1
/
5

気づきに出会う場所をつくる。20代女性チームが挑んだホテル「kieto 秩父」開業の軌跡

埼玉県秩父市。ミッションヒルズカントリークラブの敷地内に、美しい景観を一望できるコテージ型宿泊施設「kieto 秩父」(以下「kieto」)があります。「うつろう自然に、心が動くひととき。」をコンセプトに、都心から約2時間という好立地と秩父の豊かな自然を活かして、訪れる人々に特別な時間を提供しています。

このプロジェクトの企画から開業までを担ったのは、全員20代の女性メンバー。彼女たちはどのようにしてkietoを立ち上げたのか。開業までの苦労と成長を振り返りながら、その舞台裏を探っていきます。

◼️プロフィール(写真左から)

河上鈴華(かわかみ すずか)
2021年に新卒でUDSに入社。2021年にホテル運営メンバーとして新卒入社し、ホテルアンテルーム京都で運営職を経験。2年目にプロジェクトデザイン事業部の企画職へ異動し、運営の経験を活かしながら、事業企画や商品企画を担当。

下竹麻里乃(しもたけ まりの)
2013年に広島県のホテルに入社し、フロントやレベニュー業務に従事。2022年、SOKI KANAZAWAの開業にあわせてUDSに入社し、マネージャー兼レベニュースタッフとして現場管理と売上管理を担当。現在は金沢業務に加え、kieto 秩父の販売サブサポートを実施。

堀井咲希(ほりい さき)
京都市内のシティホテルに入社し、ゲストサービス・フロントスタッフとして3年間従事。2022年秋にSOKI KANAZAWAの運営スタッフとしてUDSに入社。金沢での運営業務を行いながら、kieto 秩父の販売サポートを担当。

澤端美侑(さわばた みゆ)
2020年に新卒でUDSに入社。SOKI ATAMIでの運営業務を経て、SOKI ATAMI、SOKI KANAZAWA、all day place shibuyaの広報・イベント企画を担当。2025年春より、UDS運営ホテルの広報担当として経営企画室に異動。

佐藤文香(さとう あやか)
専門学校卒業後、飲食店や商業施設などの設計を得意とするデザイン事務所に新卒で入社し、約6年間 内装設計を担当。その後、2022年に中途でUDSへ転職し、前職で経験した設計業務に加え、商品企画にも取り組む。


省人化ホテルの新たなモデルケースをつくる


──プロジェクトが始まった経緯を教えてください。


河上:オーナーさんから「景色がいいところだけど、古い木造ログハウスをうまく活用できていない」と相談をいただいて、UDSでこの余剰地を活用できないかという話から始まりました。


佐藤:最初に現場を見に行ったのが2年前。当時はこのプロジェクトが本当に完成するとは思っていませんでした(笑)。やるかどうかもわからないレベルから、まず見に行って、提案してみようという感じでしたね。



──今のコテージはリノベーションしたのでしょうか。


佐藤:いえ、新しくつくりました。もともと10棟あったログハウスは老朽化も激しかったので、解体してつくり変えています。ただ、予算も限られているので基礎だけは活かして、コテージ6棟に、プールとサウナを新しくつくりました。


──どんな体制で進めたのでしょうか。


河上:事業の根幹のところは、UDSで進めました。私と佐藤さんで企画・設計をやりながら、コンセプトがある程度固まった段階で販売サポートとして下竹さんと堀井さんが入ってくれて、開業準備に入るタイミングで広報として澤端さんも入ってくれました。



──今回は自社で運営していない施設ですが、運営を担当しないことは最初から決まっていたのですか。


河上:最初から決まっていました。ミッションヒルズカントリークラブの中にはホテルもあって、既にオペレーション機能を持っていました。なので、そことうまく連携しつつ、でもkietoの方にはオペレーションの負荷がそこまでかからないような形で運営を構築しています。

クライアントさんの持っているオペレーションや組織を活かした新たな運営モデルをつくれないかとは元々考えていて、このレベルでの省人化はUDSとしても新しいチャレンジでした。今回の事例をモデルケースにして、地方でも開業がしやすくなっていったらいいなと考えています。



「自分が行きたいと思うものをつくるのが企画だよ」


──開業までの流れを振り返りたいと思います。河上さんと佐藤さんで企画を始めたのでしょうか。


河上:そうですね。一緒に企画書を練るところから始めました。


佐藤:私は前職で設計しかしてきていなくて、引き渡した後はなかなか運営サイドには踏み込めず、コンセプトから細かい備品まで、トータルで空間を考えたいと思ってUDSに入社しています。そのため今回は、メイン企画の河上さんと一緒に、旅をしながら考えさせてもらいました。

でも、ものすごく難しかった。外から見る企画はキラキラしているイメージですけど、0から1を生み出す苦労を身をもって感じました。


──その壁を越えられたきっかけはなんだったんですか。


河上:最初は軽く現場を見て、都心からすぐ行ける距離だからこういうのがいいかなみたいな、二人で想像しながら企画書を練っていました。ただ、それをチームに共有した時に、「そもそも二人は秩父に遊びにいってなくない?それでなにがわかるの?」という話をされて、今振り返ると、秩父の色をかき消してしまうような企画だったなと思います。


