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お花の定期配送サービス「ブルーミー(bloomee)」を提供するユーザーライク。エモーショナルの事業をしているイメージが先行し、ビジネス的な価値が取り上げられることは多くないが、実は総額40億円もの資金を調達した注目のスタートアップでもあります。
「花のサブスクがなぜそんなビジネス的に評価されているの」と疑問に思う方もいるかもしれません。しかし、花のサブスクを実現するには、業界全体をアップデートする力が必要なのです。
そしてブルーミーで培った「サプライチェーンを改善する」ノウハウは、他の業界にも通用するもの。そこに多くの投資家や企業が期待してくれたのです。今回はブルーミーのビジネス的価値について、代表取締役CEO武井 亮太にインタビュー。なぜ花のサブスクを始めたのか、どのようにビジネスを成長してきたのか話を聞きました。
「多くの人の人生を豊かにしたい」その想いが花のサービスへと繋がる
―まずは起業を目指したきっかけについて聞かせてください。
私はもともと教師を目指していたのですが、大学時代にベンチャー企業でインターンしたのをきっかけに起業を目指すようになりました。その理由は、教師を目指した理由と同じく「誰かにいい影響を与えられる存在になりたい」と思ったから。
教師になれば自分のクラスの生徒30人と深く関われますが、経営者ならサービスを通してより多くの人の生活を豊かにできます。インターンをしながらそのように感じた私は、卒業後にベンチャー企業に就職し26歳の時に起業を果たしました。
―なぜ花のサービスをしようと思ったのでしょうか。
会社を辞める時はアイディアが何もなく、ただ「多くの人のためになるサービスを作ろう」としか考えていませんでした。花に興味を持ったのは、退職祝いに花をもらったことがきっかけ。当時の私は躍起になってビジネスのタネを探していたので、花をもらった時もビジネスチャンスにならないか調べたのです。
考えてみると、花は結婚式や葬式で必ず飾られるし、歓送迎会などでも渡されるほど私たちに身近なのに、日常的に花を買っている人は多くありません。もしも、人と花の関係をアップデートできれば、大きなビジネスチャンスになると思いました。
加えて、私たちの身近な分野、例えば食や転職、不動産という領域は既にWebサービスが存在しレッドオーシャンな状態です。比べて花は私たちに身近な存在な割に、Web業界のプレイヤーがいません。それなら私にもチャンスがあると思ったのです。
サービスを立ち上げるも失敗。そこから気づいた業界の課題とは
―全く花き業界には知見がなかったんですよね。最初はどのようにサービスを立ち上げていったのか教えて下さい。
最初は今のようなサブスクリプション型ではなく、ネット上で花屋に相談できるサービスを作りました。プレゼント用のブーケを作るとなれば、花屋さんに行って希望や予算を伝えて、イメージにあったものを作ってもらいますよね。そのやり取りをWeb上で行えるようにしたのです。
しかし、そのサービスを1年半ほど続けたのですが、全く鳴かず飛ばずで。当時は今よりも「Webで花を買う」という文化がなく、そもそも花を買う人も少ないのに、それをWebで買ってもらうこともできなかったのです。
加えて、花屋さんにもサービスへの共感を得られませんでした。私たちのサービスは今も花屋さんの協力あって成り立っているのですが、当時は「なまものである花をポストに配送するとは何事か」と抵抗感をあらわにされてしまって。
ユーザーさんも増えない、花屋さんの協力も得られないとなってはサービスを続けられないので、ピボットすることにしたのです。
―どのようにピボットしたのでしょうか。
当時の数少ないユーザーさんにヒアリングしながら、サービスのブラッシュアップを図りました。その時に発見した課題は2つ。「料金が高いこと」と「普段の生活で花を買うきっかけがないこと」でした。
例えばプレゼントに花を買うとなれば、安くても6,000円はする上に、プレゼントを選ぶ時に花が選択肢に入ることはあまりありません。ワインが好きな人なら「ワインをあげよう」とも思いますが、家に花がないのに花を贈る発想にならないんです。
