今年の1月からスタッフとして働いている片野健太さん。先日、スタッフとして初めてMoG(カンボジアで実施)を一から担当しました。今回のMoGについて、「“人生”レベルで大きな体験をした」と振り返った片野さん。MoGを通して何を感じたのか、どうしてそう思ったのか。お話を聞いてみました。
―今回初めて主担当としてMoGプログラムを運営されたと伺いました。
これまで6 Steps Facilitator(6SF:業務委託などでMoGの授業運営等をしていただいている方)などの立場で、いくつかのMoGを見学したり、コンテンツ作りの一員としてMoGに携わってきましたが、今年の1月に正式にvery50のスタッフとなりました。
MoGのプログラムの多くは、現地に行くまでに学校の授業時間などを用いてビジネス的なノウハウや事業家についての情報をインプットする「事前トレーニング」期間と、実際に現地で情報を得ながら事業家へのアウトプットを完成させる期間の二つで構成されています。これまでは現地期間のみの参加で、主に生徒のセッションのファシリテーションや、生徒と一緒にプロジェクトを進める大学生メンターとの壁打ち・現地運営などをやってきましたが、今回は、初めて事前トレーニングの設計や実施から担当し、現地を含め、本当に最初から最後までMoGを経験しました。
―事前トレーニングでは具体的にどのようなことをするのですか。
今回は学校単位でのMoGだったので、学校の探究の時間を利用して、隔週で全6日間、1日2コマで授業を実施しました。授業の内容としては、現地で事業家の方へ提案するプロジェクトを組み立てるに当たって、4C/5P分析やペルソナ設定などのビジネスフレームワークを知っておく必要があるのでそれらのインプットがまず一つ。それから、現地でいきなりプロジェクトを考えてもいいアウトプットにならないことが多いので、事前に仮説を立てて、一度アイデア提案まで実施するということを目指しています。現地に行くとそれがいい意味で崩れるので、もう2周目のプロジェクト組み立てを現地で行う、ということができれば理想、という感じです。
―実際、実施してみてどうでしたか?
今回、ネットワーク的な制限で授業中に企業調査ができないなどのハードルがあったことも大変だったんですが、もう一つ、今回のMoGは修学旅行と組み合わせる形だったので、公募型と違って全員がMoGへの意欲が高いわけではない中、士気を挙げていくということが重要でした。そのために、急遽授業を組み替えたり、自分たちのプロジェクト、修学旅行として楽しく取り組めるように生徒の中からリーダーズや修学旅行実行委員を擁立したり、思いつくものを片っ端からやりました。毎回授業当日の朝までもっとできないか、もっとできないか、って試行錯誤して、教育インターンとして参加してくれた大学生と一緒に議論しながら準備をしていました。
very50でやっているプログラムに関して重要なのは、スタッフや6SFの役割がファシリテーターである、ということだと思っていて。生徒の反応と対話をしながら授業を作っていくので、当然当日に内容が変わることもあるし、何なら授業中に組み替えるということも起こってくる。そこが難しいところなんですが、本質的にそうあるべきと思ってやっています。
―今回特に大変だったことの一つに、ガチャのMCを挙げていただきました。まずガチャとは?
現地で毎晩、1日の活動を振り返り、事業家に価値を残すための活動として、どんなことをして、どんな情報を得て、何を考えたのかというのを、40分間で資料にまとめてもらうんですけどそれに対する評価に応じてコインを付与するんです。プロジェクト最終日にそれまでに獲得したコインの枚数に応じてくじを引いてもらう仕組みを導入していて、それをガチャって呼んでいます。
当然このプロジェクトに対してモチベーションがあれば必要ないものなんですが、まずはこういう仕組みで外的動機づけをして、頑張っているうちにやっていることが自分のためになっている感覚が出てくると、コインとかは関係なく最後までやりきりたいとか、将来のためになりそうだからチャレンジしてみようという内的動機に変わっていく。そのうちのまず一歩目として、こういう仕組みを入れています。
―それで、ガチャのMCというのは?
簡単にいうとそのくじを引く大会を最大限盛り上げる役っていう感じです。元々、人前で話すのは苦手なんですよ。だから、実は授業とかも緊張でちょっと気分悪くなりながら行ってるんです。
しかも、ガチャはやっぱり他のスタッフに得意な人がいるので。MC大好きスタッフが彼らのテンションとスキルと経験値で作り上げたガチャというものをちょっと呪いながら笑、頑張りました。実は今回2回ほどガチャを担当して。まず現地に行く前にする事前ガチャ。ガチャがどんなものなのかを伝える目的で、現地入りする前にやるんです。
その事前ガチャの前日、もうひたすら練習して。その前の1週間とかずっとガチャのことしか考えてませんでした(笑) 色々戦略練りながら、前日に急遽大学生メンターに第一声をお願いしたり、最後の最後まで調整してました。結局、結構盛り上がって終わったのでよかったんですけど、現地でもう一回あるんだと思って笑
―頑張れた要因は何ですか?
