2026年4月、ブルードに一人目のエンジニアが入社しました。現在はプロダクト部を立ち上げ、責任者を務める久田真寛さん。前職はWebサイト多言語化SaaS「WOVN.io」を手がける Wovn Technologies株式会社に創業期に参画し、9年間にわたって技術を牽引してきた人物です。
なぜSaaSテック企業のプリンシパルエンジニアが、テック企業ではない、エンジニアのいない会社を選んだのか。本人に聞きました。
「10xエンジニアの質に、量が掛け算される」
AIがもたらした生産性の革命。
―― まずは、これまでのキャリアを教えてください。
久田真寛(LinkedIn、GitHub:kyuden)といいます。2026年4月に、ブルードに入社しました。一人目のエンジニアということになります。
SCSK株式会社、株式会社万葉を経て、Wovn Technologies株式会社という、Webサイトを多言語化するSaaS「WOVN.io」の会社に創業期から9年いました。プリンシパルエンジニアとしてプロダクトのコアロジックの発明・機能開発をやりながら、約30名のエンジニア組織のエンジニアリングマネージャーも兼任していました。 WOVN.ioは、日本を代表する大手企業を中心に数多く導入されていて、国内で圧倒的なシェアを持っています。
だから、次はグローバルでトップを取る挑戦をしたいと思っていました。
―― 転職を考えたきっかけは何だったんですか?
AIです。
Claude Code や Codex などを使った日々の開発の中で、自分の生産性が数倍に跳ね上がっていくのをはっきり感じていました。エンジニア一人にできることの上限が変わってしまった。そう感じたことが「自分はどこで働くのが一番価値を出せるのか」を考え直すきっかけになりました。
昔から「10xエンジニア」という言葉があります。平均的なエンジニアの10倍の成果やインパクトを出すエンジニアのことです。私自身、幸運なことに実際にそういう超優秀な方と同じチームで働いたこともあります。
ただ、その10倍の正体は、コードを書く速さや量ではありません。
問題の本質を見抜いて、最適な解決法を考える。手戻りの少ない堅牢な設計をする。基盤の整備やチーム全体の生産性を引き上げる。こうした判断や作業の「質」、チームや会社への波及効果が、10倍の成果を出しているんです。
一方で、自分の手を動かして生み出すアウトプットの「量」まで10倍にできた人は、未だに見たことがありません。一人の人間が手を動かせる時間には、物理的な限界があるからです。
AIはここを変えました。
10xエンジニアの優れた判断や設計を、AIコーディングエージェントで2つでも3つでも同時に実装できる。10倍の「質」に、初めて「量」が掛け算できるようになりました。経験豊富で優秀なフルスタックエンジニアなら、一人で1〜2チーム分もの生産性が出せてしまうと思います。
「人の行く裏に道あり花の山」
エンジニア不在の環境こそ最大のインパクトを生む。
―― それが、なぜ「テック企業ではない会社」につながるんでしょうか?
「今、エンジニアが一人もいない会社に入ったら、一人分どころか、『小規模なエンジニア組織』一つ分くらいのインパクトが出せるのでは?」と思ったんです。
この考えを後押ししたのが、FDE(Forward Deployed Engineer)という、AIによって現在脚光を浴びているエンジニアの職種です。AIエージェントが本当に実用的に動くには、その会社に溜まっているデータや業務フローを整備して、個社に合わせて自社製品をカスタマイズすることが一つのポイントになってきます。だから各社は、顧客企業にエンジニアを送り込むようになった。それがFDEで、あり方は会社によって様々ですが、OpenAI や Google、Palantir から国内テック企業まで、いまこの職種の採用をどんどん増やしています。
そうであれば、AIを使ってインパクトを最大限に出すなら、FDEとして送り込まれて既存製品を個社カスタマイズするのではなく、自分がその会社に入社してしまうのも面白いんじゃないかと考えました。
FDE的なこともやりながら、自社の業務フローをAIエージェント前提に整備し、そのフローのためだけに特化したAIエージェントやシステムを開発する。そのほうがはるかに深くやれるし、かゆいところまで手が届く。AIの恩恵をフルに活かして最大のインパクトが出せると思いました。
―― テック業界以外だと様々な業界がありますが、どのような基準で探していたんですか?
