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これまでのビジネス・教育現場での経験を活かして、政策提言を行う


フェロー経験者であるアラムナイの今を紹介する本企画「アラムナイの活躍」。第6回目の今回は、フェロー0期生の識名由佳さんです。

識名さんは現在、アメリカのコロンビア大学大学院の国際比較教育学修士課程に在籍しながら、現地で教育領域のリサーチ・コンサル会社Shikina Education Research Instituteの経営もしていらっしゃいます。

本記事は特に、教育政策やEdTech、海外大学院への留学、リサーチャーやコンサルタントとしてのキャリア形成に興味関心の高い方におすすめです。


出身大学:慶應義塾大学法学部政治学科

職歴  :アビームコンサルティング     Teach For Japanフェロー 中学校     グロービス     Shikina Education Research Institute 代表

国際比較教育学を学びながら、教育リサーチ会社も経営

早速ですが、現在どういったことをされているのか教えてください。

半分はアメリカ・コロンビア大学大学院の修士課程で国際比較教育学を学びながら、半分は現地で経営している会社Shikina Education Research Instituteで教育関連のリサーチ事業を行っています。

コロンビア大学大学院には、2020年9月に入学しました。
ここでは、会社の事業内容を簡単にご紹介したいと思います。現在、大きく分けて2つの事業を行っています。

まず1つ目が、EdTechマーケットのリサーチ事業です。アメリカのEdTechマーケットは大きく、日本のEdTech企業や老舗の教育企業からの調査依頼が多く寄せられます。また、アメリカにいると、アメリカ同様にマーケット規模が大きく、成長しているインドや中国マーケットの情報も手に入りやすいというメリットがあります。

依頼内容としては、例えば、EdTech業界の特定分野におけるトレンドを現地の学校を訪問したり、カンファレンスに参加したりすることで収集し、その共通点や要因をまとめてレポートにするなどです。個人的には、教育×データに関心があるので、今後はこの分野により注力していきたいと思っています。

2つ目は、社会的流動性や教育機会格差に関するリサーチ事業です。Shikina Education Research Instituteを立ち上げた理由も、ここにあります。

クライアントは日本の地方自治体で、例えば、貧困家庭が何に困っているのかをリサーチし、解決策をアドバイスしています。この分野を手掛ける企業は少なく、自社の強みであると思っています。この事業を始めたのは、TFJのフェローとして現場で教育機会格差の現状を見たことで、解決策を考えていきたいと思ったからです。

Shikina Education Research Instituteは、フェロー後に入社したグロービス時代に副業で始めたのですが、今ではグロービスがクライアントの一つとなり、MBA教材の制作業務をお手伝いしています。当時は、AI教育研究所という次世代の経営教育モデルの研究開発を行う研究所の立ち上げなどを行いました。

なぜ、大学院に進学して国際比較教育学を学ぼうと思ったのですか?

先程お話しした会社の事業内容にも関係するのですが、平等化装置としての公教育の役割の現状と課題を研究したかったからです。

公教育は、生まれた環境に関わらず、人々の平等性を担保する役割を担っているはずですが、T F Jの経験を通じて、その機能が弱まってきていると感じています。但し、教育は誰もが語ることが出来るため、感覚論になりがちです。実際はどうか、過去と比べてどうか、他国と比べてどうかを学術的に研究したいと思ったため、国際比較教育学を選びました。

日本は他の国と比べて、政策を現場の役に立つ形で評価する習慣がありません。これは珍しいことで、出資国への説明責任を持つ発展途上国の方が、よほど政策評価をしています。

例えば、小学校への英語教育の導入や探究学習など、新しいことを取り入れたときには、それが実際に現場で機能しているのか、投資対効果はどうだったのかといった視点を持ち、きちんと評価する必要があると感じます。振り返りをせず、次から次へと新しい施策を追加すれば、現場は疲弊してしまいます。そういったビジネスでは当たり前の視点を公教育の政策にも取り入れることで、持続可能で効果のある政策を打ち出せると考えます。

実は、世界的に見ると日本の教育は質においても平等性においても優れている点が多く、良い事例として扱われることが多いです。しかしながら、政策評価がなければ良い部分を自覚し伸ばすことも、悪い部分を改善することも難しいでしょう。そのためにも、大学院では、教育領域におけるデータ分析手法を学ぶ必要があると考えました。

私は元々、新卒で経営コンサルタントとして働いていたので、ビジネス領域における定量分析やデータアナリティクスは得意です。ただ、教育領域の分析手法については体系的に学んでおらず、独学やビジネスシーンの手法を当てはめて行っていたので、教育領域特有の視点や理論を学びたいと思いました。

また、他国の事例をたくさん知ることで、グローバル視点で解決に向けて考えられるようになりたいです。

大学院での学びを通して、今後どのような人材になりたいですか?

