今回は、大手学習塾での指導経験を経てTeach For Japanフェロー第11期生として茨城県の公立小学校に赴任し、2025年9月より英国バーミンガム大学院へ進学される下境大貴さんにご登壇いただきます。「誰もが主役」の教室をめざして取り組まれた2年間の実践と、子どもたちとの日々が海外での研究へとつながっていった経緯を、ぜひ最後までご覧ください。(※本記事は、2025年7月に行われたイベントのレポートです。)

下境大貴さん(Teach For Japan フェロー第11期生/小学校赴任)
大手学習塾での指導経験を経て、Teach For Japanフェロー第11期生として茨城県の公立小学校に赴任。子ども主体の自治的な学級経営、対話的な学びの実践を通じて、誰もが自分のよさを発揮し、リーダーシップを発揮できるインクルーシブな学びの場づくりに取り組む。演劇プロジェクトや異分野の専門家との連携など、既存の枠組みにとらわれない教育の可能性を模索してきた。2025年9月より英国バーミンガム大学大学院に進学し、教育社会学×教育AI分野を研究中。同大学院よりPostgraduate Chancellor’s Scholarshipを受賞。
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目次
「実際にやってみて、ピンときた」—偶然始めたアルバイトが、教育への扉を開いた
—学習塾で働かれていたとのことですが、どういった経緯でその仕事を選ばれたのでしょうか。
実はファーストキャリアでは、教育とは全く関係のない貿易会社に、1年ちょっといた時期があります。ただ、コロナがすごく流行った時期に会社の仕事がなくなっちゃったりといろんなことがあって。私はもともと大学生の時にアルバイトとして塾で中学生を教えていたんです。いつかは教育の方には行きたいなとは思っていたんですが、当時は結構早く内定をいただいて、貿易会社の方に気持ちが向いてしまっていました。ただ、世の中がいろいろ変わっていく中で、なるべく早く自分のやりたいこと、向いていることで力を発揮できる方がいいなということで、塾に転職しました。
—教育に興味をもったきっかけを教えてください。
アルバイトを探していたときに、当時は自分がやりたいことや明確な目標があったわけでもなかったので、とりあえず何か思いつくものをやってみようということで、たまたまその学習塾に応募しました。担任制で、いきなり20人ぐらい受験生を持つというかなりハードな塾でした。今まで先生として何かを教えたり子どもたちと関わるなんて想像もしていなかったんですが、実際にやってみて何となくピンときたというか、そういう感覚がありましたね。
そのままのめり込んではいたんですが、就職として教職に行くというイメージは全くなかったです。塾は楽しくやっている、ただそれはあくまでアルバイト、就職は就職みたいな意識が当時はありました。
「点数だけで判断していいのか」—塾での経験がTFJ応募へとつながった
—塾を2年間経験された後にフェローシップ・プログラムへの応募に至った経緯を教えてください。
学習塾で子どもたちと関わる中で、子どもたちの変化・成長がすごく見えたのと同時に、子どもたちの力が学校で最大限発揮されているのかなというところが気になっていきました。あとは、点数はもちろん非常に大切な指標の一つですが、どうしても塾だと点数だけで判断しがちなんですよね。でも「本当に人間の能力ってそれだけなの?」というところにすごく疑問を持っていました。そこから学校の先生になろうとは思っていたんですが、普通になるよりも、少し違う視点で子どもたちと関われたら面白いのかなと思った時に、偶然TFJの活動を見たんです。どうせ行くならフェローとして行く方が、ビジョンに共感しつつ、素敵な先生方のネットワークもあるしということで、応募してみました。
「自分が経験したから、子どもたちに届けられた」—赴任前研修での学び
—赴任前研修の中で、ご自身にどのような変化がありましたか?
研修は講義形式ではなくて、対話をベースに、正解を見つけるというよりは問いを発して深く考えていくスタイルでした。他のフェロー候補の方との対話によって、狭いところしか見えていなかった視野が広がっていくというのは、毎回感じていました。塾ではうまくいっていた方だとは思うのですが、それゆえに固執している考え方もあったりして。なかなか1人でそれを変えていくのは難しいので、定期的に研修があって1年間積み重ねられたのは、すごく有意義でした。
—具体的に現場でも役に立ったと感じる学びはありましたか?
