投資先の実務や仕組みづくり、社内の人材育成など、スタートアップの現場で「見えづらいけど確かに必要な仕事」を担ってきた初田萌さん(@svnohachi)。
専門職として語られることは少ないけれど、Skyland Ventures(以下、SV)のメンバーや投資先など多くの方が「助かった」と口にする存在です。
その根っこには、一緒にやる人でいたいという、揺るがない想いがありました。
初田さんへのインタビューを通して、その歩みと想いをたどります。
目次
きっかけは、ただ誰かの役に立ちたいと思ったから
スタートアップとの出会いと、もう一度戻ってきた理由
見えづらいけれど確かに必要な“実務”
一人ひとりの成長に向き合うということ
終わりに
<プロフィール>
初田萌
・大学時代は経営組織論のゼミに所属し、リーダーシップやマネジメント、組織学習を学ぶ。
・大学在学中、スタートアップ企業とハイクラス人材を対象とした人材紹介事業を行う企業でインターンとして2年間勤めた。
・2020年2月にSkyland Venturesに入社。ファンド管理や投資先支援、人事などミドルバック領域を広く担当している。
<Skyland Venturesとは>
Skyland Venturesは、起業したばかりのスタートアップに投資するベンチャーキャピタルです。 特に、まだ会社を立ち上げたばかりの「シード期」と呼ばれるタイミングで、将来大きな影響を与える可能性のあるスタートアップに資金を提供しています。
きっかけは、ただ誰かの役に立ちたいと思ったから
2020年にSkyland Venturesに入社してから、もう5年が経ちました。人事兼管理から少しずつ業務の幅が広がり、気づけば投資先に出向した時期もあれば投資の株主総会手続のサポートなど投資先の実務にサポート役として関わるようになっていきました。
若手起業家のチームはみんな、これまでやったことのないことに日々挑戦しているので、私も自分にできるかわからなくてもまず動いてみる──そんな姿勢で日々の業務に向き合ってきました。
起業家の方々は、リソースの制約や責任感から、なかなか誰かに任せにくいタスクを抱えています。VCで働く私だからこそ、そうした困りごとを受け取ることができる。そう思って、ずっと起業家の役に立ちたいと考えていました。
一時期は「味方になりたい」と掲げて、スタートアップでよくある困りごとに関する勉強会を開催したりもしました。ただ、それだけでは課題感を実際に感じている起業家しか参加されず、その課題の優先順位が低ければリソース的にも改善ができないということがわかったんです。もっとそれぞれの起業家の課題感に寄り添うことが必要だと感じました。
誰かにとっての“味方”にとどまらず、一緒にやりきる仲間として、これからも向き合っていきたいと思っています。
スタートアップとの出会いと、もう一度戻ってきた理由
入社当時の写真
学生時代、スタートアップに特化した人材紹介会社でインターンをしていたとき、ある会社のCHROの方が自社のことを本当に楽しそうに語っていたのが印象に残っています。
その姿を見て、「仕事ってこんなふうに誇らしく語れるものなんだ」と心を動かされました。
それまで“働く”ことに対して前向きなイメージを持ったことはありませんでしたが、この出会いをきっかけに、「スタートアップって面白そう」「こんな場所で働いてみたい」と自然に思うようになったのを覚えています。
新卒では一度別の業界に就職しましたが、人に向き合う仕事がしたいという想いが強くなり、転職を決意。
「ベンチャーキャピタルで働く第二新卒の人事広報募集!!」というSkyland Venturesの求人に惹かれ、当時の採用フローにあった通りに代表の木下さんに動画で自己紹介を送ったところから、驚くほどスピーディーに選考が進みました。
久しぶりにスタートアップの空気に触れて、「やっぱり私はこっちが好きだ」と自然に感じたのを、今でもよく覚えています。
コロナ禍でやっていた木下さんとのオンラインイベントの様子
見えづらいけれど確かに必要な“実務”
SV入社当初の2020年2月は、これから人員を拡大して行こうというところから、人事の役割から始まり、管理など他の役割に広げて行こうと言われていました。そうこうしていると、数ヶ月後にはすぐにコロナ禍に入り、SVの採用活動はペースダウンする時期がありました。VCというフィールドで私のリソースを何に活かせるかを考えてくれた代表がいろんなことに挑戦させてくれました。
