“Good Experience, Good Life”──20周年を迎えたソウが目指すのは、体験の価値を再定義する未踏の冒険
「モノよりコト」という言葉が日常に馴染んだ今でも、“体験を贈る”という文化は、まだまだ特別なもの。しかし、「体験」こそが人の記憶に残り、心を動かすのではないでしょうか。
誰かと旅に出た夜。手を動かしてなにかをつくった午後。人生を少し変えた一冊の本。ソウ・エクスペリエンス株式会社(以下、ソウ)は、そんな体験をパッケージ化し、ギフトとして贈れる文化を日本に根づかせてきました。
私たちが次に挑むのは「体験を贈る」という枠組みを超え、体験の流通そのものを再定義すること。この新たな挑戦に踏み出すべく、2025年3月に新たに代表取締役社長として就任したのが、山形 英恭です。創業者の西村 琢から代表取締役という重みあるバトンを受け取った山形が今なにを想い、どこへ向かおうとしているのか。経営と事業、採用にかける想いを聞きました。
〈プロフィール〉
山形 英恭(やまがた ひでやす)
1990年生。アメリカ・バージニア州アレキサンドリア出身、ブリティッシュ・コロンビア大学卒。これまで、アメリカ、フィリピン、日本、セルビア、ウガンダ、カナダでの居住経験があり、ユニークな人生経験を持つ。2017年にソウ・エクスペリエンス株式会社に入社し、チームマネージャーや役員を歴任。2025年3月、創業者の西村琢から新社長に任命される。
創業者への共鳴、そして巡り合わせ
──まず、これまでの経歴やソウとの出会いについて教えてください。
私はアメリカで生まれ、フィリピン、セルビア、ウガンダなど、さまざまな国で暮らしてきました。カナダにあるブリティッシュ・コロンビア大学を卒業後、前職ではRoyal Vancouver Yacht Clubで、会員向けの施設運営やオペレーション改善を担当していました。
ソウとの出会いはご縁としか言いようがありません。友人から体験ギフトを使ってプロポーズしたという話を聞いたり、従兄弟がたまたま創業者の西村の知り合いだったりと縁が重なり、面談を受けることになりました。
ソウに関心を持ったのは「体験ギフト」という商品に強く惹かれただけではなく、「体験」という商材を扱いながら、社会にポジティブな連鎖を生み出そうとするビジネスそのものへの興味からです。私はサービスやプロダクトは時間とともに変化していくものだと考えているので、本質的には「何を扱っているか」よりも「どういうスタンスで社会に価値を届けようとしているか」を重視していました。
入社した一番の動機は、当時代表だった西村のビジネスをはじめとする「物事の本質の捉え方」に共感したことと、発言の端々から滲み出る「仕事を通じて人生を謳歌している感」を感じたことでした。私が組織やチームにおいて最も大切にしているのは、その中心にいる人物にロイヤリティを持てるかです。それは自分がどれだけ本気でやれるかを左右するものだと思っています。
──入社後はどんな業務を経験されたのですか。
受注した商品の梱包や発送といった実作業から、在庫管理やロジスティクス、カスタマーサポートなど、幅広い部門でマネージャーを経験しました。
ロジスティクスやカスタマーサポートのオペレーションがボトルネックになり、営業が動きづらくなるという事態を避けるための体制整備に最も尽力したかなと思います。マネージャーを経て取締役に就任してからは、個人・法人向け販売も含めた全チャネルに共通するオペレーション設計に着手し、体験ギフトを物理パッケージだけでなくeギフトでも展開できるよう、デジタル対応を含めて運用変更を推進しました。
──オペレーション設計や改善に力を注がれてきたのですね。仕事において大切にしていることはありますか。
「自分たちが心から良いと思えるか、使いたいか」という観点でしょうか。
私はプロダクトを一つの「作品」として捉える職人気質のようなところがありまして、その進化のプロセスにこそ喜びを感じます。愛着を持って向き合わなければ、持続的な進化はあり得ません。この「進化」は、単なる機能改善やラインアップの拡充などのハード面の改良に留まらず、他領域における事業拡張まで含みます。
妥協や中途半端なことはしません。長期的に見て本当に良いものをつくることを最優先に考え、目先の利益に惑わされることなく、必要な初期投資は惜しまない判断を下すようにしています。
「未完成」だからこそ面白い。第二創業期だからできる挑戦
──今回の経営体制変更は、どのような背景や目的で行なわれたのでしょうか。
これまで築いてきた文化や資産を土台にしながらも、新しいチャレンジに臆せず取り組んでいく体制づくりのためです。体験ギフトと聞くと、お祝いなど個人間で贈るプレゼントラインアップのうちの一つというイメージが強いと思います。しかし、「旅や食、モノづくりなど心に残る“体験”」は相手に贈るだけではなく自分で試してもいいし、法人・自治体領域と絡めて未開拓の市場を作っていける大きなチャンスがあります。
社内の組織課題でいうと、既存事業である個人向けの体験ギフトの成功体験が深く根付いており、新たな領域への展開という変化に対して、踏み出すスピードが鈍化する傾向がありました。市場の持つ可能性に対して、より柔軟でスピーディな意思決定ができること、実行フェーズにおけるケイパビリティ向上のために、組織変革の一歩として行ないました。
