2025年4月、私は代表を務めるUPSIDERの取締役会で、ある重大な方針を伝えました。
「来期(2026年4月期)予定していた黒字化を1年延期し、20億円の赤字を掘って成長投資を加速化したい」
2020年9月に法人カード「UPSIDER」をローンチしてから5年。請求書カード払いサービス「支払い.com」と合わせた累計導入企業数は8万社を超えました。売上100億円規模に拡大した現在も年間成長率50%以上の成長が続いており、来期には数十億円の黒字化も見込める状況です。
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そんな状況にも関わらず、1年前に説明していた計画を自ら否定し、赤字を拡大することを提案したわけですから、取締役会の議論はこれまでになく白熱しました。
「本当にやるのか?」「今、その必要があるのか?」
なぜ、あえてそのような道を選択したのか。その答えはこの半年の間に法人金融の領域で始まりつつある「劇的な地殻変動」にあります。
この千載一遇のチャンスを掴めるかどうかで、自分たちの今後の命運が決まる。
自分たちがミッションに掲げる「挑戦者を支える世界的な金融プラットフォーム」を本気で創るためには、このタイミングでUPSIDER史上最大の投資をしない理由がありませんでした。
本日メディア関係者のみなさま向けに実施した事業戦略発表会では、直近の3つの新たなプロジェクトとUPSIDERの現在地、今後の展望についてお話しさせていただきました。
このnoteでは今回の意思決定に至った背景を掘り下げながら、UPSIDERの激動の半年間の舞台裏とこれからのことを綴ってみたいと思います。
◾️ 新たなプロジェクト概要
・6月に発表した、経営者のための経理丸投げサービス「UPSIDER AI経理」
・AI与信モデルなど法人カード基盤の外部提供開始
・スタートアップ向けデットファンド「UPSIDER BLUE DREAM Fund」の2号ファンドの組成
◾️発表させていただいた事業戦略について、詳細はこちらからご覧ください
法人金融“三国志時代”の幕開け
「法人金融領域へ本格的に進出したいと思っているので、UPSIDERの仕組みを使わせてもらえないか」
昨年の夏以降、法人金融を強化したい、もしくは新規参入したいと考える複数の大手企業から、立て続けにコンタクトがあったのです。それも現場の担当者からではなく、社長や経営陣から直々にメッセージが届きました。
そして同時期に、特に中小企業向けの金融領域において、大手金融グループやプラットフォーマーの新たな動きが次々と明らかになりました。
・MUFGとリクルートが協業、中小企業向け金融サービスの取引拡大へ(2024年6月)
・SMBCグループが法人向けに金融基盤を提供するインフキュリオンへ出資(2024年9月)
・みずほFGが楽天カードに約15%出資。法人領域での事業拡大も視野に連携を強化(2024年11月)
・PayPayが個人事業主・中小企業向けの融資業務に強みを持つクレジットエンジングループを買収(2024年11月)
・SMBC 中小企業向けのデジタル金融サービス「Trunk」開始(2025年4月)
私たち自身、法人カード事業を始めた当初から「いつかはこのような瞬間が来るはずだ」と信じていましたし、技術基盤の外部提供ができるよう準備も進めていました。ただ、予想外だったのは市場の変化のスピードです。こんなにも早いタイミングで、ここまで一気に状況が変わるとは考えていませんでした。
今が最大のチャンスだというワクワク感と、このまま何もしなければ取り残されるという危機感。自分たちの市場に未だかつてないほどの大きな波が訪れていることに対して、その両方の感情が猛烈なスピードで押し寄せてきたのです。
特に着目すべきなのが、プレーヤーの規模です。これまで私たちのまわりにいたのは、同規模のスタートアップやITベンチャーが中心でした。お客様の視点では「競合するサービス」ですが、市場自体が発展途上だったこともあり、私自身は「切磋琢磨しながら一緒に盛り上げていく同志」に近いような感覚で事業に向き合ってきたつもりです。
ところが、上述したような市場の変化によって、全く異なるゲームが始まろうとしています。
近年、個人向けの金融領域では大手金融グループや巨大な経済圏プレーヤーを中心に大規模な陣取り合戦が勃発していました。その動きが中小企業領域にも徐々に波及し、三大メガバンクを軸とした"三国志の舞台"のような局面へと変わろうとしているのです。