知識構成型ジグソー法(詳細はこちら)という、それぞれが違う知識を持ち寄って共有し、みんなで考えていくという手法があります。研修の中で自分が経験してその良さを理解できたので、子どもたちに「じゃあ実際にやってみよう」という時も、説得力を持って目的を明確にして取り組んでもらえました。子どもたちがやる前に実際自分が経験できていたというのは、現場に出てから本当に役に立ったなと思いますね。
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「左を向いてる人も、右を向いてる人も、バラバラでいい」—「誰もが主役」の教室をめざして

—赴任時点では、どのような教室を作りたいと思っていましたか?
「子ども1人1人が自分の持っている良さを最大限発揮できるという実感を持てるような教室」が、一貫して持っていたビジョンです。
教室のまとまりや団結はすごく大事にしていたんですが、それはみんなが同じことをして一緒に行こうというのではなくて。左を向いてる人がいても、右を向いてる人がいても、本当にバラバラでいいんです。そもそも人間はみんな多様だと思っているので。全く同じ能力を持っている人はいないので、むしろ自分の得意な能力でいろんな人に貢献して、そうじゃないところは積極的に助けてもらおうという、そういう意味での団結を教室内で大切にしていました。
—その思いを実現するための具体的な取り組みを聞かせていただけますか?
4年生の算数の授業でのことなんですが、三角形の特徴を掴む授業をやった時に、グループで作業していた子たちが早く終わって。その中の1人が「立体にしたら何か変わるんじゃないか」と発言したんです。その子はどちらかというと算数に苦手意識を持っている子だったんですが、「それって面白いね」と周りがどんどんのってきて、ワイワイとストローで立体造形を作り始めて。1人1人が違うからこそ、既存の枠組みを超えた柔軟な発想が生まれるんだろうなというのがありましたね。
あとは、音楽の授業で学校内でコンサートの発表をする機会があった時に、「ただ発表するだけじゃ面白くない、もう1曲追加したら面白くない?」と言い出した子がいたんです。そこから、じゃあポスターを作って全校に告知しようとか、放送を入れようとか、ダンスもやろうとか、いろんな発想を持っている子たちがそれぞれアイデアを出し合いました。元々は任意で体育館に集まるという企画だったのですが、告知しすぎてほぼ全校生徒が集まるという形になりました。「先生が言ったことを言った通りにやってうまくいきました」ではなくて、基本的に子どもたちが自分たちで発想を生み出し、それぞれの持ち味を発揮して1つのものを作るという体験ができたのかなと思いますね。
—子どもたちの自主性を引き出すために、意識していたことはありますか?
場を設定するということをとても意識していました。些細なことでも、「こうした方がいいよ」と言ってしまうと、子どもたちはとても素直なので「先生が言うならそうか」となってしまうと思うんです。それって子どもたちが自分で考えて行動するという自律の部分を奪ってしまっているのかなと思うので、話し合う場面を作るようにしていました。子どもたちが自分たちで考えて出した結論はできるかぎり採用して、自己決定した実感を得られるように関わっていました。
これは自分の体験とも関係していて、誰かに細かい手順で教わってそれを実行するというのが、よくも悪くも苦手だったんです。自分で変えてやった時の方がうまくいくことが多かった。もちろん従ってやった方が良い場合もあると思いますが、自分自身のことに関しては自分が本来持っている力を発揮した方がうまくいくんじゃないかと思うんです。子どもたちなりの正解は私が思っている正解とはちょっと違ったりするので、むしろ子どもたちに聞いてみたいという思いがあるのかなという気はします。
—演劇プロジェクトについてもお聞きしていいですか?