──創業20周年を迎え、変化のタイミングかと思いますが、具体的にどのようなフェーズなのでしょうか。
ギフトという切り口でこれまで築いてきたブランドや信頼は、一定の認知と評価を得てきました。今後はそれに依存せず、「体験のあり方を再定義する」挑戦に踏み出すときです。
このフェーズで特に注力するのは、新たな販売チャネルの開拓や、体験施設(加盟店)との関係深化など、これまでの枠組みを越えて、事業の「幅」と「深さ」を両立させていくことが重要だと考えています。
新たに開拓したい領域は、体験者が、まるでその世界の中にいるかのように深く入り込み、没入感・物語性を五感で体験できる「イマーシブ体験」、企業の顧客体験や従業員体験に体験価値を活用する「法人向けCX(カスタマーエクスペリエンス)」、全国自治体との連携や地域資源を活かした「地方の観光・滞在体験の再編集」など。いずれもまだ誰も獲得しきれていない潜在的な市場であり、成長性があると確信しています。
大企業のような整備された仕組みはありませんが、だからこそ、自分の意思やアイデアがダイレクトに会社の未来に影響します。この「未完成」な状況こそが、本気で挑戦したい人にとっての最大の魅力であり、最高の成長ステージとなると思います。
──新領域開拓に向けて乗り越えるべき課題はなんでしょうか
法人のお客様にとって「ソウであるべき」「ソウにお願いしたい」と思っていただけるような付加価値のクオリティレベルを上げていくことだと感じています。現状、この領域には二つのボトルネックがあります。
一つは、担当者の営業スタイルの属人化です。個人の能力に頼った実績が多いと再現性が低くなってしまう。これを組織として解決するには、クライアント自身も気づいていない潜在的なニーズを捉える能力の強化や、成功体験・失敗体験のいずれも蓄積し定量的に判断していく必要があります。そのうえで見えてきたソウならではの戦い方に合わせて、既存アセットの補強やプロダクト開発を連動させていきたいです。
もう一つは、提供している商品ラインアップについて、代理店経由だと他社と「量」で比較されてしまうことです。私たちは、単に加盟店を増やすのではなく、クライアントのニーズから逆算した戦略的な加盟店開拓が重要だと考えています。
「どんな場面に、どんな体験がふさわしいか」「どのように贈ると効果が高いか」といった文脈を踏まえた提案こそが、他社にはないソウの価値です。この提案設計を再構築することが、拡大のカギになります。
「文脈をデザインする」探究心と未開拓の市場に挑む情熱
──ソウの体験ギフトが持つ独自の魅力や、市場での優位性について教えてください。
私たちの最大の強みは「文脈ごと贈る」というスタイルを確立できていることです。体験ギフトの企画開発から提供、アフターケアまでの全工程を一貫して社内で担い、体験の提供をするだけでなく、「届け方」「選び方」「贈り方」まで含めてデザインしています。
また、加盟店とは単なる取引先ではなく、「社会の幸せの総量を一緒に増やしていく仲間」として、深いパートナーシップを築いてきました。この協力関係があるからこそ、体験を単なるチケットとして提供するのではなく、贈り手の気持ちが伝わり、受け取った人の心を豊かにする「体験の編集者であり、贈り方のデザイナー」という、他社にはないユニークな立ち位置を築けているのです。
──今後、中長期的に目指しているビジョンについて教えてください。
私たちが目指しているのは、書店やコンビニで日常の買い物をするように、「やってみたい」「贈りたい」と思った瞬間に「体験する権利」を手に入れられる状態です。これまで、「体験ギフトは誰かに贈るものであるという」前提が主流でしたが、今後は自分自身で楽しむといった自家需要も含めた、より広い価値を提供していきます。
概念としては、図書カードが一番近いイメージです。図書カードは誰かに贈ることはもちろん、自分で買うこともできますし、「いつでも・どの本でも買える権利」を得られますよね。これと同じように、体験する権利を買ってとっておける、先に買っておいて後日一緒に行く人や日程を決めるといった世界観を広めたい。
さらに、子ども連れやペット連れ、身体的に制約がある方など「やりたくない」のではなく、「やれない」理由で体験にアクセスできていない方々にも選択肢を届けていきたいです。私たちが掲げているスローガン「Good Experience, Good Life」は、「良い体験がある人生が当たり前になる社会」を創りたいという想いを表したものです。これは当社のミッションである「体験を通じて社会における幸せの総量を増やす」に直結する、まだ実装できていない未来に向けた重要なチャレンジです。
──最後に、どのような資質や経験をお持ちの方にジョインしていただきたいですか。
「変化」や「進化」に前向きで、本気で向き合える方、「勝ちたい」という情熱を強く持っている方、まだ未完成な市場で0から1を生み出し、自分の手でアップデートしていくことにワクワクできる方と一緒に未来を作っていきたいです。
様々な業界のクライアントとやりとりをするので、知的好奇心を持って感度高くアンテナを張っていただけると心強いですね。また、物事は捉え方次第でその後の展開が変わってきます。困難な状況に陥ったとしても、ユーモアを持って乗り越えていける仲間と出会えることを楽しみにしています。