当然ながら、私たちも今までの前提を見直し、ゼロから戦い方を考える必要に迫られました。
会議を破壊した「UPSIDERが消滅するシナリオ」
2024年の秋時点でこの大きなゲームルールの変化を共有していたのは、社内でも経営陣を含むごく一部のメンバーだったと思います。それがUPSIDERにとって危機なのか、千載一遇のチャンスなのか、まともに議論はされていませんでした。それが会社全体の「自分ゴト」になったきっかけは、共同創業者の水野が事業責任者に向けて書いた1つのメモ(Notionのドキュメント)でした。
「ちょっと面白いことを考えてみたんだけど」
水野からいつもの明るい調子で共有されたメモのタイトルは、「UPSIDERが消滅やしょぼい会社になるのを防ぎ、ぶち上げる道」。刺激的なタイトルのこのメモには、
・法人金融市場で起こりうる未来予測
・UPSIDERが消滅するシナリオ
・今後この市場で勝者になるプレーヤーの条件
・UPSIDERが選ぶべき道筋
といった内容が10パート、2万文字にもわたって、まるで小説のようなストーリーで詳しく書かれていました。見方によってはネガティブに捉えられるかもしれませんが、普段から議論を重ねている私にとっては納得感があると同時に、心からワクワクする内容でした。また経営者としては常に悲観的なシナリオを頭に入れておくことも重要です。その観点でも、ものすごく意義のあるメモでした。
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そこで3月中旬のオフサイトMTGで、経営陣や事業責任者に向けてこの内容を共有することにしたのです。
その日のことは、今でも鮮明に覚えています。会の冒頭でメモが共有された瞬間、文字通りその日のプログラムが破壊されたのです。
「この前提にたつと、今日のアジェンダで議論する意味がないのではないか」。誰もがそう感じるほど、本質的な内容でした。
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千載一遇のチャンスが目の前にある
オフサイトMTGの日を境に、事業責任者たちの雰囲気は明らかに変わりました。
「“中小企業金融戦争”が本格的に始まった際、どうすれば自分たちが世の中の役に立ち、圧倒的にぶち上げることができるのか」
事業責任者が主体となって全社視点で深い議論をする会が、数日に1回のペースで開かれるようになりました。しかも、そのような状態が1ヶ月以上も続いたのです。
従来のUPSIDERでは、各事業が「独立した小さなスタートアップ」のように運営されてきました。ナレッジの共有は必要に応じて行われていたものの、事業計画はそれぞれの責任者が作成します。各チーム間で細かな計画を議論することはほとんどありませんでした。
ただ、そもそも市場環境が根本から変わってきているのだから、従来の考え方も通用しなくなります。前提となる全社戦略や「社内の共通のリソースを各事業にどう配分するべきか」といった具体的な方針まで、事業の垣根を超えて話し合うようになりました。
常に全員の共通認識となっていたのは、この数年が千載一遇のチャンスであり、2025年がそのスタートの年になるということです。既存事業や従来の戦略に固執せず、最も価値が高いところに注力していけば、必ず社会的にものすごく大きなインパクトを出せるはず。そんな期待感と緊張感がありました。
その後各事業責任者から提出された翌年度の事業計画は、それまでの議論を象徴するかのように、大胆な内容でした。
彼らの計画を統合すると、来期は全社で少なくとも30〜40億円の成長投資が必要になります。「随分と大きな計画を立ててきたな」。その思い切りの良い内容には私も興奮したものの、1円1円を大切に使う文化のもと、予算1行1行を細かく精査し、私たちの歴史において最大となる20億円の投資をすることを決めました。
「大きくなる会社」は常に自分たちのあり方を問い直している
ここまで思い切った投資をした経験は、起業してから一度もありません。私と水野との間だけでも意見が分かれる部分があり、何度も議論を重ねてきました。
「迷いが一切なかった」と言えば嘘になりますが、市場の変化という外部要因以外にも、決断に踏み切れた理由がいくつかあります。
