▶︎ 小田中 夏美 Natsumi Odanaka
:クリエイティブ部 映像ディレクター(入社4年目)
Enjinの仕事は、PR事業というフィルターを通して【企業の価値】や【経営者の魅力】をメディアを通じて発信し、新たな企業ブランドを生み出していくことですが、メディアによっては全国各地で地域医療に尽力しているドクターたちの活躍を紹介するものもあります。
弊社クリエイティブ部の映像ディレクター・小田中夏美は、入社2年目、ディレクター歴2年で、ある女性医師の思いに迫るドキュメンタリー番組の制作を担当することに。TV放送後、YouTubeで公開された番組動画の再生回数はこの2年で31万回を超え、今なお多くの反響を呼んでいます。
映像ディレクターとしてようやく自力で走り始めたばかりの彼女がどうやってこの番組をつくったのか。
その秘密に迫ります!
日常の『ありのまま』を伝えたい。
再生回数が31万回を超えたという番組は、どんな内容なんですか?
とある地上波の番組で、中野にある訪問診療クリニックの院長に密着取材をしました。神経内科が専門の女性医師で、ALS(筋萎縮性側索硬化症)という難病を抱える患者さんを数多く診られているんですが、その方の日々の訪問診療に一緒に行かせていただいたという感じです。3人の患者さんとそのご家族の方にもお話をうかがっています。
TV案件を一人で任されるのはこれが初めてだったのですが、ALSを扱う案件を担当すると決まってからは、自然とALSの患者さんに思いをはせるようになっていました。原因不明の神経疾患で、運動や呼吸に必要な筋肉が徐々に衰えてしまって、だんだん動けなくなるという病気。意識はちゃんとある、目も見える、耳も聞こえるのに、体だけが動かない。まるで箱の中に閉じ込められているような生活。生きるとか死ぬってどういうことなんだろうって、答えの無いことをすごく考えたりしているうちに、この番組づくりにかける思いがどんどん強くなっていきました。また、先生とは同じ東北地方の出身ということもあり、はじめからどこか共感するところもあったのかなと思います。
先生はものすごく協力的で、こちらがお願いしたら何でもやってくれるような方だったのですが、私は先生の日常をTVの取材で壊したくなくて。先生の診療のありのままを映像で伝えたいと思ったんです。なので、実際の撮影では、先生にはただ普段通りにしてもらって、私はそれについて行っただけ。患者さんの撮影許可はあらかじめ先生が取っていてくれていたのですが、患者さんの家について、最初からカメラを回すことはしませんでした。患者さんの近くに行かせてもらって、まずはいろんなお話をさせてもらいました。ALSの患者さんは言葉を発することは難しいのですが、文字盤を使って目の動きで言葉を表すことができるので、ゆっくりとお話しすることができました。話をしているうちに「よかったら胃ろうをする様子も撮って?」と言ってくれて。先生も「いいの?それは嫌って言ってなかった?」ってびっくりされて。胃ろうはお腹から胃に直接栄養を送る医療装置なんですが、最初は見られたくなかったそうなんです。
ALSの患者さんって、症状が出始めてからの進行が遅い人もいれば、すぐに回る人もいて。一人ひとりがまったく別のことで悩んでいて、それぞれで違った思いを抱えているんだなって、お話をうかがっているうちに気付きました。協力してくださった患者さんたちはみんな、今回の取材で自分たちの思いを、自分たちの言葉を伝えたいと思ってくれていて、それはご家族の皆さんも、先生もそうで、みんなの思いが同じだったからこの番組が成り立ったんだと思っています。
編集に入るときには、気がついたらALS関係の団体に全部自分で連絡して、資料や映像を提供してくださいってお願いしていましたね。難病の患者さんに会って話を聞ける機会は本当に貴重なこと。TVって、みんなが楽しくてハッピーになれるような番組を作ることも大事だけど、現実にこうして悩んでいる、苦しんでいる、悲しんでいる人たちがいることを伝えること、その人たちのリアルな「声」を届けることも大事なんじゃないかなって。生きたくても生きられない人がいる、生きているのに生きられない人もいる。その苦痛を、これだけの厳しい現実があるということを伝えたいと思いました。
でも、完全にTV番組制作をまるまる自分で作るのはこれがはじめてだったので、どうやって撮ってきた映像をつなげていったらいいのかまったくわからなくて。今まで会社の先輩たちが作った映像や、地上波で放送された医療系のドキュメンタリーをめちゃくちゃ観たりして、必死で映像のつなぎ方を勉強しました。
