人類かつてない寿命の伸びが私たちの生き方そのものを揺さぶり始めています。大きな選択肢は2つ。生涯現役か、金融資産などによる早期引退か。いずれの生き方を選ぶにしても、はっきりと備えなくてはいけません。それは今いる会社で働きながらでも可能です。
65歳に向けた働き方は不満だらけ
定年という言葉が有名無実化しつつあることを実感します。定年とは、会社に勤務している従業員が、決められた年齢で会社を去る仕組みです。
多くの会社の定年年齢は60歳。
2000年までは定年とともに公的年金を満額受け取ることもできました。ちなみに2000年で60歳ということは1940年生まれ。太平洋戦争が終わった時点で5歳以上の年齢だった方々にとって、定年とは現実的なものだったことでしょう。
しかし年金受給年齢は次第に繰り上げられています。1961年生まれ以降の男性であれば65歳になって初めて年金を受給できることになります。1961年生まれと言えば、2021年の今年時点でちょうど60歳。だとすると、定年を迎えたにも関わらず、年金を受け取れない期間が5年間あるわけです。
もちろんそのために高齢者雇用安定法という法律があります。従業員が望む場合、会社は65歳まで雇用契約を改めて結ぶことが義務付けられています。だから多くの方々は会社に再雇用されつつ、65歳という真の定年を待つことになります。
しかし再雇用されたから安心というわけではありません。というのも、再雇用時に給与を引き下げる会社が多いからです。その一方で、期待される仕事や成果は今までと変わらない場合もあり、働く側としてはどうにも不満が高まってしまいます。
真の定年に向けて、できることはないのでしょうか。
経済的に自立できればそれに越したことはないが…
わかりやすい選択肢は、働かなくても済む状況を作り上げることです。株などにコツコツ投資を進め、一定額以上の金融資産にまで育てることができれば、配当金や資産の取り崩しだけで生活することも可能になります。
数年前からFIREと言われる言葉が聞かれるようにもなりました。Financial Independence ,Retire Earlyというキーワードの頭文字をとった言葉です。経済的に自立して早期退職しましょう、という動きです。
経済的自立に必要な金額は人それぞれですが、2019年6月の金融庁金融審議会報告では、年金に加えて2000万円程度の資金が必要だという記述がありました。
60歳よりも前に引退するならもちろん、より多額の資金を貯めなければいけません。仮に目標額が2000万円だとしても、月10万円ずつ貯めても200カ月。およそ16年超の期間が必要なわけです。
株式投資などでうまく増やすことができればそれより短い期間で到達することも可能でしょうが、長期間の運用だと予想外の景気変動が来る可能性も高く、なかなか思惑通りにいかない可能性もあります。
少なくとも減給されない働き方を考えてみる
定年後の給与減額が問題だとすれば、定年を迎えても給与が下がらない働き方、という選択肢もあります。
会社の中で働くのであれば、取締役などの定年年齢が遅めのポジションにまで出世することが一つの手段です。ただ、狭き門であるため、誰もが目指せる手段ではありません。
仮に同一労働同一賃金の流れにあわせて年齢を問わない活躍を許容する人事制度改革を進めている会社にいるのであれば、常に専門性を更新し続けるという手段もあります。昨今聞かれるようになったリスキリング(学び直し)はそのための具体的取り組みです。50代をすぎてもデジタルツールを使いこなし、ITスキルをもって業務の変革やビジネス創造に貢献できる人材であれば、年齢を問わず活躍し続けられる可能性もあるでしょう。
ただ、従業員として雇用されている限り、どうしても年齢という制限は適用されがちです。
そこでフリーランスのように、自営業者として業務委託契約を結び活躍する手段もあります。不安定にはなるのですが、必要なタイミングだけ業務を受託するなど、生き方の自由度を高めることも可能です。フリーランスの場合、実務にあわせた学習を繰り返してゆくことで、業務経験そのものをスキル化できる可能性もあります。そうなれば定年という言葉とは無縁の、生涯現役が実現できます。
それ以外にも、起業家として事業を立ち上げる選択肢もあります。すでにある企業の取締役に出世したとしても、多くの会社で定年があります。しかし自分が立ち上げた会社では、望む期間ずっと働き続けることもできます。これもまた生涯現役の一種です。
生涯現役のためのスキルは目の前の仕事からも得られる
これらの選択肢は、その前提となる事実とともに、多くの人たちが知っているはずです。
けれども、なぜかほとんどの人たちが行動せず、定年を迎えています。そして給与を減らされてもなおそこにしがみつくしかない生き方を選んでいます。
そうならないためにも、20代、30代の内から、自分はどんな生き方を目指したいのかを考えておかなくてはいけません。
もちろん、金融資産を獲得するための投資に関して言えば、収入面での余裕がないとなかなか踏み切れません。
しかし生涯現役のためのスキルを高めていくことなら、普通に働きながらでも十分に可能です。
会社の中の人事の仕組みは大きく変わりつつあります。
上司にこびる人よりも、自分たちがどんな価値を提供しているのか、ということを理解して、その価値を高めるための活動に注力している人を評価する会社が増えています。
だとすれば、どんな会社で勤務していたとしても、自らの生み出す価値を理解し伸ばしてゆくための行動をとることで、価値を生み出すための本質的スキルが身につくようになります。
たとえばそれは、相手の立場や考え方を尊重したコミュニケーションスキルであったり、目の前の複数の課題がなぜ生じているのかを見極めるクリティカルな思考力であったり、提供するサービスのメリットを広めながら顧客を増やしてゆくマーケティングスキルだったりします。
その際の判断基準は、「仮に自分がフリーランスだとして、会社は私に仕事を発注してくれるだろうか」というものです。そうなることを目指して、日々の業務への取り組み方を変えるだけで、生き方の選択肢は増えてゆきます。それもまた人生100年時代の生き方に他なりません。