1つはUPSIDERが大事にしてきた、「自分たち自身が挑戦者として、大きいことにチャレンジしよう」というカルチャーです。社内で何か新たな事業を検討する際には「まだ誰もやっていないか」「世の中にどれほどのインパクトを与えられるか」が必ず議論されるほど、この考え方が私たちの土台になっています。
今回の決断に至るまでの期間で、久しぶりに水野と自宅でお酒を飲みながら、UPSIDERの今後についてじっくりと話す機会がありました。その際も、お互いが「やるならもっと大きいチャレンジをしたいよね」という言葉を繰り返していたことを覚えています。
また、もう1つの理由として「大きくなる会社は、常に自分たちが何者なのかを問い続けている」という仮説がありました。
検索エンジンとしてスタートした「Yahoo! JAPAN」は、今ではショッピングからニュース、旅行、不動産、金融に至るまで、様々なサービスが集まる「巨大なプラットフォーム」へと進化し、PC中心からスマホへのシフトにも挑戦してきました。
ベンチャーの元祖として常に学生から人気を集めるリクルートも同様です。私が学生時代に知っていた10年以上前の姿と、今では全く違う会社になっています。
こうした偉大な企業は、少なくとも10年くらいのスパンで自らのあり方を問い直し、時には「自分たちを否定するようなもの」に対して大きな投資をしています。そしてテクノロジーの変化が著しい現代において、このスピードはさらに上がっているはずなんです。
奇しくも、私たちが法人カードをリリースしてからもうすぐ丸5年になります。偉大な先輩たちにならって、自分たちも「過去のUPSIDERを否定するような投資」に踏み込まなければならないタイミングなのではないか。そのような考えもありました。
上場後を見据えた、中長期での時価総額の最大化
新たな方針を固めた数日後、UPSIDERのオフィスで開催した取締役会で新計画を説明しました。
1年前に作った計画では、来期に黒字化する予定です。実際にほぼその通りに進捗していて、既存事業だけで間違いなくしっかりと利益が出せる状態でした。
おおむね計画通りに進んでいるにも関わらず「さらに大きな挑戦に踏み込みたい」と言っているわけですから、すぐに納得してもらえるわけではありません。「本当に必要なのか」「なぜ、今である必要があるのか」。当然ながら、そのような声もありました。
私は業界の変化や社内での議論の過程などを丁寧に説明しましたが、その中でも軸になっていたのが「上場後を見据えた、中長期での時価総額の最大化を目指す」という考えです。
新計画の場合、短期的には黒字化から遠のき、赤字額も膨らみます。しかし今のタイミングで新しい芽に投資ができれば、5年後には飛躍的な成長が期待できます。
この1〜2年でスタートアップを取り巻く環境が変わり、IPOの不確実性が高まっています。投資家の視点に立つと、ある程度の規模のIPOが期待できる投資先には、できれば手堅くIPOへの道を進んで欲しいという考え方もあるはずです。
それでも、UPSIDERが以前から目標に掲げている「時価総額1兆円以上」の企業に近づくためには、このタイミングでアクセルを踏むことが不可欠で、それは投資家へのリターンを最大化させることにもつながる。その考えが一致していたからこそ、最終的に「絶対に今、思い切るべきだ」と背中を押していただくことができました。
構造上の「ひずみ」を技術を用いて解く
では「具体的に何に投資をしているのか」。詳細は別の機会にでも改めてご紹介するとして、ここでは全体像に少し触れておきます。
今、UPSIDERの社内では複数の事業やプロジェクトが猛烈な勢いで立ち上がり始めています。そこには大きく以下のテーマがあり、今回発表した3つのプロジェクトもそのテーマに基づくものです。
「構造上のひずみを技術で解き、挑戦者と支援者をつなぐプラットフォームに」
長らく、中小企業金融領域では、挑戦する中小企業へ支援が届きづらい「構造上のひずみ」が存在していました。
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私たちが法人カードから始めた理由は、100名ほどの成長企業のCEO・CFOにヒアリングをする中で、ほとんどの方が「与信(信用)」に対する強烈な課題を抱えていらっしゃったからです。
「今が勝負時なんだけど、与信審査に通らずに困っている」
何人もの経営者の方から、そのような相談を受けました。なぜ成長企業に十分な与信枠が設定されていないのか。答えは明確で、金融機関の事業構造上、「従来の審査方法ではリスクが高く、採算が合わない」からです。
