資本主義の成立から300年を経て、今まさに経済のパラダイムシフトが起こっている。 作ることと繁栄することがイコールではない時代において、企業活動は独占・競争から共存・共創に変遷しつつある。 ツナガルの考える共創事業とは。そのスタイルや社会的な価値を、ボードメンバーの竹林とディレクターの森村に聞いた。
竹林 謙
ツナガル創業メンバー。大学院で認知科学を専攻し、広告代理店に入社。東日本大震災の復興事業はじめ社会課題におけるデジタルコミュニケーション設計を担当。2015年から1年のバックパック生活を経て2016年にツナガル福岡オフィスを立ち上げる。九州全域での地域課題解決をはじめ、関係デザインや共創事業などの経営企画に取り組む。
森村 俊夫
イベント企画やメジャーアーティストのマネージャー等幅広い経験をした後、2020年ツナガル株式会社に入社。札幌オフィス立ち上げから参画し、新規事業としてスタートしたオンラインツアーのメインディレクターを務める。ツナガルがこれまで取り組んでこなかった地域との関係値作りをメインに、企画営業からディレクションまで幅広く担当。
AIの進化で世の中のシンプルな課題はテクノロジーが解決できるようになった。 しかしテクノロジーには未だ太刀打ちできない領域がある。人と人との関係の構築だ。 その課題解決の鍵を握るのは、ツナガルのビジネスエコシステム。 あらゆるステークホルダーのハブとなりインキュベーターとなるツナガルはいま、企業や自治体と連携した共創事業の推進に力を入れている。
竹林「『共創』の必要性が高まった背景には、環境の変化と産業構造の変化の二つに分けられます。環境面では温暖化や少子化のような人間社会や日本社会を巻き込むビッグイシューが挙がります。この課題は大きく複雑で一つの企業だけでは解決できない問題です。利害関係を超えて手を取り合って問題解決をしていかないと、地球が成り行かない状況です。産業構造の面では、作れば売れて豊かになるという高度経済成長期が終焉を迎え、顧客との信頼関係を土台にしたプロダクトやソリューションを生み出すことが企業に求められています。クライアントから僕らへの依頼も、モノを売るためのプロモーションをして欲しいというニーズから、ステークホルダーとの長期的な関係構築を一緒に考えて欲しい、というオーダーに変わってきています」。
森村「技術や環境が激しく変化し続ける中、個人や一組織で解決策を考えることが必ずしも最適とは限りません。そこで、所属や場所にとらわれないチームづくりの要になるのがツナガルの役割なんです。僕が住んでる北海道やツナガルの拠点がある地域はじめ、全国、さらに多国籍のチームを作ることが、ツナガルの共創スタイルですね」。
共創の実践によってどのような効果が期待できるのだろうか。
森村「効果の一つとして、ローカルイシューの解決に寄与できます。ツナガルは大手企業と一緒に仕事をする機会がたくさんあるのですが、大きな組織ではローカルコミュニティとのつながりを持っていない場合があります。一方で、僕たちは地域で活躍する方々との協業事例も豊富で、地域の魅力や文化価値を言語化して伝えることを得意としている。僕らと共創することで、それぞれの持つ強みを活かしながら互いのミッションを掛け算で達成できる。これが企業同士の共創で生まれる価値です」。
従来型のビジネスでは労働力と金銭の交換が原則。
一方森村は、地域との共創で対価以上の価値を見出したという自身のエピソードを語る。
森村「地域と企業における共創の醍醐味は、課題解決と価値創出の双方で、スケールの異なるアプローチが得られることでしょうか。地域には、やりたいことに対して熱量を持っている人が多い一方、地域外との接点、資金調達や事業承継などの課題を抱えていることがあります。それが僕たちのような企業と共創関係になることで、青い炎と赤い炎を使い分けるように互いの熱量を融合しながら、ダイナミックな課題解決ができる。同時に僕たちも組織内になかったような視点を得られます。僕はこうしたつながりの価値を生み出す取り組みが楽しいし、仕事の意義を感じながら働けている感覚がありますね」。
竹林は現在の資本主義のあり方を問い、社会構造の変革に目を向ける。