テックやAIの活用が遅れている業界であること。労働集約型の業界であること。人力で回っている業務が多いほど、AIエージェントで変えられる余地が大きいからです。
実際、海外でAIによって急成長しているスタートアップには、この労働集約の問題を解いている会社が多いです。たとえばアメリカの保険スタートアップのCorgiは、人が数週間かけていた引受や査定をAIエージェントで置き換えており、年換算の売上が今年初めの4,000万ドル(約64億円)から年末には4.5億ドル(約720億円)に達する見込みと報じられています※1。創業からわずか2年ほどの会社です。他には、ネットに閉じていない、リアルビジネスをやっている企業であることなども重要視していました。
そういう業界の企業がAIをフルに使えるようになったら、何が起きるか。同じことをやるにしても、テック企業にいるより、はるかに大きなインパクトを起こせるはずです。
※1 Corgiの数値は、Forbes(2026年7月22日)およびTechCrunch(2026年7月23日)の報道に基づきます。円換算は1ドル160円で計算しています。
AIエージェントの優位性は長く続かない。
テック企業には真似できない「データ」で勝つ。
―― エンジニアのいない環境に飛び込む不安や迷いはなかったんですか?
なかったです。
まず「エンジニアが一人もいない」こと自体は、まったく気になりませんでした。むしろ、上昇余地がそれだけある、ということなので。
それに、こういう「あまり人が取らない道」を選ぶのは、実は2回目なんです。前職のWovnに入ったとき、開発組織は公用語が英語で、メンバーはほとんど外国籍でした。私は英語がまったく話せない状態で入社しました。案の定、入って1ヶ月はほとんど言ってることがわからなくて苦労するんですが(笑)。普通は英語をちょっとはできるようになってから入りますよね。
でも、あの選択は振り返ると、自分らしい良い選択でした。
周りに同じことをしている人が少ない道は、私の経験上、迷う理由ではなく、むしろ良い選択の兆候です。
「人の行く裏に道あり花の山」という、千利休が詠んだとされる句が好きで。みんなと同じ行動をするのではなく、あえて人と違う道や裏道を行くことで、素晴らしい景色に出会えるという意味です。今回の選択も、まさにそういう道だと思っています。
―― それでも、入社前に確かめたことはありますか?
財務諸表など、事業の状態は確かめました。
自己資本経営で、取扱高は約三桁億、営業利益は一桁億。外部からの資金調達なしで、日本最大級の教育旅行サービスと言える規模まで育っています。
スタートアップの世界に9年いた人間の感覚で言うと、外部調達なしで、黒字のまま、ここまで来ている会社はめったにありません。
しかも、テックなしで日本最大級の規模まで来て、ちょうどこれからグローバルに出ようとしているタイミング。「グローバルトップへの挑戦」という自分の思いと重なりました。
5ヶ月連続の売上目標達成。
自社特化AIエージェントが生んだ圧倒的成果
毎朝のチームミーティング
―― 実際に入社してみて、どうでしたか?
最初に作ったのは、営業を支援するシステムとAIエージェントです。
既製品ではなく、自社の業務フローのためだけに作ったものです。
結果的に、そこから5ヶ月連続で月間の売上目標を達成しています。
5ヶ月連続の達成は、ここ数年で初めての記録です。営業メンバー一人あたりの平均売上も過去最高を更新し、個人の月間売上でもこれまでの社内記録を塗り替えるメンバーが現れました。もちろんメンバーの頑張りが一番大きいのですが、システムとAIエージェントのインパクトも確かに感じています。
社内全体の変化も大きいです。入社前、社内で Claude Code を使っている人はゼロでした。今は、全社員の9割以上が Claude Code を使っています。もちろんデータの取り扱いルールを整備した上で、人事は採用ファネルの分析やスタッフのシフト管理を、営業は売上推移や目標達成ペースのダッシュボードを、Claude Code を使って自分たちで作って運用しています。
経営管理では Salesforce を MCP でつないで、これまで担当者にお願いして数時間待っていた経営判断に必要な集計が、AIに聞けば5分で出るようになりました。
そして、まだまだやりたいことだらけです。やれば売上や事業が前進するものがたくさん残っていて、システムやAIエージェントを使った新規事業も生まれようとしています。なので、いま急ピッチで採用を進めています。
―― ブルードは、AIでどう勝とうとしているんですか?