以下3つのリサーチ力を兼ね備えた人になりたいと思っています。
・ポリシーリサーチ力(政策視点でのリサーチ力)
・マーケットリサーチ力(ビジネス視点でのリサーチ力)
・オペレーションリサーチ力(現場視点でのリサーチ力)

なぜなら、教育政策の文脈において、この3つ全てのリサーチ能力がある人材は少なく、これは日本だけでなく、世界で見ても希少だと感じているからです。
また、教育や福祉、医療といった分野は公の側面が強いために、マーケット感覚やビジネス視点のリサーチ力を持っている人が少ないと思います。そのために、予算や投資対効果を無視した政策が掲げられたり、国内のEdTech市場を成熟させられなかったりといったケースが見受けられます。

3つのリサーチ力をバランス良く身につけるためにも、私の場合は、弱かったポリシーリサーチの部分を大学院で身に付け、コンサルやグロービス時代に得たマーケットリサーチ力と、フェロー経験で得たオペレーションリサーチ力をかけ合わせていきたいです。加えて、英語文献の読み解きに慣れることで、日本語ではあまりない政策評価に関する論文を読み込み、専門家としての知見を蓄えたいですね。1人で出来ることは限られているので、仲間作りもしていきたいです。

教育現場を知っているからこそ、できる調査・提案がある

なぜ、フェローに挑戦しようと思ったのですか?

大学時代の経験などにより、当時から、日本の公教育が平等化装置としての役割を果たしているのか疑問に感じており、実際に現場に入ることで、自分の目で確かめたいと思っていたからです。

フェローになる前は、基礎的なビジネススキルを身に付けられると考え、新卒で経営コンサルを選んだのですが、3年くらい経験したタイミングで、自分で公教育に関するビジネスを興したいと思っていました。ちょうど、そのタイミングで出会ったのが、TFJでした。この時、国や地方自治体でのキャリアチェンジも考えましたが、それよりも、現場を知ることが重要だと考えました。

当時は「私は本当は文部科学大臣で、新任教師に変装して修行しているのだ」と妄想して活動していました(笑)。見学者ではなく、生徒や先生や保護者の身内になって、現場の本当の課題を見つけ出したかったのです。

私のフェロー期間は1年間で、中学1年生に対する数学のティーチングアシスタントとして赴任しました。学習についていけない子ども達の指導サポートがメインの業務で、具体的には、放課後や長期休みに補習塾を開いたり、個別指導を行ったりしました。

今思えば恥ずかしい限りですが、経営コンサルタントとして激務には慣れていましたし、問題解決力を鍛えた自負もあり、現場で即戦力になれるだろうと思っていました。しかしながら、その自信はすぐに打ち砕かれました。自分の無力さに打ちひしがれながら、勉強が苦手な生徒はどこでつまずくのか、どのようなサポートがあれば自分で学ぶ力が身につくのか、同僚の先生たちと、試行錯誤する毎日でした。

数え切れない業務の波に流されそうになりながら、身を削って、なんとか生徒と向き合える時間を捻出する先生方には、本当に頭が下がります。学校教育はチーム戦だということも大きな気づきでした。一人では何もできなかったと思います。

フェロー経験は、これまでのキャリアにどのように生かされていますか?