これまでの与信審査は、担当者が人力で決算書などをモニタリングし、時間をかけて丁寧に審査をしてきました。これが大企業であれば問題ないですが、中小企業やスタートアップの場合は審査に必要な情報が限られる上に貸し倒れのリスクも大きいので、従来のやり方ではコストに見合わない。
さらに低金利の時代が続いたこともあり、金融機関が継続的に利益を出していくためには、どうしても優先順位を下げざるを得ない領域でした。つまり、社会・経済的要因により生まれた構造的な“ひずみ”があったんです。
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そこで、私たちは「AIと人の協働」に可能性を見出しました。人手だけに頼っていては、コストが見合わず、事業として継続できない。そうではなく、技術を前提とした新しい与信の仕組みを作るというアプローチを採ったのです。
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この構造上のひずみを技術で解きながら、課題解決の幅を拡張するUPSIDERのルーツであり、今後も変わらない軸となる考え方です。
創業期から熱烈に求められていた、経理現場の課題解決
こうして法人カードやデットファンドなどを通じ、中小企業の本来の信用を正当に評価し、成長資金の提供を行ってきましたが、ある課題が次第に浮き彫りになってきました。
それは、「そもそも信用を測るための情報が存在しない企業があまりに多い」という、一つ前の根本的な問題です。
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経理が整っていない。月次決算が締まらない。試算表も経営レポートもない。中小企業にとって、これは決して「怠慢」ではなく、「時間も人も足りないからできない」状態です。一方で、士業や金融機関も、限られたリソースのなかで、すべての企業に丁寧に時間をかけることはできません。
そこで、次に私たちが挑んだのが「経理そのものを代行する」というアプローチです。信用を測る前に、信用の“土台”を整える。それが、「UPSIDER AI経理」を提供することになった理由です。
まさに法人カードと同じように、構造的なひずみが存在していたのです。
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実はUPSIDER AI経理のようなサービスは、法人カードをローンチした当初から複数のお客様より熱烈に求められていたものです。当時の私たちにはそこまで手を広げるだけの力がなく、期待に応えられないことをずっと歯痒く思っていました。
2023年にようやく新たな一歩を踏み出すための体制が整い、法人カード関連の業務自動化サービス「UPSIDER Coworker」という形で試験的に提供を開始。ここで培ったものが現在のUPSIDER AI経理の基盤となっています。
「AI×BPO」や「AIエージェント」の領域は昨年頃から国内でも盛り上がり始めていますが、私たちは2年以上前から検証を重ね、最適解を模索してきました。UPSIDER Coworker時代も含め、累計の利用企業数は350社を突破。現在では1社あたり月間約250件の仕訳・請求・支払いなどの経理処理を実行できる体制が整ってきています。
このマーケットの先駆者になれる自信があるからこそ、UPSIDER AI経理には特に大きく投資をしていく計画です。
不可能を可能にする技術基盤を「プラットフォーム(黒子)」として開放する
もう1つの新たな試みとして、技術基盤の外部提供も始めました。わかりやすく言えば、法人カード事業を始めたい企業に対して、法人カードの構築・運営に必要な基盤をまるっと提供するということです。
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当然、この取り組みの背景にも様々な議論がありました。黒子として他社を支えると言えば聞こえはいいですが、実際はそんなに単純な話ではありません。社内でも「準備にかかる初期投資を考慮すると、経済性が合わないのではないか」「技術を真似だけされて終わってしまうリスクがある」といった懸念点が挙がり、私自身の中でも葛藤がありました。そもそもテクノロジーがここまで発達している時代、大企業が本気で資金と時間を注ぎ込めば、表面的な機能の大部分は模倣できてしまいます。
続きはUPSIDER公式noteでご覧ください!!