―そもそも市場があまりなかったのですね。
そうです。最初は自分のサービスを伸ばすために始めたヒアリングでしたが、話を聞くうちに業界全体の危機に考えが及ぶようになったのです。今のままでは小さな市場をただ奪い合うだけ。本当に必要なのは新しい市場を開拓することだと考えるようになりました。
そこで思い立ったのが、プレゼントではなく自分のために花を買う市場の拡大です。家で飾るならプレゼントのような高額な花はいりませんし、花のある生活を増やすことで多くの人の人生を豊かにできます。
これまで花を買っていなかった人たちをターゲットにすることで、市場を広げ業界にも還元できる。「業界のために」という想いが伝わったのか、徐々に共感してくれる花屋さんが増えていったのです。
IT企業にはない、サプライチェーンを改善する難しさとやりがい
―サービスをピボットし成長させてきた中で、大変だったことを教えて下さい。
サプライチェーンをアップデートすることです。ネットで完結するサービスとは違い、私たちは実際の花をユーザーさんに届けなければいけません。当然、お花を作っている業者さんからユーザーさんのもとに届くまでのサプライチェーンがあります。しかし、既存のサプライチェーンでは多くの不都合があったのです。
例えば、従来の花き業界はプレゼント用の商品が多かったので、花の規格もプレゼント用に長さが定められていました。野菜と一緒で、規定の長さまで育てなければ出荷できず、私たちは花を仕入れてからポストに入るサイズに花を切るなど、無駄な作業が発生していたんです。
そこでブルーミー用の規格を作って、最初から短く小さな花を流通できるように交渉しました。私たちは花を切る作業を省略できますし、花を作っている業者も早く花を出荷できるので収益性がよくなるんです。そのようにサプライチェーン全体を、私たちのサービスに適した形にアップデートするのが、他のサービスにはない大変さであると同時にやりがいでもありました。
―その後、法人向けサービスやギフトカードサービスなど、新しいサービスも展開していますね。今後はどのような方針での展開を考えていますか。
ブルーミーを充実していくのと同時に、花以外のサービスも新たに展開する予定です。世の中には花き業界のように数十年と流通構造が変わっていない業界があるので、そのような業界をアップデートできればと思っています。
業界が変わればサービスの幅も広がりますし、ユーザーさんが受ける体験も向上するはずです。私たちの強みである、業界を巻き込んでサプライチェーンを改善するノウハウを、他の業界でも活かしていきたいと思います。
ユーザーさんの「嬉しい」をつくるための3つのバリュー
―組織の話に移っていきます。まずは会社のミッションについて聞かせてください。
私たちのミッションは「ユーザーさんの、うれしいを創る」。もともと私が「多くの人のためになるものを作りたい」と思って起業したので、このミッションをこれまでも大事にしてきましたし、これからも大事にしていくつもりです。
そのミッションを体現するために「グロース主義」「ユーザー起点」「共創」の3つのバリューを設定しています。ユーザー起点は、その名の通り何事もユーザーさんを起点に考えるということ。そして私たちにとってのユーザーさんとは、花を買ってくれる方だけでなく、花屋さんも含まれます。
よりよい「花を買う体験」を提供するのと同時に、花屋さんも含めた花き業界全体にも貢献していくのが私たちの仕事です。
―グロース主義は、一見ユーザー起点と相反しているようにも感じますね。
仰るとおり、この2つのバランスをとるのが非常に難しい。ユーザーさんが喜ぶサービスを作りながらも、私たちがしているのはビジネスなので、しっかり利益を出さなければなりません。ユーザーさんはサービスを無料にすれば喜びますが、それで会社が潰れたら意味がありませんよね。
ユーザーさんが喜ぶサービスを作りながらサービスも成長できる、そのバランスを見極めるのが非常に重要なんです。正直、今でもそのバランスをとれているとは言えず、ユーザー起点に偏りがちですが、これからよりグロース主義も大事にしていきたいと思います。