佐藤:「本当に自分が行きたいと思うものをつくるのが企画だよ」と言われて、そこから意識が変わりました。すぐに現地に行って、サイクリングして、川下りして、山登って、食べ歩きして。そうして、自分達が感じた秩父の良さを落とし込めるようになっていきました。



──UDSのバリューにある『エンドユーザー目線』ですね。


河上:現地を見ることで、秩父の自然の豊かさだけでなく、歴史の奥深さや食べ物の美味しさなど魅力をたくさん知って、根底に自分達が感じた秩父の良さを発信していける場所にできたらいいねと考えるようになりました。


──そんな中で、施設名『kieto』はどう出来ていったんですか。


河上:ネーミングは二人でひたすらブレストして、200個くらい案を出したかな。コンセプトも含めて、他の施設のリサーチをしつつ、雑誌を読み漁ってどう紹介されるかを想像していました。


『kieto』は漢字で書くと「気・会・所」で、「気づきに出会う場所」や「気づきへと繋がる場所」という意味を込めています。自分たちで実際に秩父へ行ってみると、景色や体験の良さも魅力的でしたが、その旅の中で得られた新たな気づきや、自分の内面に起こる変化が印象的だったんです。景色や季節の移ろいを楽しんでもらうなかで、新たな気づきを得られる場所であれたらなと考えてこの名前にしました。



──河上さんは運営から企画職へ異動されていますよね。運営を経験しているからこそ見えた視点があれば聞きたいです。


河上:今回は運営が自社ではないことがポイントでした。運営のリソースが決まっている状態で、やりたいことをどう実現するかだったり、どこまでのことができるのか頭の中でイメージ出来ていたのは、これまでの経験があったからかなと思います。


佐藤:清掃さんやレストランの運営会社さんと連携しながら、現場のオペレーションづくりもこなしてくれました。企画だけをやっている方だったらそこまで見えなかったと思います。


──設計では、どんな空間をデザインしたのでしょうか。


佐藤:なによりも眺めがいいので、それを一番に感じてもらえるように設計しました。内装はあまり装飾せず、どちらかというと引き算のデザインをしています。開口を大きくもうけて、シンプルに景色を切り取ったようなイメージでつくっています。



役割が混じり合ったチームで一つのものを生み出す


──販売サポートチームはいつ頃から合流したのでしょうか。


堀井:コンセプトや空間が固まってきた後、予約システムを選定・契約していくタイミングで合流をして、運営会社さんと各会社さんの間に入って契約を進めさせてもらいました。契約完了後は、下竹さんのサポートを受けながら、システムやOTAのコンテンツ整備など販売開始に向けて準備を進めました。

自社サイトやOTAの契約だけでなく、今回はほぼ無人に近い形で運営していくので、無人チェックイン/チェックアウトのシステムを導入しています。



──普段から運営を行っている目線で意識したことや、難しかったことがあれば知りたいです。


堀井:現場の皆さんの業務負荷軽減のため、お問い合わせの一次対応は、無人システムの会社にて行っていただいています。滞在中に「お湯が出ないんですけど」と言われた時に、「確認して折り返します」と返すのではユーザー体験が良くないなと思って、事前に起こりうるケースのマニュアルを作成して無人システムの会社や現場の皆さんにお送りしました。


下竹:販売サポートはオペレーションとも関連しているので、堀井さんと一緒にフロントで行う業務のスケジュールも調整しました。既存の業務と重なる時間帯もあり、現場の負担が少なくなるように配慮しました。

また、販売戦略を立てる上で、情報収集には苦労しました。普段であれば、マーケット情報を精査するために駅に張り付いたり、観光スポットに足を運び、人の流れや客層を観察しながら管理を行っています。しかし、今回はそれができなかったため、地元の旅館の方やOTA担当者とオンラインミーティングを通じて、シーズナリティをはじめ、多くの情報をヒアリングさせていただきました。


──今後も販売戦略は並走していくのでしょうか。


堀井:そうですね。OTAの戦略やSNS運用など、現場のマネージャーさんと情報を共有しながら進めていきます。


──広報とも連携をとっていると伺っています。


下竹:今は販売チームでkietoのInstagramを管理していますが、広報担当の澤端さんが最初にブランドの言語化や運用方法のマニュアルを作成してくれました。現在でも、動画制作などは澤端さんにお願いしています。


澤端:広報業務でいうと、SNSやリリースの打ち出し方を設計したり、内覧会や試泊会の企画と実施、現在は取材対応もやらせてもらっています。秩父に行くところから少しずつ参加して、ネーミングやロゴづくりも見させてもらいました。



──広報が企画段階から参加するのは良さそうですね。


河上:ブランドイメージの認識が合っていたので、試泊会の企画やリリースの見せ方などスムーズに進んだと思います。


澤端:私が今までやっていた広報業務は開業後の施設がメインだったので、開業前から入ってどう伝えるかを設計していくのは初めてでした。一緒に撮影に行ってメインビジュアルを決めたりして、わからないことも多かったけれど良い経験でしたね。