これは取材をする前の段階の話で、ちょっと話がさかのぼっちゃうんですけど、Enjinの作品のつくり方として、事前に先生と綿密な打ち合わせをして、あらかじめ台本を立ててから撮影に臨むのですが、その構成の段階で、番組の最後をどうやって締めたらいいのかものすごく悩んでしまって。ALSの現状を伝えることが一番で、私が何かの答えを出す必要はない、じゃあ患者さんの「思い」のインタビューで締めようかと。でも、すぐに言葉を発せられるような状況ではないし、その場で質問してその場で答えてもらうとなると、あせらせてしまうんじゃないかと。できればもっとゆっくり、深い話を聞くにはどうしたら・・・となった時に、同じクリエイティブ部の川合さんっていうぶっとんだ先輩が、「手紙もらえば?」って一言、アドバイスをくれて。ベテランの映像ディレクターで、本当にかなりぶっとんだ先輩ではあるんですが、私は川合さんが作る映像が大好きで。普段からいろいろ教えてもらっていて、この番組の制作にも全面的に力を貸してもらっていたんです。「そうか、手紙をもらえばいいんだ!」と思って、その結果、ああいった形で番組を締めくくることになりました。
桜が咲くと振り返る、自分の原点。
反響の大きさを知って、どう思いましたか?
この案件の担当営業さんから「再生回数、伸びてますよ!」って言われて、「え、マジで?」って。先生のクリニックのホームページからのリンクや、取材に協力してくれた患者さんたちがSNSで紹介してくれていたみたいで。そこから広がって、たくさんの人たちに観てもらえたのかなと思っています。
再生回数に対してうれしいということではなく、自分の映像を観てくれた人の意見や感想を聞くことがそれまではまったくなかったので、YouTube上で良い悪いの評価を受けているっていうことがうれしかったですね。コメントをもらったりとか。あの一つの映像を観ただけで、いろいろな考えがあるんだなって。こんな風にみんな考えがバラバラなんだなって思えたのは、ある種「気づき」だったかなって、自分の中での。
この番組が、というよりも、この案件が、自分の思いを反映しやすかったのかな。この先生は本当にすごくって、どの患者さんにも平等に接するんだけど、一人のドクターとしての冷静さも失わない。患者さんになれなれしくしすぎないけど、距離が近い。病院の先生というよりは「師」というイメージなんです。患者さんだけではなく家族の方の悩みにも親身になって応えて、導きはするけれど、医療行為以外の問題の解決には直接手は貸さずに、そっと、見守る。私がただただ先生のことが好きっていうのも大きいですね(笑)。同じ働く女性として、一人ひとりの患者さんに向き合う先生の姿は、憧れでもあります。
先生の日常を追うっていう、自分のやりたかったことができた、作りたかったものが作れた。医療の現場にも踏み込めて、立ち会うことができた。先生、患者さん、ご家族の方、あの取材で出会った一人ひとりがみんな真剣だった。もしかしたら今まで自分が作ったものの中で、いちばん思い入れがあるかもしれないです。その後、燃え尽き症候群みたいになっているところもありますが(笑)。ディレクターになったスタートの部分で、そこまで一緒になって作ってくれる人に出会えたことは本当にラッキーだと思っています。「世の中には先生のような人もいるんだ」ということを知れたことが、日々の業務のモチベーションになるというか。また次も同じように強い思いで取り組む人に出会える可能性がある!と思えます。
経営者を取り上げるインタビュー映像も多く作っていますが、TV案件で取り上げるならやっぱり密着ドキュメントがいいな。より重みのあるものを作る方が、私は好きです。クライアントが作品を気にいってくれて、活用してくれて、それが今回の結果のように広がっていくというのが、PR会社であるEnjinとしても一番いいケースなのかなって思います。
番組冒頭の桜のシーンは千鳥ヶ淵で撮りました。警備員さんに「三脚は立てないで!」と怒られながら(笑)。あれから2年、春が来るたびに必ずこの作品を観て、作ったあの時の自分の気持ちを振り返るようにしています。いちばん思いを込めて作ったものだからこそ、自分の原点だなって思っています。「なおさら頑張らないとな!」と、改めてスイッチを入れられる作品です。
【En人(エンジン)】では、今後もEnjin社員の働き方や考え方などを随時ご紹介していきます!!