顧客の検討プロセスを前に進めるために、営業担当が情報提供やネクストアクションを先回りして案内し、相手をリードする。「お客様任せにしない」という、意図を持ってお客様を動かすサービスを展開するopenpage。
同社取締役の田中邦裕氏は、三菱UFJ銀行での勤務経験を皮切りに、マーケティングコンサルティング会社での営業企画、そして同社の上場まで、幅広いキャリアを歩んできた。営業企画時代に「交渉力、提案力、関係構築力とは別に、今まで焦点が当たっていなかった『お客様を動かす力=プロジェクトマネジメント力』が重要である」と気づき、openpageの事業コンセプトを作り上げた張本人でもある。
同社の経営・マネジメントにおけるキーパーソンである田中邦裕氏に、成長企業におけるガバナンス、財務戦略、組織運営について詳しく話を伺った。
銀行からベンチャーまで、すべてのガバナンス感覚を身につけた理由
「松竹梅」で培った多層的なガバナンス観
田中氏のガバナンスに対する考え方の根底には、銀行と上場スタートアップという対極的な環境での経験がある。
「銀行では社外メールの文章を1文字ずつ上司にチェックしてもらってから送信していました。当然、書類の訂正には必ず訂正印が必要で、マニュアルに書いていないことは一切認められない。一見厳しすぎるように思えますが、セキュリティ意識、手続きの遵守、不正防止という観点では最高レベルの体験でした」
しかし田中氏が重視するのは、単なるルール遵守ではない。
「そのルールは何のためにあるのか?どんな不正が発生しうるのか?常にそれを考え、本来どうあるべきかを自分なりに考えてルールと向き合っていました」
ベンチャー企業でも変わらない本質的アプローチ
この思考プロセスは、ベンチャー企業に転じても変わらない。
「アバウトに『リスクがあるから対策する』ではなく、どんなリスクがあり、どのぐらいの事業インパクトがある、最低限どんな手を打たなければいけないから、こういうルールを設けるという考え方。これはどの環境でも一緒です」
田中氏が重視するのは、会社のフェーズに応じたガバナンス設計だ。
- 成長段階で必要なもの
- 成長を阻むクリティカルなリスク
- 俯瞰した多角的な視点
「現時点のリスク、資金調達のシリーズごとのリスク、IPO時のリスク。それぞれの段階でテイクできるリスクと対策すべきリスクを見極めることが重要です。過剰なガバナンスやルールに縛られて現場のオペレーションや経営の意思決定が遅くなれば、会社の成長を阻害してしまいます」
成長性・効率性・柔軟性を軸とした財務戦略
スタートアップの財務健全性を再定義
「スタートアップは赤字になることもあれば、債務超過になることもある。通常はネガティブに捉えられる財務状態も、スタートアップにおいては異なる視点で評価すべきです」
田中氏が財務健全性で重視するのは成長性、効率性、そして、従来の安定性ではなく、柔軟性だ。これまで大型調達はしてこなかった中でも、最大効率で投資できる環境を整えてきた。一定間隔で迎える資金調達ラウンドに対し、攻め過ぎても、守り過ぎてもいけない。
変動費と固定費のバランス設計
特に注目すべきは、株式評価や財務評価では見過ごされがちな「変動費と固定費のバランス」への着目だ。
「固定費として計上されがちな項目を変動費化し、キャッシュコントロールを限界まで追求する。コントロールできない状態を極力なくしていく──これを常に意識して実践しています」
危機耐性を前提とした経営
田中氏の財務戦略で特徴的なのは、平時から危機を想定した体制作りだ。
「毎月、定時で発生している変動費が何で、それがどのくらいの金額かをまとめています。将来のキャッシュフローをプランA、B、Cでそれぞれの場合にどこまで攻めてよいか、あるいはどこまで守れるかを、数値を見ながら一定の社内基準を作っています」
この基準を軸に、資金調達や大型入金のタイミングと照らし合わせ、適切な投資規模を常に把握している。