4年生が演劇を見に行く機会があって、子どもたちが夢中になってしまって「自分たちでも作りたい」という声が上がったんです。それが授業参観で「1年間頑張ってきたことを物語風に演劇で発表しよう」という話にまで発展して。3クラスあったので学年として1つのプロジェクトにして、それぞれのクラスが違う演劇を作ることになりました。1ヶ月ぐらいの大規模なプロジェクトになって、脚本を書く人、演技をする人、前に出るのは恥ずかしいけれど小道具を作る人、リコーダーやピアノを担当する人、ダンスを披露する人というように、それぞれが自分の得意なことや1年間頑張ってきたことを生かして1つの演劇を作りました。
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「自分の経験やキャラクターに依存しないで、もっと構造的・理論的に」—大学院進学という選択
—2年間のフェローシップを終えて、海外大学院への進学を決められた経緯を教えてください。
現場に残って目の前の子どもたちと日々やっていくことは、本当に素晴らしいことだなと思っています。ただ一方で、教育そのものをもっと深く追求したいと考えた時に、どうしても自分の経験とかキャラクターに依存して、うまくいった・いかなかったという部分があるように感じています。もっと構造的・理論的なところもやっていかないと、大きな目で見た時に教育をよりよくすることが難しいのかなと思っていて。そういう意味で大学院を考えました。海外については、昔から自己実現という意味でも目標の一つだったので、タイミングが良かったという感じです。
—大学院ではどのようなことを学ぶ予定ですか?また、その先のキャリアも聞かせてください。
子どもたちがインクルーシブな環境の中で学習、その他の活動も含めて能力を最大限発揮できる環境ってどんなところかな、というところをもう少し深めていきたいです。
留学後については、学校現場に還元できるチャンスも多いと思うので、また学校現場で先生をやることも考えていますし、研究をもう少し続けることも考えています。海外でいろんなチャンスもあると思うので、可能性は大きく開いています。一番は、子どもたちが学習そのものに本当に興味をもって、自分の良さを発揮できるような構造を作っていきたいなと思っています。
Q&A
—転職・離職に踏み切れた要因は何ですか?
本当に大きな決断でした。思い切って決めている自分も、「でも…」と言っている自分も両方いました。ただ、やらなかったら後悔するだろうというのは本当に確信していたんですね。それから、フェローという立場で参画することにメリットを感じていました。学校で長く貢献されている現役の先生たちと、学校以外の経験をもつ自分が協働することで、教育現場をより面白く、より良い場所にアップデートしていけるのではないかという高いモチベーションをもてたので、それも大きな心の支えになりましたね。
—赴任期間で一番身についたと感じる力は?
受け入れる力がすごくついたかなと思います。いろんな子と関わる中で、自分の考えと全然違う考えを持っている子もいて、最初はなんでそういう考えになるのかなと思ったりしていたんですが、だんだんその子のことを理解することが面白くなっていきました。フェローの研修でも現場の話をシェアしたりする中で、いろんな考え方を受け入れられるようになったというのが一番大きかったと思います。
—子どもたちの強みにどうやって気づくのですか?
観察が重要だと思います。この前、都道府県の紹介を紙でみんなで作ろうという授業をした時に、1人の男の子が「パソコンで作ってもいいですか」と言って来たんです。最初は「紙で作るって言っているのに?」と思いつつでしたが、その子自身はパソコンで作ると何かいいことがあると考えている。実際「スライドで作ってごらん」と言ったら、ものすごい作品を作ってきたんです。後々わかったんですが、その子は紙で表現することが得意じゃなかったみたいで。でもスライドで作ると表現できる。それは強みだと思うんですよね。
一見弱みに見えることや、なんでここが気になるのかなと思うところに強みが隠れていたりする。元々みんないいものを持っているんじゃないかという仮説があって、それが発揮されていないだけだからこそ、深く観察して、子どもが考えた通りにやらせてあげると、勝手に強みを出してきてくれる、というイメージが最近湧いてきています。
—子どもたちや保護者の方との印象的なエピソードがあれば教えてください。
持ち上がりで3年生・4年生と担任した子で、すごい能力があるのに、なかなか周りとうまくいかない、認めてもらえないと感じている子がいて。その子と2年間一緒にやっていった時に、なるべくその子が周りに認められるようにという関わりをしていたんですね。そうしたら保護者の方が「初めてうちの子が自分が認められている気がすると家で言っていた」ということを、それを伝えるためだけに電話をくださって。それはすごく嬉しかったなと思います。
それから保護者の方々が親子でレクをやる時間を使って私のお別れ会を盛大に開いてくださったこともあります。子どもたちともそうなんですけれど、保護者の方々とコミュニケーションをとって、一緒に子どもたちの成長に関わっていくというのは、この2年ちょっとで本当に大事なことだなと感じました。
—最後に、応募を検討されている方へメッセージをお願いします。
私もまだ経験は浅いんですけれども、子どもたちにとってよりよい成長の環境をつくっていきたいという思いは、子どもたちに伝わると思います。正直今日はどちらかというと成功体験を多くお話しさせていただいたのですが、教育現場は厳しい部分もあったりはします。ただ、それでも本当に他の仕事では味わえないような部分が多くあると思うので、私は本当にフェローシップ・プログラムに参加してよかったなと思っています。もし興味があって、一緒に仲間として関われたら素晴らしいなと思っています。
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