「子どもたちが防災ポスターを制作します。プロの目線で指導していただけませんか?」
ある一人の小学校の先生からいただいたオファーをきっかけに、ニジボックスのメンバーが講師となり、埼玉県上尾市にある今泉小学校で行われた出張授業。「デザインのテクニックを身につけて、みんなの防災意識が高まるような防災ポスターの制作方法を身につけよう」というゴールを設定し、授業がスタート!クリエイティブ室室長の上田が講師を務めた特別授業の様子をご紹介します。
「色」、「文字」、「イラスト」、「主役を引き立たせる」
まずは、デザインをしていく上で大事な4つのポイントのうちの1つ「色」について。
画面に青色を表示させ、「どんな印象を受けるかな?」と子どもたちに問いかけます。すると、「落ち着いている」「冷たい」などさまざまな意見がありました。
続いて、一人ひとりに配布した折り紙を使って「怖い」「危険」「優しい」といった言葉からイメージする色を子どもたちに考えてもらい、折り紙を選んでもらいます。1つの言葉でも、黒、赤、黄、紫などさまざまな折り紙が選ばれ、それを見て子どもたちは「この色にはこんなイメージがあるんだ」「この色をこうやって考えるお友だちがいるんだ」と、それぞれ色に対する考えを深めてくれたようです。
その後も「文字」「イラスト」「主役を引き立たせる」について、子どもたちが頭を動かし、手を動かし、できるだけ前のめりに考えられるような授業を展開していきました。子どもたちは授業の内容をノートにメモしたり、目を輝かせながら話に聞き入ってくれたり、どうやらデザインをする上でのテクニックを自分なりに掴んでいってくれたようです。
デザインのテクニックを生かすために、目的を決めよう
続いてのパートは、デザインを行う上での4つのテクニックを生かすために目的が必要であることについて。
そもそもデザインとは、紹介したいものや商品をわかりやすく伝えるためにするもの。しかし、わかりやすさは人によって異なります。そこで、子どもたちもなじみ深い温泉マークを画面に表示し、「これが何かわかりますか?」と問いかけてみました。
すると、すぐに「温泉!」と正解が。しかし、このマークを海外から来た人が見ると「お皿の上に温かい食べ物が載っているように見える」というエピソードを紹介すると、子どもたちは驚きの表情を見せました。
続いて、エレベーターの「開」「閉」という文字のみのボタンのイラストを画面に表示させると「これは海外の人はわからないよね」と言う意見が続々と出ました。その後も知っているか知らないかでわかりやすさが変わってしまう事例について、子どもたちと一緒に考えを深めていきました。
このような事例を踏まえ、デザインをする時には「誰に伝えるのか」という目的を決めることが大事、という結論に達しました。子どもたちは海外の人が日本のものを見た時の考えの違いなどを知り、目的を決めることの大切さを身を持って体感してくれたようです。
何を、どんな人に、どんな雰囲気で伝えたいかを考える
ここからは、実際にデザインをする上で考えなければいけない目的について。まずは、「何を」伝えたいか?から子どもたちと一緒に考えていきました。
今回の防災ポスターの場合、ひと口で「防災」と言っても「防災グッズを備えよう」「火事に注意」「急いで避難しよう」など伝えられることはさまざま。細かく言えば「防災グッズを備えよう」の中には「防災グッズの使い方を知ろう」だったり「食品の期限が切れていないか確認しよう」だったり、ピンポイントで「何を」伝えるのかを反映させれば反映させるほどわかりやすくなるということをお話していきました。
続いて、同じように「どんな人に」「どんな雰囲気で伝えたいか」を子どもたちに身近な例を交えつつ紹介していったところ、熱心に耳を傾け、メモをとり、時には自分から感想や意見を発言し、自分のものにしようと前向きな姿勢が見受けられました。
そこで、実際に今回防災ポスターを制作するにあたっての「何を」「どんな人に」「どんな雰囲気で」を一人ひとり考え、プリントに書き込むワークショップを行いました。
目的を伝えるためのキャッチコピーを考えてみる
次に、伝えたい内容を伝えるためのキャッチコピーについて考えていきます。
有名なコンビニのキャッチコピーやインテリアショップのキャッチコピーを例に、子どもたちと一緒にキャッチコピーについて考察していきます。その後は、実際に教室内でいくつかのチームを作り、みんなでキャッチコピーを考えていくことに。すぐに考えることは難しいので、「まずは防災に関する言葉をいろいろ連想して、そこからより良いキャッチコピーを作っていこう」というヒントをもとに、一生懸命子どもたちが考えてくれました。
考える時間をとった後に、何人かに「何を」「どんな人に」「どんな雰囲気で伝えたいか」という目的と実際に考案したキャッチコピーを発表してもらいました。しっかりと目的を考えた上で考えたキャッチコピーはどれもわかりやすく、的確で、中には相手に投げかけるという技術を使ってみんなをドキッとさせるようなものも。子どもたちの無限の想像力に驚かされます。
そして、締めくくりに今回の授業の総まとめ!一人ひとりプリントに、実際に防災ポスターを作る時にどんな色を使うのか、どんなイラストを使うのか、どんな雰囲気のポスターにするのかをできるだけ具体的に書いてもらうことに。「難しい」と言いながらも一生懸命に書き進めてくれました。
特別授業を終えて
授業の後は、防災ポスターを実際に作るチームから、パソコンを使ってプレゼンテーションをしてもらいました。今の時点でどんなポスターを作ろうとしているのか、ポスターコーンクールで入賞するとどんな効果があるのかなどといったわかりやすいプレゼンテーションを聞くことができ、子どもたちの成長スピードや実践する力に驚かされました。
普段クライアントに向けてデザインのプレゼンテーションをしたり、トークイベントなどでデザイン関連の登壇を行ったりするニジボックスのメンバーですが、子どもたちを相手に行うことはあまりなく、私たちにとってもとても貴重な機会となりました。今泉小学校の子どもたちが防災ポスター制作に全力で取り組み、その後の学校生活やそれ以外でも活かせるようなヒントを手に入れてくれていたら幸いです。
最後に、今回ニジボックスにオファーの連絡をしてくださった人物でもあり、子どもたちを毎日見守る小淵先生からいただいたお礼のメールの一部を抜粋してご紹介します。今泉小学校のみなさま、このような機会をいただき、本当にありがとうございました。
“一つ一つに意味をもたせることを何度も繰り返したものが、今、私たちが目にしているものであることを考えると子供たちはデザインを少し甘く見ていたのかもしれません。 しかし、一つのことにどれだけ時間をかけているかを知ることで、もっとよいものを作ることができるというヒントも同時に得られたと思います。ただ、作るのではなく、思いを乗せて作ること、そこに何度も試行錯誤をしていることで、誰かの心に刺さるものになることをこの歳で理解できたのは、今後の人生においても非常に大きいです。今回の授業では、デザインだけでなく、物事の捉え方までご指導いただきました。ありがとうございました。お忙しいところ、素晴らしい授業をしていただいたことに感謝申し上げます。”