予約を振り分けられる。これまでの媒体では難しかったこうした集客の最適化が、カンリーのエコシステムで店舗のあらゆるリソース情報をもとにダイナミックプライシング(※7)することで、パレート最適に近づくことができると思っているんですよ。
(※7)ダイナミックプライシング:商品やサービスの需要に応じて、価格を変動・調整する仕組み
宮本:
ダイナミックプライシングを取り入れるというと...?
萩野:
さきほどの例でいくと、B店で受け入れるほうが全体最適となる顧客に対してインセンティブを設計すると、B店で予約してくれる可能性が上がる、みたいな感じです。さらに、さまざまな情報がインテグレーション(統合)されていくと、非完全な情報が完全な情報に近づいていけるんじゃないかなと思っています。
小出:
経済圏をつくるのであれば、完全に近い情報が必要になってきますよね。
萩野:
そうですね。カンリーのビジネスモデルは、情報化社会にフィットさせたものなんですね。情報化社会においては、情報をプラットフォームに正しくインプットすることが価値になります。この情報化社会に、店舗という業態がアジャストできるように支援しているのがカンリーの今の事業なんですね。そうなると、今後は事業モデルの転換をせざるを得ないのかなと考えています。
あらゆるデータをインテグレーションして、利益を生み出す仕組みを作る
宮本:
事業モデルを転換しなくてはいけないのは、カンリーですか? それとも店舗ですか?
萩野:
両方ですね。というのも、集客のあり方を変えなくてはならないからです。
小出:
これまでの集客って、新しいお客さまに来てもらう、お客さまにたくさん来てもらう、というベクトルだったと思うんですね。同じタイミングで同じ情報を一斉に送る、ブロードキャスト的な方法だったのかなと。
ただ、この方法だと、「今日はスタッフが少ないから、お客さまがたくさんくると困る」とか「満席になる予定だから、広告は出したくない(広告費が無駄になってしまう...)」みたいなことが、頻繁に起こってしまうんです。
じゃあ、たとえば、店にどのくらい入るのか、予約がどのくらい入っているのかといった情報を開示するとどうなるのか。別の店舗にお客さまを流したり、今日シフトに入っていない別店舗の人にヘルプを頼んだり、広告を止めたり。原資の最適化みたいなことができるんじゃないかなと思ってます。
萩野:
あらゆるデータを使わないと最適化できないし、集客もできなくなってくるという話ですよね。今までは集客をがんばれば売上が伸びたので、集客のために人を採用したり、材料の調達をしたりと、個別最適化していればよかった。しかし、これからはかなりむずかしくなってくるのかなと。現に、店を開ければ黒字になっていたものが、赤字になる時間帯が出てきてますから。
小出:
高い人件費を払って働いてもらった結果、赤字になってしまうことは、割と頻繁に。
萩野:
深夜時間帯では、よく聞く話ですよね。昔と比べて格段に、店舗経営とかオペレーションがむずかしくなっていると感じていて。さらに光熱費や人件費、地代の値上げによるコストプッシュ(※8)も激しいじゃないですか。となると、集客ありきで個別最適化しているだけではダメで、ワーカー、集客、仕入れなど店舗に関わるすべてのデータをインテグレーションして、最適化していく必要があると思ってます。
(※8)コストプッシュ:賃金や原材料の値上げなどによる、生産コストの上昇
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小出:
すべての価格が上がっているのに、ラーメンは絶対に1,000円超えちゃいけないみたいな圧力もあったり。どんな形でがんばっても利益が出ないという、ある種、無理ゲーですよね。
萩野:
ほんとに。非線形の局面に入ってきたがゆえに、あらゆるデータをインテグレーションしないと店舗経営がままならなくなってきている気がしていまして。これはもう、アートな領域になっているなと。
小出:
店舗だけの話ではないですよね。われわれのようなITと呼ばれる業界においても、会計システム、稟議システム、タレントマネジメントといった感じで、細分化されてしまっていて。それを運用している部署が、自分たちにとっての最適化をしてしまった結果、インテグレーションできないということが起こってますよね。
これを店舗に置き換えると、バイト募集にA媒体を使って、シフト管理、給与管理、雇用契約それぞれ別のシステムを使っていて。データが分断されているというのは容易に想像がつくというか。
ここで間違えちゃいけないのが、システム/データをインテグレーションすることによってオペレーションの最適化やコストを下げるのがゴールではないということなんですね。あくまでも、経営資源の再分配、経営の最適化を目指すべきなのかなと。
萩野:
店舗経営で利益を出すのが、すごくむずかしい時代になってきてますからね。オペレーションや採用はコストのひとつで、集客だけを考えていては、とてもじゃないが利益は出ない。あらゆる情報をインテグレーションして利益構造を考えていくべきだということですね。