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大企業における新規事業創出プロジェクトはなぜ失敗するのか ~事業を生み出す人が育つ、組織づくりのヒント~

現代の社会は、COVID-19の世界的な流行、気候変動、急速な技術革新と人々のライフスタイル・価値観の変化など、今後の変化を予測することが難しい「VUCA(変動・不確実・複雑・曖昧)の時代」を迎えています。変化が激しく先行きの見えない社会や市場において、過去の成功体験は必ずしも通用しません。
市場ではあらゆる製品・サービスがコモディティ化していく傍ら、たとえばXR(Cross Reality)技術の発展や非化石エネルギー産業の創出、ギグエコノミーの登場など新たなビジネスの種も続々生まれており、今後ますますの進展が見込まれています。こういった状況において企業が成長し生き残っていくためには、ビジネスの規模にかかわらず、社会や市場の変化に柔軟に適応しながら新しい事業領域へチャレンジすること必要です。

しかし、2021年にPwCコンサルティングと日経BPが行った調査によると、新規事業開発の取り組みが「だいたいうまくいく」「うまくいくものが多い」「うまくいく場合が半分くらい」と答えた企業の合計は全体の3割に満たず、それ以外の企業はうまくいっていないことが明らかになっています。
企業における新規事業創出の重要性は理解されているのにもかかわらず、なぜ取り組みの段階になるとうまくいかないのか、どうすれば新規事業を生み出す組織づくりが可能になるのか——この記事では、これらの問題について、多くのお客様企業の組織マネジメントを支援してきた私たちソフィアだからこそ見えてきたヒントをご紹介します。

新規事業創出に不可欠なのは「フレームワーク」や「メソッド」「コンサルタントの知恵」なのか?

いまこの記事に関心を持って読んでいる方は、すでに新規事業創出に関係する立場を担っており、その難しさを実感されているかもしれません。私たちソフィアでは、お客様企業の風土改革やインナーブランディングに携わるなかで、さまざまな大企業の新規事業担当者から、その企業が外部のビジネスコンサルなどから受けた新規事業関連の提案について、話を聞いてきました。そして、この種の提案では”ほぼ共通”する、ある要素がアピールされていることに気付きました。

それは、新規事業創出支援の提案の中心には「考え方のフレームワーク」「新しいメソッド」が据えられており、決まって「弊社は伴走します」と主張されているということです。しかし、新規事業は、フレームワークやメソッドさえあれば魔法のように生まれるようなものではありません。また「伴走」という言葉は使い方を間違えると、当該企業で新規事業創出を推進すべき担当者が、ほかの誰かにお金を払って「伴走させて」自分たちの代わりに「新規事業をつくってもらう」、というスタンスになってしまう危険もあります。外部の提案やリソースを活用するとしても、主体はあくまで依頼した企業の側です。新規事業支援を提案する側から見れば、自分たちの職責範囲は「伴走」であり、事業化を進める意思と責任はあくまでクライアント企業にあるのです。

では企業の中で、誰が実際にその事業をつくっていくのでしょうか。当該企業の担当者に問えば、多くの場合は「挙手制で」「意識の高い人が」「やる気のある人が」という答えが返ってきます。企業の中で新規事業創出をリードする立場にある担当者自身が、自分たちで事業を生み出そうという気概を持たず、「うちの社員は、井の中の蛙だから」「うちの社員は、まじめすぎて」「失敗を怖がるから」と判で押したように言うのです。これではまるで他人事です。

やや辛口になってしまいましたが、これらは多くの企業で組織風土改革やインターナルブランディング、経営計画の浸透などを支援してきた筆者の実感です。新規事業の創出・成功は、フレームやメソッド、コンサルタントの知恵といったパーツを組み合わせれば、自然と実現できるものではありません。

前出の調査結果のとおり、多くの企業では新規事業創出の取り組みがうまくいっていません。とくに大企業において新規事業を推進する担当者が「まるで他人事」の状態に陥りやすいと、私はこれまでの経験から感じています。新規事業のリソースに恵まれているように見える大企業で新規事業創出が進まないのは、一体なぜなのでしょうか。以下の章では、大企業で新規事業の推進を阻害する社内的な要因と、成功へと導くヒントを考察します。

新規事業の推進を阻害する大きな要因は「組織風土」にある

新規事業がうまく進まない時に注目されがちなのは、新規事業創出に関わる社員の経験やスキル・知識です。しかし、どんな起業家だって最初はみんな事業創出の初心者です。本当にそれがボトルネックなのでしょうか。

立教大学の中原淳氏、田中聡氏の共著による『「事業を作る人」の大研究』(クロスメディア・パブリッシング 2018)によると、民間企業における新規事業推進を阻害する要因として、次の3つが上位に位置しています。

  • 事業創造を牽引する人材が十分でない
  • 既存ビジネスモデルへの固執が強すぎる
  • 事業創造にチャレンジする組織風土が十分でない

新規事業推進の阻害要因


このアンケートの調査結果では半数以上の回答者が上記の3項目を阻害要因として認識しています。中でも75.2%と最も多いのが「事業創造を牽引する人材が十分でない」なので、新規事業推進の担当者が「人を育てる」「チャレンジする機会をつくる」という人材育成の視点を持つこと自体は、間違いではありません。しかし、人材面だけでなく「既存事業への固執」「組織風土が不十分」といった組織の問題も無視できません。

