建設業界の深刻な人手不足の解消に挑むべく、アンドパッドは人材ビジネス(HR)事業をスタートしました。2025年9月には建設業界特化の求人・転職サービス「Builder Work」をリリース。HR事業を立ち上げた背景や真意、建設業における最適な人材配置を実現していくための構想、見据える今後の展望について、執行役員で事業責任者の葉山に話を聞きました。
葉山勝正 執行役員
大学卒業後、エン・ジャパン株式会社入社。営業部長、en転職事業部の事業責任者を歴任。株式会社すららネットに取締役として参画し、教育業界向けのクラウドサービスの立ち上げと提供に従事。2017年12月のマザーズ上場を経て、アンドパッドに入社。住宅事業本部の立ち上げと執行に従事。「ビルダーワーク」の事業責任者を務める。
業界の母集団を増やすため、採用の間口を広げミスマッチを減らす
――HR事業参入の経緯について教えてください。
本格的にHR事業に着手すべきだと実感したのは、住宅ソリューション部門を立ち上げた年の出来事です。当時、ANDPADのプロダクト群に限らずお客様の課題と向き合う中で何度も耳にしたのが、「採用ができない」「入社しても人が辞めてしまう」という人に関する問題でした。その背景には、二つの原因がありました。一つ目が、建設業界では過去の建設業での経験や専門技能に偏った採用が中心であること、二つ目が採用時のミスマッチです。まず経験者採用の問題については、もともと人手不足の業界である上に、業界内で少ない経験者を取り合うのみでは、到底間に合わない。他業界出身者や未経験者の受け皿を作っていかないと、業界を支える人材の母数は増えません。そこで私たちは、専門技能よりもスキルでターゲットの間口を広げる提案をしてきました。
――スキルというのは?
例えば、施工管理は“段取り八分”と言われるくらい、段取りが重要な職種です。しかし段取りが必要な職業は他にもあります。例えば、飲食店の店長などです。飲食店運営には仕込みという業務があり、段取りも仕込みも前もって準備することで業務がスムーズにいく、似通った考え方を持っています。
また、施工管理の業務は、現場での指示出し、安全確認、書類作成、協力会社との調整など業務が多岐にわたります。飲食店の店長も同様に、キッチン、ホール、メニュー開発、仕入れ、レジ締め、スタッフのシフト管理など、業務は多岐にわたります。かつ施工管理は自社の社員ではない協力会社さんや職人さんと仕事をしますが、飲食店の店長もアルバイトスタッフとチームでお店を運営します。施工管理と飲食店の店長はスキルがほぼ同等と考えています。入社後に建設業界の知識を身につけていただければ、必ず活躍していただけると考えました。ある企業様の事例で、建設業の経験よりもスキルを重視した採用活動を実施したところ、採用人数が格段に増加。入社された方は今でも会社の中で存在感を発揮して活躍されている、というお声もいただけるようになりました。もちろん場合によりますが、こういった事例から経験者以外の人材を採用の母集団として捉えることも可能だと考えています。
――異業種でのスキルに注目した採用というのは、新しい視点です。
そうですね。建設業界で働く方は、専門性が高い職種という考えから、他業界から人材を採用する意思決定がしづらい構造でした。
もう一つ採用のミスマッチが起きやすい点については、経験・スキルの要件項目における粒度の粗さが要因です。一口に施工管理の募集といっても、建物全体を見る建築の施工管理と、電気の配線の一部を見る設備管理では求められるスキルが異なります。また現場規模が1億円未満なのか、10億円以上なのかによっても求められる動きは変わりますし、構造(木造なのか、RCなのか)や工事種別(修繕、内装、外装など)の組み合わせによっても必要な専門知識は変わってきます。「施工管理経験〇年以上」ではなく、本来なら「職種 × 構造物×職位」などを踏まえた丁寧な採用要件の定義を踏まえたマッチングを実現していかないと、非常にもったいないと考えたからです。
――例えば、20億円規模の施工管理経験者と、戸建住宅をメインで手掛けていた施工管理経験者では、スキルが全く異なると。
そうです。この結果として、自分のスキルを100%発揮できず入社後の離脱につながってしまう。そういう失敗を繰り返しているうちに、求職者は「自分はこの業界に向いてないのではないか?」と考えるようになり、他業種に転職してしまい、建設業従事者が減少していく流れもあると想像しています。
ただでさえ深刻な人材不足が叫ばれている建設業界の採用において、このような問題が原因で、需要と供給のバランスが急速に崩れつつある。だからこそ、アンドパッドが挑む意味があるのではないかと考え、HR事業に着手することになりました。
アンドパッドブランドは、HR事業の成長の追い風
――課題解決の第一フェーズとして、2025年9月に、建設業界特化の求人・転職サービス「Builder Work」がリリースされました。
これまで建設業界における転職は、無料のサービスや縁故などでの転職が主流でした。しかし今後は、情報化社会がさらに発展し、有料職業紹介を選択するケースが建設従事者の中でも拡大していくことは確実です。加えて各企業様が働く環境などの情報をどんどんオープンにしていますから、求職者様が企業情報に触れる機会も増え、選択肢も増えることでしょう。そこで私たちがこれまでに建設業界に寄り添いながら築いてきた業界知見や関係性を活かし、私たちが展開する求人・転職サービスを通じて、高いマッチング率という転職を実現できると考えています。
