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どこまでも「謙虚」に──あらゆる応援を力に「おもてなし革命」に挑む

「自分も会社も、“自動化至上主義”から脱却したことが、コロナショックによる最たる変化です。サービス業のプロフェッショナルたちが次々と活躍の場を失っていく様を目の当たりにして、雇用を維持することの大切さを痛感したんですよね」

こう語るのは、ジールスで代表取締役CEOを務める清水正大だ。

同社は2014年創業。AIを活用した自動会話プログラム「チャットボット」でその土台を築いたのち、2019年に商品購入やサービス予約などが行えるチャットコマース『ジールス』をリリース。「少子高齢化による人手不足をAIで解消」という常套句を用いながら、事業を急拡大させてきた。

2020年、コロナ禍によって「非対面・非接触」が求められるようになり、ジールスはさらに売上を伸ばした。清水は、自社サービスが「価値あるもの」として世の中に受け入れられたことに歓喜しつつも、それまでとはまた違った想いを抱くようになる。

──苦戦を強いられている実店舗にも、何らかの価値を提供しなければ幸せにできない人もいる。

こうして編み出されたのが、機械(AI)と人による統合ソリューション『接客DX』である。

ここからは、藤田晋を筆頭とした稀代の投資家、そして凄まじき実績を持つ仲間たちを惹きつけてやまない、清水正大の全てをお届けしたい。

清水を変えた3人の大切な恩人と、“ドラえもん”


高卒で社会に出た清水は東日本大震災をきっかけに「日本をぶち上げる」と一念発起。猛勉強の末、明治大学政治経済学部へ入学した。

この時点でかなり稀有な人材と思うかもしれないが、その後、ジールスを2014年、在学中に立ち上げる。

「会社を起こそうと思い立ったのは、サイバーエージェント・藤田晋さんの本を読んで強く感銘を受けたから。その中に『若い頃に1日100件飛び込み営業をした』という一節があるんですが、これをそのまま体現したいと、創業当初はひたすら飛び込み営業に励んでいましたね」

初年度の年間売上高は120万円。1カ月の売上と見間違われる有り様だったが、当然と言えば当然だ。なぜなら、主たる商材を持たぬままに営業活動をしていたからだ。

唯一持っていたのは、確固たる志。訪問した先々で清水は、自らの想いを200%の熱量で根気強く伝えていった。するとしばらくして、清水正大というひとりの人間に対して、興味を示す人物が現れた。

大手人材会社ウィルグループ社長、大原茂氏である。

「大原さんは、僕の話をひとしきり聞いてくださった後、『君たちがビジョンに本気なのは分かった。当面の資金は出すから、事業の柱をしっかりと考え抜きなさい』と。

そこから初めて思考に思考を重ね、『人とコミュニケーションできるロボットを開発すること』にたどり着きました。日本をぶち上げるには、まずチャレンジする人を増やさなきゃならない。そう考えた時に志ある人が行動に移せるよう励まし、鼓舞する“ドラえもんのような存在”をつくりたい、と」

結局、失敗に終わったロボット開発だが、結果としてチャットボット事業の布石となる。実はこの変遷にも、ある人物の助言が関わっている。スモールビジネス向けEC・決済サービスを手掛けるhey代表の佐藤裕介氏だ。

「『チャットボットには大きな可能性があると思う』と新しい挑戦を始めた僕たちの背中を押してくれました。

裕介さんと出会ったのは、まだ裕介さんがheyを立ち上げる前の2016年。毎月毎月、事業や組織について“壁打ち”させてもらうことで、会うたびに重要な学びや気づきをもらっています。ジールスが進化できたのは、まさしく裕介さんのおかげです」

そして2019年。メンズコスメブランドを手掛けるバルクオム代表 野口卓也氏からの「バルクオム(通販)でチャットボットを使わせてよ」というラブコールが契機となり、ジールスはチャットボットを活かしたチャットコマースへと事業を進化させた。

「事業をシフトチェンジするきっかけを与えてくれたこの3名のほかにも、多くの方々に大変お世話になっています。起業するきっかけのみならず、ジールスに投資をしてくださった藤田さんもそのひとりです。

すべての始まりは、人と人とのつながりから。僕自身、スマートな戦略家タイプではないので『立たせてもらった打席に全力で挑む』、この繰り返しでこれまでやってきました」

採用も教育も、「おもてなし」の精神で。そこから目線を世界へ向ける


回り道こそしたものの、練達者からの助言や応援を受け、成長を続けてきたジールス。しかしここで、清水が、ただ単に人の言う通りに動いてきただけでない“独自の視点を持った経営者”であることを付け加えておきたい。とりわけ組織づくりにおいては、創業当初から勘所を押さえていたのだ。

