私たちだからこそ挑める 「あめつちの心」を伝える使命(下) | 株式会社 サン・クレア
企業はまるで土のよう 一人一人が秘めた力に期待「カンパニー」を成す人たちに、細羽さんがもう一つ求めているものがある。はっきりと答えられる、自分が果たしたい「使命」だ。誰にでもきっとある、好きなこ...
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「この森にあそび、この森に学びて、あめつちの心に近づかむ」。愛媛県北宇和郡松野町には、こう刻まれた石碑が残されている。初代町長・岡田倉太郎氏が書き残した言葉だ。
松野町は人口約3800人の、愛媛県で最も小さな町。ひとときも途切れることがない川の音。季節によってさまざまな表情を見せる緑。町土の約84%を森林が占める「森の国」には、人々の生活を包み込むような自然がある。
株式会社サン・クレアのCEO・細羽雅之さんがこの町にやって来たのは、2019年のこと。松野町目黒集落にある「森の国ホテル」の再建を請け負い、リニューアルオープンの準備を進めるためだった。「初めて来たときのことを振り返ってみると、とにかくこの石碑の印象が強かったですね」。清流でのキャニオニングや、森の中でのキャンプ。豊かな自然に親しみ、遊ぶことができる環境に沿った、よいコンセプトだと感じていたという。
2020年3月、ホテルは「水際のロッジ」としてリニューアルオープン。しかしその直後、新型コロナウイルスの流行により緊急事態宣言が発出された。細羽さんは従業員の安全を優先し、翌月には「水際のロッジ」を含む、株式会社サン・クレアが運営する全7軒のホテルの休業を決めた。
「休業中はまるでバケツに穴が空いている状態で、お金が出ていき続けました。どんどん出ていくから穴をとりあえずふさいで、助成金を少し入れてもらってなんとかしのぐ。応急処置でしかないですが、その繰り返しでした」
自分ではどうすることもできず、いつ終わるかも分からない試練に見舞われ、細羽さんは石碑に刻まれた言葉の意味を「自然に親しむ」を越えるものだと考え始めた。
「人間は自然をコントロールしようとしているけれど、できるわけがないんです。人間は太陽と土と水が循環する自然の中に、たまたま生かされている存在でしかない。自然の中で人間社会は一つの小さな点にしか過ぎません。そう考え、納得することが“あめつちの心に近づく”ことだと僕は思っています」
太陽の光と土の栄養、水で植物が育つ。実を結んで種が落ち、命がつながる。自然の本来のサイクルは、長い目で見ると無限なはず。しかし、行き過ぎた成長がその循環を絶やしてしまうことがあるとも細羽さんは考えるようになった。
「大地が持つエネルギーは循環しているけれど、本来のペースを超えて植物の成長を追い求めていると土が枯れていってしまいます。社会や企業もそれと同じ。僕は、“もっともっと”と成長だけを追い求めることよりも、まずは自然な循環を続けていくために足元を固めたいと思っています」
経営者として、成長の優先順位を下げることへのためらいはもちろんあった。成長するために、売り上げを伸ばす。企業の目的として当たり前である価値観を、根底から覆すことになるからだ。社会から求められる成長速度とのギャップは、今も課題だと感じている。
しかし、砂漠が肥沃な土地に戻ることがないように、一度失われた循環は元には戻らない。企業も、地域も、人々の営みも。ホテルがある目黒集落は、人口約270人、高齢化率64%の「限界集落」だ。細羽さんは2020年、目黒集落に移住。株式会社サン・クレアは、自然の循環とともにある地域づくりを目指して、ホテル事業を越え、地方創生にかじを切り始めた。
新型コロナウイルスによる環境の変化と、会社としての大胆な方向転換。次々とやって来る変化の波は、スタッフの顔ぶれを大きく変えた。そんな中でも変わらず働き続けるスタッフは、細羽さんを支える存在だという。「働き方や方針の変化に対応し、ずっといてくださることに感謝しています。蓄積されたノウハウがあり、あうんの呼吸で仕事をしてもらっているとも思います」
「ただ、ずっといてもらうのがベストかは、お互いに常に問い続けなければならないと思っています。説明をしなくてもやってくれるだろうと、僕もその方たちについ甘えてしまうことがあるんですよ」
細羽さんが目指すのは、自立した個人が集まる「カンパニー」だ。大切なのは、「雇われている」のではなく、「仲間とともにいる」という意識。自分は仲間に何をしてあげられるのか。社会にどんな価値を提供できるのか。自分が生み出す価値に対価が払われていることを実感しているか。一人一人が常にそう考えていれば、お互いが自立しつつも強力な結びつきが生まれると考えている。
しかし、個人が自立しているからこそ、仲間が離れていくこともある。「僕は人が入れ替わることも循環だと思っていて、全く危機感は感じていません。一度離れても、また次のプロジェクトで一緒にやることもあるかもしれない。何よりも重要なのは、仲間が困っているときに助けてあげられるかどうかです」
困っている仲間を助ける。シンプルなこの関係は、古くから日本にあった「集落」に似ている。田植えや稲刈りで手を貸し合い、収穫したものを分け合う。お金ではなく仲間を思う気持ちに支えられてきたつながりが、今再び光って見える。
文/時盛 郁子
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