まず、その一つが「投資事務」です。自社ファンドの決算や投資払込にまつわる対応だけでなく、既存投資先の次のラウンドで、事業成長中の大事な時期の資金調達事務を巻き取ったりしていました。
事業成長中のスタートアップは、キャッシュフローの動くスピードも早いので、資金調達もなるべく最速で終わらせることが起業家のためになると考えています。投資家とのスケジュール調整や必要書類の整理を、それぞれの社内決裁や稟議フローを理解しながら、「いかに正確に着金までたどり着けるか」を意識して進めてきました。
他にも、実際に投資先に出向したこともありました。そのタイミングでリソースが足りていない役割をやってきたので、メルマガの設定、記事の執筆、経理業務、オンボーディング設計など、“なんでも屋”的に現場で手を動かしてきました。
投資先ステッカーで埋め尽くされたPC。
机の上には初田がメインで制作した投資先トレカが置かれている。
スタートアップを支える、縁の下のバックオフィス
そんな中で、起業家にとって、新規事業を作り出したり、営業をしたり、フロントの業務は得意な方も多い一方で、バックオフィスの管理タスクは後回しにされていることも多いなと感じていました。そこで、私だからこそ、起業家の役に立てるのはまさにバックオフィスではないかなと思っています。
あるとき、私がバックオフィスの仕事について相談に乗ってもらっていた安田ともこさん(@sbo_tomoko)から、SBO(スタートアップバックオフィス)コミュニティの交流会を一緒にやらないかと言ってもらいました。そこから半年に1回ほどのペースで続けているのが、SBO交流会です。
スタートアップでは管理メンバーが多くないところがほとんどで、1人でバックオフィスをやっている方も多く、一人だとなにかトラブルがあっても相談相手が見つからなかったり、社内の中でも保守的な部分なので後回しにされがちで、孤独に頑張っている方も多いです。一方で、どのスタートアップのバックオフィスでも困っていることは似ていると感じました。
そこで、交流会ではノウハウ共有をしたり、スタートアップの横のつながりを作ることでバックオフィスの方が動きやすくなるようにサポートができると考えています。今では他VCやスタートアップからも参加者が集まる定例イベントになりました。
交流会を通じて出会った経営管理のプロの方に、実際に投資先支援に関してアドバイスをいただくこともあって、弊社の支援の幅を広げる起点にもなっています。
2025年の8月にも開催予定で、どんな出会いや学びがあるか、今からとても楽しみにしています。
▶SBO交流会の参加登録はこちらから
SBO交流会の写真
一人ひとりの成長に向き合うということ
ここ数年は、入社当初に思い描いていた“人事らしい仕事”に携わる機会も増えてきました。
2022年に4号ファンドが立ち上がってから、Skyland Venturesのメンバーは一気に増えました。
それをきっかけに、制度づくりや1on1の設計・運用など、人事的な関わりにも本格的に取り組むようになりました。
中でも、若手との1on1は特に大切にしています。 「今週どうだった?」「何か引っかかっていることはある?」といった対話を通じて、少しずつその人の状態や強みに触れていく。
「その人自身の強みを見つける」ことが、自分の果たすべき役割のひとつだと思っています。
Skyland Venturesは、かつて木下さんが一人で投資判断をしていたファンドでしたが、今はチームで投資を行う体制に変わりました。
だからこそ、さまざまな価値観や個性を受け入れることが大切です。
それぞれのメンバーが自分らしさを活かしながら、安心してチャレンジできるような関わり方を、これからも続けていきたいと思っています。
終わりに
Skyland Venturesに入ってから5年、私は何か一つの専門領域を突き詰めたわけではありません。けれど、「誰かの困りごとに気づいて手を動かす」ことなら、ずっとやってきた気がします。
ただ寄り添うだけでは届かない場面もある。だからこそ今は、困っている誰かの隣に立つだけでなく、「一緒にやりきる」仲間でありたい。そう思って、現場に入り、手を動かし、スピード感をもって関わってきました。
これからも、役割や立場にとらわれず、「今この瞬間に必要とされていること」に応えられる存在でありたいと思っています。