毎月、キャッシュフローを定点で細かくモニタリングしながら運営する結果、次回資金調達に向けて最大限投資し、最高速度で成長する──これが田中氏の財務哲学だ。
本質思考を重視した組織運営
表面的なアウトプットを超えた人材評価
「銀行から社会人経験がスタートした背景もあり、人の発言、数字による説明は簡単に嘘がつけるものという前提で受け止めるようにしています」
田中氏の人材評価は、表面的な成果ではなく、思考プロセスとマインドに焦点を当てる。
採用面接での実践例
権威や肩書きに惑わされない採用手法について、田中氏は具体的な例を示してくれた。
「例えば『外資系企業でトップセールスでした』『メガベンチャーでMVPを取りました』『有名SaaSベンダーで目標◯%超過達成』など、権威や実績にはそれほど強くは注目しません。むしろその人の仕事のスタイル、そこでは他の人と何が違うのか、なぜその方法にこだわるかを深く聞くようにしています」
田中氏が重視する質問アプローチ:
- 定説に対してどう思うか
- その人独自の考え方
- 「だから成果が出るんだ」という論理の確からしさ
「世の中にはポジショントークが溢れている以上、核心をついていない議論もたくさんあります。それに対して自分はどう考えるか、その人なりの思考をしっかりと深堀りしていきます」
エビデンスより論理を重視
「エビデンスは必要ありません。理屈が通っているか、納得感があるか。それさえあれば、たとえ華々しい実績がなくても、その人の持つ再現性を信じることができます。私はそれをもって候補者の実力やポテンシャルを判断します」
評価ポイント:
- どういうときに、何を考えて行動したか
- どういうことを重視したか
- それをどう組み立ててアウトプットに仕上げたか
「ここに人の能力や再現性が宿るポイントがあります」
理想論から始める組織設計
田中氏が組織運営で特に重視するのは、「とにかく理想論で語ること」だ。
「強い組織は安易に妥協しません。理想を追求すれば必ず理屈は組み立てられ、再現性も生まれるはずです。そこに過度な感情や妥協、忖度を持ち込むことで、誤った意思決定が増えてしまいます」
プロセス:
- 理想論から入る
- 制約条件、前提条件を整理
- 合理的な落とし所を見つける
「これによって組織全体の判断軸が明確になり、メンバーでも迷うことなく意思決定できるようになります。私が常に意識している点です」
openpageの独特な企業文化
「突き抜ける」人材が生まれる仕組み
「『突き抜ける』とは、物事を深く追求することです。しかし深さを追求するには、実は幅も必要なのです」
田中氏が語るopenpage の文化の核心は、体系的思考にある。
「仕事にはいろんな論点がある。一つの論点を深堀りしたいと思っても、その論点の変数がどれだけあり、どこにどれだけこだわらないといけないか。全体像が見えてないと行動や意思決定の優先順位を見誤り、偏った結果になってしまう。逆に体系的に思考することができれば、奥行きがあり、正しく掘るべきポイントを見極めた結果、他者には到達できないレベルまで追求することができるようになるんです」
本質思考が生む圧倒的成果
この思考アプローチがもたらす具体的な取り組みについて、田中氏は印象的な事例を挙げてくれた。
事例①:「特定のテーマで資料作成を依頼したときのことです。普通なら依頼したストーリーをそのままアウトプットしてくるところを、この社員は違いました。自分で内容を咀嚼し、『足りないパーツはこれではないか』『こういう要素も付け加えた方がよいのでは』と、プラスアルファの要素を複数追加してきたのです。依頼時は30枚のスライドだったものが、最終的には60枚の充実した内容になっていました」
重要なのは量ではなく、その質だ。
「ロジックの組み立て方、理論の再整理、正しい構成への組み替え。気付いたら、世の中の誰も発信して来なかったレベルのアウトプットになっていました。」
事例②:マーケティング戦略の自発的構築