──何度も現地へ行っていたと伺っています。


澤端:撮影やリリースの投げ込みに合わせて、PRの役割として現地の方とのコミュニケーションもとらせていただきました。河上さんがすでに現地の方と関係をつくってくれていたので、試泊会などもスムーズに溶け込めたかなと思います。



──河上さんはPR的な役割もやられていたんですか。


河上:ただそのまちのことを知りたくて、いろんな所に遊びに行っていたら自然と人とつながっていました。そこから結果的にkietoの入浴剤で使っているかぼすを仕入れさせてもらうことになったり、アメニティのコーヒー屋さんも決まりました。

秩父自体は大きいまちではないので、いろんな方をご紹介いただいて、みんなでご飯にいったこともありました。まちにはいい方たちが本当に多くて、kietoのことも応援してくれるんです。



そのまちに愛される施設を


──UDSは新しいチャレンジをすることも多いですが、今回はどんなチャレンジがありましたか。


河上:省人化もそうですし、企画・設計で終わりじゃなくて、クライアントの販売をサポートしていくのは新しい形でした。なにより、この20代のメンバーで企画から設計、開業まで出来たのはUDSとしてもチャレンジだったと思います。



──あまり見ないレベルで裁量を持っていたように思えます。


佐藤:設計の仕事でいうと、業界的には一人の思いや意見が表に出ることはあまりない気がします。UDSは私たちが出した答えに対して、思いを尊重した上で、より良い方向に導いてくれる。企画・設計・運営でそれぞれ相談したら助けてくれる上長の方がいるのは大きかったです。


河上:やりたいけどやり方がわからないことは、どうしたらできるか一緒に考えてくれますね。たとえば、バーベキューの運営オペレーションは意外と大変なんですけど、真冬に上長がわざわざ来てくれてどうやったら実現できるか一緒に試してくれたこともありました。


──学んだことや苦労したこともあれば伺いたいです。


佐藤:0から1を生み出す苦労を知れたこともそうですし、運営の皆さんと一緒に仕事ができて、運営の気持ちを知れたのは良かったです。設計する上での気づきはたくさんありました。


河上:悩んだことは、現場との調整ですかね。UDSの運営チームとミッションヒルズさんのチームでは、価値観も当たり前も違う。それでもパートナーとして、現場の皆さんにどう心地よく仕事してもらうかは意識しました。

前提、現場の方からすると既存のオペレーションがある中で、kietoの仕事もお願いされていて苦しいはず。なので積極的にボールを拾って、一緒に進んでいけたらなと考えていました。



──最後に、kietoの好きなところを教えてください。


河上:実際にまちを歩いてみたら出会う人も物もすごく良くて、秩父の魅力をできるだけ滞在の中に取り入れました。お盆やアメニティには土地のものを入れていて、地元の方はそのことが嬉しいと言ってくれるし、知らなかったお客様からも褒めてもらえる。お客様視点でも地域の方々の視点でも良かったなって思います。


澤端:本当に、まちの人に愛されているなと感じますね。内覧会でも、「秩父にこんな良い景色の所があったんだね」と言ってくれる方が多かったです。


堀井:当初は秩父と言われて、どんな旅の過ごし方があるのかイメージがつかなかったんですけど、行ってみたらアクティビティも楽しめて、何よりもkietoからみる景色がとても良く、コンセプトにマッチしているなと感じました。


下竹:初めて秩父に行った時、まちの雰囲気や人の温かさにすぐに魅了されました。河上さんが宿泊者向けのマップを作成してくれていたので、それを頼りに現地のお店をいくつも訪れたのはいい思い出です。同世代のメンバーで、気軽に何でも話せる環境も好きでした。


佐藤:初めてみんなで一からつくったプロジェクトなので、やっぱり愛着があります。2年間という長いプロジェクトでしたし、初めてのチャレンジで分からないことばかりだったので、形になって実際にゲストが入っているのを見た時は嬉しかったですね。




あとがき

今回、「kieto 秩父」開業を手掛けた20代の女性チームに話を聞かせてもらいました。最後に、チームのことを見ていた上長の方から、取材後にこっそり頂いた言葉を残しておきます。


「0から何かを生み出すのは時間もかかるし苦しい。企画はしんどいもの。だけど考えて考えて考えた先にしか、新しい選択肢を生み出すことはできない。

そして、いくら作り手の頭の中で考えても開業後のユーザーの反応が全て。やってみないと何もわからないことも多いし、自分がエンドユーザー目線になって気付くことが大切。ゲストの反応を見て、何が良くて何が良くなかったか考え続けて、繰り返していくことでより良いものが出来上がっていく。だから、若いうちにやってもらいました。自分もこの会社でそうやって成長させてもらったので。」


Invitation from UDS株式会社
If this story triggered your interest, have a chat with the team?
UDS株式会社's job postings
2 Likes
2 Likes

Weekly ranking

Show other rankings
Like 田中 拓海's Story
Let 田中 拓海's company know you're interested in their content