竹林「グローバルイシューを解決しようとするとき、ポスト資本主義と言われるような今日の資本主義のアップデートが必要です。その中でも、ツナガルが企業として目指していく形の一つが、ステークホルダー資本主義と言われているものです。短期的な利益追従ではなく、パートナー、地域社会などとベネフィットを共創・循環していくことがステークホルダー資本主義が目指している姿。経済的指標と同時に、持続可能な未来づくりへ参画する姿勢も、わたしたちが仕事に取り組む上で重要な指標になっています」。
異業種共創でかなう、新領域でのイノベーション創出
ツナガルの共創パートナーの業種は多岐にわたる。たとえば大企業との共創を進める時、ツナガルは一体どのような関わりをするのだろうか。
代表事例としてアサヒ飲料株式会社と、西日本高速道路株式会社(NEXCO西日本)との共創事業について聞いていく。
まずは、アサヒ飲料が飲料以外ではじめて手がけた新規事業である「三ツ矢 青空たすき」について。
「三ツ矢 青空たすき」のブランドビジョンは、「次の100年に向けて、日本の豊かな文化を『たすき』のように未来に受け継ぐ。誰もが自然の恵み、豊かな文化を感じられる体験を通じて、自分らしい形で暮らしに溶け込ませられる機会を提供する」。
この事業では、森や海、畑などを舞台に「自然の循環・持続可能な暮らし」を体験するプログラムが提供される。
森村「アサヒ飲料との共創事業でやろうとしているのは、自然と共生しながら地域を守っている語り部との共同体験を介して、ブランドの存在意義を生活者に体感してもらうことです。その中でツナガルは、地域と企業のブリッジになって共創を促進しています。体験プログラムのフィールドである福岡県糸島市で活躍する地域プレイヤーとアサヒ飲料との間の接点創出支援や、フィールドワークを通じたネットワーキング、参加者が地域に深く入るための体験プログラムの造成などを行っています。アサヒ飲料の強みは、日本を代表するブランドを140年以上かけて守り育てていることや、プロダクトのファンはじめ、何億というリーチをもっていること。対して、人と人を繋ぎ、その後の行動変容を促すスキームをもっているのがツナガルの強み。青空たすきのフィールドである糸島に実際に訪れる方が増えたり、日常生活の中で選択が変わったりする人が増えると、都市生活者にも地域社会にもプラスの影響が出るように事業を設計しています。共創パートナーから期待されるのは、こうした人を中心にした関係づくりや感動づくりなんです」。
(「三ツ矢 青空たすき」の舞台・福岡県糸島市)
NEXCO西日本九州支社とツナガルは、2023年9月に「地域創生等のプロジェクト連携に関する協定」を締結している。
このプロジェクト連携では、ツナガルが提唱する持続的な関係を創出するフレームワーク「関係デザイン」をもとにした体験編集と、NEXCOが取り組む地域共創活動や、高速道路インフラの強みを掛け合わせることで、関係人口創出・拡大のための対流促進を目指す。
プロジェクト連携・第1弾として開催したのは、大分県と福岡県のコミュニティ間における関係創出を目的としたイベント「紡ぐマルシェ」だ。
「紡ぐマルシェ」では、食がもたらす感動をきっかけに、地域の生産者(大分県)と都市の消費者(福岡県)が直接交流し、顔の見える関係を育み、実際に会いに行くという一連の行動プロセスを促すための体験デザインを手がけた。
竹林「NEXCO西日本のケースでは、インフラの役割のアップデートを主眼に置いた事業共創を進めています。以前は、人や物の流れを支えることが道路が持つ意味でした。インフラとしての道路がある程度整備し終えた今、次のステップとして『移動によってもたらされる新たな価値流通』について考えることがNEXCO西日本の新しいミッションです。一方、ツナガルは人の移動可能性を高めるようなモチベーション作りや、コミュニティ同士をつながる関係デザインを得意としています。出会った人たちが何か一緒にアクションを起こしたくなるような内発的動機を高めるファシリテーションを提供し、新しい移動の動機や、交流の形を探索しています」。
では改めて、共創で提供するツナガルならではの価値とはなんだろうか。
竹林「ツナガルのスキルの一つは『感動のファシリテーション』です。ツナガルが体験の中で提供しているのは、気付きのきっかけづくりや、感情を動かすナビゲーションです。多くのマーケターが認知獲得と態度変容を起こすために試行錯誤していると思いますが、経験や体験は情報提供による空中戦をはるかに凌駕するインパクトをもっています。二つ目は『関係デザイン』。地域の人、企業、自治体、ファンといった人々の間の利害関係を超えた共感ポイントを探し、共通ビジョンを作っていきます。デザイン思考を独自にアップデートしたフレームワークを開発し、人間の感情や個々の関係性という変数に注目した対話型のプロセスを重視しています。こうしたプロジェクト設計、ゴールの見定め、チーム編成、コンサルティング領域から実行マネジメントまでを一貫して担えるところがツナガル流の共創プロデュースと言えます」。