フェローを経験して、本当に良かったと思っています。

教育政策を考える時に現場を経験していることは、とても重要だと実感しているからです。同じように教育政策に関わっている人には、ぜひ中の人として現場を経験してほしいと思います。でないと、政策内容が机上の空論になってしまうかもしれません。

大学院で学んでいても、失礼ながら、同級生や教授で現場経験のない人たちの意見には、現実味がないなと感じることがあります。例えば、ペーパーテストを廃止して、問題解決型の授業を導入しようというアイディアは人気があります。
しかしながら、席に座っていられない子どもがいたり、基礎学力に大幅なばらつきがあったりすることも珍しくない中で、子ども達の学びを保証するために何が必要かを具体的に想像できている人は少ないのではないでしょうか。中の人になってみないとわからないことは、たくさんあると思います。

私は有難いことに、教育政策について考える時、実際の生徒の顔や名前が浮かびます。「この授業は、Aさんは好きそうだな。Bさんには、こういうサポートが必要だろうな」と、具体的に想像できることは、リサーチャーとしての強みだと思っています。

また、現場に入らないと見えてこない、先生たちの実態も知ることができました。例えば、文部科学省や教育委員会のアンケートに、実態通りに回答しない先生が多いことに気が付きました。現場の課題を正直に書いても、どうせ解決されない、反対に指導や研修などで負担が増えるだけだという諦めのようなものを感じました。

この経験から、リサーチする場合には、アンケートだけでは現場の本当の姿を知ることは難しいと思っています。政策立案者側の大変さも知っているので、このすれ違いは悲しいなと感じます。フェロー経験を通して得た教育現場の知見は、今のキャリアを大きく支えてくれていると感じています。

フェロー経験は、人生の幸福度までも高めてくれているんだとか。

自分の人生に教え子がいるということは、人生をより豊かにしてくれました。未だに、教室に戻りたいなと思うことがあります。

私がフェローをしていたのは、もう10年くらい前になるのですが、そうすると当時の生徒たちは成人したり、就職したりする年齢になっています。そういった人生の節目に、未だに連絡をくれる子ども達がいて、本当に嬉しいですね。心から幸せになってほしいと思える152人に出会えた経験は、私の大事な宝物です。

教師は大変な仕事で、辞めてしまう人も多いですが、心が震えるようなこと嬉しいこともたくさんあります。不器用でも生徒と真剣に向き合おうと心を尽くすと、子ども達に通じる瞬間があります。その時の感動は他ではなかなか得られない経験だと思います。
子ども達の成長を見て泣けるという経験は、貴重ですよね。フェローの1年間は、小さな出来事一つ一つに感情が動くドラマティックな毎日でした。

日本の教育政策に特化した、シンクタンクを作りたい

大学院卒業後のキャリア展望について教えてください。

経営しているリサーチ会社を成長させて、これまで、日本の地方自治体に対して手掛けてきた課題発見のためのリサーチだけでなく、現場目線と科学的根拠の両方を満たす政策提言のできる組織にしていきたいと考えています。

アメリカには、教育政策に特化した民間のシンクタンクがたくさんあります。しかし、日本にはそういった組織はあまり見受けられません。教育に力を入れたい地方自治体から頼られる存在になりたいと思っています。

教育政策といえば、全て文部科学省の管轄だと思われがちですが、実は地方自治体のトップや学校の校長の権限で変えられることはたくさんあります。逆に、戦時中の反省から文部科学省の権限は限定的なところもあるため、日本の教育改革は自治体が鍵だと感じています。

また、どこかの自治体で1つ良い事例ができると、他のエリアにも広まるという特徴もあります。文部科学省など国と仕事をするのもダイナミックでやりがいはありますが、私は地方自治体の教育委員会などとの仕事を通して、現場から公教育を変えるお手伝いがしたいと思っています。

あとは、世界中どこからでも働ける人になりたいです。コロナ禍でリモートワークが普及したこともあり、この動きは加速しそうですね。クライアントの中には、私がアメリカにいることに気がついていない人もいました(笑)。
色んな国の方と一緒に学んだり働いたりすることで、日本にいた時には見えてこなかった人種や移民・難民、ジェンダー問題等と教育の関係性ついて関心が広がっています。他国の教育政策を学ぶことで、日本の政策立案に貢献できるよう知見を深めていきたいと思っています。

最後に、フェローへの応募を検討している方に対して、一言お願いします。

フェロー期間中には、すごく大変な経験もすると思いますが、将来、教育関係の仕事につきたい方は、ぜひ現場の苦労と感動の両方を経験して欲しいです。

また、キャリアだけでなく、人生を豊にするかけがえのない経験になると確信していますので、自信を持ってお勧めします。書を捨て、教室に飛び込め!応援しています。

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