―会社を成長させていくにはメンバーの力が欠かせませんよね。今はどんなメンバーが働いているのでしょうか。
今は中途をメインで採用しているのですが、IT系のメガベンチャー出身の方が多いです。新卒でメガベンチャーに入り、数年働いて責任ある仕事をしながらも、大企業では会社に与える影響の大きさには限界があります。そこでもっと会社にインパクトを出せる仕事がしたいと応募してくる方が多いですね。
また、ITサービスではサプライチェーンにまでは踏み込めないため、そこに物足りなさを感じている方も多いようです。多くの方が、業界構造全体を変えられる私たちの仕事に興味を持ってジョインしてくれています。
―サプライチェーンまで踏み込むと、仕事の仕方も変わってくるんですね。
そうですね。ネット完結型のサービスだと、業界の制約の中でサービスを作らなければなりません。「絶対ルールを変えたほうがいいのに」と思っても、IT企業がルールを変えるのは難しいのです。一方で、サプライチェーンまで踏み込んだ私たちなら業界のルールから変えていけます。例えば、先ほど話したようにサービスに合わせて花の規格から変えていくこともできるのです。
しかし、それもまた簡単なことではありません。業界に踏み込むために、私も何度も花屋に足を運んで、時には店を手伝い市場に連れて行ってもらって信頼関係を築いてきました。そういう泥臭い仕事の積み重ねが業界を動かせるのだと思います。
―3つ目のバリュー「共創」についても教えて下さい。
チーム一体になって、一つのチームを作っていくということです。私たちの組織はマーケティングやCS、開発部門にデザインなど様々なチームが存在するのですが、チーム感のコミュニケーションをとても緻密に行っています。
他のチームがどんな風に動いているか分かるからこそ、バリューチェーンが一気通貫したサービスを提供できるのです。時には自分たちとは関係ない情報までコミュニケーションしているので、非効率にも見えることもありました。しかし、全員が全体像を把握することで業界を巻き込んだサービスを実現できています。
―チームの共創意識を強めるために取り組んでいることはありますか?
みんなの目線を揃えることです。ユーザー起点が社内に浸透しているので、何か議論するときも、その考え方が基準になるのです。月に一度は「ユーザーヒアリング報告会」を開いて、アルバイトも含めた全員がユーザーさんの反応を把握しているので、全員が同じ解像度で議論できます。
また、3ヶ月に一度の合宿でもみんなの方向性を揃えています。普段からチーム間のコミュニケーションを大事にしていますが、どうしてもチームごとに仕事をしているので価値観が分かれることもあります。
そのようなズレをなくすためにも、3ヶ月に1度全社で集まって議論することで、自分たちがなんのためにサービスを作っているのか目線を揃えるんです。そのようにチームで一体になって働きたい人とジョインしてもらえると嬉しいですね。
潤沢な資金を使って大きなチャレンジができる今がジョインするチャンス
―今のタイミングでジョインする面白さがあれば教えて下さい。
今が一番チャレンジしやすい環境が整っていると思います。私たちはこれまで総額40億円の資金を調達したのですが、それに比べて組織は30人程度と小さめ。だからこそ、今入った人は大きなチャレンジができるのではないでしょうか。
あまりに小さな会社だとリソースがなくてチャレンジがしづらいですし、組織が大きくなるとまたチャレンジが難しくなる。今は調達した資金を使って組織も事業も拡大していくフェーズなので、その波にのってチャレンジしたい方はぜひジョインしてください。
―最後に武井さんのビジョンを聞かせてください。
将来的にはどの家庭でも一つはユーザーライクのサービスを使っているような状況を作りたいと思っています。例えば、ソニーの商品ってどんな家庭でも探せば出てきますよね。それはソニーがユーザーさんの様々なニーズに応えてきた結果です。
それは花のサービスだけでは実現できないでしょう。仮に花のサービスを解約しても、別のニーズを満たすサービスを提供する。そのように様々なサービスを展開することで、どんな家庭のニーズにもマッチするような会社を作りたいと思います。