土屋鞄では2022年より「STOCK LUCK」という新しい試みをスタートさせました。「STOCK LUCK」とは、倉庫に眠っていた過去の良品を集めたシリーズです。この取り組みを通して、在庫数を減らしながら「最後まで自分たちのつくった製品に責任を持ち、自分たちの手でお客さまに届ける」という、ものづくり企業としての責任を果たしたいと、私たちは考えています。今回のインタビューは「STOCK LUCK」立ち上げ当時新卒入社2年目だった、発起人の若手社員2名にインタビューしました。
社員プロフィール
横山 彩乃(よこやま あやの)2021年土屋鞄製造所に新卒で入社。ランドセル事業企画部 ランドセル事業企画課へ配属。主に市場調査やユーザーインタビュー等の顧客理解、新規プロジェクトの進行管理を行う。
山田 雅(やまだ みやび)2021年土屋鞄製造所に新卒で入社。クリエイティブセンター 企画/ライター課へ配属(当時)。主にWEBサイトやSNS、カタログなどのテキスト作成を担う。
「STOCK LUCK」とは何か
ー 「STOCK LUCK」とは、どんなプロジェクトなんですか?
横山:これまでのランドセル販売の中でさまざまな理由から余らせてしまい、翌年に繰り越せずに倉庫に残していたランドセルを、もう一度お客さまに届けよう、というプロジェクトです。
ー 「STOCK LUCK」の目的を教えて下さい。また、どんな課題感から動き出したプロジェクトなのでしょうか。
横山:デッドストック削減を大きな目的としています。きっかけは倉庫を整理した際、これまでに残してきたランドセルの在庫が長年の蓄積によってあることがわかったことから始まります。職人が子どもたちを思い丁寧に大切につくったランドセルなのに、お子さんの手に届けられることなく、ただ倉庫に眠っている在庫があることに驚愕し、ただただ悲しかったのを憶えています。
土屋鞄のミッションは「時を超えて愛される価値をつくる」です。ものづくり企業としてこのミッションを達成するためにも、私たちは「つくる」「届ける」「その先」まで責任を持ち続ける必要があります。その点でも、その点でも、限られた資源からつくったランドセルをしっかりと使い手に届け、企業姿勢を社会に示す一つの機会にもなればと考えています。
「STOCK LUCK」のストーリーに込められた思い
ー 「STOCK LUCK」コンセプトストーリーの背景、思い、由来など教えてください。
山田:横山さんからは、「『つくる』『届ける』『その先も責任を持つ』というつくり手としての責任を持つ。そういう意味で、倉庫にランドセルを置き続けるのは違う、という考えを正直に伝えたい」というお題をいただき、それをネーミングに落とす必要がありました。
それだけでも十分、お客さまに共感いただけると思いましたが「職人が大切につくったランドセルを処分することはできない」と当時の製造担当役員がかねてから言い続けている言葉を加えて、課内で検討しコンセプトストーリーとして提案しました。使い手の気持ちはもちろん、つくり手の気持ちを大切にする、というのは、土屋鞄が大切にしている精神だと思います。
ー 「STOCK LUCK」のネーミングの生みの親は山田さんだそうですね。どのような経緯でこのネーミングに落ち着いたんでしょうか?
山田:まず、ネーミングの方向性として一つ決めたことがあります。それは「余りが出てしまったことを、ものづくり企業として正直に」ということです。
その方向性を指針としてワードの抽出に入りました。その中から出てきたワードで“Stock-在庫品-”や“Archive -過去のもの-”というワードを抽出しました。でもこれら“Stock”や“Archive”の言葉に引っ張られると、ランドセルというお祝い品としての要素が足りないような気がしたんです。ネーミングを考えるのに留意したポイントは「ネガティブな印象を与えず、購入の後押しをしてあげられるネーミング」であること。ランドセルというのは特別な買い物です。この過年度ランドセルを購入する際に、お客さまに「過去品番のランドセルを買っている」という寂しい印象を持たれないよう留意しました。
たくさん案出しをしている中で「倉庫に眠っていたランドセルの中から自分のお気に入りが見つかったらラッキー(Lucky)だよね!」という思いから、“LUCK”というワードが浮かび上がり、最終的に「STOCK LUCK」というネーミングになりました。
(社内のプレゼン資料から抜粋)
新卒2年目だって会社を動かせる
ー 「STOCK LUCK」立ち上げ当時、お二人は新卒2年目ながら、会社の一つのシリーズを具現化していったことになりますよね。アイデアを形にするまでに時間がかかりませんでしたか?
