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コロナ禍でリモートワークへの移行に取り組む企業が増える中、クライアントとのコミュニケーションに苦労する人も多いようです。
特にこれまで対面中心でやりとりをしていたり、クライアントが自社専用のITツールを利用していたりした場合、新たなツールの使い方を理解してもらう必要もあるため、リモートワークへとスムーズに移行するのは容易ではありません。
デジタルエージェンシーTAMのECアーキテクトチームのリーダー・大内千佳さんもまた、コロナ禍でクライアントとのコミュニケーションを完全にリモートへ移行した一人。彼女の場合、その移行はスムーズに進み、プロジェクトの進行が劇的に効率化されたと言います。
今回は、そんな大内さんに「クライアントワーク・リモート化の秘訣」、またそれを支えるマインドセットについて話を聞きました。
「リモートに移行しませんか?」とは言いづらかった
私は根っからの「EC好き」で、TAMでお客さまのECサイトの構築や改良を中心に、デジタルマーケティングを支援しています。お客さまの課題を解決するサービスやツールの選定から提案、導入、運用まで一気通貫でお手伝いしています。
もともとは週5で大阪または東京オフィスに出勤していましたが、緊急事態宣言が出てから自宅勤務に移行しました。東京をはじめとする関西圏以外のお客さま、また弊社と同じ大阪でも、他府県から人が多く訪れるエリアにオフィスを構えているお客さまとは、これまで対面で行っていた定例会議を完全にビデオ会議に切り替えました。
それまで、東京など遠方で行われるお客さまとの会議には新幹線や飛行機で通っていました。私にも「会いたい」という気持ちもありましたが、どちらかというと「会うのが当たり前」と思っていた部分が大きくて、コロナウイルスの感染拡大がささやかれ始めた3月上旬までは対面で仕事をしていました。
また、あのころはまだ県によって状況が違ったこともあり、人によってコロナに対する意識の差もありましたよね。大阪だと「近いからすぐ会える」となるし、関東・関西の大都市圏以外はコロナの影響が小さかったから、「会って話してもいいだろう」と思っていた節もありました。
本当は、自分たちのためだけでなくお客さまのためにも、もっと早い時期からリモートへと移行すべきだったのですが、直接会ってコミュニケーションを取ることにお客さまも喜んでくださっていたので葛藤はありました。当時はまだ会おうと思えば会える状況だったので、正直、お客さまに「リモートに移行しませんか?」とは言いづらかったです。
リモート化に立ちはだかった「3つの問題」
そんな状況がガラリと変わったのは、大都市圏で緊急事態宣言が出てからでした。
オフィスには訪問しないと決め、やりとりをリモートに移行するために、普段社内で利用していた「Google Meet」をお客さまに紹介しました。「Zoom」はユーザー登録やアプリをダウンロードする必要があったりして、少し上級者向けなんです。その点、Google Meetは「時間になったらこのURLをクリックしてください」の一言で伝わるからラクでした。
しかし、ビデオ会議を始めてみると、さっそく「3つの問題」が生じました。
一つは「ハウリング問題」。複数の参加者が同じ会議室で、複数のマイクとスピーカーをオンにしてつないでいると、スピーカーから不快な音がしてしまいがち。それは、使用するスピーカーを一つに絞っていただくことで対応しました。
が、またすぐに別の問題が。電波が悪く、誰かの話し声が聞こえない「電波問題」です。
それともう一つ、ディスカッションの途中で変な間が空いてしまう「議論が宙に浮く問題」。対面では「誰が誰に話しかけているか」はアイコンタクトや身振り手振りで分かりますが、オンラインだと分かりづらいんです。そもそも参加人数が多いと、発言しづらいですし。
そうした問題がたびたび生じて、参加した人たちが打ち合わせに集中できず、なんとなく「リモートはよくない」みたいな雰囲気が漂っていました。お客さまだけでなく、社内のスタッフも少しずつストレスを感じ始めているなあ、というのは画面越しにも伝わってきました。
ビデオ会議をよりよくするための「工夫」
4月2週目ごろになり、コロナウイルスの感染状況の悪化を踏まえると、やっぱりしばらくは対面は難しいことが分かってきました。
その覚悟がお互いに決まったからか、次第にお客さまとの間に「リモートでのやり取りをよりよくしていこう」、ハウリングにしても電波にしても「改善するにはどうすればいいか」という方向へ、以前よりフォーカスしていった気がします。
そのうえで、いくつかの工夫をしました。まずは、一つの会議室から複数人がビデオ会議に参加する場合でも、全員の顔が見えるようにそれぞれ違うパソコンからアクセスしていただくようにしました。
次に、Google Meetではなく、Zoomをご希望されてはじめて使う方には、「ブラウザで開く方はこちら」というURLを、分かりやすいように操作画面のスクリーンショットをメールに貼り付けてアナウンスしました。
接続状況がよくないときは、電波はなかなかその場では改善できないので、Google MeetとZoomどちらも使えるよう常に準備して、どちらを使うかは実際につないでから決めるようにしました。