次に、「新規事業を創出する上での課題」のアンケート結果を見てみると、上位は次のような項目でした。

  • 既存事業から必要な支援・協力を得るのに苦労した経験
  • 既存事業のメンバーから新規事業に対して懐疑的・否定的な意見をうけた経験
  • 経営陣や上司から一貫性のない場当たり的な指示・指摘を受けた経験

新規事業を創出する上での課題


大企業では往々にして、現在の主力事業を生み出し育ててきた経営者やベテランの社員が強い成功体験を持っています。屋台骨を支えてきた自負を持つ既存事業関係者の目から生まれたばかりの新規事業を見れば、あれこれと至らない点が目についてしまい、「お金の無駄遣い」「遊びじゃないんだから」といった批判につながりがちです。そして、社内で力を持つ人々が、やがて新規事業に対する抵抗勢力となってしまうこともあります。

このように、新規事業が生まれにくい・成功しない背景には、チャレンジを否定的にとらえ、失敗を認めず、現状を是とする「大企業病」や「官僚主義」といった、「組織上の問題」が大きな要因として横たわっている場合があります。社員が本来の力を十分に発揮できない、または新規事業を生み出す社員が育たないのは、個人よりもむしろ組織の問題なのです。

アイディアを新規事業につなげて成功に導くためには「好奇心」「課題感」「当事者意識」を育む組織風土の醸成が必要

新規事業を創出するには、日常的に人材を育てるための「機会」を創造し、そのなかで生まれたアイディアが自ずと新規事業につながっていくような組織風土を形成することが大切です。『「事業を作る人」の大研究』には、アイディアを成功に導くための重要な要素として、次の2つが挙げられています。

  • 「アイディアが成功する見通し」(アイディアの質)よりも、「アイディアに政治的な支援を集められるかどうかの見通し」が重要である
  • 単なるアイディアマンではなく、優れた交渉人であり、巧みな理由づくり職人が成功しやすい

ではどうすれば、発案者や周囲の人がなんとかして理由づくりをし、必死に交渉してでも支援を集めたいと思えるようなアイディアを生み出すことができるのでしょうか。近年イノベーションを生み出す手法として注目されている「デザイン思考」などを学べばよいのでしょうか。

筆者の知人で、大きな新規事業の推進に成功している人がいます。その人物と話をすると、よく「この前、ふと○○なことに気がついた。だから、まずはやってみた」という言葉が出てくるのです。この「まずはやってみた」の内容は、必ずしも彼のビジネスと直接関連するものばかりではありません。それどころか、本来の業務目標に反しているものも含まれていました。
彼は、なにか新しいことにチャレンジするチャンスはないかと、常にアンテナをはりめぐらせ、気になることを見つけたら一度トライして体感することを大切にしています。行動することで「気付き」を得て「おもしろい」と感じ、そこで留まらず次の「行動」につなげる。このプロセスを何百回と繰り返しながら、ビジネスのヒントをストックしているのです。自分で種を見つけ、育てて来たものなのですから、いよいよそのうちの1つを新規事業として進めるとなった時点では、「なんとしても実現する」という熱意も育っています。だからこそ、新規事業を会社のビジョンや目標と結びつけて周囲を巻き込み、大きなうねりをつくり出すことに成功したのだと考えられます。

アイディアは、PCの前にかじりついていたり、本を読んだり、あるいはコンサルタントから話を聞くだけでは生まれません。まず「好奇心」を原資とした、自分自身を強く納得させる「気付き」があり、それを周囲に何としても伝播させていきたいという熱意が原動力となるからこそ、周囲が納得するアイディアに育つのです。さらに、それを新規事業につなげて成功に導くためには、必死の思いで成功させる「執念」が必要です。

新規事業が生まれる組織風土づくりに必要なこと、それは、働く人の好奇心にもう一度火をつけることではないでしょうか。子どもの頃には誰でも持っていた好奇心は、社会や職場の中でそれぞれに与えられた役割に自分自身を押し込める中で、次第に失われていってしまいます。企業がすべきことは、「どうせ何を言っても変わらない」「やりたいことがあっても実現できない」という諦観が蔓延した組織に「新規事業」というワクワクの種をまくとともに、個人の好奇心を周囲へ伝播させていくことができる土壌をつくること。個人の関心ごとや問題意識が新規事業の芽となれば、事業化を進める当事者にとってはオンとオフの境目もあいまいになり、「なんとしてでも」周囲を巻き込んで成功させたいものになっていくはずです。

まとめ

新規事業を創出し、成功へ導くための組織づくりでは「好奇心を解き放てる組織風土」を作ることがポイント
新規事業を創出するうえで、コンテストのように社員がアイデアを提案できる機会を創ったり、研修を行って人材育成を行ったりすることも必要です。けれども、優秀な社員を集めて新しいトレーニングを施しただけでは、実現に至るような新規事業のアイディアは生まれません。

新規事業のアイディアは、個人の好奇心や興味・関心、課題感から生まれてくるものです。だからこそ、新規事業創出を推進する側の担当部門・担当者は、社員が「個人の興味・関心や課題意識」に基づいて「自分事」として新規事業に取り組める環境をつくり、新規事業に取り組む人材を応援し、後押しする組織風土を整備することが大切です。

もちろん、そのアイディアを事業として具体化していくプロセスでは、熱量を維持した組織によって十分な議論が交わされ、発案者や企業側の理屈だけではなく、生活者・ユーザーの視点から、是々非々の検討が行われなければなりません。私たちソフィアは、数々のお客様企業に対する組織マネジメントの支援経験を通じて、組織風土改革の豊富なノウハウを蓄積しています。新規事業創出に課題を感じた際は、どうぞお気軽にご相談ください。

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