横山:一昨年に課題を認識してから「STOCK LUCK」シリーズをリリースするまで約半年でした。はじめは会社としても初めての取り組みのため課題が山積みで、店舗やECなど他部署には「これまでのランドセルシリーズとの住み分けはどうするのか」など様々な要因から懸念の色を示されたこともありました。
ですが、各部署のボトルネックになっている部分を一つひとつ丁寧に整理し、理解してもらえるまで取り組みの意義や必要性をすり合わせたことで、最終的には全社から後押しをいただけました。企画から準備段階までスピーディーに進めることができたのは、全社の皆さんの理解があったからこそです。
ー 1つのシリーズをリリースするまでに約半年しかなかったんですね。すごいスピード感です。
横山:今振り返ると、ものすごい短期間でした。当時の上司も早い段階で経営会議に持っていってくださったため、管理職や経営層から直接助言をいただく機会が多くあったのはありがたかったです。会社やその先にある社会にとって意義のある取り組みは、社歴に関係なく厚いサポートを得られるんだと実感しました。
ー 上司とのコミュニケーションも密だからこそ、このスピード感だったんでしょうね。
(コンセプト設計してから半年後にはロゴデザインも決まり実際に店頭に並ぶまでになった)
山田:本当にそう思います。ブレストや提案内容を固める時は、上司とフラットに意見交換をしていました。お客さまにより良いものを届けるという意味では、社歴や年齢に関係なくコミュニケーションさせていただけるのでありがたいなと思います。
「良いものを届けるためであれば、上司部下であっても意見に遠慮はいらない」という前提を会社全体で共有できているからか、私も率直に発言させていただけましたし、上司からも忌憚ないアドバイスを頂けていたのではないかと思います。
ー 新しいシリーズの立ち上げには不安もあったと思います。周囲のスタッフはどのようなサポートをしてくれましたか?
横山:私自身、当時は事業の全体像すら見えていない新人だったので、あらゆる場面で想定外が発生し、一歩進んでは三歩戻る…を繰り返すような進行だったと思います。そんな不安定な進行管理の中でも、販売開始に向けてとにかくひとつひとつ固めていこうと先輩方や同期の仲間たちが熱心にサポートくださり、なんとかカタチになっていきました。
実際に販売開始してからも、現場と連携しながら適時改善を繰り返すことで、翌年からは通年販売ができるまでにオペレーションが整ったのは、先輩方のお力添えがなくして実現はなかったと思います。
また、今回同期である山田さんがチームに入ってくれたことは大きかったです。同期のランチ会で、私が「STOCK LUCK」のストーリー設計で悩んでいることを打ち明けると、当時ライター課に属していた山田さんが相談に乗ってくれ、最終的には正式にチームにアサインされました。同期だからこそフランクに相談しやすく、みんなが納得できるストーリー設計を練り上げられたのは、山田さんをはじめとしたライター課の皆さんのおかげです。
ー そうでした。お二人は同期でしたね。頼れる同期がいるのは心強いですね。
山田:そうなんです。横山さんから「STOCK LUCK」の相談をいただいた時に、チャレンジしたい!と思いました。ですが、自分の思い描いたアイデアをアウトプットする経験が浅く、私のアイデア自体もまだまだ荒削りなものばかりでした。それでも、上司は私のアイデアや思いに対して、第一読者として、先輩ライターとして、率直な意見をフィードバックしてくださいました。
最初は一方的な思いでしかなかった私のアイデアが、社内の方にもお客さまにも素敵な企画と言っていただけるようになったのは、上司や他部署の方のご意見があったからこそです。
この企画を進めていく中で、たくさんの学びがありました。社内の皆さんからご意見をいただき、いろいろな部署の視点を知れたことで、土屋鞄のライターとして私自身が成長させてもらえる契機をいただいた感じです。
自分の思い描いたアイデアをアウトプットし、認めてもらい、社内外に広がっていく過程は気持ち良いものでした。この企画をきっかけに、自分の強みはなんなのかを自分の中にもてたことは、私にとって大きかったですね。
「STOCK LUCK」の目指す未来
ー この「STOCK LUCK」によって、どんな未来を描きたいですか?
山田:私がこの会社を選んだ理由の一つが、良いものやそれをつくる人たちの声を届けたいからというのがあります。ただ、消費者に向けて発信する時、顧客メリットを前提に考えるので、ライターという職種に携わることで、いかにつくり手の思いを伝えることが容易でないかを感じました。
「STOCK LUCK」はそれ自体が顧客メリットとうまく合致した一つの事例だと思っています。良いものを届けるだけでなく、その背景にあるつくり手の思いも届けることをこれからも続けていきたいです。
横山:「STOCK LUCK」をローンチしてから約2年になりました。実際にお店で接客をする中でも、通常製品と並べて検討されている場面や、お子さまが嬉しそうに「STOCK LUCK」製品を背負っている姿を見て、やはり倉庫に置いておくのではなく誰かにとっての相棒になれる機会を実現できてよかったと実感します。
ものづくり企業として、在庫リスクや材料調達リスクは永遠の課題です。それに対して、お客さまにもつくり手にもメリットがある解決策の一例を生み出せたことは、今後の可能性を広げるきっかけになれたのではと思います。
横山:これからも自社が持つ資産を無駄にすることなく、お客さまに価値を感じていただける(かつ喜んでいただける)新しい選択肢を絶えず検討していきたいです。
過年度ランドセルはどうしても毎年いくらかは発生してしまいます。とはいえ、ランドセルの余りが出ずにお届けできることほど幸いなことはないので、将来的には「STOCK LUCK」シリーズを販売しないでいい未来がいつか来たら嬉しいな、と思っています!