それと、参加者が少しでも発言しやすいように、会議の最初に全員になにかしら一言発してもらうようにもしました。その人にとって少し恥ずかしい話、変な話を共有してもらうと、それ以降会議で話すことのほとんどは恥ずかしくなくなるのでオススメです(笑)。
話し方の工夫もしました。手を挙げて「大内です。◯◯さんに質問です」と、名乗ってから話し始めることで、沈黙がなくなり、議論が宙に浮かないようになりました。
その他にも、面白い背景画面がアイスブレイクのきっかけになったり。そうやって、これまでは対面を好んでいた方々も、リモートワークに移行するというプロセスを一緒に楽しんでくれたように感じました。
クライアントワークのリモート化が生んだ「3つの効能」
お客さまとのやりとりをリモートに移行してよかったことが3つあります。
まずは、みんなで移行したというプロセスによって、「結束感が高まったこと」。一緒に改善を繰り返し、そのノウハウを貯めていく過程自体が、チームビルディングとしていい経験になりました。
次に、以前より「会議を設定しやすくなったこと」。対面だと移動が伴うため、会議を設定するのは簡単なことではありませんでした。それがビデオ会議なら「ここで1時間だけお願いします」と相談しやすいんです。対面とメールの中間のような、新しい選択肢が生まれた感じです。
3つ目は、「会議の時間にメリハリがついたこと」。以前は5〜6時間くらい話し続けていた会議もなくなりました。ビデオ会議だと2時間でも長くて疲れてしまうから、会議では上の方も含めて話す必要がある議題だけに絞られました。
ただ、対面のほうが「会えた」「会いに来てくれた」と、心の満足度はやっぱり高いと思います。それに、会議が始まるまでの雑談で、相手の人間性を理解して信頼関係も生まれやすかった。相手の表情を見て、判断できる部分も多かったです。
それが今では雑談の時間が少なくなってしまった分、お客さまと1on1や少人数で話す機会を新たに設けたり、ビデオ会議で相手の表情の変化を見逃さないため、議題の進行役と会議全体を見渡すファシリテーターの2名を設定したりしています。
ファシリテーターは、Zoomのギャラリービューでみんなの顔をひたすら見て、お客さまが難しい表情をしていることに気がついたら、「なにか気になる点はありますか?」と声をかける。決定権を持つのが「この人だ」と分かったら、その人の画面を大きくして、表情の変化をしっかり見ておく。そうやって対面との差をなくしています。
リモート化を支えた「双方の」マインドシフト
今となっては、リモートワークにお客さまも慣れてきて、画面越しの相手に気持ちが伝わるように、大きくうなづき、表情も出していただけるようになりました。
それはきっと、「会議に対する思い」をしっかり伝えたからこそだと思います。「私たちは、ユーザーにいい体験を届けるために、リモートではあっても率直にコミュニケーションをしていきたい」と。
画面越しでもお客さまには言いたいことは言ってほしいし、自分もいいものを作るために言いたいことは言おうと思っていて。それは別に「対立」じゃない、ユーザーのために同じ方向を向いていきましょう、ということは常々心がけています。
それを、私たちエージェンシー側だけでなんとかしようとするんじゃなくて、自分たちの考えを伝えて、お客さまにも同じように「会議をいいものにしよう」というマインドを持ってもらえたのが大きかったと思います。そういうマインドを共有するには、お客さま目線の言葉づかいを意識するとか、そうした積み重ねが必要です。
リモートでのクライアントワークに苦戦している人には、せっかくの機会なのでいろんなやり方を試してみてほしいと思います。私ももともとは、「行くは正義」「会えるって最高」だと思っていましたが、自分の思い込みだったんだなって、今の状況が気に入っています。
緊急事態宣言も解除されましたし、会える状況になり、もしもお客さまに「会いたい」と言ってもらえたら、喜んで会いに行きます。つまり、いつだって相手目線に立つということ。それはリモートであっても、対面であっても同じです。
<クライアントワーク・リモート化の「10の秘訣」>
1. ビデオ会議では参加者全員それぞれ違うパソコンからアクセスする
2. ツールをはじめて使う人には操作方法を分かりやすく伝える
3. Google MeetとZoomどちらも使えるよう常に準備する
4. 会議の最初に参加者全員になにかしら一言発してもらう
5. 手を挙げて名乗ってから話し始めるなど話し方を工夫する
6. 面白い背景画面がアイスブレイクのきっかけになることも
7. 雑談も含めて1on1や少人数で話す機会を新たに設ける
8. 議題の進行役とは別に会議全体を見渡すファシリテーターを設定する
9. クライアントに「会議に対する思い」を伝える
10. いつだって相手目線に立つ
株式会社TAM ECチームリーダー 大内千佳
ECディレクター10年、大規模ECサイトのWeb担当2年。事業者側と受託側両面から大規模ECサイトに携わった経験を活かし、クライアントのEC売り上げアップのために課題解決からカート選定、構築、運用とトータルでの提案と制作を行っています。
[取材・文] 水玉綾 [企画・編集] 岡徳之 [撮影] 藤山誠