ツナガルが共創事業を行う理由は、自社の存在意義と密接に関わっている。
竹林「ツナガルの存在価値は、『つながりによる価値を創る会社』です。僕らが行うのは、つながりが生まれる場や瞬間、事業をプロデュースすること。同時に、それは僕らの強みでもあります」。
共創のパフォーマンスを最大化するための仕組みとして、ツナガルはビジネスエコシステムを形成する。
ツナガルが目指すのは、横や斜めの関係性を生み出すことだと竹林は語る。
竹林「ツナガルという場があることによって周りの人たち同士が複雑につながっている、というのが僕らの考えるビジネスエコシステムです。ツナガルを中心にいろんなステークホルダーが一対一で関係しているのではなく、縦横斜めにいろんなつながりやプロジェクトが発生し、新しい価値が生まれることを目指しています」。
ツナガルエコシステムで未来を変える
共創事業でつながりを創り続けているツナガルが目指す先とは。
今後の展望を二人に尋ねた。
森村「僕が個人的にやりたいことは、熱量がある人たちを繋げて新しい事業を創ること。自分なりのミッションを持っていたり、社会のためになるような活動をすでにしている人はたくさんいます。でも個人単位ではパワーの出力が弱かったり、資金の問題で大きく活動を進展させられないケースが少なくありません。そういった人たちをまとめたり、つなげたりすることで価値にするという仕事をしたいと思っています」。
札幌オフィス立ち上げから参画し、現在も札幌に居を構える森村は、北海道の活性化にも心を砕く。
森村「北海道は地域のポテンシャルに溢れ、これからもっとダイナミックなことができるはずです。そうした創造の源泉にツナガルなれれば、自分も楽しい。『熱量』を社会資本として捉える事業づくりは、まだ見ない領域ですが、ノウハウを持ってるメンバーもいますし、ツナガルであればきっとできる」。
竹林「森村の言う『熱量』はこの会話の中でも極めて重要なキーワードだと思います。関係デザインによって作ろうとしている質が高く持続的なつながりの価値とは、つまり熱量だと思うんですね。ツナガルが次のステップで長期的に取り組んでいこうとしているのは、熱量によるトランザクション(価値取引)をビジネス的にどう作るのか、というところ。熱量の高い人たちがつながり合えるような場のプラットフォーマーに僕たちがなれるのか、共創パートナーと協議をしています」。
ツナガルは今後5年で事業展開をさらに加速するロードマップを引いている。推進をともに担う仲間の参集は急務だ。
ではどんなマインドを持った人が参画することによってツナガルという企業体は広がりをみせるのだろうか。
森村「持っていてほしいものは、やはり熱量ですね。ビジョンとコミットメントを併せ持つ人と言い換えてもいいかもしれません。ツナガルはマネジャーが各メンバーに役割を与えるのではなく、各人ビジョンドリブンでやりたいことを実現させていく組織。共創事業にせよ、他のプロジェクトにせよ正解が何か分からない状態から始めることも多いので、モチベーションを持続化させるのにはビジョンとコミットメントが不可欠だと思います」。
竹林「信念を持ち、思考と実践を繰り返せる人がフィットする気がします。自分の価値観は変わるし、社会も大きく変わっていく中で、重要なのはそこに自分の意思があるかどうか。ツナガルが、というより『私』を主語にして、これからの社会における理想を持つことは必要ですよね。とはいえ、理想は短期的に実現できるものじゃないし、生きてる間に実現できないかもしれない。だから、理想を求めることと、思考と実践を繰り返してマネタイズすることを両輪で実践できる人が、ツナガルの中でも活躍できるんじゃないかと思います」。
人材の越境や叡智の集積を可能にする共創は、掛け算にとどまらない価値を生み出すことができる。
社会にインパクトを創出し続けるツナガルの今後の活動から目が離せない。
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