東京オフィスで作り上げたAIネイティブな業務フローとオペレーションを、海外にそのまま横展開し、今年は東アジアで支社を立ち上げ、来年はさらに東南アジアへ広げます。
さらに自社でも学校をもち、各国からの生徒を受け入れ、学校の中のオペレーションもAIエージェント前提で作り変えていく。集客から渡航後の生活まで一気通貫の、AIで効率化された垂直統合モデルです。
ただ、AIエージェントだけでは、優位性は長く続かないとも思っています。2、3年もすれば、AIエージェントを業務フローに組み込むこと自体は今よりずっと簡単になって、どの会社でもある程度できるようになるはずです。
そのとき勝敗を分けるのは、データです。
留学前の英語力はどうだったか。どの国に行き、現地でどんな学校のどんなコースに何ヶ月通い、どんな経験をして、何のアルバイトをしたか。帰国後に英語力はどこまで伸び、どんな会社に就職したのか※2。私たちはこれを「ライフチェンジングデータ」※3と呼んでいます。集客から渡航後の生活までの垂直統合は、この一連の変化を一気通貫で記録できる構造でもあるんです。これを数十万人分の規模で積み上げていきます。
このデータが揃うと、例えば留学の提案ひとつとっても根本から変わります。「将来こうなりたい」という方に対して、似た地点から望む道にたどり着いた人たちのデータをもとに、AIがその人に最適な留学プランを設計する。コンサルタントの勘と経験だけではなく、数十万人の人生の変化に裏づけられた提案です。
そして、このデータはテックだけの会社には真似できません。海外に物理拠点を持ち、渡航前から帰国後まで顧客と長く付き合って、初めて集まるものだからです。中長期でしか積み上がらないからこそ、後発が一気に追いつくこともできない。伸びているこの市場で、垂直統合とデータを作りきった会社がこれからのグローバルトップを取る。私はそう考えています。
※2 ブルードでは、留学後の就職・転職のサポートも行っています。
※3 ライフチェンジングデータは、個人が特定されない形に匿名化した統計データとして取り扱います。
―― 採用を進めているとありましたが、どんな人と一緒に働きたいですか?
エンジニアで求めているのは、フルスタック×フルプロセスで動きたい人です。バックエンドもフロントエンドもインフラも書いて、ヒアリングして何を作るかを考えるところから、設計、実装、運用まで一人で進める。受け渡しが減るほど開発は速くなるので、AI時代の開発スピードは、この形が一番出しやすいと思っています。
あとは、SaaS企業にちょっと飽きてしまった人。
自分のスキルをフルに発揮できていない気がしている人。特にB2BのSaaSでは、ソフトウェアを作って他社の事業に貢献できます。ブルードでは、自社の事業を自分たちで作ったソフトウェアで伸ばします。作ったものの反応や成果が、翌日もしくは当日すぐに隣の部署から返ってくる。このフィードバックの近さは、SaaSでは味わえなかったものです。
ビジネス職の方にも、ぜひ知っておいてほしいです。ブルードは、AIに仕事を奪われる側ではなく、AIで仕事を作り変える側に回っている会社です。全社員の9割以上が Claude Code を使っている環境は、日本にまだほとんどないはずです。
そして、今はAIであらゆるルールが変わるタイミングです。だからこそ、エンジニアの方もビジネス職の方も、この転換期に自分がどこで働くべきか、一度考えてみる価値はあると思います。
人の行く 裏に道あり 花の山