例えば、人材採用。世界中でITエンジニア不足が叫ばれて久しいが、ジールスはこのような課題を上手く乗り越えることができている。それは社員が10名弱だった頃から外国人エンジニアを採用し、「国籍問わず力を発揮できる環境」をいち早く整えていたからだ。

「外国人を迎え入れるのは、時期尚早なのではという声も当然挙がりました。しかし『世界で通用するようなものづくりがしたい』『世界中からハイクラスのエンジニアが集まる会社にしたい』という自らの想いを叶えるためには、先回りしてでもグローバルなエンジニアチームをつくることが近道だと考えたんです。

日本人エンジニアもとても優秀な方が多いと思いますが、そこだけを対象に採用していたらエンジニア不足で窮地に陥ってしまうのは目に見えていましたし」

とはいえ、最初から順調に事が進んだわけではない。日常的なコミュニケーションエラーや大手企業からのヘッドハンティングなど問題が多発。外国人エンジニアを2名以上に増やせない“暗黒の2年”を経験した。めげずに策を講じ続けた結果、2021年1月現在ではエンジニアの約6割が外国籍社員となり、その国籍は15カ国以上に広がった。

外国人比率の高さのみならず、各界のプロフェッショナルが参画していることもジールスの特徴だ。

元Facebook Japan執行役員 馬渕邦美氏、元クレディセゾン取締役 松田昭博氏、自然言語処理研究分野の第一人者 関根聡氏などが顧問や社外取締役として名を連ねるほか、サイバーエージェント、リクルート、ZOZO、P&G、日本ロレアル、トヨタ自動車といった各社で活躍していたハイレイヤー層や、公認会計士、弁護士などのプロフェッショナルが続々と入社している。

このような練達者たちに対して、社をあげて注力しているのが意外にもオンボーディングだという。

「オンボーディングって一般的に『若手層に向けてしっかりやるべきこと』という固定観念があって、経歴が素晴らしい人であればあるほど軽んじる傾向にあると思うんです。特に僕らみたいな平均年齢30歳前後の若い会社だと『これまで他社で活躍してきた凄い人は、無条件に活躍できる』と思い込んでしまう。

でも、お客様やプロダクトに理解がないままポンっと仕事を丸投げされたら、どんな人だって成果は出しにくいですよね。そのことに気づいてからは、オリエンはもちろん、デイリーミーティングや1on1、場合によっては合宿などを積極的に開催して、“ジールスを知ってもらう努力”をするようになりました。

ジールスがカルチャーとして根差していきたいのが、リーダーシップならぬ“オモテナシップ”です。シップは英語で精神という意味なので“おもてなしの精神”という意味の造語です(笑)」

社員数の増加と共に多様性が増していく中で、しっかりジールスへ迎え入れるおもてなしの精神を持ち、新メンバーが活躍できる土壌を築く。一人ひとりのこうした意識が、会社にとっても社員にとってもよき未来をつくる、と清水は話す。


AIと人の力を集結させ、日本が誇る「おもてなし」を世界へ


2020年10月、ジールスは機械(AI)と人による統合ソリューション『接客DX』をスタートさせた。

このサービスの最大の特徴は、単一のツールではなく、オンライン接客プロセスを一括で提供する“仕組み”であること。ユーザーは「チャットボット」「有人チャット」「ビデオ接客」から興味関心に応じてコミュニケーション方法を選び、好きな場所からアクセスすることができる。“接客・おもてなしのデジタル化”が、そのコンセプトだ。

「コロナ禍で旅行業や店舗ビジネスなどオフラインビジネスの窮状を目の当たりにした時に、あらためて『日本が誇る世界一の接客文化と、そこに関わる人々がこのような状況下でも活躍できる新しい環境を作りたい』と考え、構想から約3か月でサービスをリリースしました」

『接客DX』をいち早く導入したのは、大手旅行会社HIS。「僕たちは、コスト削減や効率化のためのDXではなく、新たな需要を見出し、売上を伸ばすための“攻めのDX”に関わっています。ですから、僕たちもリスクを取って貢献していきたい。そのため料金は基本、成果報酬型にしています」

すでに、自動車業、通信業、金融・保険業など幅広い業種から引き合いが来ているという『接客DX』。企業ごとに異なるプロセス構築や運用、そしてきめ細やかな接客をデジタル上でどう叶えていくのか、これからますますジールスの、そして清水の手腕が試される。

「今後はより一層『人を活かせるビジネス』に注力していきたいですね。お客様のため、仲間のため、ひいては社会の未来のために本気で考え、行動できるような“オモテナシップ”あふれる仲間と共に。デジタルと人とが融合できるサービスを構築していくこと、そしてそれを軌道に乗せ、おもてなし文化を世界中に伝えていく『おもてなし革命』こそが、コロナ禍の『日本をぶち上げる』起爆剤になると意気込んでいます」

2021年2月15日 Forbes CAREER に掲載
制作:Forbes CAREER 編集部
文・福嶋聡美 写真・小田駿

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