――業界知見が豊富にあるからこそ、精度の高いマッチングが実現できそうです。お問い合わせも増えていると聞いています。
それはシンプルにアンドパッドというこれまでのブランドの信用力や認知度のおかげだと考えています。事実、サービスリリース後の実績として、直近では前クオーター比300%超と著しい成長を実現できています。
――目覚ましい成長を後押しするため、HR事業にメンバーも続々とジョインしていますよね。
はい。この成長角度をさらにあげていくべく、現在HR事業部には、キャリアアドバイザー、エンジニア、マーケターなどが次々とジョインしてくれています。現在募集しているのは、キャリアアドバイザーとエンジニア、ユーザー集客を手掛けるWebマーケティング担当の3職種。キャリアアドバイザーにおいては、求職者様に寄り添った提案を重視しているので、建設業界の知識は必須ではなく未経験者でも歓迎しています。
最適配置を実現するプラットフォーム化を目指す
――転職支援ビジネスにおいてエンジニアが所属しているのは珍しいかと思います。
専属のエンジニアがいるのは、事業の根幹を支えるマッチングエンジンを開発するためです。
――具体的にはどういったことでしょうか。
現在展開している「Builder Work」を皮切りに、将来的には建設業界に特化したマッチングプラットフォームを目指しています。その理由は、建設業は年間約40万人の人材が流動する現状があると言われています。その規模の方々の最適なマッチングを実現するためには、人材紹介事業のみでは全体の数パーセントしか支援できず、到底足りません。とはいえ、いきなりプラットフォームを目指すわけではなく、高いマッチングが実現できる仕組みが優先です。その高精度なマッチングを実現するエンジンを開発しています。
そのため、現在はマッチングの精度を高めるために、まずは企業様と求職者様の間に入って、求める要件項目と求職者様の経験・スキルを一つずつ検証している段階です。今後はさらにブラッシュアップして、マッチングエンジンを実装していくことになります。そのためにエンジニアも所属していますし、積極的に採用もしています。
――マッチングエンジンの構造は非常に複雑そうです。すでに市場にはAIによるマッチングサービスが溢れていますが、これら以上に精度の高いものがリリースできるということですか?
そうです。建設業に特化した事業を展開してきた我々だからこそ実現できていると考えています。アンドパッドは建設業界の本質的な課題解決に何より軸足を置いているため、たとえ手間や時間がかかる泥臭いプロセスであっても妥協せず、愚直に向き合い続けています。
最適なマッチングを実現するためにも、現状の転職支援において取り組んでいるスタンスがあります。求職者様に対しては、ライフイベントや条件、実現したいことに対して希望に叶う企業を徹底的に探すスタンスを貫いています。例えば、育児や介護など、ライフステージの変化によって、異業種に転職される方も多くいます。以前、「施工管理を辞めたい」と相談に来られた求職者様がいました。理由は、今の会社では朝8時出勤が義務付けられているが、ご両親の介護の関係で7~9時の間は介護でどうしても出勤できない、というものでした。朝の時間が大事なのであれば、夜勤中心の施工管理という選択肢もあります。例えば商業施設の飲食店やアミューズメント施設など、施工管理業の中には店舗の営業時間外で発生する案件もある。夜勤が終わった後に、2時間介護してご就寝される、という働き方も可能なわけです。
企業様には、採用とは欠員補充のためのコストではなく、事業拡大のための投資だとお伝えし、自社を選んでもらうための魅力付けの重要性をお伝えしています。具体的には、ターゲット人材を採り合っている採用上の競合と比べて、自社はどこが優れていて、劣っているのかを整理すること。それをもとに客観的に求職者様に自社の魅力を伝えることが極めて重要です。例えば、福利厚生が手厚いというアピールだけではなくて、なぜ福利厚生を手厚くできるのか?を事業構造の背景から伝える。それは求職者の深い納得感につながります。
――そのように細かい粒度を含めたマッチングを実現していくと、どのような世界観が実現できるのでしょうか。
建設業界における“最適な配置”の完成です。人の配置というのは不思議なもので、配置を変えるだけで、個人のパフォーマンスを上げることもできる。私たちはそれを“配置の妙”と呼んでいます。これを建設業界で実現したい、と考えています。
――なるほど。求職者様に寄り添い、企業様との真のマッチングを支援し、配置の妙を作っていくと。
配置の妙がたくさん生まれる流れで、プラットフォームとしてよりサービスの拡充ができると考えています。アイデアベースですが例えば、資格取得支援を組み込んだサービスや転職希望者に対してのオープンなマッチングなど。他にも、継ぎ手がいなくて廃業せざるを得ない企業様も増えているので、事業買収をしたい企業とのマッチングを図るサービスがあってもいい。プラットフォーム化を皮切りに、多方面へと発展させていく予定です。そのようにANDPADのプロダクトとは異なる切り口で、建設業界全体の発展に寄与していく。スタートアップさながらのフェーズのため、「これがやってみたい」と手を挙げてくれたメンバーは、どんどん挑戦してほしいと思っていますし、実際に任せています。新しい事業に前向きに取り組める方と共に、建設業界の課題解決に挑んでいきたいと考えています。