さらに驚くべき事例もある。
「インサイドセールスとマーケティングを担当しているメンバーから、突然、ペルソナ設定やカスタマージャーニー、マーケティングのコミュニケーションプランニングが出てきました。これは一切オーダーしていなかったものです」
さらに、この社員は目標達成のために週次・日次のアクション量を逆算し、必要な施策を体系的に整理した上で自立的な管理体制を構築していました。
「通常、経営層がマネージャーに指示した結果作られる場面が多いと思いますが、openpageではそれぞれが将来や目の前の課題を解決するために必要なアクションは何かを考え、合理的に導き出した結果、経営層の先回りをしていることが日常的になっています」
この結果、事業全体を大きく加速させているのだ。
ハイレベル人材による自走組織の実現
再現性を持った高成績者の集団
「基本的にはopenpageにいる人はこれまでのキャリアでプレイヤーとしても再現性を持って高い成績をあげた人がほとんどです」
このような人材が集まることで生まれる組織の強さを、田中氏はこう表現する:
「自分で考える力が強いので、何か問いを立てたときに、どうにかして答えを出してくる。間違っているか、合っているかはさておき、それが叩き台になる。議論が叩き台から進みプロジェクトが動き始める」
完全自走状態が生む成長力
結果として、openpageでは以下のようなシーンでも滞りなくプロジェクトが進んでいる:
- 新しい施策に挑戦する
- 新規事業を成功させる
- 確実に成果を出す仕組み作り
- 何かを「定義」する仕事
「高いレベルの思考や実行力が求められる仕事でも、まったく躊躇なくアサインできる人たちがいます。全員が完全に自走している状態が作れています」
キャリアビジョンを軸とした成長加速
田中氏が特に重視するのは、メンバー一人ひとりのキャリアビジョンだ。
「メンバーに対しては、常に『キャリアビジョン』を握りながら仕事をしています。その際、職種やスペシャリストorジェネラリストなどといったキャリアの方向性よりも、『職位の高さ』を特に重視しています」
なぜ職位にこだわるのか。田中氏の考えは明確だ。
「職位が上がれば、必要になるスキルセット、マインドセットが変わる。自ずと歩むべきキャリアも決まる。迷って高さを決められないでいると、本当に得るべき経験は定義できないんです」
この方針により、openpageでは独特な効果が生まれている。
「キャリアビジョンにおいて、どこまでの高さまで目指すのかを重視してコミュニケーションを取ることで、メインミッション以外でもスキルセットとしていずれ必要になるのであれば、あらゆる業務に自分ごととして取り組めるようになる。優秀なメンバーの成長がさらに加速しています」
「そこが少人数でも成長している一番重要なポイントです」
キャリアアップを目指す人材への挑戦状
インタビューの最後に、田中氏から読者へのメッセージをいただいた。
「openpageは本質的な思考や、合理的な理屈の組み立てを得意とする会社で、それを身に着けたり、強化することがしやすい環境です」
特に注目すべきは、同社のバランス感覚だ。
「営業は行動量で語られるシーンが多いものの、量か質かの議論ではなく、どっちも当たり前。ORではなくANDでやっていくような会社です」
「だからこそ、どんな環境でもどんな仕事でも成果を上げられるビジネススキルを磨くことができる。よりキャリアアップや、挑戦を目指す方にとっては刺激的な環境になると思います」
最後に田中氏は力強くこう締めくくった。
「そうした環境を求めている方は、ぜひ経営メンバーと話をさせてください」
田中邦裕氏のインタビューから見えてくるのは、単なる成長至上主義ではなく、本質思考に基づいた持続可能な組織作りへの強いこだわりだった。銀行の厳格さとベンチャーの柔軟性を併せ持つ田中氏の経営哲学が、openpageの独特な企業文化と競争優位の源泉となっていることが分かる。