「2019年、関西に支店を出します!」
社長の鏡山がそう宣言したのは2018年の全社員を前にした経営会議。
会場にいた社員たちが「いよいよインターゾーンも全国展開?」とざわつく中、高揚した面持ちでスクリーンの「関西支店立上げ」の文字を見つめる営業マンがいた。
木村功。中途入社8年目。
社内では右に出る者はいないほどのセールス実績と、「木村君、うちの会社に来てよ!」とお客様から引き抜きの誘いをいただくほどの、人を惹きつける営業センスの持ち主である。
木村が関西への進出をどれほど切望してきたのかは、彼の結婚にまでさかのぼる。
地元・岡山の高校時代から付き合い始めた彼女とは、大学進学、大手食品メーカーへの就職で東京に配属されて遠距離恋愛が続いた。それでも地元に残る彼女との連絡を絶やすことはなかった。
「こまめな連絡と早いレスポンスが何より信頼の獲得につながる」
営業で大切なことは?と聞かれたときにこう答える木村の信条は、恋愛経験からも培われてきた。
コツコツと信頼を積み上げる努力が実り、二人は無事結ばれた。そして群馬での新婚生活がスタートしたが、その後の道のりは決して平坦なものではなかった。
「このままでは営業を続けられなくなる!」
インターゾーンの営業は単なる商品の売り込みではない。
クライアントの抱える経営課題についてともに考え、あるべき姿を描いて共有し、そこへ向かって自社サービスをどのようにフィットさせるか?という課題解決に付加価値を置くコンサルティングの要素が強い。
経営者とひざを突き合わせてじっくり話をする必要もあるため、場所がどこであろうと出張・訪問営業が必須となる。群馬から西日本のクライアントを何社も訪問しようとすれば、長いときで4日間、5日間泊りがけとなり、家を空ける日も多かった。とはいえ、もともと遠距離恋愛を乗り越えた2人にとってそれが苦になることはなかった。
ところが、1人目の子どもが生まれて状況は一変する。
親からも友人からも遠く離れた慣れない土地、唯一頼れる夫も平日は家に帰ってこない環境で、初めての子育てをするのは不安でしかない。慣れない子育てに疲弊する妻を見て、木村は妻に、このまま地元に残るよう勧めた。
そこから木村の長い単身赴任生活が始まった。
スタートアップのベンチャーで年齢も若く、独身であれば支障はない。しかし、家族ができたとたんに出張・宿泊の多い営業スタイルでは、大半の社員が長く続けることができないし、優秀な営業社員をあらたに採用することも難しくなる。
このままではインターゾーンの成長戦略に影を落としかねない。
営業を統率する木村にとって、これは自分だけの問題ではなかった。家族ができても無理なく働ける営業体制をつくることが必要なステージに来ていた。
「西日本の売上でインターゾーンを牽引します!」
西日本で支店を立ち上げるメンバーを大阪で採用して育てつつ、西の営業拠点となる組織をつくりあげようと考え始めた木村は、社長の鏡山から関西支店の打診を受けたとき、即答した。
「支店オープンに合わせて募集すれば、群馬では採用が難しい営業社員も必ず採用できます。大阪に営業拠点があれば西日本への泊りがけの出張も減らせるうえに、売上を伸ばせます。インターゾーンの売上は西日本が牽引してみせます!」
鏡山の答えは一言だった。
「やってみればいいじゃないか」
木村の熱い覚悟が、会社を動かした。