もう、修学旅行をちゃんと楽しんでもらうという目標を自分の中で何度も落として、何のためかをずっと自問自答して、高校生にとって忘れられない修学旅行にするというモチベーションで。現地でもめちゃくちゃはじけました。もう喉がなくなるぐらい笑
生徒の最後のリフレクションで満足度を聞いたんですが、ほぼ5ばっかりだったんです。けどこれはある意味納得がいって。いや、あんだけやって5じゃなかったら何なんだっていうぐらいやりきりました。もちろん課題を無視しているわけじゃなくて、当然反省すべきことはあるんですけど、とはいえ、あの時の僕とかあの時用意されていたものの中では、やりきれたという自負はすごいありました。
―今回のMoGについては、人生レベルで大きな体験をした、と振り返っていただきました。なぜでしょうか?
僕大学も出てないし、高校も神奈川県で下から二番目の偏差値の高校で、家も貧乏でっていうスタートラインの割に、ここまでの人生でやることやってきたっていう自負はあるんですよね。どの業界に入ってもそれなりに志し高く持ってやってきたからこそ、自分の“武器”をたくさん手に入れてきたつもりだったんですけど、今回のMoGにおいては、当然それらが生かされる場面はあった一方で、今までの自分の経験値とか現状のレベルでは到底戦えないってことを分かった上で挑むという感覚もあって、僕の中ですごく挑戦的な仕事でした。自分が”持ってない“ものがあるっていうことはちゃんと自覚した上で本当にいろんな人に助けてもらって。僕がどう思われるとか、「あいつ色々な人に助けてもらってたな」とか「あいつ馬鹿だな」って思われわれたとしても、とにかく目的を生徒への価値とかプログラムの成功というところからぶらさずにやりきれた。これは人生の中でも結構大きな体験で、今後こういう場面があってもきっとやれるんだろうという自信が持てたのは、個人的に良い経験でした。
―今回のMoGで印象的なシーンはありますか?
すごい自分勝手だなと思いますが、やっぱり現地でのガチャが終わった後。まだプログラム終わってないのに、僕の中では一旦終わったっていう感じになっちゃってました。というのも、「あ、もうこのプロジェクトは、この修学旅行は一旦成功したな」っていうのが見えたんですよ。めっちゃ盛り上がったんで。本当にこのMCが人生で一番くらい嫌で最高潮に緊張していたので、僕にとっての”山場”を終え、ようやく生徒やメンターたちの積み重ねた約3ヶ月の集大成を振り返ることができた、という感じでした。
あとは、最終日の生徒からのリフレクション。事前授業の時から毎回リフレクションはやってたんですけど、それまで出てこなかった言葉や、文量の多さが最終日には顕著に見られて。色々とやり尽くした結果、届いてるものは届いてるんじゃないかなっていうのはすごい感じましたね。「カンボジア以外の国にも行ってみたいと思った」とか、「すごく貴重で良い体験ができた」っていう言葉が出てくるっていうのは、事前期間から関わった僕からすると、あんまり見えてなかった景色だったんですよ。明らかに生徒の顔つきも変わってたし、そういうのも見ながらみんながやり尽くした積み重ね、”1ForN”の結晶だなあっていうのを強く感じました。
―課題も含めて、今後の意気込みをお聞かせいただけますか?
MoGがなぜ多くの人にとって刺激的で、また今後生きる人にとって重要だと思えてるかというと、不確実性と向き合ってそこから逃げないところとか、大人が120%の力を込めて一生懸命やってるところとか、そういうところだと思っています。MoGを広げていくという意味でパッケージにしていくべきところもあるとは思いつつ、それ以外の部分で不確実性を意図的に残してそれに向き合うということは続けなければならないと考えています。
例えば、事前授業において、大方の日程やカリキュラムは決めた上で、1コマだけ空にしておくとか。というのも、生徒のムード含めカリキュラム通りにうまく準備できればいいんですが、そうならないことも多いので、空いた1コマにそれまでの経過を踏まえて今、本質的に必要なものを入れていく。少しリスクではあるんですけど、そのあらかじめ作っておいた不確実性にちゃんと向き合う姿勢を持ち続けることで、いいものを作ろうっていう主体性が生まれるし、そのおかげで今までにない体験を生徒に届けることができるんだと思っています。
あとは、その不確実性に一緒に向き合うメンターへのトレーニング。特に僕が大事にしたいのは、テクニックに走ろうとする姿勢を排除するということ。僕は学生時代、日本一になったアメリカンフットボールチームのトレーナーをやっていたんですが、そこで学んだのは日本一であればあるほど、いわゆる一般的に「そんなこと」って言われるような些細なことをめちゃくちゃ本気でやるということ。例えばグランドは1メートル2メートルでも走って移動するとか。そういう空気みたいなこととか、誰にでもできるって言われることを誰にもできないぐらいやるってことが日本一になるために重要だったんだろうなと。
それを踏まえて、例えば、今回メンターへ投げ込んだのは、他のメンターへの姿勢。メンターとの1on1をやると、他のメンターがタスクをやってくれないとか、時間に遅れたとかそういう不満を聞くことって結構あるんです。けど、アメフトチーム的に言えば、僕じゃなくて相手に要求しなよっていうことで。それをテクニカルに、こういう子にはこういう言い方をしたらやってくれるよみたいな助言をするんじゃなくて、まずはそれ以前に相手に言ったのかということを聞く。生徒にいいものを届けるために必要なことなのだから、まず相手に言った方がいいし、むしろそれをしないあなたの選択の方が俺は気になるということを伝えました。今後もそういった投げ込みなどを通じて、本当にいいものをつくることを目指すチームを作りながら、MoGを多くの高校生に届けていきたいと思っています。