【経営者history】元パティシエ・佐田敏樹(株式会社ソレイユ・ヴィジョネア代表)が考えるパティシエ時代に学んだこと
こんにちは。佐田敏樹です。
本記事は、インタビュアーの方との対談を通して、「パティシエ時代に学んだこと」についてお話しした内容をまとめたメディア記事です。
元パティシエという異色のキャリアを持ち、現在は株式会社ソレイユ・ヴィジョネアの代表をつとめる佐田敏樹さん。
第7弾となる今回は、「パティシエ時代に学んだこと」と「経営者への転機」について伺いました。
華やかに見える世界の裏側で、どんな学びや気づきがあったのでしょうか。
ーなぜパティシエを目指そうと思ったのですか?
私は山梨県出身で6人家族の家庭で育ちました。
高校の時に進路を考え、テレビやニュースを観て、気象予報士やバーテンダーなどかっこいいなと思う職業を親にいろいろ提案し相談しましたが、すべて却下されました(笑)。
そして、最後に残ったのが、「お菓子が好きだから」という理由で選んだパティシエでした。
親は微妙そうな顔をしていましたが、私は東京に行きたい気持ちが強く、他の選択肢が全部消えて、もうこれしかないじゃん!と、親に「パティシエになる!」と宣言をして上京しました。
今思うと、両親は私に山梨に残って自分と同じ医療系の仕事をしてほしいと考えていたのだと思います。兄も飲食系の仕事に就いていました。
ー専門学校での経験は、現場でどう活きましたか?
東京製菓学校・洋菓子本科を卒業し、2年生のときにはシュガークラフトで全国洋菓子展示会に出品、卒業時には上位5%にあたる努力賞を受賞しました。
ただ現場に入ると「学校に行ってる人はむしろ扱いづらい」なんて言われることもありました(笑)。
器具やスピード感も現場によって全然違う。
学校での学びは基礎にはなるけれど、結局「現場に勝る学びはない」と痛感しました。
ー 卒業後はどんな経歴をたどりましたか?
帝国ホテルの面接には落ちましたが、先生の紹介で実力派の洋菓子個人店に勤務しました。
20歳の年齢時に店長業務を任され、長時間労働もいとわず、接客やラッピング、ギフト制作まで幅広いスキルを磨きました。並行してコンクールにも挑戦し、飴細工で賞を目指していました。
その後は高野フルーツパーラー新宿本店でフルーツカットを学び、21歳までに都内のケーキ店を200店舗以上食べ歩き、自分の味覚や感覚を磨き続けました。今はインスタやTikTokなどでも様々な情報が得られますが、実際のお店に行き、自分でしっかり確かめることを大切にしていました。
ー パティシエとして働く上で最も必要だと感じた能力は?
私が思う必要なの能力は3つ、「頑張る理由」「圧倒的な体力」「運動神経」です。
給料は手取り16万円ほどでしたが、職人として働く以上、睡眠や休憩以外はすべて仕事に注ぐ覚悟が必要でした。
ー 「圧倒的な体力」とは具体的にどういう意味ですか?
一つのケーキに3〜4時間かかるので、大量に作ると体力はどんどん削られます。
立ち仕事ですし、冷蔵環境では寒さとの闘い。睡眠が少ない中でも、ふくらはぎマッサージや湯船で体を温めるケアをしていたのを覚えています。
週1日の休みには午前中に最大限体力を回復させ、午後は洗濯やお弁当づくり。そうやって生活を整えていたと思います。
ー「運動神経」とはどういう意味ですか?
パティシエの仕事って、実はスポーツに似ているんです。
手先の器用さや感覚的なセンスは努力だけでは補えない部分がある。スポーツ経験がある人は成長が早いと感じました。
私自身、美術館に通ったり、200店舗以上で2000種類のケーキを食べたりと努力を重ねましたが、それでも埋められない“センスの壁”を感じました。
ー理想と現実が違った時に、どう考えたらよいでしょうか?
パティシエって華やかに見えるけれど、低賃金や過重労働が現実としてあり、アルバイトの方が稼げるケースもあります。
だからこそ、夢を持つ人には現場のリアル、当たり前を知ることが大切だと思います。知ることで、この世界で生きていけるかを判断する大切な材料になると思います。
ーパティシエから経営者に大きく働き方を変えたきっかけはなんですか?
21歳のとき、自分がケーキ作りに自分の一生を賭けられるかを真剣に考えました。
楽しくやりがいは、とてもありました。その一方で、体力やセンスの壁を感じ、将来プライベートの時間をしっかり確保できるのか、家族と過ごす時間や友人との旅行に行く時間を確保できるのかなど考えることがありました。
このままでは未来が限定されてしまうのではないかと漠然とした不安があったから、仕事や自分の人生を見つめ直しました。もっと自分の力を試せる新しいフィールドを探すようになり、経営や人材育成に興味を持ち始めたと思います。パティシエ時代に培った“徹底した自己管理”や“努力を積み重ねる力”は、今の経営にそのまま活きています。
ーこれからキャリアを考える若手に伝えたいことはありますか?
私がパティシエとして過ごした日々で得たのは、技術以上に「覚悟」と「自分を整える力」でした。その力が、経営や人材育成の礎となっています。
どんな仕事も、現場経験は必ず自分の力になります。
目の前の仕事に全力で向き合い、経験を資産として蓄積すること。そしていつかその経験を活かして自分が創る側に立つとき、努力や学びが必ず役立ちます。
キャリアは一度決めた道で終わるものではありません。勇気をもって新しい挑戦に踏み出すことが、未来を切り拓く鍵に繋がります。
どんな仕事でも、現場に入って初めて知ることや厳しさ、ギャップに直面する人も多いのが現実。
佐田さんが語る「現場に勝る学びはない」という言葉は、こうした背景を踏まえるとより重みを感じました。
ー次のインタビューに続きます。